登録販売者 第2章 人体の働きと医薬品 問30:人体の働きと医薬品(粘膜防御・涙液・局所作用の基礎)
唾液・涙液・粘膜の防御機能および外用薬の局所作用に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア唾液は食物の消化を補助する機能のみを持ち、口腔内の細菌増殖を抑制する抗菌成分(リゾチーム・ラクトフェリン等)を含まない。
- イ涙液(なみだ)は眼球表面を潤すだけでなく、抗菌作用を持つリゾチーム・ラクトフェリン・免疫グロブリン(IgA等)を含んでおり、眼の表面の感染防御機能を担っている。正答
- ウ消化管の粘膜を覆う粘液(ムチン)は、消化酵素・胃酸等から粘膜を保護する役割を持つが、外部からの細菌・ウイルスの侵入を防ぐ機能はない。
- エ皮膚に塗布した外用薬の有効成分は、皮膚表面でのみ作用し(局所作用)、血液循環に乗って全身に分布することはなく、全身性の副作用が起こることはない。
- オ外用薬(点眼薬・点鼻薬・皮膚外用薬等)に含まれる有効成分は、投与部位の組織にのみ作用し、他の部位や全身には影響を及ぼさない。
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正答はイです。
涙液は眼球表面を潤す役割に加え、細菌等の感染から眼を守る免疫防御機能を持っています。涙液には抗菌酵素のリゾチーム(細菌の細胞壁を分解)・ラクトフェリン(鉄を奪い細菌の増殖を抑制)・免疫グロブリンIgA(細菌・ウイルスへの抗体)等が含まれており、眼の表面の感染防御に重要な役割を果たしています。
他の選択肢の誤りを確認します。唾液にもリゾチーム・ラクトフェリン等の抗菌成分が含まれます(ア誤)。粘液(ムチン)は物理的な細菌・ウイルスの侵入防御にも機能します(ウ誤)。皮膚外用薬でも一部の成分が全身吸収されて全身性副作用が起こることがあります(エ・オ誤)。
体の表面を守る防御機能の比較:
| 防御系 | 物理的防御 | 化学的防御 | 免疫学的防御 |
|---|---|---|---|
| 皮膚 | 角質層バリア | 皮脂・乳酸(弱酸性) | ランゲルハンス細胞 |
| 眼(涙液) | 涙液の洗浄・瞬き | リゾチーム・ラクトフェリン | IgA・IgG |
| 口腔(唾液) | 食物の洗い流し | リゾチーム・ラクトフェリン | sIgA |
| 呼吸器(粘液) | 線毛運動・粘液の洗い流し | ムチン・抗菌ペプチド | IgA |
| 消化管(粘液) | ムチン層・粘液 | 胃酸(低pH)・抗菌ペプチド | sIgA・パイエル板 |
各選択肢の解説:
- ア(誤): 唾液は消化(アミラーゼによるデンプン分解)のほか、抗菌成分(リゾチーム・ラクトフェリン・ペルオキシダーゼ・免疫グロブリンIgA等)も含んでいます。唾液分泌が低下する「口腔乾燥症(ドライマウス)」で口腔内の感染(齲歯・口内炎等)が増加するのは、この抗菌防御が低下するためです。
- イ(正): 涙液はリゾチーム(細菌の細胞壁ペプチドグリカンを加水分解する酵素)・ラクトフェリン(鉄を封鎖して細菌の増殖に必要な鉄を奪う)・分泌型IgA(細菌・ウイルスへの局所抗体)を含み、眼表面の感染防御に重要な役割を持っています。
- ウ(誤): 消化管粘液(ムチン)は物理的バリアとして機能し、細菌や毒素が粘膜上皮細胞に直接接触するのを防ぎます(「粘液層」という物理的防御)。また粘液中の抗菌ペプチド・sIgAも感染防御に関与します。
- エ(誤): 皮膚外用薬でも脂溶性の高い成分(ステロイド・NSAIDs・ニコチン等)は皮膚を通過して血液に入り全身分布することがあります(経皮吸収)。長期広範囲使用のステロイド外用薬では副腎抑制等の全身性副作用の報告があります。
- オ(誤): 点鼻薬は鼻粘膜から吸収されて全身循環に入ることがあり(アドレナリン作動成分等)、心臓・血圧への全身的影響が起こります。点眼薬も鼻涙管を通じて消化管に流れ込むことで全身吸収される場合があります。「他の部位や全身には影響しない」は誤りです。
