行政書士の業務範囲を、行政書士法の条文と各省庁・日本行政書士会連合会の公式説明で整理します。入管業務(申請等取次)、遺産分割協議書、契約書、生活保護の申請書類について、行政書士ができることと、弁護士・司法書士・税理士との線引きを解説します。
目次
結論:行政書士ができる業務の土台は、行政書士法1条の3(官公署に提出する書類、権利義務・事実証明に関する書類の作成)と1条の4(提出手続の代理、契約書類の代理作成、相談など)です。入管業務では、申請書類の作成(1条の3)に加えて、届出をした行政書士が提出などの「申請等取次」を行えます。取次ぎは事実行為で、署名や記載内容の直接の訂正はできません。相続では遺産分割協議書などの書類作成が中心で、紛争になっているものは弁護士、登記は司法書士、税務は税理士の範囲です。生活保護は、福祉事務所の窓口で申請でき、行政書士に頼むかどうかは任意です。
| 業務 | 行政書士の位置づけ | 線を引く条文・説明 |
|---|---|---|
| 入管業務 | 申請書類の作成(1条の3)に加え、届出を行った行政書士が、申請書や資料の提出などを「取次ぎ」する | 出入国在留管理庁 申請等取次者としての承認手続 |
| 遺産分割協議書 | 協議で決まった内容を書面にする(権利義務に関する書類) | 紛争になっているものは弁護士法72条、登記は司法書士法3条、税務は税理士法52条 |
| 契約書 | 契約その他に関する書類の作成・代理人としての作成(1条の4第1項3号) | 紛争性のある和解・交渉は弁護士法72条 |
| 生活保護 | 申請書は官公署に提出する書類にあたり、書類の作成は1条の3の対象になりうる | 申請権者は生活保護法7条、窓口は福祉事務所 |
行政書士の業務は、1条の3・1条の4で決まる
行政書士の業務の根拠は、行政書士法の次の条文です(条文は e-Gov 法令検索で確認。行政書士法。令和8年1月1日施行の改正後の条番号です)。
- 1条の3:行政書士は、「他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類…その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする」。ただし、その業務を行うことが他の法律において制限されているものは行えない(2項)
- 1条の4:1条の3の業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次の事務を業とすることができる(ただし、他の法律で制限されている事項を除く)
- 一 官公署に提出する書類の提出手続の代理、聴聞や弁明の機会の付与の手続などでの代理(弁護士法72条の法律事件に関する法律事務に当たるものを除く)
- 二 許認可等に関する審査請求などの不服申立ての代理と書類の作成(研修を修了した特定行政書士に限る)
- 三 行政書士が作成できる契約その他に関する書類を代理人として作成すること
- 四 行政書士が作成できる書類の作成についての相談
行政書士でない者は、他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として1条の3の業務を行えません(19条1項)。この改正の内容は、行政書士法改正(2026年1月施行)の要点で整理しています。
日本行政書士会連合会は、「権利義務に関する書類」を「権利の発生、存続、変更、消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする書類」と説明しています。主なものとして、遺産分割協議書、各種契約書、念書、示談書、協議書、内容証明などを挙げています(出典:日本行政書士会連合会 行政書士の業務)。
行政書士法の条番号:業務は1条の3・1条の4、業務の制限は19条1項。令和8年1月1日施行の改正後の番号。最終確認日:2026-10-03。出典:e-Gov 法令検索 行政書士法。
入管業務:書類の作成と「申請等取次」
入管業務とは、在留資格に関する申請などの手続のことです。在留期間更新許可申請などの在留諸申請や在留カードの記載事項変更などの手続は、地方出入国在留管理局への本人出頭が原則です。その例外として、出入国在留管理庁は「法定代理人が申請を行うケースのほか、地方出入国在留管理局長が適当と認める者について、外国人本人の申請等の取次ぎを行うことを可能とする申請等取次制度」を定めています(出典:出入国在留管理庁 申請等取次制度)。
行政書士が取次ぎを行う場合の要点は、次の3つです(出典:出入国在留管理庁 申請等取次者としての承認手続)。
- 届出が必要:「弁護士、行政書士の方であって、申請等取次ぎを行う場合は、御自身が所属する単位会を通じて、地方出入国在留管理局に対して届出を行う必要があります」
