行政書士 基礎法学 問31:違憲審査制・司法制度
日本の違憲審査制に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア日本国憲法81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と規定しており、日本は抽象的違憲審査制(ドイツ型)を採用している。
- イ抽象的違憲審査制とは、具体的な訴訟事件とは無関係に、違憲かどうかを争う訴訟(憲法訴訟)のみを担う独立した憲法裁判所が違憲審査を行う制度であり、ドイツ・韓国等が採用している。正答
- ウ日本の付随的違憲審査制のもとでは、最高裁判所のみが違憲審査権を行使できる。下級裁判所(高等裁判所・地方裁判所等)は違憲審査権を持たない。
- エ最高裁判所が法律を違憲と判断した場合、その判断には一般的効力が認められるため、当該法律は判決と同時に法律自体が当然に廃止され、国会による改廃の手続を経ることなく法令集から削除される。
- オ日本国憲法は、最高裁判所に対し、内閣または国会の要請があれば、具体的な訴訟事件と離れて法律制定前にその法律案の合憲性を審査し勧告的意見を述べる権限を与えている。
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正答はイです。抽象的違憲審査制(ドイツ型・オーストリア型)は、具体的な訴訟事件とは切り離して違憲かどうかを専門的に審査する独立した憲法裁判所(Verfassungsgericht)が担う制度であり、ドイツ・韓国・オーストリア等が採用しています。イはこれを正確に述べており正答です。ア(誤):憲法81条の規定(引用は正確)にもかかわらず、最高裁判所は付随的違憲審査制(アメリカ型)を採用しており、具体的な訴訟事件の解決に付随して違憲審査を行います(抽象的違憲審査ではありません)。ウ(誤):付随的違憲審査制のもとでは、下級裁判所も違憲審査権を行使することができます(最終判断権は最高裁判所にあります)。エ(誤):日本の通説・判例は、最高裁の違憲判決の効力について「当該事件にのみその法律の適用が排除される」という個別的効力説に立ちます。違憲判決によって法律そのものが当然に廃止・削除されるわけではなく、法律の改廃には国会の立法手続が必要です(国会単独立法の原則)。エは「一般的効力が認められ、判決と同時に法律が当然に廃止され、国会の手続なく法令集から削除される」としており、個別的効力説とも、判決が立法行為を代替できないという原則とも反する誤りです。オ(誤):日本は付随的違憲審査制を採用しており、最高裁は具体的な訴訟事件の解決に必要な範囲でのみ違憲審査を行います(最大判昭和27年10月8日・警察予備隊事件)。内閣や国会の要請により法律案を事前に審査し勧告的意見を述べる権限は憲法上存在しません。オはこの権限を最高裁に認めており誤りです。
イが正答です。違憲審査制には大別して二つの類型があります。①付随的違憲審査制(アメリカ型):通常裁判所が具体的な訴訟事件の解決に付随して(附随的に)違憲審査を行う制度。日本・アメリカが採用。②抽象的違憲審査制(ドイツ型):具体的訴訟から独立した憲法裁判所が違憲審査を専門に担う制度。ドイツ・韓国・オーストリア・スペイン等が採用。イの「具体的な訴訟事件とは無関係に独立した憲法裁判所が審査する制度・ドイツ・韓国が採用」は抽象的違憲審査制の特徴を正確に述べており正答です。アは誤りです。憲法81条の文言から「終審裁判所として最高裁が違憲審査権を持つ」ことは正しいですが、「抽象的違憲審査制を採用している」という部分が誤りです。最高裁大法廷は「裁判所が違憲審査権を行使するのは具体的な訴訟事件の解決に必要な限度において」という立場を示しており(最大判昭和27年10月8日・警察予備隊事件)、日本は付随的違憲審査制を採用しています。ウは誤りです。付随的違憲審査制のもとでは、下級裁判所も違憲審査権を有します(憲法76条による司法権の一部として)。最終的な終審裁判所は最高裁判所ですが、下級裁判所が違憲審査権を行使できないとするウは誤りです。エは誤りです。日本の通説・判例は個別的効力説に立ち、最高裁の違憲判決の効力は当該事件における当該法律の適用排除にとどまります。違憲判決によって法律そのものが「当然に廃止され法令集から削除される」ことはなく、法律を改廃するには国会による立法手続が必要です(憲法41条・国会単独立法の原則)。エは「一般的効力が認められ、判決と同時に法律自体が当然に廃止される」としており、個別的効力説(通説・判例)とも、裁判所の判決が立法・改廃を直接行うことはできないという原則とも反する誤りです。オも誤りです。日本は付随的違憲審査制(最大判昭和27年10月8日・警察予備隊事件)を採用しており、最高裁は具体的訴訟事件の解決に必要な限度でのみ違憲審査を行います。具体的訴訟から離れて、内閣・国会の要請により法律案の合憲性を事前に審査し勧告的意見を述べるような権限(抽象的・事前的審査権)は憲法上認められていません。オはこの権限を最高裁に認めており誤りです。正答はイのみです。
