民法54使用者責任・要件と免責

行政書士 民法 問54:使用者責任・要件と免責

X社(会社)の従業員Aは、X社の業務として顧客宅への配送中に、不注意から歩行者Bに追突して負傷させた。使用者責任(民法715条)に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。

  • X社がAを使用者として採用した事実があれば、AがX社の業務中に不法行為をした場合、X社はAの使用者としての責任を当然に負う。
  • X社が使用者責任を負う場合、X社はAに対して常に全額の求償をすることができる。
  • X社が使用者責任を免れるためには、Aの選任・監督について相当の注意をしたこと、またはその注意をしても損害が生じたことを証明しなければならない。正答
  • BはX社に対してのみ損害賠償請求をすることができ、不法行為者であるAに対して直接損害賠償を請求することはできない。
  • AがX社の業務時間外に私用で車を運転している際に事故を起こした場合でも、X社の業務用車両を使用していれば、X社の使用者責任が認められる場合がある。
正答:X社が使用者責任を免れるためには、Aの選任・監督について相当の注意をしたこと、またはその注意をしても損害が生じたことを証明しなければならない。

AI解説(初心者・標準・上級)

理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠条文・判例も明記。

初心者向けまずはここから。やさしく要点を解説

ウが正しい記述です。民法715条1項は使用者責任を定め、同項ただし書で「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」として免責を認めます。つまりX社が選任・監督に相当の注意をしたことを証明すれば免責されます(ウが正しい・但し実務上この証明はほぼ認められない)。アは誤りで、715条は「選任及びその事業の監督について注意を怠った」ことが推定される中間責任であり、使用関係があっても常に当然に責任を負うわけではない(免責証明の余地あり)。イは誤りで、715条3項は求償権を認めますが「常に全額」ではなく信義則上の制限があります。エは誤りで、BはX社とA双方に損害賠償請求できます(AはBに対して709条の不法行為責任を負う)。オについては判例上「外形標準説」により一定の場合に使用者責任が認められます(正しい方向性)。

標準試験対策の基準レベル

ウが正しい理由を715条1項ただし書から確認します。715条1項本文「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」として使用者責任を定め、同ただし書「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」として免責を認めます。免責の証明責任は使用者(X社)にあり(中間責任)、ウは「相当の注意をしたことを証明しなければ責任を負う」として正しく、X社が免責証明(相当の注意をしたか、または注意しても発生したかの証明)をしなければ責任を負うとします。アについて、715条は「推定過失」的な構造(使用者の注意義務違反を推定し、免責証明で覆す)であり、使用関係があれば当然に(絶対的に)責任を負うわけではなく(ただし実務上免責はほぼ認められない)。イについて、715条3項の求償権は認められるが、最高裁は信義則上の制限として「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」にとどまる(最判昭和51年7月8日・民集30巻7号689頁=タンクローリー事故で求償を損害の4分の1に制限)として全額求償を否定しています(イは誤り)。エについて、BはX社・A双方を被告として選択的・連帯的に損害賠償請求できます(使用者・被用者の損害賠償責任は連帯)。オについて、外形標準説(判例)により業務外でも外形上業務と見える場合には715条が適用される場合があります(オは正しい方向性)。

上級誤答論破・条文/判例まで深掘り

【理論的背景】

使用者責任(民法715条)は、被用者が「事業の執行について」第三者に不法行為をした場合に使用者が負う代位責任です。制度の理論的根拠は(1)被用者の活動によって利益を得る者(使用者)がそのリスクも負うべき(報償責任の原則)、(2)被用者の選任・監督に責任を負う者(使用者)が注意義務を果たせなかった結果の責任(過失推定)の二つです。「事業の執行について」の範囲(職務関連性の外形的判断)と「使用者の求償権の限界(信義則による制限)」が判例上重要な論点として発展してきました。特に外形標準説(被用者の行為が外形上業務の範囲に属すると認められれば使用者責任が発生する)は、被害者保護の観点から確立した判例理論です。

