労働生理56消化・代謝

衛生管理者 労働生理 問56:消化・代謝

ビタミンB群およびアミノ酸代謝に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • ビタミンB₁(チアミン)はピルビン酸デヒドロゲナーゼの補酵素として必要であり、欠乏するとピルビン酸の代謝が障害されて乳酸・ピルビン酸が蓄積する。欠乏症は脚気(末梢神経障害・心不全)やウェルニッケ脳症(眼球麻痺・歩行失調・意識障害)をきたす。
  • ビタミンB₆(ピリドキシン)はアミノ酸のアミノ基転移反応(トランスアミナーゼ)の補酵素として必要であり、欠乏するとアミノ酸代謝障害・神経症状・皮膚炎が生じる。
  • ナイアシン(ビタミンB₃)はNAD⁺・NADP⁺の成分として解糖系・TCAサイクル・電子伝達系で中心的な役割を担う補酵素であり、欠乏するとペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症の3D)が生じる。
  • 必須アミノ酸(イソロイシン・ロイシン・リジン・メチオニン・フェニルアラニン・スレオニン・トリプトファン・バリン)は体内で合成できないため食事から摂取が必要であり、ヒスチジンも小児では必須アミノ酸として加えられる場合がある。
  • タンパク質の過剰摂取は余剰のアミノ酸が尿素に変換されて腎臓から排泄されるが、この過程(尿素サイクル)は主に腎臓で行われるため、腎機能が低下すると高アンモニア血症が起きる。正答
正答:タンパク質の過剰摂取は余剰のアミノ酸が尿素に変換されて腎臓から排泄されるが、この過程(尿素サイクル)は主に腎臓で行われるため、腎機能が低下すると高アンモニア血症が起きる。

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誤りはオです。「尿素サイクルは主に腎臓で行われる」という部分が誤りです。尿素サイクル(尿素回路)は主に肝臓で行われます。アンモニア(タンパク質・アミノ酸の分解産物)→肝臓の尿素サイクルで尿素に変換→血液を介して腎臓へ→尿として排泄されます。したがって高アンモニア血症が起きるのは「腎機能低下」ではなく、肝機能低下(肝硬変・劇症肝炎等)のときです。

その他の選択肢は正しい内容です。ビタミンB₁欠乏→脚気・ウェルニッケ脳症(ア・正)。B₆→トランスアミナーゼの補酵素(イ・正)。ナイアシン→NAD⁺の成分・ペラグラ(ウ・正)。必須アミノ酸の種類(エ・正)はいずれも正確です。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): ビタミンB₁(チアミンピロリン酸=TPP)が補酵素として必要な酵素: ①ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(解糖→TCA回路への橋渡し)②α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(TCA回路内)③トランスケトラーゼ(ペントースリン酸経路)。B₁欠乏→ピルビン酸蓄積→乳酸性アシドーシス。脚気(beriberi): 末梢神経障害(痺れ・脱力)・心不全(心臓の脚気)。ウェルニッケ脳症: アルコール依存・急性期(ブドウ糖投与前にチアミン投与が必須:ブドウ糖単独投与で悪化のリスク)。
  • イ(正): ビタミンB₆(ピリドキサールリン酸=PLP)は50種類以上の酵素の補酵素として機能します。アミノトランスフェラーゼ(アミノ基転移酵素)でのアミノ基転移・脱炭酸(ドパミン・セロトニン・GABA等の神経伝達物質合成に必要)・グリコーゲン分解(グリコーゲンホスホリラーゼの補酵素)。欠乏症: 皮膚炎・口内炎・舌炎・末梢神経障害・うつ症状(セロトニン不足)。
  • ウ(正): NAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)とNADP⁺は酸化還元反応の補酵素として解糖系・TCAサイクル・β酸化・電子伝達系に不可欠です。ペラグラ(pellagra: 皮膚炎・下痢・認知症・死=4D: Dermatitis・Diarrhea・Dementia・Death): トウモロコシを主食とする地域(ナイアシン欠乏・トリプトファン欠乏)で歴史的に多発。現代では栄養偏食・アルコール依存で見られます。
  • エ(正): 必須アミノ酸(成人では通常9種類: EAA): Val(バリン)・Leu(ロイシン)・Ile(イソロイシン)・Met(メチオニン)・Thr(スレオニン)・Phe(フェニルアラニン)・Trp(トリプトファン)・Lys(リジン)・His(ヒスチジン)。語呂合わせ「バリン・ロイシン・イソロイシン・メチオニン・スレオニン・フェニルアラニン・トリプトファン・リジン・ヒスチジン」。ヒスチジンは小児と成人で必須・非必須の境界で教科書によって異なる場合があります。
  • オ(誤): 尿素サイクル(尿素回路)の正しい説明: アンモニア(NH₃)はアミノ酸の分解(トランスアミナーゼ→グルタミン酸→グルタミン酸デヒドロゲナーゼ→NH₃)によって産生。NH₃は毒性が高い(神経毒性)→肝臓の尿素サイクルで尿素(低毒性・水溶性)に変換→血液→腎臓から尿として排泄。肝硬変・劇症肝炎→肝臓の尿素サイクル機能低下→血中アンモニア上昇→肝性脳症(高アンモニア血症による精神神経症状)。腎機能低下では尿素の排泄が低下しますが(BUN上昇:尿毒症)、アンモニアが蓄積する主要因は肝機能障害です。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