【体表防御システムの生物学的詳細と外用薬の全身吸収リスク】
眼の防御システム(涙液の構成の詳細):
涙液は三層構造で眼球表面を覆っています:
1. 脂質層(最外層): マイボーム腺から分泌。涙液の蒸発を防ぐ
2. 水層(中間層): 主涙腺・副涙腺から分泌。最も厚い層で抗菌成分を含む
3. ムチン層(最内層): 結膜杯細胞から分泌。眼球表面への涙液の付着を助ける
水層に含まれる主な防御成分:
| 成分 | 機序 | 役割 |
|---|---|---|
| リゾチーム(ムラミダーゼ) | グラム陽性菌の細胞壁ペプチドグリカンを加水分解 | 抗菌 |
| ラクトフェリン | 鉄をキレート・細菌の増殖を鉄欠乏で抑制 | 抗菌・抗ウイルス |
| 分泌型IgA(sIgA) | 病原体の粘膜への付着を阻害 | 免疫 |
| デフェンシン | 細菌・ウイルス・真菌の膜を破壊 | 抗菌・抗ウイルス |
| β-リゾチーム | リゾチームと類似の作用 | 抗菌 |
「ドライアイ(乾性角結膜炎)」ではこれらの成分濃度の変化・涙液の質的・量的低下が起こり、感染リスクが高まることが知られています。
消化管粘膜の防御機能の詳細:
消化管の粘膜防御は「粘液バリア」「上皮バリア」「免疫バリア」の三重構造:
1. 粘液バリア: ムチン糖タンパクが細菌の直接接触を防ぐゲル層を形成
2. 上皮バリア: 上皮細胞間のタイトジャンクション(腸管バリア機能)
3. 免疫バリア: パイエル板(回腸の集合リンパ小節)・腸管上皮細胞内リンパ球・sIgA
「腸管透過性の亢進(Leaky Gut Syndrome)」とも呼ばれる状態では、タイトジャンクションの障害で細菌成分・毒素が全身循環に入り慢性炎症につながる可能性が議論されています(研究領域)。
外用薬の経皮吸収・経粘膜吸収の詳細:
経皮吸収に影響する因子:
- 成分の脂溶性: 高脂溶性ほど皮膚脂質を通過しやすい(角質層は脂質二重層)
- 分子量: 小さいほど通過しやすい(500Da以下が経皮吸収されやすい目安)
- 皮膚の状態: 損傷・炎症・薄い皮膚(顔・陰部・小児の皮膚)は吸収が増大
- 塗布面積・使用時間: 広範囲・長期使用では全身吸収量が増加
- 封入包帯(ODT: Occlusive Dressing Technique): 閉鎖環境では吸収が数倍〜数十倍増大
全身吸収が問題となる外用薬の例:
- 外用ステロイド: 強力なクラス・長期広範囲使用で副腎皮質機能抑制(HPA軸抑制)
- 外用NSAIDs: ケトプロフェン(光過敏症も)・インドメタシン等は皮膚から吸収されて全身性影響
- ニコチンパッチ: 全身吸収を意図した設計(禁煙補助)
経粘膜吸収(点鼻薬・点眼薬):
- 点鼻薬: 鼻粘膜は血管に富み吸収が速い。アドレナリン作動成分(ナファゾリン等)の全身吸収で血圧上昇・心拍増加が起こりうる
- 点眼薬: 投与量の多くが鼻涙管を通じて消化管に流れ込み経口吸収される(特にβ遮断薬の点眼薬では全身性β遮断作用が問題)
登録販売者への実務的示唆:
外用薬販売時に「外用だから全身への影響はない」という誤解を購入者に伝えないことが重要です。特に:
1. 外用ステロイドの広範囲・長期使用: 「顔や薄い皮膚への使用は短期に、広範囲への長期使用は医師に相談を」
2. 点鼻薬(アドレナリン作動成分): 心臓病・高血圧の方への注意喚起が必要(鼻腔で局所作用するだけでなく全身吸収がある)
3. 点眼薬の用量過多: 規定量以上の点眼は余剰が鼻涙管から消化管に流れ、過剰吸収のリスク
4. 外用NSAIDs(貼付剤・ゲル): 光過敏症リスク(ケトプロフェン)・全身性影響への注意
「局所に使う薬でも全身性副作用が起こりうる」という認識が、登録販売者の安全指導の重要な基盤です。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第2章 第1節「消化器系」・第4節「感覚器系」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。