労働生理85循環器

衛生管理者 労働生理 問85:循環器

冠動脈循環と心筋の酸素需給に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 冠動脈は大動脈基部(バルサルバ洞)から左右2本(左冠動脈・右冠動脈)が分岐し、心臓に酸素と栄養を供給する。心臓は自身の収縮・拡張活動(心機能)に必要なエネルギーをすべて冠動脈から受け取る。
  • 冠動脈血流量は主として心拡張期(心臓が弛緩して内圧が低下している時期)に増加する。心収縮期では心筋内圧が高まり冠動脈が圧迫されるため、特に左室壁内の冠血流は収縮期に減少する。
  • 心筋は酸素の抽出率(酸素消費量/酸素供給量)が安静時でも約60〜70%(全身の平均は約25〜30%)と非常に高いため、運動時には冠動脈の拡張(冠血流量の増加)によって酸素供給を増やすほかに選択肢がほとんどない。
  • 冠動脈に動脈硬化性プラークが形成されると冠動脈が狭窄し、安静時には十分な血流があっても運動時・心拍数増加時に血流不足(心筋虚血)が生じる。これが安定狭心症の病態であり、不安定プラークが破裂・血栓形成すると急性心筋梗塞(AMI)となる。
  • 心筋のエネルギー源は安静時には主に脂肪酸(β酸化)に依存し、運動時(高強度)にはグルコースの嫌気性解糖が主体となる。心筋は赤血球(成熟赤血球)と同様にミトコンドリアを持たず、有酸素代謝を行わない。正答
正答:心筋のエネルギー源は安静時には主に脂肪酸(β酸化)に依存し、運動時(高強度)にはグルコースの嫌気性解糖が主体となる。心筋は赤血球(成熟赤血球)と同様にミトコンドリアを持たず、有酸素代謝を行わない。

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誤りはオです。「心筋はミトコンドリアを持たず有酸素代謝を行わない」という部分が誤りです。心筋は全細胞の体積の約30〜35%がミトコンドリアというミトコンドリアが非常に豊富な組織であり、酸化的リン酸化(有酸素代謝)に完全に依存しています。心筋の主要エネルギー源は安静時は脂肪酸(β酸化: 約60〜70%)、高強度運動時はグルコース(有酸素代謝)の割合が増えますが、いずれも有酸素代謝が主体です。「赤血球と同様にミトコンドリアを持たない」も誤りで、成熟赤血球とは真逆の特性です。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 左冠動脈(LCA)は左主幹部から左前下行枝(LAD)と左回旋枝(LCX)に分岐し、左室前壁・前中隔・側壁・後壁の広い範囲を支配します。右冠動脈(RCA)は右室・右房・洞房結節・後下壁を支配します。冠動脈疾患での「どの枝が閉塞したか」が心筋梗塞の範囲・重症度・予後を決定します(LAD近位部閉塞が最も予後不良: 「widow maker」)。
  • イ(正): 冠動脈血流の収縮期抑制・拡張期優位の特殊性: 左室は収縮時に強い内圧を発生するため(100〜120mmHg)、心筋内の冠動脈血管が圧迫されます(心筋内圧が高い内膜下層が特に虚血に弱い)。拡張期に内圧が低下すると冠動脈血流が回復します。心拍数増加(頻脈)では拡張期が相対的に短縮→冠血流の不足→虚血リスク増大(特に元々狭窄がある場合)。
  • ウ(正): 心筋の酸素抽出率が高い(安静時60〜70%)ことは「骨格筋の安静時酸素抽出率は約25〜30%で運動時に増加できる」ことと対照的です。心筋はすでに高い抽出率で酸素を消費しているため、酸素消費量を増やすには冠動脈血流量の増加(冠血管の拡張)しか対応手段がほとんどありません。局所代謝産物(アデノシン・CO₂・K⁺・H⁺)・内皮由来NO(一酸化窒素)が冠血管を拡張させます。
  • エ(正): 安定狭心症: 動脈硬化プラーク(安定プラーク=線維性被膜が厚い)による器質的狭窄→運動時・交感神経亢進時の心拍数増加・血圧上昇→心筋酸素需要増大→冠血流不足→ST低下・胸痛(労作時狭心症)。急性冠動脈症候群(ACS): 不安定プラーク(線維性被膜が薄く脂質コアが大きい)→破裂→血栓形成→冠閉塞→ST上昇型心筋梗塞(STEMI)またはNSTEMI(非ST上昇型)。
  • オ(誤): 心筋のエネルギー代謝の正確な特性: ①ミトコンドリアが豊富(心筋細胞の体積の約25〜35%がミトコンドリア)②完全に有酸素代謝に依存(嫌気性代謝への依存は最小限)③安静時のエネルギー源: 脂肪酸β酸化が約60〜70%・グルコース約30%・乳酸・アミノ酸等④運動時: グルコースと乳酸の割合が増加(有酸素代謝として)⑤心筋は嫌気性代謝が非常に苦手→冠動脈閉塞後わずか数分でATPが枯渇→壊死開始(心筋梗塞の緊急性の根拠)。「ミトコンドリアを持たない・有酸素代謝を行わない」は赤血球と心筋を混同した完全な誤りです。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

#### 1. 心筋の酸素需給バランスと冠循環の調節

心筋酸素需要(MVO₂)の規定因子:

1. 心拍数(HR): 最大の決定因子(HR↑→MVO₂急増)