アミノ酸代謝の最終産物(窒素の処理)は生体にとって重要な問題です。タンパク質は炭素・水素・酸素に加え窒素を含みます。窒素の処理(アンモニアの解毒・尿素化)は肝臓の重要な機能の一つです。

アンモニアから尿素への変換(尿素サイクル・肝臓のミトコンドリア+細胞質):

1. アンモニア(NH₃)+CO₂→カルバモイルリン酸(ミトコンドリア内)

2. カルバモイルリン酸+オルニチン→シトルリン(ミトコンドリア内)

3. シトルリンが細胞質へ→アスパラギン酸と結合→アルギノコハク酸

4. アルギノコハク酸→アルギニン+フマル酸

5. アルギニン→アルギナーゼ→オルニチン+尿素

尿素サイクルの酵素欠損(先天性代謝異常):

  • OTC(オルニチントランスカルバミラーゼ)欠損: X連鎖性・最も多い尿素サイクル異常→高アンモニア血症→新生児期から脳症・昏睡。低タンパク食・アンモニア代謝補助薬での管理。

アミノ酸代謝と各種疾患:

  • フェニルケトン尿症(PKU): フェニルアラニン水酸化酵素欠損→フェニルアラニン蓄積→フェニルピルビン酸産生→神経障害(精神遅滞)。スクリーニング(新生児マス)で早期発見→フェニルアラニン制限食で予防。
  • アルカプトン尿症: ホモゲンチジン酸オキシダーゼ欠損→ホモゲンチジン酸蓄積→尿の黒化(空気に触れると黒くなる)・関節・脊椎の変性。
  • メープルシロップ尿症: 分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ欠損→バリン・ロイシン・イソロイシンの蓄積→神経毒性。

【実務・条文構造】

タンパク質・アミノ酸代謝と職場・産業保健:

肝性脳症と職場:

  • 肝硬変(B型/C型肝炎・アルコール性等)→肝性脳症(高アンモニア血症→意識障害・羽ばたき振戦・性格変化)
  • 認知機能低下・注意力散漫→精密機械操作・高所作業・自動車運転の安全性
  • 潜在性肝性脳症(顕性症状なし)でも神経心理検査で異常が見られる→就業上の配慮

アルコール性肝障害と職業的リスク:

  • 過度の飲酒→アルコール性肝炎→肝硬変→肝不全(尿素サイクル障害・高アンモニア血症)
  • 接待業務・飲み会文化が強い業種・職種でリスクが高い
  • AST・ALT・γ-GTPの定期健診モニタリングと早期介入

