行政書士 民法 問22:質権・留置権
質権および留置権に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア質権は、債権の担保として目的物の占有を債権者に移転させる担保物権であり、不動産にも設定することができる。正答
- イ留置権者は、留置物から生じる果実を収取して自己の債権の弁済に充当することができ、この場合、当該果実はまず元本に充当し、残余があれば利息に充当しなければならない。
- ウ留置権は、当事者の合意によって成立する約定担保物権である。
- エ質権の設定は書面による合意が必要であり、目的物の引渡しのみでは質権の設定はできない。
- オ留置権者は、留置物について競売を申し立てて優先弁済を受けることができる。
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アが正しいです。民法342条は「質権者は、その権利の実行として、質物を競売に付し、かつ、その代価について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受けることができる」と規定しており、質権は目的物の占有を債権者に移転させる担保物権です。不動産質権も認められています(民361条〜365条)。イは誤りで、留置権者は果実を収取して債権の弁済に充当できますが(民297条1項)、充当の順序は「まず利息に充当し、なお残余があれば元本に充当する」です(民297条2項)。イは「まず元本に充当」と順序を逆に述べている点が誤りです。ウは誤りで、留置権は法定担保物権です。エは誤りで、質権は書面要件不要・目的物の引渡しで成立します(民344条)。オは誤りで、留置権には優先弁済効がありません。
アが正解です。質権は「目的物の占有を債権者(質権者)に移転させる」担保物権(占有担保)です。民法では①動産質(民350条〜360条)、②不動産質(民361条〜365条)、③権利質(民362条〜368条)の三類型があります。不動産についても質権を設定できますが、不動産質の場合は「利用型担保」(質権者が目的物を使用収益できる代わりに利息を請求できない)という特色があります。
ウ:誤りです。留置権(民295条〜302条)は法定担保物権です。留置権の成立要件を充足する事実関係があれば当然に成立し(法律の規定によって成立)、当事者の合意は必要ありません。これに対し質権・抵当権は約定担保物権(当事者の合意によって成立)です。
エ:誤りです。質権の成立は要物契約(目的物の引渡しを成立要件とする)であり(民344条「質権の設定は、質権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる」)、書面による合意は要件ではありません。引渡しが質権成立の本質的要件です。
オ:誤りです。留置権は「留置(物を手元に置いて引渡しを拒む)」という形で債権者に心理的圧力をかける担保物権であり、優先弁済を受ける権利はありません(留置権の留置的効力のみ・形式的競売の申立ては可能だが優先弁済効はない)。これが留置権と質権・抵当権・先取特権との最大の差異です。
イ:誤りです。留置権者は果実(天然果実・法定果実)を収取して債権の弁済に充当できますが(民297条1項)、その充当順序は民297条2項により「まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当する」と定められています。イは「まず元本に充当し、残余を利息に」と順序を逆にしている点が誤りです。
【理論的背景】
担保物権は「約定担保物権」(当事者の合意で成立:質権・抵当権)と「法定担保物権」(法律の規定で成立:留置権・先取特権)に分類されます。また、目的物の「占有」を担保権者が取得するか否かで「占有担保」(質権・留置権)と「非占有担保」(抵当権・先取特権の一部)に分類されます。
留置権は担保物権の中で最も優先弁済効が弱い(ない)担保物権ですが、占有(物の留置)によって事実上の強制力を持ちます。修理業者が修理代金を払ってもらうまで修理した物(自動車・時計等)を返さないという場面が典型例です。
【条文構造】
留置権と質権の比較:
[成立]
- 留置権(民295条):法定担保物権・合意不要。要件:①他人の物の占有、②その物に関する債権の存在、③その債権の弁済期到来、④占有が不法行為によって始まっていないこと
- 質権(民342条・344条):約定担保物権・要物契約(引渡しが成立要件)。書面不要
[効力]
- 留置権:留置的効力のみ(優先弁済効なし)。果実充当権(民297条)。競売権(留置物の売却のみ・優先弁済効なし)
- 質権:優先弁済効あり・留置的効力あり
[目的物]
- 留置権:動産(主に)・不動産も場合により
- 動産質(民350条〜)・不動産質(民361条〜)・権利質(民362条〜)の三類型
【試験での位置づけ】
行政書士試験の担保物権では、①約定担保物権(質権・抵当権)vs. 法定担保物権(留置権・先取特権)の分類、②留置権の「留置的効力のみ(優先弁済効なし)」という特色、③質権の要物契約性(引渡し要件)、④不動産質権の存在(不動産にも質権設定可)が頻出です。「留置権者は優先弁済を受けられる」「質権は書面が必要」「留置権は約定担保」が典型的な誤りパターンです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正答。不動産質権(民361条〜365条)は実務上あまり使われませんが(登記が必要・利息請求不可等の特色がある)、制度としては存在する。不動産質権者は目的物を使用収益できる(民356条)。
- イ: 正答(誤りの選択肢)。留置権者の果実充当権(民297条1項)。収取した果実は「まず債権の利息に充当し、なお残余があれば元本に充当する」という充当順序(民297条2項)。天然果実・法定果実(賃料等)ともに充当可。イは充当順序を「まず元本」と逆に述べる点で誤り。
- ウ: 留置権は法定担保物権(当事者の合意不要・法定要件充足で成立)。対比:質権・抵当権は約定担保物権(当事者の設定合意が必要)。法定担保物権の他の例:先取特権(民303条〜341条)。
- エ: 質権は「要物契約」(目的物の引渡しによって成立・民344条)。不動産質権については登記が対抗要件(民177条・不動産質権も物権であるため)。権利質(民362条)は証書の交付等が成立要件となる場合あり。
- オ: 留置権者は、留置物を換価するための形式的競売(民事執行法195条)を申し立てることはできるが、その代金から優先弁済を受けるわけではなく、一般債権者として弁済を受けるにとどまる。これが質権・抵当権の「優先弁済」との本質的差異。
【根拠条文】
民法 第295条(留置権の内容)、第297条(留置権者による果実の収取)、第302条(留置権の消滅)、第342条(質権の内容)、第344条(質権の設定)、第356条(不動産質権者による使用収益)、第361条(不動産質権の内容)
【補足】
留置権は法定担保物権・優先弁済効なし・留置的効力のみ(約定担保の質権・抵当権と異なる)。質権は要物契約(引渡しが成立要件・書面不要)。不動産にも質権設定可(不動産質権・民361条〜365条)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第295条〜第302条(留置権)、第342条〜第368条(質権) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。