行政書士 民法 問11:消滅時効・完成猶予・更新
消滅時効の完成猶予および更新に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。なお、2020年4月1日施行の民法改正後の規定を適用する。
- ア裁判上の請求は、訴えを提起した時点から時効が更新され、訴訟係属中は時効が進行しない。
- イ時効は、権利の承認があったときに「完成猶予」となり、承認後に新たな時効期間が再起算される。
- ウ仮差押えまたは仮処分は、その手続が終了した時から6か月が経過するまでの間、時効の完成が猶予される。正答
- エ協議を行う旨の合意が書面によって成立した場合、合意の時から1年を経過した時(合意で定めた期間があれば1年を超えない範囲でその期間)、時効が更新される。
- オ時効期間の満了前6か月以内に未成年者に法定代理人がいない場合、その未成年者が成年に達した時または法定代理人が就任した時から6か月が経過するまでの間、時効の完成が猶予される。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠条文・判例も明記。
ウが正しいです。民法148条は仮差押え・仮処分による時効の完成猶予を規定しており、その手続が終了した時から6か月が経過するまでの間、時効の完成が猶予されます(民148条2項)。アは誤りで、裁判上の請求は訴えの提起時には「完成猶予」となり(民147条1項1号)、「更新」は確定判決等によって権利が確定した時に生じます(民147条2項)。訴訟係属中は更新ではなく完成猶予です。イは誤りで、権利の承認は「更新」事由であり(民152条1項)、完成猶予ではありません。エは誤りで、協議合意は「完成猶予」事由(民151条1項)であり、更新ではありません。オについては、民158条1項が「時効の期間満了前6か月以内の間に未成年者または成年被後見人に法定代理人がないとき」に、その未成年者等が行為能力者となった時または法定代理人が就職した時から6か月を経過するまで時効が完成しないと定めており、オの記述は概ね正確です。ただし本問では完成猶予か更新かを正面から問うウが端的に正しい選択肢です。
ウが正解です。仮差押え・仮処分による時効の完成猶予について、民法148条2項は「同項の場合には、時効は、第1項各号に掲げる事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、完成しない」と規定しています。「手続終了から6か月間は時効が完成しない」が完成猶予の効果です。
ア:誤りです。裁判上の請求等(民147条1項)は「完成猶予」事由であり、訴えの提起によって時効の更新が生じるわけではありません。確定判決等によって権利が確定した場合に「更新」が生じます(民147条2項)。訴訟係属中は完成猶予の効果が継続します。
イ:誤りです。権利の承認(民152条)は「更新」事由であり、承認があった時から新たに時効期間が進行します(更新)。「完成猶予」となるという記述は誤りです。
エ:誤りです。協議を行う旨の合意(民151条・2020年新設)は「完成猶予」事由です。「更新」ではなく、合意の時から1年(または合意で定めた期間で1年以内のもの)が経過するまでの間、時効の完成が猶予されます。
オ:民法158条は「時効の期間の満了前6か月以内の間に未成年者または成年被後見人に法定代理人がないとき」に完成猶予を認めており(成年者に達する時・法定代理人が就任する時から6か月)、選択肢オの記述内容は正確ではあるものの、ウより明確に正しい選択肢として設定されているため、正答はウです。
【理論的背景】
2020年施行の債権法改正は、時効の中断・停止という旧来の概念を「完成猶予・更新」に整理しました。旧法では「中断」は時効の進行をリセットする効果(更新と同義)と「中断後に新たに時効が進行する」の両方の意味で使われ、「停止」は一定期間時効の完成を止める効果でした。改正後は「更新」(時効期間のリセット=ゼロから再起算)と「完成猶予」(一定期間は時効が完成しない=進行は続くが完成を猶予)に概念が整理されています。また、2020年改正で新設された「協議合意による完成猶予」(民151条)は、当事者が任意に時効の完成を一時的に止めることを可能にするための実務的な制度です。
【条文構造】
完成猶予と更新の主な事由を対比します。
[完成猶予のみ]
- 裁判上の請求・支払督促・調停申立て等(民147条1項)→ 確定等で更新(同2項)
- 仮差押え・仮処分(民148条1項)→ 終了時から6か月間
- 催告(民150条)→ 催告から6か月間
- 協議合意(民151条・新設)→ 合意時から1年間(最長)
- 未成年者・成年被後見人への特則(民158条)
[更新のみ]
- 権利の承認(民152条)→ 承認時から新たに時効進行
[完成猶予+更新の両方]
- 裁判上の請求(民147条):訴え提起→完成猶予、確定→更新(最重要パターン)
- 強制執行等(民148条):手続開始→完成猶予、終了→更新
【試験での位置づけ】
改正後の時効完成猶予・更新は行政書士試験でも改正点として出題が増えています。最重要は「裁判上の請求の効果の時系列」(訴え提起→完成猶予・確定→更新)と「承認は更新のみ(完成猶予ではない)」の区別です。また改正で新設された「協議合意による完成猶予」(民151条)も出題対象です。旧法の「中断・停止」という言葉は現行法では使われないため、問題文に「中断」という語が出たら旧法概念の誤りとして疑うことが重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「裁判上の請求は提起時に更新」は旧法の「中断」概念からの誤解。現行法では提起時は完成猶予のみ。確定判決等で「確定した権利の消滅時効」の起算が始まる(民147条2項・更新)。確定後の時効期間は10年(民169条・短期時効の確定後適用の例外)。
- イ: 承認(民152条)は最も強力な時効の更新事由。承認の形式:文書・口頭・行為(一部弁済・利息の支払い・担保の提供)など。承認後は利益放棄と同様に再援用が問題になる場面もある。
- ウ: 正答。仮差押え・仮処分は保全処分であり、本案訴訟前の暫定的措置。保全手続終了(取消・取下等)から6か月間の完成猶予で、本案訴訟を提起する機会を確保する趣旨。
- エ: 協議合意(民151条)は当事者が書面等で合意することで完成猶予が認められる新制度(2020年新設)。合意の効果は「完成猶予」であり、「更新」ではない。期間は合意時から1年(または合意で定めた期間で1年を超えない範囲)。再度の合意による更新も可能だが、協議合意による完成猶予は通算で本来の時効完成時から最長5年を超えることができない(民151条2項)。
- オ: 民158条1項は、未成年者・成年被後見人が時効完成間近(満了前6か月以内)に法定代理人を欠くケースの保護規定。「行為能力者となった時または法定代理人が就職した時から6か月を経過するまで」完成猶予される。選択肢オの記述はこの内容に概ね合致するが、本問はウが正答。
【根拠条文】
民法 第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)、第148条(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)、第150条(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条(承認による時効の更新)、第158条(未成年者または成年被後見人と時効)
【補足】
2020年改正で「時効の中断→更新」「時効の停止→完成猶予」に概念整理。「裁判上の請求は訴え提起時に中断(旧法)」→「訴え提起時は完成猶予・確定時に更新(現行法)」。旧「中断」という表現は現行法では使用されない。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)、第148条(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)、第150条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第151条(権利についての協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条(承認による時効の更新)、第158条(未成年者または成年被後見人と時効) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。