登録販売者 第2章 人体の働きと医薬品 問28:人体の働きと医薬品(膀胱・排尿・抗コリン・排尿困難の機序)
膀胱・排尿の仕組みおよび抗コリン成分による排尿困難に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア排尿は純粋に随意運動(意識的に制御できる運動)であり、自律神経(交感神経・副交感神経)は膀胱・尿道括約筋の働きに関与しない。
- イ交感神経の活性化(蓄尿時)は膀胱排尿筋(逼尿筋)を収縮させ、尿道括約筋(内括約筋)を弛緩させることで排尿を促進する。
- ウ抗コリン成分(ジフェンヒドラミン等の抗ヒスタミン薬・スコポラミン等)は副交感神経を刺激して膀胱排尿筋を強く収縮させるため、尿失禁を引き起こしやすい。
- エ前立腺肥大症のある男性は、前立腺肥大により尿道が狭窄しているため、抗コリン成分を含む薬を使用すると排尿困難がさらに悪化するリスクは低い。
- オ抗コリン作用を持つ成分が含まれる医薬品は、前立腺肥大・排尿困難のある方は「相談すること」として添付文書に記載されることが多い。正答
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正答はオです。
抗コリン作用を持つ成分は膀胱排尿筋(逼尿筋)を弛緩させて尿が出にくくなる作用を持ちます。前立腺肥大・排尿困難のある方は、すでに尿道に狭窄があるため、さらに抗コリン作用で排尿筋が弛緩すると排尿困難が悪化するリスクがあります。そのため「相談すること」に記載されています(オ正)。
誤りの選択肢を確認します。排尿には自律神経(副交感・交感神経)が深く関与します(ア誤)。イは「交感神経が排尿筋を収縮・括約筋を弛緩させ排尿を促進する」としていますが、これは逆です。排尿を促進する(排尿筋収縮・括約筋弛緩)のは「副交感神経」であり、交感神経はむしろ蓄尿(排尿筋弛緩・括約筋収縮)に働きます(イ誤)。ウは「抗コリン成分が副交感神経を刺激する」という誤りがあり、抗コリン成分は副交感神経を「遮断(抑制)」します(ウ誤)。前立腺肥大がある方は抗コリン成分で排尿困難が悪化するリスクが「高い」(エ誤)。
排尿の自律神経制御と抗コリン作用の影響:
| 状態 | 関与する神経 | 排尿筋(逼尿筋) | 内尿道括約筋 | 効果 |
|---|---|---|---|---|
| 蓄尿期 | 交感神経(β3受容体) | 弛緩(容量拡大) | 収縮(尿漏れ防止) | 尿を膀胱に貯める |
| 排尿期 | 副交感神経(M受容体) | 収縮(尿を押し出す) | 弛緩(通路を開く) | 尿を排出する |
| 抗コリン成分 | 副交感神経遮断 | 弛緩(収縮が妨げられる) | 収縮(弛緩が妨げられる) | 排尿困難 |
各選択肢の解説:
- ア(誤): 排尿は「意識的な制御(外尿道括約筋)」と「自律神経による不随意制御(内尿道括約筋・排尿筋)」の複合で制御されます。自律神経が関与しないという記述は誤りです。
- イ(誤): 排尿筋を収縮させ括約筋を弛緩させて「排尿を促進」するのは交感神経ではなく副交感神経です。交感神経はβ3受容体を介して排尿筋を弛緩させ、α1受容体を介して内尿道括約筋を収縮させる=「蓄尿」に働きます。選択肢イは交感神経と副交感神経の作用を取り違えており誤りです。副交感神経のムスカリン受容体(M3)が膀胱排尿筋を収縮させ内尿道括約筋を弛緩させる、というのが正しい整理です。
- ウ(誤): 抗コリン成分はムスカリン受容体を「遮断(拮抗)」する作用を持ちます。「副交感神経を刺激する」ではなく「副交感神経の働きを阻害する」が正確です。その結果、排尿筋が弛緩して尿が出にくくなります。
- エ(誤): 前立腺肥大症の患者では、前立腺の肥大により尿道が圧迫されて尿が出にくい状態に加え、抗コリン成分による排尿筋の弛緩が重なるため、排尿困難がさらに悪化するリスクが「高い」。選択肢は「リスクが低い」としており完全に誤りです。
- オ(正): 抗コリン作用を持つ成分(抗ヒスタミン薬・スコポラミン・ロートエキス等)が含まれる医薬品の添付文書「相談すること」には「前立腺肥大による排尿困難のある方」等が記載されます。これは排尿困難悪化リスクを購入者に周知するための重要な安全情報です。
【膀胱・排尿の神経制御機序と抗コリン成分の臨床的排尿困難メカニズム詳細】
排尿制御の神経回路の詳細:
排尿は中枢(橋排尿中枢・大脳皮質)と末梢(脊髄・骨盤神経・陰部神経)の協調で制御されています:
末梢神経系による制御:
1. 副交感神経(骨盤神経・S2-4起源):
- 膀胱のムスカリン受容体(M3 > M2)に作用
- 逼尿筋(排尿筋)収縮 → 膀胱内圧上昇 → 排尿
- 内尿道括約筋弛緩 → 尿道開口
2. 交感神経(下腹神経・T10-L2起源):
- 逼尿筋のβ3受容体 → 弛緩(蓄尿を助ける)
- 内尿道括約筋のα1受容体 → 収縮(蓄尿を維持)
3. 体性神経(陰部神経):
- 外尿道括約筋を随意的に収縮 → 意識的な排尿制御
抗コリン成分による排尿困難の分子メカニズム:
ムスカリン受容体(特にM3)の遮断:
- 逼尿筋のM3受容体 → アセチルコリン結合不可 → 逼尿筋の収縮が起こらない → 膀胱内圧が上がらない → 排尿困難
同時に:
- 内尿道括約筋の弛緩信号(副交感神経由来)も減弱 → 括約筋が閉まったまま
この二重の障害(逼尿筋収縮不足 + 括約筋弛緩不全)により、抗コリン成分は強力な「排尿困難の原因」となります。
前立腺肥大症(BPH: Benign Prostatic Hyperplasia)との相互作用:
前立腺は膀胱の直下に位置し、尿道を取り囲む臓器です。前立腺の肥大により:
- 尿道の物理的な狭窄(機械的閉塞)
- 前立腺の平滑筋の緊張増大(α1受容体を介した機能的閉塞)
ここに抗コリン作用が加わると:
- 逼尿筋の収縮力がさらに低下 → 尿道抵抗に打ち勝てなくなる → 急性尿閉(完全に尿が出なくなる)のリスク
急性尿閉は医療緊急事態であり、膀胱を緊急カテーテルで排尿させる必要があります。
抗コリン作用を持つ主なOTC成分:
| 成分分類 | 代表成分 | 抗コリン作用強度 |
|---|---|---|
| 抗ヒスタミン薬(第1世代) | ジフェンヒドラミン・クロルフェニラミン | 中〜強 |
| 鎮痙薬(消化器) | ロートエキス・ブチルスコポラミン(処方薬多い) | 強 |
| 鎮暈薬(乗り物酔い) | スコポラミン(ハイオスシン) | 強 |
| 抗コリン性鎮咳薬 | — | — |
| 三環系抗うつ薬(処方薬) | — | 強(参考) |
OTCで実際に問題となる場面が多いのは、かぜ薬・花粉症薬(抗ヒスタミン含有)と乗り物酔い薬(スコポラミン含有)です。<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 手引き令和8年4月版で確認。手引きは抗コリン作用を持つ成分として抗ヒスタミン成分(ジフェンヒドラミン等)・ロートエキス・スコポラミン臭化水素酸塩(スコポラミン)等を挙げ、これらが「排尿困難の症状がある人・前立腺肥大による排尿困難のある人」で症状を悪化させるおそれがあるため添付文書の「相談すること」に記載される旨を述べている。本文のリスト(抗ヒスタミン薬・ロートエキス・スコポラミン)は手引き準拠で正確。三環系抗うつ薬は処方薬の参考記載として残置(OTC範囲外と明示済み)。 -->
高齢男性への販売における実務的リスク評価:
高齢男性で前立腺肥大が潜在することを想定した対応:
1. 「排尿の状態は問題ありませんか?尿が出にくい・すっきり出ない等はありませんか?」と聴取
2. 抗コリン成分含有製品(抗ヒスタミン薬入りのかぜ薬・花粉症薬・乗り物酔い薬)の販売前に確認
3. 「前立腺肥大がある方は排尿困難が悪化することがあります。医師・薬剤師にご相談ください」
前立腺肥大の診断がなくても「尿が細い・残尿感・夜間頻尿・尿の勢いが弱い」という訴えがある場合は潜在的な前立腺肥大の可能性があるため、同様の注意喚起が有効です。
登録販売者として判断する「相談すること」の実践:
添付文書の「相談すること」に「排尿困難の方」「前立腺肥大の方」と記載されている製品は、販売の可否を購入者と一緒に考えることが求められます。「必ず医師に相談するまで販売しない」ではなく、「症状・状態を確認し、リスクを説明した上で判断する」という姿勢が、セルフメディケーションを支援しながら安全を担保する登録販売者の役割です。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第2章 第3節「泌尿器系」・第3章「主な医薬品とその作用」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。