- 取次ぎは事実行為:「取次ぎは、申請書や資料の提出等の事実行為を行うことが認められているものであって、申請人・届出人として署名したり、記載内容を直接訂正等することはできません」
- 書類の作成は資格者の業務:「弁護士及び行政書士以外の方が、官公署に提出する申請書等の書類の作成を報酬を得て業として行うことは、行政書士法違反に当たるおそれがあります」
日本行政書士会連合会も、行政書士の「その他特定業務」として、届出を行った申請取次行政書士が行う、出入国管理及び難民認定法に規定する申請に関する申請書、資料及び書類の提出並びに書類の提示を行う業務を挙げています。
入管業務で押さえておきたい線
「行政書士 入管業務 危険」という検索は、入管業務で何をしてよく、何をしてはいけないのかを知りたい人が多いためと考えられます。公式の説明から読み取れる線は次のとおりです。
- 取次ぎは「提出」などの事実行為で、本人に代わって申請人として署名したり、記載内容を直接訂正したりすることは含まれない
- 取次ぎを行うには、所属する単位会を通じた届出が必要
- 資格のない者が報酬を得て業として申請書類を作成することは、行政書士法違反に当たるおそれがある
- 審査請求などの不服申立ての代理は、1条の4第1項2号・2項により特定行政書士に限られる(特定行政書士の要件は特定行政書士は意味ない?できること・なり方で整理しています)
在留資格の申請が許可されるかどうかの見通しや、個別の事案でどこまで関与できるかは、この記事では扱いません。依頼を考えている場合は、行政書士会などの窓口で、届出の有無を確認してください。
行政書士試験の科目に、入管法は含まれていません。試験の範囲は、憲法・行政法・民法・商法及び基礎法学と、基礎知識(一般知識、行政書士法等の諸法令、情報通信・個人情報保護、文章理解)です(出典:行政書士試験研究センター 試験概要)。
相続:遺産分割協議書と、その前後の手続
遺産分割は、民法907条1項が「共同相続人は…いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる」と定めています。協議が調わないときは、各共同相続人が家庭裁判所に分割を請求できます(同条2項)。
日本行政書士会連合会は、相続での行政書士の業務を次のように説明しています。
「遺産相続においては、法的紛争段階にある事案や、税務・登記申請業務に関するものを除き、遺産分割協議書や相続人関係説明図等の書類作成を中心に、その前提となる諸々の調査も含め、お引き受けします。」(出典:日本行政書士会連合会 遺言・相続)
相続の手続ごとの担当を整理すると、次のとおりです。
| 手続 | 担当 | 根拠 |
|---|---|---|
| 遺産分割協議で決まった内容の書面化(遺産分割協議書) | 行政書士 | 行政書士法1条の3 |
| 相続人間で争いになっている事案の代理・和解・交渉 | 弁護士 | 弁護士法72条 |
| 相続による不動産の登記申請の代理 | 司法書士 | 司法書士法3条1項1号 |
| 相続税などの税務代理 | 税理士 | 税理士法2条・52条 |
弁護士法72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、一般の法律事件に関して代理、仲裁、和解その他の法律事務を取り扱うことを業とすることを、「この法律又は他の法律に別段の定めがある場合」を除いて禁じています。争いのある相続で、行政書士が相手方との交渉を引き受ける、といった関与は、この条文との関係で問題になります。
遺産分割協議書を作るだけで足りるのか、登記や税務まで必要なのかは、相続財産の内容によって違います。必要な手続を整理したうえで、担当の専門家を選びます。
契約書:作成と代理人としての作成、限界は紛争性
契約書は、1条の3の「権利義務に関する書類」に当たり、行政書士が業として作成できる書類です。さらに1条の4第1項3号が、行政書士が作成できる契約その他に関する書類を「代理人として作成すること」を認めています。日本行政書士会連合会は、契約書として売買・贈与・賃貸借・消費貸借などを挙げ、「発生したトラブルについて協議が整っている場合には、「合意書」「示談書」等の作成も行います」と説明しています(出典:日本行政書士会連合会 契約書)。同ページには、「裁判所に提出するための書類及び弁護士法に関わるものは除く」との注記もあります。
線を引くのは、争いの有無です。当事者の間で内容が決まっている契約を書面にするのは行政書士の書類作成にあたりますが、争いのある場面での交渉や和解の代理は、弁護士法72条が弁護士に限っています。
契約書を自分で作る場合も、条文の理解が土台になります。民法の契約の規定は、行政書士試験の民法の範囲でもあります。
生活保護:申請書類の作成と、窓口・申請権者
