行政書士 行政法 問80:国賠法1条・求償権の要件
国家賠償法第1条第2項の求償権に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア国または公共団体は、公務員の職務上の行為により損害賠償責任を負った場合、加害公務員に故意または過失があれば求償することができる。
- イ国または公共団体は、加害公務員に故意または重過失がある場合に限り、当該公務員に対して求償することができる。正答
- ウ求償は、国または公共団体が実際に被害者に損害賠償を支払った後でなければ行使できず、また、求償額は被害者に支払った賠償額の全額に限られ、一部求償は認められない。
- エ公務員が被害者に対して直接損害賠償を支払った場合には、国または公共団体に対する逆求償(公務員から国・公共団体への求償)は、国賠法の明文の規定がないため一切認められない。
- オ求償権は国または公共団体が有する権利であるが、被害者も加害公務員の使用者たる国または公共団体に対し求償権の行使を求めることができる。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠条文・判例も明記。
イが正しい記述です。国賠法1条2項は、国または公共団体が被害者に損害賠償を行った場合において、加害公務員に故意または重過失があるときは、その公務員に対して求償することができると定めています。アは「故意または過失」としていますが、求償の要件は「故意または重過失」であり、単純な過失(軽過失)では求償できません。軽過失の公務員には求償を認めないとすることで、公務員が職務遂行において萎縮しないよう保護しているのです。ウは「全額に限られる」「一部求償不可」としていますが、法律上一部求償を禁じる規定はなく、公平の観点から一部求償が認められると解されています。
国賠法1条2項の構造を整理します。求償の流れは「被害者→国・公共団体(1条1項による賠償)→国・公共団体が公務員に求償(1条2項)」です。求償の要件は「故意または重過失」であることが明文で定められています(イが正しい・アが誤りの根拠)。
「軽過失を求償対象から外す理由」は重要です。公務員は職務遂行の過程でリスクを伴う判断を日々行っています。軽過失について個人財産から求償されるとなれば、公務員は萎縮して適切な職務遂行ができなくなる恐れがあります。そのため「軽過失は個人への求償なし」とすることで、職務の積極的な遂行を促しています。これは国賠法の重要な立法政策的意義の一つです。
エの「逆求償(公務員→国・公共団体)」については、国賠法に明文の規定はありません。しかし最高裁(最判令和2年7月14日)は、公務員が被害者に直接損害賠償を支払った場合に、国・公共団体に対する逆求償を認める余地があることを示唆する判断を行いました(具体的事案の限定あり)。エの「一切認められない」という断定は過剰であり誤りの疑いがあります(※本判例は令和2年であり確定的に「一切不可」とは言い切れない状況です)。オは法律上の根拠がなく誤りです。
【理論的背景】
国賠法1条2項の求償制度は、代位責任的構造のもとで、国・公共団体と加害公務員の最終的な費用負担の調整を図るものです。被害者保護の観点から、まず資力のある国・公共団体が被害者に賠償し、その後に公務員への求償という二段構えにすることで、被害者の救済を確実にしています。求償要件を「故意または重過失」に限定する立法政策は、①公務員の職務遂行の積極性確保(萎縮防止)、②軽過失については公務員個人よりも国・公共団体がリスクを吸収すべきという責任分担の思想、の二点に由来します。
【実務・条文構造】
求償額については、国賠法は全額求償か一部求償かを明示していません。公平の見地から、加害公務員の過失の程度・国・公共団体の監督上の過失等を考慮して一部求償(按分)とすることも許容されると解されています。一部求償を認めないと「公務員が悪意で行動した場合に全額求償される」という不均衡の逆問題も生じます。また「逆求償」(公務員→国・公共団体)については、国賠法1条2項は国・公共団体から公務員への求償のみを定めており、逆方向(公務員から国・公共団体)への請求は明文がありません。最判令和2年7月14日は、公立学校の教師が私費で損害賠償を支払った後に市に対して求償(逆求償)を求めた事案において、一定の条件のもとで逆求償を認める判断を示しました。これにより「一切認められない(エ)」という断定は現在の判例法理に照らして誤りといえます。
【試験での位置づけ】
「求償の要件は故意または『重』過失(軽過失は不可)」は行政書士試験の最頻出定番論点です。アとイの選択肢(「過失」か「重過失」か)は典型的な引っかけです。また「逆求償」の論点は令和2年最判以降、試験でも問われるようになってきた新論点です。「明文規定がないから一切不可(×)」という誤りに注意してください。
【各選択肢の発展補足】
- ア(誤): 「故意または過失」は誤り。正しくは「故意または重過失」。これは国賠法1条2項の明文(「故意又ハ重大ナル過失アリタルトキ」)が根拠です。
- イ(正): 「故意または重過失」という求償要件を正確に記述しています。求償を受けた公務員は、国・公共団体に求償額を支払う義務を負います。
- ウ(誤): 全額求償に限るという規定はなく、一部求償も認められます。また「支払い後でなければ求償できない」という点は実務上そのとおりですが、一部求償の否定は誤りです。
- エ(誤): 逆求償(公務員→国・公共団体)は最判令和2年7月14日により一定条件のもとで認められることになりました。「一切認められない」という断定は誤りです(※最新判例を踏まえた論点)。
- オ(誤): 求償権は国・公共団体が有する権利であり、被害者がその行使を求める権利は法律上認められていません。被害者の権利は1条1項に基づく国・公共団体への損害賠償請求です。
【根拠条文】
国家賠償法 第1条第2項(求償権・故意又は重過失要件)
【参照判例】
最判 令和2年7月14日(逆求償を一定条件のもとで認めた事例)
【補足】
「求償=故意または重過失(軽過失不可)」は必須暗記事項。逆求償は令和2年最判で認められた新論点。求償額の一部求償も可能。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 国家賠償法 第1条第2項 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。