行政書士 民法 問85:遺産分割前の預貯金払戻し
遺産分割前の預貯金の払戻しに関する次のア〜オの記述のうち、現行民法の規定に照らして**正しいもの**はどれか。
- ア最高裁大法廷決定(平成28年12月19日)の変更前は、預貯金は遺産分割の対象とならず、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されるとされていた。
- イ最高裁大法廷決定(平成28年12月19日)後は、預貯金は遺産分割の対象となり、単独での払戻しは一切認められない。
- ウ民法909条の2の払戻し制度では、各相続人は相続開始時の預貯金残高の全額を法定相続分に応じて単独で払い戻すことができる。
- エ民法909条の2の払戻し制度により払い戻すことができる額は、同一の金融機関ごとに「相続開始時の残高×3分の1×払戻しを求める者の法定相続分」であり、150万円が上限とされる。正答
- オ民法909条の2の払戻し制度を利用した場合、その払い戻した預貯金は遺産分割において考慮されず、最終的な相続分の計算から除外される。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠条文・判例も明記。
民法909条の2(2019年施行)の払戻し制度では、各相続人は「相続開始時の残高×3分の1×その相続人の法定相続分」の額を、単独で払い戻すことができます。ただし1つの金融機関から払い戻せる上限は150万円です(法務省令で定める額)。これがエの根拠で正答です。アは正しく、変更前は預貯金を当然分割されると解していました。イは誤りで、民法909条の2の払戻し制度により一定額は単独払戻し可能です。ウは誤りで、全額ではなく「3分の1×法定相続分」の額に限られます。オは誤りで、払い戻した預貯金は遺産の一部先取りとして遺産分割において考慮されます。
正答はエです。民法909条の2第1項は「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち各共同相続人の法定相続分に相当する額の3分の1に相当する額については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」と規定します。さらに「法務省令で定める額を限度とする」(150万円)という上限があります。
各選択肢を確認します。ア(正):変更前の判例(最判昭29.4.8等)は預貯金等の可分債権は相続開始と同時に当然に分割されると解していました。イ(誤):民法909条の2の払戻し制度により、一定額(3分の1×法定相続分・上限150万円)の単独払戻しが可能です。ウ(誤):全額ではなく「3分の1×法定相続分」の額に限られます。エ(正・正答):民法909条の2第1項の文言通りです。オ(誤):民法909条の2第1項後段は「当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」と規定しており、払い戻した額は遺産分割において考慮されます。
【理論的背景】
最高裁大法廷決定(平成28年12月19日)は、「普通預金・通常貯金・定期預金」のいずれも遺産分割の対象となる遺産の一部であるとして、従来の「当然分割・法定相続分による当然取得」という判例を変更しました。この変更の実務的影響は、遺産分割が完了するまで預貯金を引き出せなくなる点にあります。葬儀費用・当面の生活費の支払いができないという問題が生じたため、2019年施行の相続法改正で民法909条の2の「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」が新設されました。この制度により、相続人は遺産分割前であっても一定額の払戻しが可能となりました。
【実務・条文構造】
民法909条の2の構造を整理します。第1項(払戻し額の計算):相続開始時の残高×3分の1×払戻しを求める者の法定相続分の額(ただし上限:150万円(法務省令が定める額)・金融機関ごと)。第1項後段:払い戻した額は「遺産の一部の分割により取得したものとみなす」(遺産分割における考慮)。計算例:相続開始時残高900万円・法定相続分3分の1の相続人の場合→900万円×3分の1×3分の1=100万円を払い戻せる(上限150万円以内)。なお、家事事件手続法第200条第3項は仮処分(仮払い)として遺産分割前に預貯金の仮払いを認める別制度も設けています(審判前の保全処分として)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験では、(1)最高裁大法廷決定(平成28年)の内容(預貯金は遺産分割の対象・当然取得を否定)、(2)民法909条の2の払戻し計算式(残高×3分の1×法定相続分・上限150万円)、(3)払い戻した額が遺産分割で考慮されること(みなし取得)が問われます。計算式の「3分の1」という数字と「150万円の上限」は正確な数値として覚える必要があります。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい。変更前の判例(最判昭29.4.8等を継承した解釈)は、金銭・普通預金等の可分債権は相続開始と同時に法定相続分に応じて当然分割されると解していた。平成28年大法廷決定によりこれが変更された。
- イ: 誤り。民法909条の2の払戻し制度(一定額の単独払戻し可)が設けられており、「一切認められない」は誤り。また家事事件手続法200条3項の仮払い制度(家庭裁判所の審判前の保全処分として)も存在する。
- ウ: 誤り。払戻しできる額は「全額」ではなく「残高×3分の1×法定相続分」の額に限定される(かつ上限150万円)。全額払い戻せるなら制度の意義が失われる。
- エ: 正しい(正答)。民法909条の2第1項の計算式通り。金融機関ごとに上限150万円という点も重要(複数の金融機関に預貯金がある場合は各機関ごとに計算する)。
- オ: 誤り。民法909条の2第1項後段の「遺産の一部の分割により取得したものとみなす」という規定が根拠。払い戻した額は遺産分割における具体的相続分の計算に算入されるため、先取りした分だけ他の財産について受け取れる額が少なくなる。
【根拠条文】
民法 第909条の2第1項(遺産分割前の預貯金払戻し・計算式・上限・みなし取得)
【参照判例】
最高裁大法廷決定 平成28年12月19日(預貯金の遺産分割対象性・旧判例変更)
【補足】
計算式「残高×1/3×法定相続分・金融機関ごと上限150万円」は正確に暗記。払い戻した額はみなし取得として遺産分割で考慮される点も重要。平成28年大法廷決定との関係(変更前後の違い)を整理しておくこと。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第909条の2、家事事件手続法第200条第3項 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。