行政法73行政事件訴訟法・仮の義務付けと仮の差止めの比較

行政書士 行政法 問73:行政事件訴訟法・仮の義務付けと仮の差止めの比較

行政事件訴訟法が定める仮の義務付けおよび仮の差止めに関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 仮の義務付けは、義務付けの訴えを提起した者が申立てることができる仮の救済制度であり、「本案について理由があるとみえる」こと、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」ことが積極的要件とされている。
  • 仮の差止めは、差止めの訴えを提起した者が申立てることができる仮の救済制度であり、仮の義務付けと同一の積極的要件のもとに認められる。
  • 仮の義務付けおよび仮の差止めは、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」は認めることができないという消極的要件が定められている。
  • 仮の義務付けおよび仮の差止めの決定に対しては、内閣総理大臣が異議を述べることができ、この異議があった場合は当該決定を取り消さなければならない。
  • 仮の義務付けの積極的要件である損害は「重大な損害」であり、取消訴訟における執行停止(25条)の「償うことのできない損害」よりも緩やかな要件で足りる。正答
正答:仮の義務付けの積極的要件である損害は「重大な損害」であり、取消訴訟における執行停止(25条)の「償うことのできない損害」よりも緩やかな要件で足りる。

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オが誤りです。要件の対応関係が逆になっています。仮の義務付け・仮の差止め(37条の5)の損害要件は「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」ことであり、取消訴訟の執行停止(25条)の損害要件は「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」ことです。「償うことのできない損害」は「重大な損害」よりも厳格な要件です。オは「仮の義務付けが重大な損害で足り、執行停止の償うことのできない損害より緩やか」としており、各制度の損害要件を取り違え、かつ厳格・緩やかの関係も逆にしている点で誤りです。アは正しく(37条の5第1項)、イは正しく(37条の5第2項・同一要件)、ウは正しく(消極的要件)、エは正しい(27条準用・内閣総理大臣の異議)。

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仮の義務付け(37条の5第1項)の要件:

積極的要件:①本案(義務付け訴訟)について理由があるとみえること(勝訴の見込み)、②償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること(回復不能な損害の切迫性)。

消極的要件:公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと(ウが正しい根拠)。

仮の差止め(37条の5第2項)の要件:

積極的要件・消極的要件:仮の義務付けと同一(イが正しい根拠)。すなわち、①本案について理由があるとみえること、②償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること、消極的要件として③公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと。

内閣総理大臣の異議(27条の準用・エが正しい根拠):

37条の5第4項は27条(内閣総理大臣の異議)を準用します。内閣総理大臣は仮の義務付け・仮の差止めの決定(または決定前)について異議を述べることができ、決定後の異議があれば裁判所は取り消さなければなりません(27条4項の準用)。

オが誤りの核心(損害要件の対比): 執行停止(25条2項)=「重大な損害」、仮の義務付け・仮の差止め(37条の5)=「償うことのできない損害」。後者の方が厳格です(金銭賠償で回復できないことまで必要)。オは「仮の義務付け=重大な損害で足りる」「執行停止の償うことのできない損害より緩やか」と二重に取り違えています。なお、仮の義務付け・仮の差止めは本案訴訟(義務付け訴訟・差止め訴訟)の「提起があった場合において」申立てができるため、本案提起前には申立てできず、提起と同時または提起後に申立てるのが実務です(37条の5第1項・2項)。

上級誤答論破・条文/判例まで深掘り

【仮の救済制度の体系(行訴法上の暫定的保護の全体像)】

行訴法上の仮の救済制度を体系的に整理します。

| 仮の救済 | 対応する本案訴訟 | 積極的要件(損害) | 根拠 |

|---|---|---|---|

| 執行停止 | 取消訴訟・無効等確認訴訟 | 重大な損害・緊急の必要 | 25条2項 |

| 仮の義務付け | 義務付け訴訟 | 本案の理由・償うことのできない損害・緊急の必要 | 37条の5第1項 |

| 仮の差止め | 差止め訴訟 | 本案の理由・償うことのできない損害・緊急の必要 | 37条の5第2項 |

要件の厳格性比較(オが誤りの根拠):

