行政書士 憲法 問47:憲法
表現の自由(憲法21条)における事前抑制の禁止に関する次の記述のうち、**最高裁判所の判例の趣旨に照らして正しいもの**はどれか。
- ア憲法21条2項は「検閲は、これをしてはならない」と定めており、最高裁判所は「検閲」を行政機関による事前審査に限定しているため、裁判所による出版差止め(仮処分)は同項の「検閲」には該当しない。正答
- イ裁判所による出版物の差止め(事前差止め仮処分)は、いかなる場合においても表現の自由の本質的侵害に当たるため、厳格な要件を充たした場合でも一切許されない。
- ウ北方ジャーナル事件(最大判昭61.6.11)において、最高裁判所は、公務員の名誉を侵害する表現物の事前差止めは常に適法であると判示した。
- エ表現の事前抑制は、事後制裁(名誉毀損罪等)と本質的に同等の制約にすぎず、表現の機会を奪う程度において両者に差はないため、事後制裁が許される場合には事前抑制も当然に許されるというのが最高裁の立場である。
- オ名誉毀損的な表現物について裁判所が事前差止めを認めるためには、被害者が刑事訴訟を提起し有罪判決を得ることが前提条件とされている。
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憲法21条2項は「検閲は、これをしてはならない」と規定しています。最高裁(北方ジャーナル事件・最大判昭61.6.11)は、ここでいう「検閲」を「行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるもの」と定義しています。この定義からすると、「裁判所」による差止め仮処分は「行政権」による審査ではないため、21条2項の「検閲」には該当しないとされています(アが正答)。イのように「裁判所による差止めが一切許されない」とは判例はしていません。
北方ジャーナル事件(最大判昭61.6.11)は、雑誌の出版・頒布を仮処分で差し止めることが憲法21条に違反するかを正面から論じた重要判例です。最高裁の判示のポイントは次の2点です。第1点:憲法21条2項の「検閲」は行政機関による事前審査一般に限定される定義を採用し、裁判所による仮処分はこの「検閲」に該当しないとしました(アが正答の直接的根拠)。第2点:裁判所による事前差止め(仮処分)については、「検閲」ではないものの、表現の事前抑制として21条1項(表現の自由)に照らして厳格な要件のもとでのみ許容されるとしました。具体的には、「表現内容が真実でなく、またはもっぱら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるとき」は、例外的に差止めが許容されるとしています(イの「一切許されない」、ウの「常に適法」がいずれも誤りである根拠)。エは「事前抑制は事後制裁と本質的に同等の制約にすぎず、事後制裁が許される場合には事前抑制も当然に許される」としていますが、これは判例(北方ジャーナル事件)の立場と正反対です。判例は「事前抑制は事後制裁よりも表現の機会を奪う点で制約として重大であり、原則として禁止され、厳格な要件のもとで例外的にのみ許容される」としており、両者を同等視するエは誤りです。正答はアです。
【理論的背景】
表現の事前抑制禁止の原則は、表現の自由の理論において特に重要な位置を占めます。事後的な制裁(刑事罰・民事損害賠償)は表現後に行われるため、表現の機会自体は確保されますが、事前抑制(差止め・事前検閲)は表現の機会そのものを奪う点で、表現の自由への制約として格段に重大とされます。アメリカ憲法理論(事前制約禁止の法理・prior restraint doctrine)にも影響を受けたこの考え方は、日本の憲法学にも強く取り込まれています。北方ジャーナル事件(最大判昭61.6.11)は、「仮処分による出版差止め」という民事保全の場面で、表現の自由の保障と名誉権保護の均衡を論じた先駆的判例です。
【実務・条文構造】
21条2項の「検閲」に関する最高裁の定義(北方ジャーナル事件)を構成要素で分解すると次のとおりです。
- 主体: 行政権(行政機関)→ 裁判所は含まれない(アが正答である根拠)
- 対象: 思想内容等の表現物
- 目的: 発表の禁止
- 方法: 網羅的・一般的な事前審査
- 効果: 不適当と認めたものの発表禁止
これにより「行政機関以外の主体(裁判所等)による事前差止め」は憲法上の「検閲」には当たりません。しかし、裁判所による事前差止めは「検閲」ではないが、21条1項(表現の自由)により原則として許されず、厳格な要件(①表現内容の真実性・公益目的の欠如が明白 ②著しく回復困難な損害のおそれ)を充たす場合にのみ例外的に許容されるというのが北方ジャーナル判決の結論です。なお、同判決は「一般私人ないし私的団体の名誉権に基づく出版差止め」という文脈で判断しており、「公務員・公的機関の名誉毀損」については「公共性が高く差止めは一般人の場合より困難」という考え方と整合します(ウが「公務員の名誉侵害は常に適法」とするのは誤り)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における本論点の出題ポイントは次の3つです。①「検閲」の定義:行政権主体・網羅的一般的審査・事前の発表禁止が要素(裁判所の差止めは含まない)。②北方ジャーナル事件の結論:裁判所による事前差止めは一定の厳格要件のもとで例外的に許容。③事前抑制の重大性:事後制裁より制約として重大であるため、原則禁止・例外的許容という論理構造を採る。「裁判所による差止めが検閲に当たる(誤り)」「一切許されない(誤り)」「常に許される(誤り)」という三方向の引っかけに注意が必要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正答。北方ジャーナル事件(最大判昭61.6.11)が採用した「検閲」の定義は行政権を主体とするものであり、裁判所による出版差止め仮処分は「検閲」(21条2項)には該当しないと判示した。判例の定義の核心を正確に表現しており正答。
- イ: 誤り。裁判所による事前差止め(仮処分)は「検閲」には該当しないが、21条1項との関係で原則禁止・厳格要件のもとで例外的に許容されるというのが判例の立場。「厳格な要件を充たした場合でも一切許されない」は誤り。
- ウ: 誤り。北方ジャーナル事件は「公務員の名誉侵害の場合は常に適法」とは判示していない。むしろ公務員・公人の名誉については公共性が高く差止めの許容範囲はより限定されると解される。判例の趣旨を正反対に歪めた選択肢。
- エ: 誤り。判例(北方ジャーナル事件)は、事前抑制を「事後制裁よりも表現の機会を奪う点で制約として重大」と位置づけ、原則禁止・厳格要件のもとで例外的にのみ許容されるとした。エは「事前抑制と事後制裁は本質的に同等であり、事後制裁が許される場合には事前抑制も当然に許される」とするもので、判例の趣旨と正反対であり誤り。これによりアが一義的な正答となる。
- オ: 誤り。裁判所が事前差止めを認める要件として「刑事訴訟の提起・有罪判決の取得」を前提条件とする法的根拠はなく、北方ジャーナル事件もそのような要件を示していない。
【根拠条文】
日本国憲法 第21条第1項(表現の自由)、第21条第2項(検閲の禁止・通信の秘密)
【参照判例】
北方ジャーナル事件(最大判 昭和61年6月11日):「検閲」の定義(行政権主体)・裁判所による事前差止めの厳格要件
【補足】
「検閲」の定義(行政権主体・網羅的一般的審査)と、裁判所による差止め(検閲ではないが例外的に許容)の区別が核心。北方ジャーナル事件の2段階の判断構造(①検閲か否か→②21条1項との関係で要件を充たすか)を整理すること。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 日本国憲法 第21条第1項(表現の自由)、第21条第2項(検閲の禁止) 参照: 北方ジャーナル事件(最大判 昭和61年6月11日) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。