行政書士 民法 問90:相続の包括承継・相続財産の範囲
相続財産の範囲に関する次のア〜オの記述のうち、現行民法の規定および判例の趣旨に照らして**誤っているもの**はどれか。
- ア被相続人が有していた金銭債権は、相続財産に含まれ、相続人が承継する。
- イ被相続人の一身に専属する権利(例えば代理権・使用貸借上の借主の地位等)は、相続財産には含まれない。
- ウ生命保険金請求権は、受取人として指定されている相続人の固有の権利であり、相続財産には含まれないが、特別受益として遺留分算定の基礎財産に必ず算入される。正答
- エ被相続人が生前に取得していた損害賠償請求権(例えば交通事故による損害賠償請求権)は、被相続人の死亡前に行使されていなくても相続財産に含まれる。
- オ被相続人が負っていた金銭債務は、遺産分割前から各相続人が法定相続分に応じて当然に承継する。
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生命保険金請求権は、受取人として指定された相続人が保険契約に基づき保険会社に対して有する固有の権利であり、相続財産には含まれません(最判昭40.2.2)。ただし、生命保険金請求権が「遺留分算定の基礎財産に必ず算入される」とするウの記述は誤りです。判例(最決平16.10.29)は、生命保険金が相続財産に含まれないため、原則として特別受益に当たらないとしつつ、保険金額が遺産全体に占める割合が特段に高く他の相続人の遺留分を著しく侵害する場合には例外的に特別受益に準じて扱うことがあると判示しています。「必ず算入される」という断定的な記述が誤りです。
正答はウです。生命保険金請求権は相続財産に含まれない(受取人の固有の権利)という点はウの前半部分で正しいです。しかしウの後半「特別受益として遺留分算定の基礎財産に必ず算入される」という点が誤りです。最高裁(最決平16.10.29)は、生命保険金は原則として特別受益に当たらないと判示しています。ただし、保険金が著しく高額で他の相続人の遺留分を不当に侵害するような特段の事情がある場合には、例外的に特別受益に準じて取り扱うことがあるとしています。「必ず算入される」とする記述は例外を原則として誤ったものです。
各選択肢を確認します。ア(正):民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と規定し、金銭債権も相続財産に含まれます。イ(正):民法896条ただし書は「ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」と規定し、一身専属権(代理権・使用貸借の借主の地位等)は相続されません。エ(正):損害賠償請求権は被相続人の財産上の権利であり、行使前であっても相続財産として相続人に承継されます(慰謝料請求権の相続性については別途判例あり)。オ(正):可分債務(金銭債務)は遺産分割によらず相続開始時に法定相続分に応じて当然に承継されます(最判昭34.6.19)。
【理論的背景】
相続は包括承継であり(民法896条)、被相続人の財産上の地位・権利義務を原則として全て承継します。ただし一身専属権(代理権・扶養請求権・使用貸借上の借主の地位等)は性質上承継されません(民法896条ただし書)。生命保険金請求権の法的性質については、保険契約において受取人として指定された者が保険会社に対して有する固有の権利(保険法上の権利)であり、被相続人の財産ではないとする考え方が確立しています。この帰結として、生命保険金は相続財産ではなく、遺産分割の対象にもならず、受取人指定の相続人が単独で取得します。しかし、この制度を利用して遺産の大半を特定の相続人に保険金として移転することで他の相続人の遺留分を実質的に侵害することができるため、最高裁(最決平16.10.29)は例外的な特別受益への準じた取扱いを認めています。
【実務・条文構造】
相続財産の範囲に関する主要条文と判例を整理します。民法896条:包括承継の原則(一切の権利義務の承継)と一身専属権の例外(ただし書)。民法897条:系譜・祭具・墳墓の所有権は祭祀主宰者が承継(相続財産から除外・特別規定)。金銭債務の当然承継:可分債務(金銭債務等)は相続開始と同時に法定相続分に応じて当然分割承継される(最判昭34.6.19)。これは可分債権(預貯金は平成28年判例変更で遺産分割対象となった)とは異なる点に注意。慰謝料請求権の相続性:判例(最大判昭42.11.1)は被相続人が慰謝料を請求する意思を明示した場合は相続されると判示(当初の裁判例・現在の学説・判例の状況については整理が必要)。生命保険金の特別受益性:最決平16.10.29は原則として特別受益に当たらないが、著しく高額な場合の例外を認める。
【試験での位置づけ】
行政書士試験での相続財産の範囲の論点は、(1)一身専属権の相続財産不算入(民法896条ただし書)、(2)金銭債務の当然分割承継(法定相続分に応じて・遺産分割不要)、(3)生命保険金の法的性質(受取人の固有の権利・相続財産に含まれない)と特別受益性(原則として特別受益に当たらない・例外あり)が中心です。ウの「必ず算入される」は「原則として特別受益に当たらない(例外あり)」という判例の立場に反する誤りです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 正しい。民法896条本文が根拠。金銭債権・不動産所有権・動産所有権等の財産上の権利は原則として全て相続財産に含まれる。ただし可分債権(預貯金は平成28年大法廷決定後に遺産分割対象)と可分債務(当然分割承継)の取り扱いの差異に注意。
- イ: 正しい。民法896条ただし書が根拠。一身専属権の典型例は、代理権・扶養請求権・使用借権(使用貸借は借主の死亡で終了・民法597条3項)・雇用契約上の地位等。なお、財産的価値のある権利でも一身専属性が認められる場合がある(年金受給権等・社会保障法上の別論点)。
- ウ: 誤り(正答)。生命保険金請求権が相続財産に含まれない点は正しいが、「遺留分算定の基礎財産に必ず算入される」が誤り。最決平16.10.29は「原則として特別受益に当たらない」とし、著しく高額の場合の例外的取り扱いを認めるにとどまる。遺留分算定において必ず算入されるわけではない。
- エ: 正しい。損害賠償請求権は財産上の権利であり相続財産に含まれる。ただし慰謝料請求権(精神的損害の賠償)については、被相続人が生前に請求する意思を示していたか否かで相続性を判断する判例があり(最大判昭42.11.1参照)、詳細は整理が必要。
- オ: 正しい。金銭債務等の可分債務は相続開始と同時に法定相続分に応じて当然分割承継される(最判昭34.6.19)。これは遺産分割を要せず相続人各自が法定相続分の範囲で責任を負うことを意味する。遺産分割協議で「相続人Aが全額負担する」と決めても、債権者(第三者)に対しては法定相続分の範囲でしか対抗できない(債権者の同意なしには債務の集中は認められない)。
【根拠条文】
民法 第896条(包括承継の原則・一身専属権の例外)、第897条(祭祀財産の承継)
【参照判例】
生命保険金の特別受益性(最決 平成16年10月29日・原則として特別受益に当たらない)、金銭債務の当然分割承継(最判 昭和34年6月19日)
【補足】
生命保険金は「相続財産ではない(受取人の固有の権利)」かつ「原則として特別受益に当たらない(最決平16.10.29・例外あり)」の二段構えを正確に押さえること。可分債務の当然分割承継(遺産分割不要)は、可分債権(預貯金は平成28年判例変更で遺産分割対象)との対比で重要。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 民法 第896条・第897条・第903条・民法1044条、判例 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。