生活保護法24条1項は、保護の開始を申請する者は、申請書を保護の実施機関に提出しなければならないと定めています。ただし「当該申請書を作成することができない特別の事情があるときは、この限りでない」とされています。申請できるのは、同法7条により「要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族」です。
厚生労働省は、「生活保護の相談・申請窓口は、現在お住まいの地域を所管する福祉事務所の生活保護担当です」としています(出典:厚生労働省 生活保護制度)。
行政書士法の側から見ると、申請書は官公署に提出する書類にあたるため、その作成は1条の3の業務の対象になりえます。一方で、行政書士に頼まなくても、窓口で申請することができます。申請の手続で行政書士がどこまで関与できるかは、この記事では判断しません。
ほかの士業との線引き:行政書士ができないこと
行政書士は、その業務を行うことが他の法律で制限されているものについては、業務を行えません(1条の3第2項)。主な線引きは次のとおりです。
| 業務 | 行えない理由 | 担当 |
|---|---|---|
| 争いのある事件の代理・和解・交渉 | 弁護士法72条 | 弁護士 |
| 登記の申請手続の代理 | 司法書士法3条1項1号 | 司法書士 |
| 税務代理 | 税理士法52条 | 税理士 |
| 不服申立ての代理 | 行政書士法1条の4第2項(特定行政書士に限る) | 特定行政書士・弁護士 |
条文は e-Gov 法令検索で確認しています(弁護士法・司法書士法・税理士法・生活保護法・民法)。
業務の制限は、行政書士が他の士業の業務を行えないという方向のほか、行政書士でない者が行政書士の業務を報酬を得て業として行えないという方向(19条1項)にもあります。
資格の組み合わせは、行政書士と相性のいい資格と中小企業診断士と行政書士の違いで整理しています。
行政書士試験との関係
行政書士の業務範囲を定める行政書士法は、試験の基礎知識の区分「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」で出題されます。当サイトの問題データでは、一般知識48問のうち行政書士法を扱う問題が11問、民法のうち相続・遺言・遺留分を主題とする問題が23問あります(2026-10-03 時点の当サイトの問題数)。
試験全体の学習計画は 行政書士の勉強法、試験内容は 行政書士試験の内容と合格基準 で整理しています。
まとめ
行政書士の業務は、書類の作成を中心に、提出手続の代理・契約書類の代理作成・相談へと広がります。ただし、入管の取次ぎは提出などの事実行為にとどまり、争いのある相続や契約は弁護士、登記は司法書士、税務は税理士の範囲です。業務範囲に関する条文は、行政書士法改正後の1条の3・1条の4・19条で確認してください。
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よくある質問
Q行政書士は、外国人本人に代わって入管に申請を代理できますか?
申請書類の作成は行政書士の業務(行政書士法1条の3)です。そのうえで、出入国在留管理庁の説明では、届出を行った行政書士が入管で行える「取次ぎ」は、申請書や資料の提出などの事実行為です。「申請人・届出人として署名したり、記載内容を直接訂正等することはできません」とされています。取次ぎを行う行政書士は、所属する単位会を通じて地方出入国在留管理局へ届出を行う必要があります。
Q遺産分割協議書を作ってもらえば、不動産の相続登記まで頼めますか?
登記の申請手続の代理は、司法書士法3条1項1号が司法書士の業務として定めています。日本行政書士会連合会も、行政書士の相続の業務について「法的紛争段階にある事案や、税務・登記申請業務に関するものを除き」と説明しています。登記は司法書士、税務は税理士にそれぞれ確認する必要があります。
Q生活保護の申請は、行政書士に頼まないとできませんか?
そのようなことはありません。厚生労働省は、生活保護の相談・申請窓口を、現在お住まいの地域を所管する福祉事務所の生活保護担当としています。生活保護法7条は、保護は要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基づいて開始すると定めています。
Q行政書士試験に、入管法や生活保護法は出ますか?
行政書士試験研究センターの試験概要に挙がっている試験科目に、入管法と生活保護法は含まれていません。法令等の科目は憲法・行政法・民法・商法・基礎法学で、基礎知識に「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」の区分があります。
法令や試験の数字は、改正や年度で変わります。この記事の最終確認日は2026年10月3日です。申込みや合格基準は、必ず試験団体の公式情報で確かめてください。

