衛生管理者 労働生理 問42:循環器
毛細血管・組織液およびリンパ系に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア毛細血管の動脈側の端では、毛細血管内の静水圧が膠質浸透圧を上回るため、血漿成分が組織間隙へ濾過される。毛細血管の静脈側では膠質浸透圧が静水圧を上回るため、組織液が再吸収される。
- イ組織液の一部はリンパ管に吸収されてリンパ液となり、リンパ節でろ過・免疫処理を受けた後、最終的に胸管(左側)または右リンパ本幹(右側)を経て静脈(鎖骨下静脈等)に合流する。
- ウ浮腫(むくみ)は、毛細血管内静水圧の上昇(うっ血性心不全等)・膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症)・リンパ管閉塞・毛細血管透過性亢進のいずれかまたはその組み合わせによって組織間隙に液体が貯留した状態である。
- エリンパ節は免疫システムの一部であり、リンパ球・マクロファージが常在してリンパ液中の異物・細菌・がん細胞を捕捉・処理する機能を持つ。
- オ組織液(間質液)の浸透圧はアルブミンなどの血漿タンパク質が豊富に含まれるため、血漿よりも膠質浸透圧が高く、常に血漿→組織液の方向に水が移動し続ける。正答
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
誤りはオです。「組織液はアルブミンが豊富で血漿より膠質浸透圧が高い」という部分が誤りです。正しくは、アルブミンなどの血漿タンパク質は毛細血管壁をほとんど通過できないため、組織液中の血漿タンパク質は少なく、膠質浸透圧は血漿より低い状態が正常です。血漿側の高い膠質浸透圧が組織液から水分を再吸収する力として機能しています。
その他の選択肢は正しい内容です。毛細血管の動脈側で濾過・静脈側で再吸収(スターリングの法則)(ア・正)。リンパ系の経路(リンパ節→胸管→静脈)(イ・正)。浮腫の4機序(ウ・正)。リンパ節の免疫機能(エ・正)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): スターリングの法則(毛細血管・組織液交換の法則)。毛細血管内の液体移動を決める力: 濾過力=毛細血管静水圧(Pc)-組織液静水圧(Pt)-[血漿膠質浸透圧(πc)-組織液膠質浸透圧(πt)]。動脈側端ではPcが高い(約30〜35mmHg)→濾過が優勢。静脈側端ではPcが低い(約15〜20mmHg)→膠質浸透圧(約25mmHg)が勝ち再吸収が優勢。
- イ(正): リンパ管系の経路: 毛細リンパ管(組織)→集合リンパ管→リンパ節(免疫処理)→リンパ本幹→左: 胸管(腸リンパ本幹・左上半身)→左鎖骨下静脈へ。右: 右リンパ本幹(右上半身・右腕・頭右側)→右鎖骨下静脈へ。脂肪(乳び)も腸管リンパ管経由でリンパ液に合流します。
- ウ(正): 浮腫の4大機序: ①毛細血管静水圧上昇(右心不全・DVT・下肢静脈瘤)②膠質浸透圧低下(肝硬変・ネフローゼ症候群・飢餓)③リンパ管閉塞・リンパ浮腫(がん浸潤・フィラリア症)④毛細血管透過性亢進(アレルギー・炎症・熱傷)。
- エ(正): リンパ節(全身に約600個)にはリンパ球(T細胞・B細胞)・マクロファージ・樹状細胞が常在します。細菌・ウイルス・がん細胞がリンパ液とともに流れてくるとリンパ節でトラップされ免疫反応が起きます。感染時のリンパ節腫脹(触れると痛い)はリンパ球・マクロファージの増殖による活発な免疫応答の証拠です。
- オ(誤): 毛細血管壁は半透膜として機能し、水・電解質・小分子は通過できますが、アルブミン(分子量約66,000)等の血漿タンパクは通過困難です。正常状態の組織液は血漿タンパクをほとんど含まず、膠質浸透圧は血漿(約25〜28mmHg)よりも著しく低い(ほぼゼロに近い)。このため膠質浸透圧は「血漿→組織液方向に水を引き付ける力(再吸収力)」として機能します。
【理論的背景】
スターリングの法則(Ernest Starling、1896年)は毛細血管と組織間隙の液体交換の基本原理を示した古典的理論です。
スターリングの式(正味の液体移動量):
Jv = Lp × S × [(Pc - Pt) - σ(πc - πt)]
- Jv: 正味の液体移動量
- Lp: 毛細血管の水の透過性
- S: 毛細血管の表面積
- Pc: 毛細血管静水圧(約30mmHg動脈側・15mmHg静脈側)
- Pt: 組織液静水圧(約-2〜+2mmHg)
- σ: 反射係数(血漿タンパクの通過しにくさ:0=自由通過・1=完全不通過)
- πc: 血漿膠質浸透圧(約25〜28mmHg)
