行政書士 民法 問98:民法物権
占有に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア占有者が自ら占有していた物を譲渡した後も、引き続き占有者として占有する旨の合意をした場合(占有改定)、この合意のみで占有の移転が生じる。
- イ占有者がその占有を代理者(占有代理人)を通じて行っている場合、占有代理人の占有は本人の占有として認められる。
- ウ悪意の占有者(他人の物であることを知って占有する者)は、占有物から生じる果実を取得する権利を有しない。
- エ占有の移転において、譲渡人が第三者(倉庫業者等)に物を保管させている場合、譲渡人が第三者に対して目的物を譲受人のために占有するよう命じ、譲受人がこれを承諾する「指図による占有移転」によって占有が移転する。
- オ占有者が任意に占有を手放したとしても(占有放棄)、その後に不法に占有を取り戻した者に対して占有回収の訴えを提起することができる。正答
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オが誤りです。民法200条1項は「占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる」と規定しています。占有回収の訴えは「占有を奪われた」場合(占有を侵奪された場合)に認められる訴えです。任意に占有を放棄した場合(自ら手放した場合)は「奪われた」わけではないため、その後に不法占有者が現れても占有回収の訴えは提起できません。アは正しく(占有改定の効果・民183条)、イは正しく(代理占有・民181条)、ウは正しく(悪意占有者の果実取得なし・民190条)、エは正しく(指図による占有移転・民184条)。
オが誤りです。占有回収の訴え(民200条1項)は「占有を奪われた」(他人によって強制的・不法に占有を失わされた)場合に認められる権利です。占有者が自ら任意に物を手放した(占有放棄した)場合は、「奪われた」という要件を充足しないため、その後に第三者が不法に占有したとしても占有回収の訴えは提起できません。
アは正しいです。占有改定(民183条)は「代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したとき」等の場合に占有が移転する制度です。物の引渡しなく合意のみで占有が移転します(観念的移転)。
イは正しいです。民181条は「占有権は、代理人によって取得することができる」と規定しており、本人(間接占有者)は占有代理人(直接占有者)を通じて占有権を取得・維持できます。
ウは正しいです。民190条1項は「悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、すでに消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う」と規定しており、悪意占有者は果実取得権を持ちません(善意占有者は果実取得可・民189条)。
エは正しいです。民184条(指図による占有移転)は「代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したとき」に占有が移転するとします。
【理論的背景】
占有は物に対する事実上の支配(物理的・現実的な支配)であり(民180条)、占有権者の保護のために法的効果が付与されます。占有の移転(引渡し)には4種類あります。①現実の引渡し(物理的に物を渡す)、②簡易の引渡し(買主がすでに物を占有している場合・合意のみ・民182条2項)、③占有改定(売主が買主のためにその後占有する旨の合意・民183条・引渡しなし)、④指図による占有移転(第三者に預けた物について第三者が以後買主のために占有する旨の通知・民184条)。即時取得(民192条)との関係では、占有改定による取得は「占有を始めた」(民192条)とは認められないため即時取得は不成立とする判例(最判昭35.2.11)がある重要論点があります。
【条文構造】
占有に関する条文体系を整理します。
民180条:占有権の取得(自己のためにする意思で物を所持することで取得)。
民181条:代理占有(代理人を通じた占有・間接占有)。
民182条:占有権の移転(①現実の引渡し、②簡易の引渡し)。
民183条:占有改定(代理人が本人のために占有する意思表示で占有移転)。
民184条:指図による占有移転(間接占有において第三者保管中の物の占有移転)。
民189条:善意占有者の果実取得権。
民190条:悪意占有者の果実返還義務。
民200条:占有回収の訴え(占有を奪われた場合のみ・任意放棄には不適用)。
民201条:占有の訴えの期間制限(占有回収:侵奪の時から1年以内)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における占有の典型論点は、①占有の取得方法4種(現実・簡易・占有改定・指図による移転)の区別、②善意占有者の果実取得権と悪意占有者の果実返還義務(民189条・190条)、③占有回収の訴えの要件(「奪われた」必要あり・任意放棄は不可)、④占有改定と即時取得の関係(占有改定では即時取得不成立・判例)の4点です。占有の取得方法については「どの場合に物の引渡しが不要か」という観点で整理することが重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい(民183条)。占有改定の典型例:売主が家具を売却後も売主が保管し続ける場合(以後買主のために保管する旨の合意のみで占有移転)。物の移動なく占有が移転するため、譲渡の事実が外部から見えにくい(即時取得の問題と関連)。
- イ: 正しい(民181条)。代理占有(間接占有)の典型例:倉庫業者(直接占有者)に物を預けている所有者(間接占有者)。本人は物理的に物を持っていないが占有権を持つ。占有代理人が第三者のために占有する旨を合意した場合、本人の占有が移転する(指図による占有移転・民184条)。
- ウ: 正しい(民190条1項)。悪意占有者の果実返還義務。善意占有者(民189条)は果実を取得でき、返還責任がない。「善意・悪意」の区別は占有者の主観(他人の物と知っているか否か)による。悪意占有者の費用償還請求権(民196条2項・悪意占有者も有益費は請求可)との対比も重要。
- エ: 正しい(民184条)。指図による占有移転の典型例:倉庫に預けた商品を売却した場合(売主→倉庫業者に「以後買主のために保管せよ」と指図→買主が承諾で占有移転)。電磁的指図(電子メール等)も可能。
- オ: 誤り(正答)。民200条1項の「占有を奪われたとき」という要件が満たされない(任意放棄→奪われたのではない)。占有回収の訴えは占有を侵奪(暴力・窃盗等)された場合に認められる権利。なお、占有回収の訴えは侵奪の時から1年以内に提起が必要(民201条3項)。
【根拠条文】
民法 第183条(占有改定)、第184条(指図による占有移転)、第189条(善意占有者の果実取得)、第190条(悪意占有者の果実返還)、第200条第1項(占有回収の訴え)
【補足】
占有回収の訴えは「奪われた」場合のみ(任意放棄後の不法占有には不適用)。善意占有者の果実取得(民189条)vs悪意占有者の果実返還(民190条)の対比も頻出。占有改定では即時取得不成立(判例)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第180条(占有権の取得)、第183条(占有改定)、第184条(指図による占有移転)、第190条(悪意の占有者の果実の返還等)、第200条(占有回収の訴え) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。