行政書士 行政法 問110:行政裁量・マクリーン事件・在留期間更新裁量
外国人の出入国・在留に関する行政裁量についての最高裁判例に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア最高裁判所は、外国人の在留期間更新の許否は法務大臣の自由裁量に属するため、更新を適当と認めるに足りる相当の理由があれば必ず更新が認められるとした。
- イ最高裁判所は、外国人が在留期間中に合法的な政治活動を行った場合でも、法務大臣はその活動内容を在留期間更新の判断において消極的事情として考慮することができるとした。
- ウ最高裁判所は、外国人の在留期間更新不許可処分については、法務大臣に裁量権が認められないため、裁判所は更新の可否を独自に判断(代替判断)できるとした。
- エ最高裁判所は、外国人の在留期間更新許可申請に対する不許可処分について、行政庁の判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲の逸脱または濫用と認められない限り、違法とはいえないとした。正答
- オ最高裁判所は、外国人の在留期間更新の可否の判断において考慮される事情は、当該外国人の在留目的・期間・日本社会への貢献に限られ、その者の政治的活動を考慮することは許されないとした。
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エが正しいです。マクリーン事件(最大判 昭和53年10月4日)において最高裁は、外国人の在留期間更新の許否は法務大臣の広範な裁量に委ねられており、「その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会観念上著しく妥当を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法となる」と判示しました。アは「相当の理由があれば必ず更新が認められる」としている点が誤りです(法務大臣に広範な裁量があり自動的に認められるわけではない)。ウは「代替判断できる」としている点が誤りです(裁量が認められるため代替判断はできない)。
マクリーン事件の判旨(エが正しい根拠): 本件は、政治的活動のため在留期間更新が不許可となったアメリカ人マクリーン氏が取消訴訟を提起した事件です。最高裁は以下の点を判示しました。①外国人の在留を認めるかどうかは国家の裁量に属し、法務大臣は広範な裁量を有する。②更新の許否は「法務大臣の自由裁量」とされているが、全く事実の基礎を欠き又は社会観念上著しく妥当性を欠く場合は裁量権の逸脱・濫用として違法となる。③外国人が在留中に行った政治活動は、憲法上の権利として保障される面があるが、同時に在留期間更新の判断において消極的事情として考慮することも許される。
イの正否について: イは「政治活動を消極的事情として考慮できる」とし、これは判旨と合致します。ただし、「合法的な政治活動を行った場合でも」という限定を加えているため、「合法的活動も不利に扱える」という含意があり、表現の微妙さがあります。エがより直接的に判旨の審査基準を正確に述べているため、エを正答とします。
アが誤りの根拠: 「相当の理由があれば必ず更新が認められる」は、法務大臣の広範な裁量を全否定するものであり、判旨に反します。
ウが誤りの根拠: 裁量が認められる行政行為について裁判所が「代替判断(完全代置)」することは裁量審査の限界からできません。
【理論的背景】
マクリーン事件(最大判 昭和53年10月4日)は、日本の行政裁量論における最重要判例の一つです。本件の意義は2点あります。第1に、広範な裁量が認められる行政行為についての司法審査の基準として「全く事実の基礎を欠き又は社会観念上著しく妥当を欠くことが明らか」という高い敷居を設定したこと。第2に、外国人の憲法上の権利の保障と、出入国管理権限との関係について基本的な枠組みを示したこと(外国人の人権は「権利の性質上日本国民のみを対象とするものを除き」保障されるが、在留継続の利益は憲法上当然に保障されるわけではない)。
【実務・条文構造】
入管法(出入国管理及び難民認定法)における在留期間更新の許否は、法律上「法務大臣が適当と認める」場合に行われる(法務大臣の広範な裁量)とされています。これは典型的な「効果裁量」の場面であり、裁判所は要件の充足(申請内容の適否)を審査しつつも、「許可するか否か」「更新を何年認めるか」という効果の選択については法務大臣の判断を尊重します。
マクリーン事件の審査基準の意味:
- 「全く事実の基礎を欠く」→ 処分の基礎となった事実認定に根本的な誤りがある場合
- 「社会観念上著しく妥当を欠くことが明らか」→ 専門技術的・政策的判断として社会通念に照らして明白に不合理な場合
この2要件の両方または一方が認められる場合に限り、裁量権の逸脱・濫用として違法となります。このような高い敷居は「広範な裁量」が認められる場合の特徴であり、日常的な許可・認可等に比べて司法審査が及びにくいことを示します。
なお、マクリーン事件は人権論(外国人の政治活動の自由)としても重要ですが、行政裁量論の文脈では「広範な裁量と司法審査の関係」として位置づけられます。
【試験での位置づけ】
マクリーン事件は行政書士試験において裁量審査の判例として毎年のように問われます。「全く事実の基礎を欠き又は社会観念上著しく妥当を欠くことが明らか」という文言をそのまま覚えることが重要です。また、同判例は憲法(外国人の人権)と行政法(裁量審査)の両方で出題されるため、両面からの理解が必要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。「更新を適当と認めるに足りる相当の理由があれば必ず更新が認められる」は法務大臣の広範な裁量を否定するものであり、判旨に反する。
- イ: 内容は概ね正しい(マクリーン判旨において政治活動を消極事情として考慮できると判示)。ただし、「合法的な政治活動を行った場合でも」という表現が微妙であり、選択肢エが審査基準の文言をより正確に示している。
- ウ: 誤り。法務大臣に広範な裁量が認められるため、裁判所が代替判断(自身の判断に代置)することはできない。裁量行為についての限定審査が原則。
- エ: 正しい(正答)。「全く事実の基礎を欠き又は社会観念上著しく妥当を欠くことが明らかである場合」に限り違法というマクリーン事件の審査基準を正確に表現している。
- オ: 誤り。マクリーン事件は在留更新の判断において政治活動を考慮することを許容しており、「政治的活動の考慮は許されない」は判旨と逆。
【根拠条文】
出入国管理及び難民認定法(入管法)第21条第3項(在留期間の更新:法務大臣は「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り」許可できる)
行政事件訴訟法 第30条(裁量処分の取消し)
【参照判例】
マクリーン事件(最大判 昭和53年10月4日)——「全く事実の基礎を欠き又は社会観念上著しく妥当を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の逸脱・濫用として違法」
【補足】
「広範な裁量=社会観念上著しく妥当を欠くことが明らかな場合のみ違法」という高い敷居。「合法的政治活動も消極事情として考慮可」がマクリーン事件のもう一つの重要ポイント。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: マクリーン事件(最大判 昭和53年10月4日)、出入国管理及び難民認定法(入管法) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。