行政書士 民法 問72:遺留分侵害額請求の現行規律
遺留分に関する次のア〜オの記述のうち、現行民法(2019年7月1日以降の改正法)の規定に照らして**正しいもの**はどれか。
- ア被相続人の兄弟姉妹にも遺留分が認められ、その遺留分の割合は法定相続分の4分の1である。
- イ遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。正答
- ウ遺留分侵害額請求権は、遺留分を侵害する遺贈や贈与の行為を取り消す形成権であり、行使することで当然に遺贈・贈与の一部が無効となる。
- エ遺留分を算定するための財産の価額には、相続開始前10年間の特別受益を目的とする贈与が算入されるが、相続人以外の者に対する贈与は算入されない。
- オ遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から3年間行使しないときに時効によって消滅し、相続開始の時から20年を経過したときも同様とする。
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2019年7月1日施行の相続法改正により、遺留分の制度が大きく変わりました。改正前の「遺留分減殺請求権(物権的効果あり)」が廃止され、改正後は「遺留分侵害額請求権(金銭債権)」となりました(民法1046条)。改正後は遺贈・贈与の効力を直接取り消すのではなく、侵害された金銭的価値の支払いを請求するものとなりました。よってイが正答です。アは誤りで、兄弟姉妹に遺留分はありません(民法1042条)。ウは誤りで、改正後は形成権(物権的効果)ではなく金銭請求権です。エは誤りで、相続人以外への贈与も一定の期間のものは算入されます。オも誤りで、消滅期間は「1年・10年」(民法1048条)であり「3年・20年」ではありません。
正答はイです。2019年7月1日施行の改正民法1046条1項は「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」と規定します。これが正答イの根拠です。
改正前の遺留分減殺請求権は「物権的効果」を持つ形成権(請求により贈与・遺贈の効力を当然に取り消す)でしたが、改正後は純粋な金銭債権となりました(ウが誤りの理由)。アは誤りです。民法1042条1項は「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として…」と規定しており、兄弟姉妹には遺留分が認められません。エは誤りです。民法1044条3項は、相続人以外の者に対する贈与については相続開始前1年間のものを算入し、相続人への贈与は10年間のものを算入します。相続人以外が「算入されない」は誤りです。オも誤りです。遺留分侵害額請求権の消滅期間は、民法1048条により「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年」「相続開始の時から10年」であり、本肢の「3年」「20年」はいずれも誤った数字です。
【理論的背景】
遺留分制度は、被相続人が遺言によって財産を自由に処分する自由(遺言自由の原則)と、遺族の生活保障・遺産の公平分配という要請のバランスをとる制度です。改正前は遺留分減殺請求権が「物権的効果」を持ち、贈与・遺贈を取り消す(部分的に無効にする)形で機能していました。この結果、共有関係が複雑に生じ、受遺者(例えば会社の株式を受け取った第三者)が経営に支障をきたすという実務上の問題がありました。2019年改正は、遺留分侵害を「金銭での解決」に一本化し、共有関係の発生を防ぐことで実務上の問題を解消しました。
【実務・条文構造】
遺留分に関する主要条文を整理します。民法1042条:遺留分は兄弟姉妹以外の相続人に認められる。割合は、直系尊属のみが相続人の場合は相続財産の3分の1、それ以外は2分の1。各相続人の具体的な遺留分は、この割合に法定相続分を乗じた数値。民法1044条:遺留分算定の基礎となる財産。相続開始時の財産+相続人への10年以内の贈与+相続人以外への1年以内の贈与+当事者が遺留分権利者に損害を加えることを知った贈与(期間制限なし)。民法1046条:遺留分侵害額請求権(金銭の支払請求)。受遺者・受贈者は期限の許与を申し立てることができる(民法1047条5項)。民法1047条:遺留分侵害額の負担順序(受遺者→受贈者、複数いる場合は比例按分)。民法1048条:「遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき」、または「相続開始の時から10年を経過したとき」に、遺留分侵害額請求権は消滅します(前者は消滅時効、後者は除斥期間)。本問のオは「3年・20年」としており、正確な数字(1年・10年)と異なるため誤りです。
本問は「正しいもの」を選ぶ問題であり、正答はイ(金銭請求権化=2019年改正の核心)です。ア・ウ・エ・オはいずれも誤りであり、正答は一義的にイに確定します。
【試験での位置づけ】
行政書士試験で最も問われる遺留分の論点は、(1)改正前後の性質の変化(物権的形成権→金銭請求権)、(2)遺留分権利者の範囲(兄弟姉妹は除外)、(3)基礎財産の算入範囲(相続人10年・相続人以外1年)です。「遺留分減殺請求」という旧法の用語・概念を使った選択肢(ウ)は全て誤りです。「兄弟姉妹にも遺留分がある」(ア)は最頻出の引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 誤り。民法1042条1項柱書「兄弟姉妹以外の相続人は…」が根拠。兄弟姉妹には遺留分がない。「法定相続分の4分の1」という数字も正確でなく、遺留分は法定相続分に所定の割合を乗じたものであり単純ではない。
- イ: 正しい(正答)。民法1046条1項の文言通り。「金銭の支払を請求する」という点が2019年改正の核心であり、現行法の正確な表現。
- ウ: 誤り。改正前の遺留分減殺請求権の説明。現行法では金銭債権であり、遺贈・贈与の効力を直接取り消す形成権ではない。
- エ: 誤り。民法1044条3項。相続人以外への贈与も、相続開始前1年間(当事者が損害を知っていた場合は期間制限なし)のものが算入される。「算入されない」は明確に誤り。
- オ: 誤り。遺留分侵害額請求権の消滅期間は、民法1048条により「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年(消滅時効)」「相続開始の時から10年(除斥期間)」であり、本肢の「3年・20年」はいずれも誤った数字。「1年・10年」を「3年・20年」等の近似値に置き換える数字の引っかけは頻出。
【根拠条文】
民法 第1042条第1項(遺留分の権利者と割合)、第1044条第3項(算入される贈与の期間)、第1046条第1項(遺留分侵害額の請求)、第1048条(遺留分侵害額請求権の消滅時効・除斥期間)
【補足】
2019年改正の核心「遺留分減殺請求(物権的効果)→遺留分侵害額請求(金銭債権)」は最重要改正。旧法の「減殺請求」という語が出た選択肢は全て誤り。消滅時効は「1年・10年(除斥期間)」を正確に暗記。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第1042条・第1044条・第1046条・第1048条 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。