行政書士 民法 問51:委任・受任者の義務・委任の終了
AはBに対し、Aの不動産の売却交渉を委任した(有償委任)。この委任契約に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか(現行民法に基づいて答えること)。
- アBは、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理しなければならない。
- イAまたはBは、いつでも理由を問わず委任契約を解除することができるが、相手方に不利な時期に解除した場合は損害賠償義務を負う。
- ウAがBに委任した後、Aが死亡した場合、委任契約は当然に終了する。
- エBはAの許諾を得ることなく、自己の責任でCに委任事務を復委任することができる。正答
- オBはAに対して、委任事務の処理のために必要と認められる費用の前払いを請求することができる。
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委任における復委任(受任者BがさらにCに委任事務を委ねること)について、民法644条の2第1項は「受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない」と規定します。つまりAの許諾またはやむを得ない事由がなければ、BはCに復委任できません。エは「Aの許諾を得ることなく…復委任することができる」として誤りです。アは644条の善良管理者の注意義務(善管注意義務)として正しい。イは651条の委任の任意解除権として正しい(相手方に不利な時期・やむを得ない事由なく解除した場合の損害賠償)。ウは653条の委任終了事由(委任者の死亡)として正しい。オは649条の費用前払請求権として正しい記述です。
エが誤りである根拠を644条の2で確認します。2020年改正で新設された644条の2第1項は「受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない」と規定します(旧法104条の代理の規律を委任に明文化したもの)。Bは自己の信頼を受けて委任されており、Aの許諾なく第三者Cに委任事務を任せることは、AとBの信頼関係を損なうため原則として禁止されています。アについて、644条は「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」(善管注意義務・無償委任では自己の財産に対するのと同一の注意義務・659条)として正しい(本問は有償委任なので644条が適用)。イについて、651条1項は「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」として任意解除権を認め、2項は「相手方に不利な時期に委任の解除をしたとき」に損害賠償義務を定める(但しやむを得ない事由があれば免除・651条2項ただし書)として正しい。ウについて、653条1号は「委任者の死亡」を委任終了事由として規定する(但し当事者が合意で継続を定めた場合や性質上継続する場合は例外)として正しい。オについて、649条は「委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払いをしなければならない」として費用前払請求権を認めており正しい。
【理論的背景】
委任(民法643条〜656条)は、法律行為の委託を目的とする典型契約です(事実行為の委託は準委任・656条で委任規定を準用)。委任の最重要原則は「信頼関係に基づく受任者の自己完結義務(復委任の制限)」と「任意解除権(両当事者の自由な解除・651条)」です。2020年改正で委任分野の主要な改正点は(1)復受任者の選任規定の明文化(644条の2)、(2)委任終了時の報告・引渡し義務(645条)の確認、(3)受任者の費用・報酬に関する規律の整理です。委任は信頼関係を基礎とするため、受任者の一方的な義務の委嘱(復委任)を原則として禁止することは制度の本質に関わります。
【条文構造の精密な理解】
- 643条: 委任の定義(法律行為の委託)。
- 644条: 受任者の善管注意義務(有償委任の場合。無償は659条で「自己の財産に対するのと同一の注意」)。
- 644条の2第1項: 復委任(復受任者の選任)→許諾またはやむを得ない事由が必要(エの誤りの根拠)。
- 644条の2第2項: 復委任した場合の受任者の責任→復受任者の行為について委任者に対して責任を負う(選任・監督責任の問題)。
- 645条: 受任者の報告義務。
- 646条: 受任者の受取物の引渡し義務。
- 647条: 受任者が自己のために使用した金銭への利息義務等。
- 648条: 受任者の報酬(原則は無報酬。特約があれば有償)。
- 649条: 費用前払請求権(オの根拠)。
- 650条: 費用等の償還請求権。
- 651条: 任意解除権(各当事者がいつでも解除可・但し相手方に不利な時期は損害賠償。やむを得ない事由があれば損害賠償不要)。
- 653条: 委任終了事由(委任者・受任者の死亡、受任者の破産・後見開始)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における委任の典型的な出題パターンは、(a)善管注意義務(644条・有償)と自己の財産と同一の注意(659条・無償)の区別、(b)任意解除権(651条)と損害賠償の関係、(c)委任の終了事由(653条:委任者・受任者の死亡・破産・後見開始)、(d)復委任の原則禁止(644条の2・エのような問題)の4パターンです。特に(a)の有償・無償による注意義務の違いと(d)の復委任の原則禁止は受験生が混同しやすい論点です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい。644条の善管注意義務(有償委任に適用)。「善良な管理者の注意」とは「受任者の職業・地位・能力に応じた一般的・客観的な注意」(抽象的過失の標準)。不動産売却交渉の委任では、専門的知識を有する者としての注意が求められる場合がある。
- イ: 正しい。651条の任意解除権。委任は信頼関係を基礎とするため両当事者がいつでも解除できる。但し「相手方に不利な時期」の解除は損害賠償義務あり(651条2項・やむを得ない事由がある場合は不要)。
- ウ: 正しい。653条1号「委任者の死亡」は委任終了事由。但し当事者が合意で「委任者死亡後も継続する」旨を定めた場合や、委任の性質上死亡後も継続が必要な場合(受任者の職務継続義務・654条・緊急事務処理)は別途規律。
- エ: 誤り(正答)。644条の2第1項の明文違反。原則として「委任者の許諾またはやむを得ない事由」がなければ復委任不可。「自己の責任でCに復委任できる」は誤り(許諾・やむを得ない事由が必要)。
- オ: 正しい。649条の費用前払請求権。委任事務の処理に必要な費用(交通費・登記費用・通信費等)についてはAが前払いする義務を負う。実費の前払いと成功報酬(648条)は別概念として区別すること。
【根拠条文】
民法 第644条(善管注意義務・有償委任)
民法 第644条の2第1項(復受任者の選任制限)
民法 第649条(費用前払請求権)
民法 第651条第1項・第2項(委任の任意解除権と損害賠償)
民法 第653条第1号(委任終了事由・委任者の死亡)
民法 第659条(無償委任の注意義務・自己の財産と同一の注意)
【参照判例】
(委任の任意解除権・復受任者の選任制限は2020年改正で651条・644条の2として整理。条文問題として整理)
【補足】
「有償委任→善管注意義務(644条)、無償委任→自己の財産に対するのと同一の注意(659条)」の区別は毎年問われる。復委任は「許諾またはやむを得ない事由」がなければ原則禁止(644条の2第1項)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第644条・第651条・第653条・第656条・第649条 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。