行政書士 民法 問37:詐害行為取消権の現行規律
詐害行為取消権に関する次のア〜オの記述のうち、現行民法の規定に照らして**誤っているもの**はどれか。
- ア詐害行為取消権は、訴えをもって行使しなければならず、裁判外の意思表示による行使は認められない。
- イ詐害行為取消権を行使できる期間は、債権者が取消しの原因を知った時から2年、行為の時から10年を経過すると行使できなくなる。
- ウ転得者が詐害行為によって財産を取得した事情(詐害の事実)を知らなかった場合でも、債権者は当該転得者に対して詐害行為取消権を行使することができる。正答
- エ詐害行為取消しの請求が認容された場合、財産の返還が困難なときは、受益者に対して相当の価額の賠償を請求することができる。
- オ詐害行為取消権の行使により取り消された行為は、債務者との関係でも取り消されたものとして扱われ、受益者が返還した財産は債務者の財産に帰属する。
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詐害行為取消権を転得者に対して行使するためには、転得者が詐害の事実(受益者・その前の転得者を含め全員が悪意であること)を知っていたことが必要です(民424条の5)。転得者が善意であれば、債権者は転得者に対して取消権を行使することができません。よってウが誤りです。アは424条1項の「訴えをもって」行使することの明文規定として正しい。イは426条の「2年・10年」の期間として正しい。エは424条の6の価額賠償請求として正しい。オは425条の「取消しの効力は債務者にも及ぶ」という現行法の規律として正しい記述です。
ウが誤りである理由を424条の5から確認します。同条は「詐害行為取消請求は、受益者に対してのみ、又は受益者及び転得者に対してすることができる」と規定しますが、転得者への請求については「受益者から転得した者(転得者)が、転得の当時、受益者がした行為が債権者を害することを知っていた場合」に限られます(積み上げ式の悪意要件)。つまり転得者が善意(詐害の事実を知らなかった)であれば、転得者への取消請求は認められません。アについて、424条1項は「詐害行為の取消しは、…裁判所に対して訴えをもってのみ請求することができる」(解釈として確立)と規定し、裁判外での取消意思表示の効力は認められません。これは債権者代位権(裁判外行使も可)との重要な相違です。イについて、426条は「取消しの原因を知った時から2年間行使しないとき、又は行為の時から10年を経過したとき」は時効(消滅)とします。エは424条の6第1項後段に基づき正しい。オは425条「取消判決の効力は、債務者…に対しても及ぶ」の規律として正しい。
【理論的背景】
詐害行為取消権(民424条〜426条)は、債務者が債権者を害することを知りながら財産を処分した場合に、その処分行為を取り消して責任財産を回復する制度です。2020年改正前は「取消しの効力の範囲」「転得者への行使方法」「価額賠償」などが判例法理に委ねられていましたが、改正により424条の2〜426条として詳細な条文が整備されました。改正の重要ポイントは次の4点です。(1)転得者への行使要件の明確化(424条の5・積み上げ式悪意要件)、(2)財産返還と価額賠償の選択制の明文化(424条の6)、(3)取消しの効力が債務者・受益者双方に及ぶことの明文化(425条)、(4)行使期間の明文化(426条・2年・10年)。
【条文構造の精密な理解】
詐害行為取消権の要件と効果を条文ごとに整理します。
- 424条1項: 成立要件=①詐害行為(債権者を害する行為)、②債務者の詐害意思(「害することを知って」)、③受益者の悪意(「受益者がその行為の時において債権者を害することを知っていた」)。かつ「訴えをもって」行使。
- 424条の5: 転得者への行使→受益者・転得者全員が悪意であることが必要(積み上げ要件)。転得者の一人でも善意なら以降の転得者には行使不可。
- 424条の6第1項: 受益者が返還不能の場合→価額賠償請求可。
- 424条の6第2項: 転得者が返還不能の場合→価額賠償請求可(但し転得者が債務者の行為を知っていた場合)。
- 425条: 取消判決の効力→債務者・受益者・転得者に対しても及ぶ(相対的取消から絶対的効果へ変更)。
- 426条: 消滅時効→取消原因知った時から2年、行為の時から10年。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における詐害行為取消権の典型的な出題パターンは、(a)「訴えをもって」行使(裁判外行使不可・アのような正しい記述)、(b)行使期間「2年・10年」(消滅時効の5年・10年や取消権消滅の5年・20年と混同させる問題)、(c)転得者への行使の悪意要件(ウのような誤りを問う問題)、(d)価額賠償(エのような正しい記述)、(e)取消判決の効力(改正で相対効→絶対効的効果に変更)です。特に(c)の転得者要件と(a)の「訴え提起必須」は行政書士試験で繰り返し問われる重要論点です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい。424条1項は「詐害行為の取消しは、…裁判所に対して訴えをもってのみ請求することができる」と明文化(解釈上確立)。裁判外の内容証明・口頭の意思表示では詐害行為取消権の行使にならない。債権者代位権(裁判外行使も可)との相違が頻出ポイント。
- イ: 正しい。426条の消滅時効。「取消しの原因を知った時から2年」は主観的起算点、「行為の時から10年」は客観的起算点(除斥期間的性質を持つ)。消滅時効の166条「5年・10年」や、詐欺・強迫による取消権消滅「5年・20年」(126条)と混同しないこと。
- ウ: 誤り(正答)。424条の5により、転得者への行使は転得者の悪意が要件。「知らなかった(善意)でも行使できる」は誤り。積み上げ式悪意要件とは:A(債務者)→B(受益者・悪意)→C(転得者)への請求には、Bが悪意かつCも悪意であることが必要。Cが善意であればCへの請求は不可。
- エ: 正しい。424条の6第1項(受益者からの場合)・同条2項(転得者からの場合)により価額賠償請求が認められる。「財産の返還が困難なとき」の典型は不動産の再転売・金銭の消費など。
- オ: 正しい。現行法425条(改正で新設)。取消判決の効力は取消訴訟に参加している関係者全員(債務者・受益者・転得者)に及ぶ。改正前の旧法では「取消しの効力は一般債権者全体に及ぶ(相対的取消説vs絶対的取消説の争い)」があったが、現行法で解決。
【根拠条文】
民法 第424条第1項(詐害行為取消権・訴えによる行使)
民法 第424条の5(転得者への詐害行為取消権・積み上げ式悪意要件)
民法 第424条の6(財産の返還・価額賠償)
民法 第425条(取消判決の効力の及ぶ範囲)
民法 第426条(詐害行為取消権の行使期間:2年・10年)
【参照判例】
(主要論点は2020年改正で条文化されたため、現行条文が最優先。改正前の判例は参考)
【補足】
転得者への悪意の「積み上げ」要件:受益者B悪意+転得者C悪意の両方が必要。Cが善意であればCへの行使不可(Bへの行使のみ可)。行使期間「2年・10年」は暗記必須。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第424条第1項・第424条の5・第424条の6・第425条・第426条 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。