  • 執行停止(25条2項): 「重大な損害」(「償うことのできない損害」より広い概念・金銭賠償で回復可能であっても損害が重大であれば認められる余地がある)
  • 仮の義務付け・仮の差止め(37条の5): 「償うことのできない損害」(「重大な損害」より厳格・金銭賠償によっては回復できない性質の損害であることが必要)

つまり、取消訴訟の執行停止より仮の義務付け・仮の差止めの方が積極的要件が厳格です。これは積極的な行政権力への介入(処分をさせる・処分を止める)がより重大な効果を持つためです。オの記述は、この厳格・緩やかの関係を逆転させている点で明確に誤りです。

【執行停止との三段対比】

執行停止・仮の義務付け・仮の差止めの違いを明確化します。

執行停止(取消訴訟との関係): 行政処分の効力・執行・手続を「止める」(消極的保全)。処分はなされているがその効力を暫定的に停止する。

仮の義務付け(義務付け訴訟との関係): 行政庁が処分を「しない」(不作為・拒否処分)状態を「処分させる」(積極的保全)。行政庁に一定の行動を暫定的に命ずる。

仮の差止め(差止め訴訟との関係): 行政庁がしようとしている処分を「させない」(予防的停止)。まだなされていない処分を事前に阻止する暫定的命令。

三者の関係:「現状維持(執行停止・差止め)」と「現状変更(仮の義務付け)」の対比で捉えると分かりやすいです。

【仮の義務付け・差止めの実務】

申立ての時期(37条の5第1項・2項):仮の義務付け・仮の差止めは、それぞれ義務付けの訴え・差止めの訴えの「提起があった場合において」申立てができます。すなわち本案訴訟の提起が前提であり、提起前に単独で申立てることはできません。実務上は本案の訴え提起と同時に申立てるのが通常です。

実務上の仮の義務付けの事例:

  • 生活保護の廃止処分がなされ(廃止処分取消+義務付け訴訟提起)、その間の急迫した生活困窮を避けるため仮の義務付け申立て(保護の暫定的継続を命じる)
  • 在留資格の更新拒否処分に対して、在留期限切れによる強制退去を避けるため仮の義務付け申立て
  • 保育所入所申請拒否に対して、認可保育所への入所を暫定的に命じる仮の義務付け申立て

実務上の仮の差止めの事例:

  • 行政が個人情報を第三者機関に開示しようとしている際の差止め申立て(情報流出の回復不能性)
  • 免許取消処分が差し迫っている段階での差止め申立て(事業継続に不可欠)
  • 大規模施設の解体命令が迫っている際の差止め申立て

【内閣総理大臣の異議の合憲性再考】

エが「正しい」として扱われている内閣総理大臣の異議(27条の準用)については、仮の義務付け・仮の差止めにも適用されることで合憲性の問題が更に鋭くなります。特に仮の義務付け(裁判所が行政庁に処分を命じる暫定的決定)に対して行政権(内閣総理大臣)が異議を述べて取り消せるとすると、「行政庁に処分させることを裁判所が命じたにもかかわらず、行政権がそれを覆す」というより強い司法権干渉が問題となります。これは取消訴訟の執行停止(処分の効力を止めるだけ)より重大な合憲性上の緊張を生みます。

この点で内閣総理大臣の異議制度の合憲性問題は、仮の義務付け・仮の差止めへの準用によってより深刻化すると言えます。

【根拠条文】

行政事件訴訟法 第37条の5第1項(仮の義務付けの要件:本案の理由・償うことのできない損害・緊急の必要・公共の福祉への影響なし)、第37条の5第2項(仮の差止めの要件:同一)、第37条の5第4項(内閣総理大臣の異議=27条の準用)、第25条第2項(執行停止の要件:重大な損害)、第27条第4項(内閣総理大臣の異議→取消義務)

【補足】

仮の義務付け・仮の差止めは「償うことのできない損害」(執行停止の「重大な損害」より厳格)が要件。消極的要件は「公共の福祉に重大な影響」がないこと。内閣総理大臣の異議(27条)が準用される。本案訴訟の提起後(または同時)に申立てる(提起前は不可)。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 行政事件訴訟法 第37条の5(仮の義務付け・仮の差止め)・第25条(執行停止) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

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