【条文構造の精密な理解】

  • 715条1項: 使用者責任の要件(使用関係・被用者の「事業の執行について」の不法行為・損害発生)と免責(選任・監督の相当の注意の証明)。
  • 715条2項: 代理監督者(715条1項の「使用者に代わって事業を監督する者」)も同様の責任(支店長・工場長等)。
  • 715条3項: 使用者・代理監督者の被用者への求償権(「事業の執行について損害を賠償した場合、その損害を加えた者(被用者)に対し求償権を有する」)。但し信義則上全額求償が制限される(最判昭和51年7月8日・民集30巻7号689頁)。

「事業の執行について」の判断は「外形標準説」に基づき、(a)被用者の職務権限の範囲(内部的基準)ではなく、(b)外形上職務行為と見られるかどうか(外形的・客観的基準)で判断。プライベートな車での事故でも業務用車両を使用していれば715条適用の余地あり(オの根拠)。

【試験での位置づけ】

行政書士試験における使用者責任の典型的な出題パターンは、(a)使用者責任の免責(715条1項ただし書・相当の注意の証明・ウのような問題)、(b)「事業の執行について」の外形標準説(オのような問題)、(c)使用者の求償権と信義則による制限(イのような問題)、(d)被用者の個人責任との並存(エのような誤りを問う問題)の4パターンです。特に(b)の外形標準説と(c)の求償権の信義則制限は行政書士試験・司法試験共通の重要論点です。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 誤り。715条の使用者責任は推定過失(中間責任)であり、免責証明の余地がある(715条1項ただし書)。「当然に責任を負う」とする表現は過剰。なお実務上、免責が認められるケースはほぼなく、使用関係があれば事実上の無過失責任に近い機能をしているが、法律上は中間責任。
  • イ: 誤り。715条3項の求償権は認められるが、最高裁は信義則上の制限として被用者の故意・重過失・業務の危険性・使用者の利益享受等の事情を総合考慮して「相当と認められる限度」に限るとしている(全額求償を否定する場合あり)。「常に全額の求償ができる」は誤り。
  • ウ: 正しい(正答)。715条1項ただし書の免責要件の正確な記述。(1)選任・監督について相当の注意をしたことの証明、または(2)相当の注意をしても損害が生ずべきであったことの証明のいずれかで免責。証明責任は使用者(X社)にある(中間責任の構造)。
  • エ: 誤り。BはX社(使用者責任・715条)とA(一般不法行為・709条)の双方に対して損害賠償請求できる。両者の責任は連帯的であり(不真正連帯・内部では求償で調整)、Bはいずれか一方または双方を選択して請求可能。
  • オ: 正しい方向性。判例の外形標準説により、被用者Aが業務時間外にX社の業務用車両を使用して事故を起こした場合、外形上「業務の執行について」と認められれば715条が適用されうる。外形上業務か否かは諸般の事情(車両の管理状況・業務との時間的近接性等)を考慮して判断される。

【根拠条文】

民法 第709条(一般不法行為・被用者Aの責任根拠)

民法 第715条第1項(使用者責任の要件・免責)

民法 第715条第3項(使用者の被用者への求償権)

【参照判例】

使用者の被用者への求償権の信義則制限(最判昭和51年7月8日・民集30巻7号689頁=求償を損害の4分の1に制限)。

「事業の執行について」の判断基準としての外形標準説は確立した判例理論(取引的不法行為では相手方の信頼保護の観点から、被用者の行為が外形上職務の範囲内と認められれば使用者責任が及ぶ)。

【補足】

使用者責任は「選任・監督の相当の注意をしたこと」で免責可能な中間責任。実務上免責はほぼ認められないが、法律上は被用者と連帯して責任を負いつつ免責証明の機会がある。求償権は信義則上制限されるため「常に全額求償」は誤り。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第715条・第709条 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

関連論点

使用者責任・要件と免責頻出度A

民法の他の問題

1
制限行為能力者・未成年者
2
制限行為能力者・被保佐人・被補助人
3
制限行為能力者・取消権・追認
4
意思表示・錯誤の現行規律
5
意思表示・錯誤の重要性・動機の錯誤
6
意思表示・詐欺・強迫

全365問・科目別に解いて、行政書士に最短合格

行政法・民法・憲法を科目別に攻略。各問に根拠条文・判例とAI解説(3レベル)付き。