行政書士 民法 問57:弁済の充当・法定充当・指定充当
AはBに対して次の3口の金銭債務を負っている。(甲)利息付き貸金100万円(弁済期:2026年3月1日)、(乙)利息なし貸金50万円(弁済期:2026年5月1日)、(丙)利息付き貸金200万円(弁済期:2026年7月1日)。Aが2026年6月1日に80万円を弁済した場合の弁済の充当に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか(現行民法に基づいて答えること)。
- アAはBに指定なく弁済した場合、BはAの意思と無関係に任意の債務に充当することができる。
- イAとBが合意すれば、弁済の充当の順序を変更することができ、合意がある場合には合意による充当が法定充当に優先する。正答
- ウAが充当の指定をしなかった場合、法定充当により、まず費用→利息→元本の順序で充当される。
- エ2026年6月1日の段階で弁済期が到来しているのは甲と乙であり、法定充当においては期限の到来した債務から先に充当される。
- オAがBに対して複数の債務を負担している場合、Aが充当先を指定する権利(指定充当権)を有するが、BもAの指定が不当な場合に異議を述べることができる。
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弁済の充当は、一方が複数の債務を負担する場合に、弁済が全ての債務を消滅させるには不足する場合に、どの債務に充当するかを決める制度です。イは490条(合意充当・当事者間の合意による充当)として正しく、当事者の合意による充当が法定充当(489条)に優先します。アは誤りで、Bが任意に充当先を決める(指定充当)規定はなく、充当先の指定権は債務者(A)が持ちます(488条1項)。ウは誤りで、法定充当(489条)の順序は利益が少ない債務→利息・費用先の充当(491条)の複合的な基準であり、「費用→利息→元本」は491条の同一債務内の充当順序です。エは正しい方向性ですが、法定充当では弁済期の到来した債務を先に充当するとは限らず、「弁済者に最も利益のある債務から充当する」という原則があります。オは488条1項(債務者の指定権)として部分的に正しいが、Bに「異議を述べる権利」という規定はありません(Bが充当指定に反対する手続は限定的)。
イが正しい理由を確認します。民法490条は「前二条(488条・489条)の規定にかかわらず、当事者が弁済に充当すべき債務を指定したときは、弁済はその債務に充当する」として合意充当(当事者間の指定・合意)の優先を認めます。当事者の合意による充当は488条(一方的指定充当)・489条(法定充当)に優先するため、イは正しい。アについて、488条1項は「弁済者(A)が一個又は数個の債務を指定して弁済することができる」として弁済者(A)の指定権を認め、指定がない場合には488条2項として弁済受領者(B)が指定できるとしますが(B単独の任意充当は一定の制約あり)、「Aの意思と無関係に」とするアの表現は過剰です。ウについて、491条1項は「債務者が一個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない」として「費用→利息→元本」の順序を定めますが、これは同一債務内の充当順序。複数の債務間の充当は488条・489条の問題。エについて、弁済期到来の有無は法定充当(489条1号「債務者にとって弁済の利益が多いもの」等)の考慮要素の一つですが「先に充当される」という単純な順序では表現されません。
【理論的背景】
弁済の充当は、債務者が複数の債務を一人の債権者に負担する場合に、弁済が全ての債務を消滅させるには不足する場合の処理ルールです。民法488条〜491条は次の優先順位で充当を定めています。①合意充当(490条・当事者の合意が最優先)、②指定充当(488条・弁済者の指定、受領者の指定の順)、③法定充当(489条・弁済者に最も利益のある債務から充当・細則あり)の三段階構造です。同一債務内での充当順序は491条(費用→利息→元本)が規律します。充当制度は当事者の意思・利益を最大限尊重しつつ、合意・指定がない場合のデフォルトルールとして法定充当を機能させる仕組みです。
【条文構造の精密な理解】
- 488条1項: 弁済者(債務者)の充当指定権→弁済時または弁済前に指定可。
- 488条2項: 弁済者が指定しない場合→弁済受領者(債権者)が受領時に指定可(弁済者が直ちに異議を述べた場合を除く)。
- 488条3項: 弁済受領者の指定に弁済者が異議を述べた場合→法定充当に移行。
- 489条: 法定充当の基準順序→(1)弁済期の到来の有無(到来しているものを先に)、(2)弁済期が同じなら「弁済者にとって最も利益の多い」ものを先に(利率・担保の有無・連帯・弁済期の遠近等を考慮)、(3)同等の場合は按分。
- 490条: 合意充当(当事者の合意が488条・489条に優先)→イの根拠。
- 491条: 同一債務内の充当順序(費用→利息→元本の順序)。
【試験での位置づけ】
行政書士試験における弁済の充当の典型的な出題パターンは、(a)充当の優先順位(合意充当>指定充当>法定充当・イのような問題)、(b)弁済者(A)の指定権と弁済受領者(B)の指定権の関係(アのような問題)、(c)同一債務内の充当順序「費用→利息→元本」(491条・ウのような問題との混同確認)、(d)法定充当の具体的基準(489条の「弁済期到来」と「弁済者にとって最も利益のあるもの」の判断)の4パターンです。特に(a)の優先順位と(c)の「費用→利息→元本」の適用範囲(同一債務内)の区別は混同されやすいため注意が必要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。充当指定権は一次的に弁済者(A)にある(488条1項)。弁済者が指定しない場合に受領者(B)が指定できる(488条2項)が、「Aの意思と無関係に任意に」という表現は488条の構造に合わない。
- イ: 正しい(正答)。490条の合意充当。当事者(AとB)が合意で充当先を定めた場合は、その合意が488条(指定充当)・489条(法定充当)に優先する。ただし合意は弁済時またはその前に行われることが通常。
- ウ: 誤り(適用範囲が誤り)。「費用→利息→元本」の充当順序は491条の「一個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合」の規律(同一債務内)。複数の債務間の充当順序は488条・489条が適用される別問題。
- エ: 正しい方向性だが不正確。489条1号は弁済期が到来しているものを先に充当するとしていますが、これは「弁済者が充当の指定も合意もなく法定充当になる場合」の第一規準。本問の事案では甲(弁済期到来・100万円)と乙(弁済期到来・50万円)が到来済み、丙(未到来)→法定充当では甲・乙を先に充当することになりうる。ただし489条2号の「弁済者にとって最も利益のあるもの」も考慮される(利率・利息の有無等)。
- オ: 誤り(一部正確だが全体として誤り)。Aが充当先を指定する権利(488条1項)は正しいが、「BがAの指定が不当な場合に異議を述べることができる」という内容は488条2項・3項の文脈(Bが指定した場合にAが異議を述べる)とは逆であり、488条1項の弁済者指定に対してBが異議を述べる制度は民法に規定されていない。
【根拠条文】
民法 第488条(指定充当・弁済者の指定権・受領者の指定権)
民法 第489条(法定充当・弁済者にとって最も利益ある債務から)
民法 第490条(合意充当・当事者の合意が最優先)
民法 第491条(同一債務内の充当順序:費用→利息→元本)
【参照判例】
(本論点は主に条文問題として整理)
【補足】
充当の優先順位:①合意充当(490条)②弁済者の指定(488条1項)③受領者の指定(488条2項)④法定充当(489条)の四段階。491条「費用→利息→元本」は「同一債務内」の充当順序であり、複数債務間の充当とは区別すること。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第488条・第489条・第490条・第491条 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。