2. 収縮性(Contractility): 心収縮力↑→MVO₂↑

3. 壁張力(Wall tension): ラプラスの法則(T = P×r/2h: 圧力×半径/壁厚さ)→心室が拡張するほど壁張力増大→MVO₂増大

4. 心臓仕事量(E): 心拍出量×大動脈圧

心筋酸素供給(DO₂)の規定因子:

1. 冠動脈血流量(CBF): 最重要(安静時CBF約250mL/分→運動時最大5倍の約1,250mL/分へ)

2. 動静脈酸素較差(a-vO₂ diff): 安静時でも60〜70%と既に高いため増加の余地が少ない

3. ヘモグロビン濃度・SaO₂(貧血・低酸素で低下)

冠血管抵抗の調節:

  • 代謝性調節(最重要): 心筋活動→局所代謝産物(アデノシン・CO₂・H⁺・K⁺)→冠血管平滑筋弛緩→冠血管拡張→CBF増加。アデノシン(ATP→AMP→アデノシン)が最も強力な冠血管拡張物質
  • 内皮依存性調節: せん断応力→内皮細胞NO産生→冠血管拡張(ニトログリセリンはNOドナーとして冠血管を拡張)
  • 自律神経: β₂受容体→冠血管拡張、α₁受容体→収縮(ただし通常は代謝性調節が優位)

#### 2. 心筋のエネルギー代謝(最強の有酸素臓器)

心筋の特殊なエネルギー代謝:

基質依存性の詳細:

| 基質 | 安静時使用割合 | 運動・絶食時の変化 |

|-----|------------|----------------|

| 脂肪酸(β酸化) | 60〜70% | 絶食→割合さらに増加 |

| グルコース | 20〜30% | 運動・インスリン→増加 |

| 乳酸 | 10〜15% | 運動→大幅増加(乳酸シャトル) |

| ケトン体 | 絶食時〜10% | 絶食時・糖尿病時に増加 |

心筋は「機会主義的な代謝」(opportunistic metabolism)を行い、利用可能な基質を優先して使います。乳酸は運動時に筋肉から放出→心筋が活発に利用(心臓は「乳酸を好む」臓器)。

ミトコンドリア欠損が致命的な理由:

  • 心臓はほぼ完全に有酸素代謝に依存(嫌気性は心機能の<5%)
  • 冠動脈閉塞→虚血→ATP産生停止(20分でATPが枯渇する)→不可逆的心筋壊死開始
  • 「心筋梗塞の黄金時間(time is muscle)」: 閉塞後2時間以内の再灌流が最も効果的

#### 3. 職場環境と心筋虚血リスク(衛生管理者の実務知識)

職場での急性心筋梗塞リスク因子:

急性トリガー(誘因):

  • 肉体的過負荷(重量物取扱い・階段昇降)→心拍数・血圧急上昇→心筋酸素需要急増→虚血
  • 寒冷暴露→交感神経亢進→冠動脈けいれん(vasospasm)・血圧上昇→虚血
  • 精神的ストレス(怒り・恐怖)→交感神経亢進→同上
  • CO暴露(一酸化炭素)→HbCO形成→酸素運搬障害→心筋虚血(CO中毒での心筋梗塞)

慢性的な職場リスク因子:

  • 長時間労働(月80時間超の時間外→心筋梗塞リスク上昇)
  • 夜勤・シフト勤務→概日リズム障害→血圧変動・血栓形成リスク増大
  • 化学物質(有機溶剤・一酸化炭素)→心筋毒性・不整脈

職場での心停止・AEDの対応:

  • AED(自動体外式除細動器)設置義務(多数の人が集まる場所)
  • 心肺蘇生(CPR)訓練: 衛生管理者・安全衛生スタッフへの定期教育
  • AMI発症時の対応フロー: 認識→119→CPR+AED→救急隊に引継ぎ→PCI(経皮的冠動脈インターベンション)

#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用

試験では「冠動脈=大動脈基部から左右2本分岐」「冠血流は拡張期に増加・収縮期に制限(特に左室内膜下)」「心筋の酸素抽出率=安静時60〜70%(全身平均25〜30%)→運動時は冠血管拡張が必須」「安定狭心症=動脈硬化プラーク→器質的狭窄→労作時虚血、不安定プラーク破裂→血栓→AMI」「心筋はミトコンドリアが豊富・完全に有酸素代謝依存(骨格筋赤筋と同様)」が頻出です。オの誤りは「心筋がミトコンドリアなし・有酸素代謝なし」という成熟赤血球との混同です。

【根拠】医学的事実(確立した循環器生理学)。冠動脈の解剖・冠血流の調節・心筋の高い酸素抽出率・心筋のミトコンドリア豊富な有酸素代謝・心筋梗塞の病態は確立した知識。

【補足】オが誤り:心筋はミトコンドリアが体積の25〜35%を占め(非常に豊富)、完全に有酸素代謝(主に脂肪酸β酸化)に依存する。成熟赤血球(核なし・ミトコンドリアなし)と正反対の特性。心筋虚血後数分〜20分でATP枯渇→不可逆的壊死開始(緊急再灌流が必須な理由)。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した循環器生理学)。心筋はミトコンドリアを豊富に持ち、有酸素代謝(特に脂肪酸のβ酸化とTCA回路)に依存する。「ミトコンドリアを持たない・有酸素代謝を行わない」は誤りである。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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