登録販売者 第2章 人体の働きと医薬品 問32:人体の働きと医薬品(血液・凝固系)
血液凝固および線溶系に関する次のア〜オの記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア血液凝固の最終段階では、フィブリノゲン(可溶性)がトロンビンによってフィブリン(不溶性)に変換され、血栓を形成する。
- イ血小板は血管損傷部位に集まり、互いに凝集して一次血栓(白色血栓)を形成する役割を担う。
- ウ線溶系とは血栓(フィブリン血栓)を溶解する系であり、プラスミノゲンがプラスミンに活性化されてフィブリンを分解する。
- エアスピリンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、血小板のトロンボキサンA2産生を阻害し、血小板凝集を促進するため、出血傾向をもたらす。正答
- オ出血傾向のある人は、血小板凝集を抑制する成分を含む一般用医薬品を使用する際に特別な注意が必要である。
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正答はエです。
アスピリン等のNSAIDsは血小板のトロンボキサンA2(TXA2)産生を「阻害」します。TXA2は血小板凝集を「促進」する物質なので、これを阻害することで血小板凝集が「抑制」されます。その結果、血が止まりにくくなる(出血傾向)という副作用が生じます。エは「血小板凝集を促進する」と逆に書いているため誤りです。
血液凝固の流れは「血管損傷→血小板が集まり一次血栓形成→凝固カスケードでフィブリン形成→二次血栓(最終血栓)」です。一方、血栓が大きくなりすぎないように溶解する仕組みが線溶系(プラスミン)です。
血液凝固の流れ(一次止血・二次止血):
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 血管収縮 | 血管損傷後、即座に収縮して血流減少 |
| 一次止血(血小板栓) | 血小板が損傷部に粘着・凝集→白色血栓形成。VWF(フォン・ウィルブランド因子)が仲介 |
| 二次止血(凝固カスケード) | 凝固因子が連鎖活性化→トロンビン産生→フィブリノゲン→フィブリン→フィブリン血栓(赤色血栓) |
| 線溶(フィブリン溶解) | プラスミノゲン→プラスミン(tPAにより活性化)→フィブリンを分解→血栓を溶かして血管開通 |
エが誤りの理由(詳細):
- NSAIDs(特にアスピリン)はシクロオキシゲナーゼ(COX)酵素を阻害。
- COXはアラキドン酸からプロスタグランジン・トロンボキサンA2(TXA2)・プロスタサイクリン(PGI2)を合成する酵素。
- TXA2は血小板凝集を促進する → NSAIDsで阻害 → TXA2が作られない → 血小板凝集が抑制される。
- 結果: 出血時間の延長・出血傾向(止血しにくくなる)。
- エは「血小板凝集を促進する」と書いているが、正しくは「血小板凝集を抑制する」。
出血傾向と一般用医薬品:
添付文書の「してはいけないこと」に「出血傾向のある人は使用しない」と記載される成分の代表例はNSAIDsです(アスピリン・イブプロフェン等)。また抗凝固薬(ワルファリン等)を処方されている人がOTC-NSAIDsを服用すると相加的に出血リスクが高まります。
各選択肢の解説:
- ア(正): フィブリノゲン→フィブリンの変換はトロンビンによる(正しい)。
- イ(正): 血小板が一次血栓(白色血栓)を形成(正しい)。
- ウ(正): 線溶系=プラスミノゲン→プラスミン→フィブリン分解(正しい)。
- エ(誤・正答): NSAIDsは血小板凝集を「促進」ではなく「抑制」する。
- オ(正): 出血傾向のある人への注意は正しい。
【血液凝固カスケードの詳細と薬物による介入点】
血液凝固は複雑な酵素連鎖反応(カスケード)によって制御されており、登録販売者試験で問われる内容を超えた深い理解は上位資格(薬剤師国家試験・医師国家試験)で求められます。ここでは「なぜNSAIDsで出血しやすくなるか」を中心に、試験に役立つ機序の理解を深めます。
凝固カスケードの2経路:
1. 外因系(組織因子経路): 血管損傷→組織因子(TF)放出→第VII因子の活性化→共通経路へ。
2. 内因系(接触活性化経路): コラーゲン等との接触→第XII因子(ハーゲマン因子)活性化→共通経路へ。
3. 共通経路: 第X因子→プロトロンビン→トロンビン→フィブリノゲン→フィブリン→XIIIa(トランスグルタミナーゼ)→フィブリン架橋(安定化血栓)。
アスピリンの特殊性:不可逆的COX阻害:
アスピリンは他のNSAIDsと異なり、COX-1酵素のセリン残基を「アセチル化」することで不可逆的(共有結合的)に阻害します。血小板は核を持たず新しいCOX-1タンパクを合成できないため、アスピリンが結合した血小板は生涯(約7〜10日間)COX-1活性を失います。この特性が低用量アスピリン(100mg/日)の抗血小板療法に利用されており、心筋梗塞・脳梗塞の二次予防に使われています。
一方、イブプロフェン・ロキソプロフェン等の他のNSAIDsは可逆的にCOX-1を阻害するため、服用中は血小板機能が低下しますが、薬物が体内から消失すれば機能が回復します。
プロスタサイクリン(PGI2)との均衡:
TXA2(血小板が産生→血小板凝集促進・血管収縮)と血管内皮が産生するプロスタサイクリン(PGI2、血小板凝集抑制・血管拡張)は拮抗的に作用してバランスを保っています。NSAIDsはTXA2とPGI2の両方の産生を抑制しますが:
- 低用量アスピリン: 主に血小板のCOX-1を選択的に阻害→TXA2産生が主に低下→抗血小板効果。
- 高用量アスピリン・他のNSAIDs: TXA2・PGI2ともに低下→抗血小板効果が相殺される場合もある。
線溶系と血栓症の関係:
線溶系が過度に活性化されると出血傾向が生じ(播種性血管内凝固症候群・DICの病態の一部)、活性が不十分だと血栓が溶けず血栓症(深部静脈血栓症・肺塞栓症)のリスクが高まります。線溶系の主な活性化因子はt-PA(組織型プラスミノゲン活性化因子)で、血栓溶解療法(脳梗塞急性期等)に使用されます。これはOTCの範囲外ですが、「血液の凝固と溶解のバランス」が医薬品の安全管理に関係することを理解する上で重要です。
出血傾向のある人への対応(第5章との接続):
第5章の添付文書「してはいけないこと」では、「出血傾向のある人は使用しない」と記載される代表的な成分として以下が挙げられます(ch5_46と接続):
- アスピリン・イブプロフェン・ロキソプロフェン(COX阻害→抗血小板作用)
- アスピリンアルミニウム(同上)
- これらと同一成分や高用量を含む処方薬との併用は特に注意
登録販売者として: 「血液サラサラの薬を飲んでいる」「血が止まりにくい」という申告があった場合は、NSAIDsを含む製品の販売を慎重に行い、かかりつけ医への確認を勧めることが重要です。「解熱鎮痛薬なら大丈夫」という先入観は危険であり、成分の確認が不可欠です。
<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 設問・正答エ(アスピリン等NSAIDsはトロンボキサンA2産生を阻害し血小板凝集を「抑制」するので、設問の「促進」は誤り→出血傾向をもたらす)は一意性・機序ともOK。フィブリノゲン→フィブリン(トロンビン)、一次止血=血小板、線溶系=プラスミンも正確。アスピリンの不可逆的COX-1阻害(血小板の寿命7〜10日)の記述も正確。修正不要。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第2章 第2節「血液」 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。