問題
国家賠償法第1条第2項の求償権に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
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答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
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解説
イが正しい記述です。国賠法1条2項は、国または公共団体が1項の賠償責任を負う場合に、公務員に故意または重大な過失があったときは、その公務員に対して求償権を持つと定めています。アは「故意または過失」としていますが、軽い過失(軽過失)では求償できません。公務員が職務で萎縮しないようにするためです。ウは「一部求償は認められない」が誤りで、全額を求償しなければならないという規定はありません。エは、国賠法に条文がないことだけを理由に「一切認められない」と言い切っている点が誤りです。国賠法4条により民法も適用されますし、条文のない求償を最高裁が認めた例もあります。
国賠法1条2項の構造を整理します。求償の流れは「被害者→国・公共団体(1条1項による賠償)→国・公共団体が公務員に求償(1条2項)」です。求償の要件は「故意または重大な過失」であることが明文で定められています(イが正しい・アが誤りの根拠)。
「軽過失を求償対象から外す理由」は重要です。公務員は職務遂行の過程でリスクを伴う判断を日々行っています。軽過失について個人財産から求償されるとなれば、公務員は萎縮して適切な職務遂行ができなくなる恐れがあります。そのため「軽過失は個人への求償なし」とすることで、職務の積極的な遂行を促しています。
エの「逆求償(公務員→国・公共団体)」は、国賠法に条文がありません。しかし、①国賠法4条は、国・公共団体の損害賠償責任について「前三条の規定によるの外、民法の規定による」と定めており、国賠法に条文がないことは、民法の規定による請求まで否定する理由になりません。②判例は、公務員個人は被害者に対して直接の賠償責任を負わないとしています(最判昭和30年4月19日)。公務員が被害者に支払ったお金は、本来は国・公共団体が負う賠償を代わりに払ったものです。③民法715条(使用者責任)にも被用者から使用者への求償の条文はありませんが、最高裁は、被用者が被害者に賠償した場合に、損害の公平な分担という見地から相当な額を使用者に求償できるとしました(最判令和2年2月28日)。条文がないから一切認められない、というエの理由づけは成り立たず、エは誤りです。オは、被害者という立場で求償権の行使を求める権利は法律上なく、誤りです。
【理論的背景】
国賠法1条2項の求償制度は、代位責任的構造のもとで、国・公共団体と加害公務員の最終的な費用負担の調整を図るものです。被害者保護の観点から、まず資力のある国・公共団体が被害者に賠償し、その後に公務員への求償という二段構えにすることで、被害者の救済を確実にしています。求償要件を「故意または重大な過失」に限定する立法政策は、①公務員の職務遂行の積極性確保(萎縮防止)、②軽過失については公務員個人よりも国・公共団体がリスクを吸収すべきという責任分担の思想、の二点に由来します。
【実務・条文構造】
求償額について、国賠法は範囲を定めておらず、「全額を求償しなければならない」「一部だけの求償は許されない」という規定もありません。ウの「一部求償は認められない」には根拠がありません。求償の相手が複数のときについて、最高裁は、複数の公務員が共同して故意に違法な損害を加え、国・公共団体が賠償した場合、公務員らは国・公共団体に対して連帯して1条2項の求償債務を負うとしました(最判令和2年7月14日・平成31年(行ヒ)第40号。大分県の教員採用試験の不正をめぐる住民訴訟)。
「逆求償」(公務員→国・公共団体)について、1条2項は国・公共団体から公務員への求償だけを定めています。ただし次の3点から、条文がないことは「一切認められない」と断定する根拠になりません。
1. 国賠法4条により、国・公共団体の損害賠償責任には1〜3条のほか民法の規定が適用される。
2. 判例は、公権力の行使に当たる公務員が職務上の行為で損害を与えた場合、国・公共団体が賠償責任を負い、公務員個人は被害者に対して責任を負わないとする(最判昭和30年4月19日)。公務員が被害者に直接支払ったお金は、国・公共団体が負う賠償を代わりに払ったものになる。
3. 民法715条にも被用者から使用者への求償の条文はないが、最高裁は「被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には,被用者は,上記諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができる」と判断した(最判令和2年2月28日・平成30年(受)第1429号)。
この令和2年2月28日判決は民法715条についての判断で、国賠法の場面を直接扱ったものではありません。それでも、条文がないことだけでは求償を否定できないことを示しています。
【試験での位置づけ】
「求償の要件は故意または『重大な』過失(軽過失は不可)」は行政書士試験の最頻出定番論点です。アとイの選択肢(「過失」か「重過失」か)は典型的な引っかけです。「明文規定がないから一切不可」という断定を含む選択肢には注意してください。
【各選択肢の発展補足】
- ア(誤): 「故意または過失」は誤り。正しくは「故意または重大な過失」。国賠法1条2項の条文(「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」)が根拠です。
- イ(正): 「故意または重過失」という求償要件を正確に記述しています。求償を受けた公務員は、国・公共団体に求償額を支払う義務を負います。
- ウ(誤): 全額求償に限るという規定はなく、一部求償を否定する根拠はありません。「支払い後でなければ求償できない」という点は、1条2項が「前項の場合において」と1項の賠償を前提にしていることと合いますが、一部求償の否定が誤りです。
- エ(誤): 逆求償は国賠法に条文がありませんが、国賠法4条で民法が適用されること、公務員個人は被害者に直接の責任を負わないとする判例(最判昭和30年4月19日)、条文のない被用者から使用者への求償を認めた判例(最判令和2年2月28日)から、「明文がないため一切認められない」という理由づけは成り立ちません。
- オ(誤): 求償権は国・公共団体が有する権利であり、被害者という立場でその行使を求める権利は国賠法にありません。被害者の権利は1条1項に基づく国・公共団体への損害賠償請求です。なお、地方公共団体の住民は、住民訴訟(地方自治法242条の2第1項4号)で求償権の行使を求めることができますが、これは被害者かどうかと関係のない住民の制度です(令和2年7月14日判決の事件もこの住民訴訟です)。
【根拠条文】
国家賠償法 第1条第2項(求償権・故意又は重大な過失)/第4条(民法の適用)
【参照判例】
最判昭和30年4月19日(公務員個人は被害者に対して責任を負わない)/最判令和2年2月28日・平成30年(受)第1429号(民法715条の被用者から使用者への求償)/最判令和2年7月14日・平成31年(行ヒ)第40号(複数の公務員の求償債務は連帯)
【補足】
「求償=故意または重大な過失(軽過失不可)」は必須暗記事項。一部求償を否定する規定はない。
- 国家賠償法第1条e-Govで原文を読む
- 民法第715条e-Govで原文を読む
- 地方自治法第242条の2e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 国家賠償法 第1条第2項 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

