行政書士 民法 問15:即時取得
即時取得(民法192条)に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア即時取得は、動産のみならず不動産についても成立する。
- イ即時取得が成立するためには、取引行為があったことが必要であり、相続によって動産を取得した場合には即時取得は成立しない。正答
- ウ動産の占有を取得した者が、前主が権利者であると信じ、その信じることに過失がなかった場合、前主が実は無権利者であっても即時取得が成立する。
- エ即時取得が成立するためには、現実の引渡しが必要であり、簡易の引渡しや指図による占有移転によって占有を取得した場合には即時取得は成立しない。
- オ盗難品または遺失物を即時取得した者は、盗難または遺失の時から常に原所有者に返還する義務を負う。
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イが正しいです。民法192条の即時取得は、動産の「取引行為」によって占有を取得した者が前主の権限不存在にもかかわらず権利を取得する制度です。相続は取引行為ではなく包括承継であるため、即時取得は成立しません。アは誤りで、即時取得は不動産には適用されません(動産のみ)。ウは誤りで、前主が無権利者であることに加えて、取引行為(処分権限があると信じての取引)が必要です(ウの記述自体は要件の一部ですが、記述が「正しい」かどうかは他の要件との組み合わせを確認する必要があります。実は選択肢ウは概ね正しい内容ですが、他の選択肢との比較でイが最も明確に正しいです)。エは誤りで、簡易の引渡し・指図による占有移転でも即時取得は成立します。オは誤りで、盗品・遺失物でも即時取得が成立する場合があります(民193条・194条の特則)。
イが正解です。民法192条は「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する」と規定しています。「取引行為」が要件であり、相続(民法によって法律上当然に生じる包括承継)は取引行為に当たりません。
ア:誤りです。即時取得(民192条)は動産のみに適用される制度です。不動産については登記制度が公示機能を担い、取引安全は対抗要件制度(民177条)によって保護されます。
ウ:概ね正しい内容ですが、「前主が無権利者であっても」という点だけでは即時取得の全要件を示していません。正確には「取引行為+平穏・公然+動産の占有取得+善意無過失」という要件が必要です。取引行為要件(イ)の対比として最も明確に正しいイが正答です。
エ:誤りです。占有の取得方法については、現実の引渡しのほか、簡易の引渡し(民182条2項)・指図による占有移転(民184条)でも即時取得が成立するとするのが判例・通説です(占領的引渡しを除く、という見解が有力ですが)。
オ:誤りです。盗難品・遺失物については、民法193条・194条に特則があります。盗難または遺失の時から2年間は原所有者が回復(取戻し)を請求できますが(民193条)、取引市場等から善意無過失で購入した者からの回復には代価を支払う義務があります(民194条)。「常に返還義務を負う」は誤りです。
【理論的背景】
即時取得(善意取得)制度は、動産の占有という外観を信頼して取引した善意無過失の者を保護し、動産取引の安全を図るものです。不動産には登記という公示制度があり、取引安全は登記制度によって保護されますが、動産には統一的な公示制度がなく、占有が唯一の外観となります。そこで民法は、動産について占有という外観を信頼した者を即時取得によって保護することで、動産取引の安全(動的安全)を確保しています。
ただし即時取得は「前主の権限(無権利)を信頼した者」を保護する制度であるため、相続・包括承継のように前主の権限が問題にならない場面では適用されません。
【条文構造】
民法192条〜194条の規律を整理します。
[民法192条:即時取得の要件]
1. 取引行為(売買・贈与・質権設定等)
2. 平穏かつ公然に占有を開始
3. 動産の占有取得
4. 善意(前主に処分権限があると信じた)
5. 無過失(信じることについて過失がない)
[民法193条:盗品・遺失物の特則]
- 盗難または遺失の時から2年間、原所有者は即時取得者に回復(返還)を請求できる
[民法194条:市場等からの購入者]
- 盗品・遺失物を競売や市場・公の市場等(古物商等を含む)で善意無過失で購入した者からの回復は、購入代金を支払うことが条件
即時取得が成立する占有取得の方法:
- 現実の引渡し(民182条1項):成立
- 簡易の引渡し(民182条2項):成立(通説・判例)
- 指図による占有移転(民184条):成立(通説)
- 占有改定(民183条):不成立(最判昭和35年2月11日・民集14巻2号168頁)
【試験での位置づけ】
行政書士試験では即時取得について以下が頻出です。①動産のみ(不動産除外)、②取引行為要件(相続は対象外)、③善意無過失、④占有改定では不成立(即時取得の「公示」としての占有が外部から見えない)。⑤盗品・遺失物の特則(193条・194条)の2年間の回復請求権と代価支払い義務も出題されます。「盗品は即時取得が一切成立しない」という誤りパターン(即時取得は成立するが2年間の回復請求権が原所有者にある)も典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 動産に限定される理由:不動産には登記制度があり、登記を公示として信頼すれば足りる(177条の対抗要件制度で保護)。動産は登記がなく占有が唯一の外観。不動産には192条類似の「登記名義人を信頼して取引した者の保護」として94条2項の類推適用(判例)があるが、これは即時取得とは別の法理。
- イ: 正答。相続(包括承継)は「前主の処分権限を信頼して取引をした」という即時取得の本質に沿わない。包括承継では前主の地位をそのまま引き継ぐため、前主が無権利者であれば相続人も無権利者となる。
- ウ: 民192条の要件を正確に整理すると「取引行為+平穏・公然+占有取得+善意無過失」。ウは善意無過失・無権利者という部分は正しいが、取引行為要件についての言及がなく、単独では完全な正しい記述とは言えない。他の選択肢との比較でイが最も明確に正しい。
- エ: 占有改定(民183条)での即時取得不成立が重要。占有改定は占有者が物を持ち続けながら第三者のために占有する旨を意思表示するもので、外部からは前後の変化が見えない。この状態では「占有という外観への信頼」が生じにくいため、即時取得の基礎を欠くと判例は解する。
- オ: 民193条・194条の特則。2年間の回復請求権の存在と「代価支払い義務」の有無(市場等での購入→代価支払い要、それ以外の善意無過失→不要)を区別して覚えることが試験では重要。
【根拠条文】
民法 第192条(即時取得)、第193条(盗品又は遺失物の回復)、第194条(盗品又は遺失物の回復における代価の弁償)
【参照判例】
占有改定による即時取得の不成立(最判 昭和35年2月11日・民集14巻2号168頁)
【補足】
即時取得の要件5つ(取引行為・平穏公然・動産占有・善意・無過失)をセットで覚える。「相続は取引行為でない→即時取得不成立」「占有改定では外観公示なし→即時取得不成立」が頻出論点。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第192条(即時取得)、第193条・第194条(盗品・遺失物の特則) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。