- πt: 組織液膠質浸透圧(約3〜5mmHg)
スターリングの力のバランス(安静状態・正常):
- 動脈側: 濾過力≈(30-2)-(25-3)=6mmHg → 濾過が優勢
- 静脈側: 再吸収力≈(25-3)-(15-2)=9mmHg → 再吸収が優勢
- 正味: わずかに濾過が多い(約90%が再吸収・残り10%がリンパ管へ)→ リンパ管がオーバーフローを処理
膠質浸透圧(oncotic pressure)とアルブミン:
- アルブミンは血漿タンパク質の60〜70%を占め(約4g/dL)、膠質浸透圧の主な担い手
- アルブミン低下(低アルブミン血症): 肝硬変(合成低下)・ネフローゼ(尿中喪失)・低栄養(材料不足)→膠質浸透圧低下→組織液再吸収力低下→浮腫
リンパ管系の生理学的役割:
1. 過剰な組織液のドレナージ(浮腫防止)
2. 脂肪吸収の経路(乳び:腸管リンパ管が脂肪を吸収し胸管へ)
3. 免疫細胞の輸送(T細胞・B細胞・抗原)
4. 血漿タンパクのリサイクル(毛細血管から漏れたタンパクをリンパ経由で回収)
【実務・条文構造】
浮腫の職場での意義と衛生管理者の実務:
職業関連の浮腫の原因:
1. 長時間の立位作業(美容師・調理師・小売業等)→静脈還流低下→下肢の毛細血管静水圧上昇→下肢浮腫
2. 高温環境作業→皮膚血管拡張→毛細血管透過性亢進→浮腫(熱浮腫)
3. 心疾患・腎疾患・肝疾患による全身性浮腫→重症疾患の発見機会
職場での浮腫の予防・管理:
- 立位作業者への弾性ストッキング(静脈還流促進)
- 適度な足の運動(筋ポンプ:下腿三頭筋の収縮が静脈還流を助ける)
- 水分補給(利尿促進には逆効果になる場合もあるため適切な量)
- 上肢のリンパ浮腫(乳がん術後のリンパ節郭清後):重量物持ち運び・締め付ける衣類に注意→就業制限の考慮
がんのリンパ節転移と産業保健:
- がんは所属リンパ節へのリンパ行性転移が典型的
- 頸部・腋窩・鼠径部の無痛性リンパ節腫脹は悪性腫瘍の重要なサイン
- 定期健康診断の問診・理学所見でのリンパ節触診は早期発見の機会
【試験での位置づけ】
毛細血管・組織液・リンパ系の問題では「スターリングの法則(動脈側濾過・静脈側再吸収)」「膠質浸透圧の担い手はアルブミン(血漿>組織液)」「浮腫の4機序(静水圧上昇・膠質浸透圧低下・リンパ閉塞・透過性亢進)」「リンパ→リンパ節→胸管→静脈」が頻出です。オのような「組織液の膠質浸透圧が血漿より高い」という誤りは、アルブミンが毛細血管を通過できないという基本的な事実を逆にした引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 高血圧患者では全身の毛細血管静水圧が上昇する傾向があり、末梢浮腫のリスクが高まります。また高血圧治療薬のカルシウム拮抗薬(アムロジピン等)の副作用として下腿浮腫があり、毛細血管透過性亢進・静脈系の影響で生じます。
- イ: 乳び(chyle)は腸管リンパ管(乳び管)に吸収された脂肪(中性脂肪:乳白色の外観)を含むリンパ液です。脂溶性ビタミン(ADEK)・脂溶性薬物もリンパ管経由で吸収されます。胸管の損傷(外傷・手術)では胸腔に乳び が漏れる「乳び胸」が生じます。
- ウ: ネフローゼ症候群は糸球体の障害→大量のアルブミン尿→低アルブミン血症→膠質浸透圧低下→全身浮腫という経路で生じる典型的な浮腫の病態です。また低アルブミン血症→肝臓でのアルブミン合成代償増加→コレステロール産生も増加(高脂血症)→動脈硬化リスクという連鎖も起きます。
- エ: センチネルリンパ節生検はがんの外科治療で重要です。センチネルリンパ節とは「腫瘍から最初に転移するリンパ節」で、これを術中に同定・生検することで腋窩・鼠径部等のリンパ節廓清を省略できる(過剰治療回避・QOL維持)手術法が普及しています。
【根拠】医学的事実(確立した生理学)。スターリングの法則・組織液の低膠質浸透圧(アルブミンは毛細血管を通過しない)・浮腫の4機序・リンパ系の経路は確立した知識。
【補足】組織液の膠質浸透圧は血漿より低い(アルブミンが毛細血管を通過できないため)。血漿側の膠質浸透圧が組織液再吸収の力。浮腫の4機序:静水圧上昇・膠質浸透圧低下・リンパ閉塞・透過性亢進。リンパ液は最終的に静脈に合流。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。正常な組織液は血漿タンパク質(アルブミン等)をほとんど含まず、膠質浸透圧は血漿よりも低い。血漿側の膠質浸透圧が組織液への水の濾過を引き戻す力になる。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。