【違憲審査制の二類型の比較:理論的・実践的差異】
付随的違憲審査制(incidental review・diffuse review)とは、通常の司法裁判所が具体的な訴訟事件の解決に付随して法律等の合憲性を審査する制度です。この制度のもとでは、①個別事件における当事者の主張(違憲の抗弁)を機縁として違憲審査が行われる、②訴訟上の争いがない事項について違憲審査は行われない、③違憲判決の効力は当該事件に限定(個別的効力説)されるのが原則です。アメリカは1803年のマーベリー対マディソン判決(Marbury v. Madison)以来この制度を採用しています。抽象的違憲審査制(abstract review・concrete review・centralized review)とは、独立した憲法裁判所(Verfassungsgericht)が具体的訴訟から独立して(または一定の資格ある機関の申立てにより)法律の合憲性を審査する制度です。ドイツ連邦憲法裁判所(BVerfG)が最も著名であり、①法律の一般的・抽象的な合憲性審査、②規範統制(Normenkontrolle:特定の法律が憲法に適合するかの審査)、③憲法訴願(Verfassungsbeschwerde:基本権侵害を主張する個人の訴え)を担当します。
【日本の付随的違憲審査制の特色:最大判昭和27年10月8日の意義】
警察予備隊違憲訴訟(最大判昭和27年10月8日)において、最高裁は「裁判所は具体的な法律上の争訟案件を解決するために、必要な限度において違憲審査権を行使することができるのであって、具体的な争訟案件から切り離した抽象的な憲法解釈・法律の合憲性判断を求める訴えは不適法」と判示しました。これにより日本の付随的違憲審査制の本質が確定しました。この判決の意義は、①客観訴訟・機関訴訟における違憲審査の限界、②行政不服申立てにおける違憲主張の扱い、③立法事実と規範審査の関係について重要な示唆を与えます。行政書士が扱う行政不服申立て(審査請求)においても、違憲の主張は審査庁がその判断をする権限を持たない(行政機関は立法の合憲性に拘束される)ことを理解することが重要です。
【違憲判決の効力:個別的効力説と一般的効力説の対立】
日本では違憲判決の効力について学説上の対立があります。個別的効力説(通説・判例):最高裁の違憲判断は当該事件における当事者間でのみその法律の適用を排除する効力を持つ。一般的効力説(少数説):最高裁の違憲判断は一般的に法律を無効にする(その法律はすべての事件において適用されなくなる)。通説・判例(個別的効力説)のもとでも、最高裁が違憲判決を下した場合、立法府は当該法律を廃止・改正する政治的・法的義務を事実上負うとされ(尊属殺規定削除・旅券法旅行先限定規定改正等の前例)、実際上は違憲判決が一般的効力に近い影響を与えます。もっとも、これはあくまで国会が立法手続によって当該法律を改廃する結果であって、違憲判決それ自体が法律を当然に廃止するわけではありません。本問のエは「一般的効力が認められ、判決と同時に法律自体が当然に廃止され、国会の改廃手続を経ることなく法令集から削除される」としていますが、これは①通説・判例が個別的効力説であること、②裁判所の判決が立法・改廃を直接代替できないこと(国会単独立法の原則)の双方に反する明白な誤りです。
【内閣法制局による事前審査の意義】
日本では憲法裁判所(事前審査機関)は存在しませんが、内閣法制局(Cabinet Legislation Bureau)が法律案の立案過程において憲法適合性を審査する事前審査機能を担っています。内閣法制局は内閣提出法案について法令の合憲性・法令間の整合性・立法技術的問題等を審査し、問題がある場合は法案の修正を求めます。ただし内閣法制局は行政機関であり、その審査は法的拘束力を持つ司法的審査ではありません。国会も立法審査において合憲性を審査する憲法上の責務を負いますが、独立した事前審査機関は設けられていません。この点で、ドイツのような独立した憲法裁判所制度との違いが明確です。
【根拠条文】
日本国憲法 第76条(司法権・下級裁判所も司法権を行使)
日本国憲法 第81条(違憲審査権の終審裁判所としての最高裁判所)
【参照判例】
最大判昭和27年10月8日(警察予備隊違憲訴訟・付随的違憲審査制の確定)
【補足】
日本は付随的違憲審査制(アメリカ型)を採用(ア誤り:抽象的審査制ではない)。下級裁判所も違憲審査権を持つ(ウ誤り)。抽象的違憲審査制の典型=ドイツ・韓国の憲法裁判所(イ正答)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 日本国憲法第81条(違憲審査権)・第76条(司法権)。法学一般(違憲審査制の類型・付随的審査制・抽象的審査制)。 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。