ビタミンB₁(チアミン)欠乏のリスク集団:

  • アルコール依存者(最多): 消化管吸収障害・食事の偏り
  • 炭水化物過多の食事(精白米のみ)
  • 急性期輸液(ブドウ糖のみ): 大量ブドウ糖投与でチアミン消費が増加→急性発症→ウェルニッケ脳症(可逆性)→コルサコフ症候群(記憶障害・作話・見当識障害:不可逆性)
  • 衛生管理者として、アルコール依存疑い者の健診異常(γ-GTP上昇)を見逃さない

【試験での位置づけ】

代謝・ビタミンの問題では「尿素サイクルは肝臓(腎臓ではない)・高アンモニア血症は肝機能障害で起きる(腎機能低下ではない)」「ビタミンB₁欠乏→脚気・ウェルニッケ脳症(ピルビン酸蓄積)」「ナイアシン→NAD⁺の成分・ペラグラ(3D)」「必須アミノ酸9種類(成人)」が頻出です。オの誤りは「尿素サイクルの臓器(肝臓→腎臓に誤りかえる)」という臓器の置き換えで、アンモニア解毒が肝臓の機能であることを確実に押さえれば即座に誤りと判断できます。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: ウェルニッケ脳症の「ウェルニッケ三徴(眼球麻痺・歩行失調・意識障害)」は全てが揃わないことも多く(16%程度のみ3徴が揃う)、見逃しリスクが高い緊急疾患です。アルコール依存者や長期栄養不足者が急性に混乱・歩行不安定を訴えたとき、ブドウ糖投与の前にチアミン(100mg静脈注射)を投与することが必須です(ブドウ糖単独投与でチアミン消費が増加し悪化する)。
  • イ: イソニアジド(INH:抗結核薬)はビタミンB₆拮抗作用を持ち、長期服用でB₆欠乏性末梢神経障害が生じます。長期INH服用者には予防的B₆補充(ピリドキシン25〜50mg/日)が必要です。結核の集団発生(職場・学校)での化学予防(INH投与)時に、この副作用と予防投与を産業医・衛生管理者が理解しておく必要があります。
  • ウ: ナイアシンの生化学的面白さ: NAD⁺はエネルギー代謝だけでなく、DNAの修復(PARP: ポリADPリボースポリメラーゼ)・細胞の生存シグナル(サーチュイン:長寿遺伝子)にも関与します。NAD⁺の前駆体(NMN: ニコチンアミドモノヌクレオチド)が「老化防止・長寿サプリ」として注目されていますが、現時点では効果の確実な臨床的エビデンスは限られています。
  • エ: 必須アミノ酸の記憶法(英語の頭文字): PVTIM HaLF: Phenylalanine・Valine・Threonine・Isoleucine・Methionine・Histidine・aLeucine・Lysine・Tryptophan。日本語では「バ(バリン)・ロ(ロイシン)・イ(イソロイシン)・メ(メチオニン)・ス(スレオニン)・フェ(フェニルアラニン)・ト(トリプトファン)・リ(リジン)・ヒ(ヒスチジン)=バロイメスフェトリヒ」で覚える。

【根拠】医学的事実(確立した生化学・生理学)。尿素サイクルが主に肝臓で行われること(腎臓ではない)・肝機能低下で高アンモニア血症が起きること・B₁欠乏症状・ナイアシンとNAD⁺の関係・必須アミノ酸は確立した知識。

【補足】尿素サイクルは主に肝臓で行われる(腎臓ではない)。高アンモニア血症は肝機能低下(肝硬変等)で起きる(腎機能低下ではない)。B₁欠乏→脚気・ウェルニッケ脳症。ナイアシン欠乏→ペラグラ(皮膚炎・下痢・認知症の3D)。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生化学・生理学)。尿素サイクル(尿素回路)は主に「肝臓」で行われる。腎臓ではない。肝不全(肝硬変・劇症肝炎等)で高アンモニア血症が起きる。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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