登録販売者 第5章 医薬品の適正使用・安全対策 問5:医薬品の適正使用・安全対策
薬害を契機に整備された日本の医薬品安全制度に関する次のア〜オの記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア医薬品副作用被害救済制度(救済基金)は、サリドマイド薬害訴訟の和解を直接の契機として1989年に設立され、設立と同時に全ての薬害被害者への遡及給付が行われた。
- イ独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、医薬品の審査・安全対策・健康被害救済の三機能を統合した機関として2004年に設立されたが、設立以前は健康被害救済業務を行う機関は存在しなかった。
- ウ薬害エイズ事件(HIV感染)は、血液凝固因子製剤を使用した患者の被害が出発点となり、国・製薬企業の責任を認める和解・賠償が行われ、その後の血液行政改革・薬事行政の情報公開義務強化の契機となった。正答
- エ「薬害肝炎被害者の救済等に関する特別措置法」(薬害肝炎救済特別措置法)は、汚染された血液製剤(非加熱フィブリノゲン製剤等)によるHBV(B型肝炎ウイルス)感染被害者に対する救済を目的として制定された。
- オPMDAの設立前は、製造販売業者の副作用報告義務(市販後安全管理)は法律上存在しなかったため、PMDAの設立が日本で初めて製造販売業者に副作用報告を義務付けた契機となった。
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正答はウです。
薬害エイズ事件では、非加熱の血液凝固因子製剤によりHIV感染した血友病患者らが被害を受け、国と製薬企業の責任を認める和解・賠償が行われました。この事件は血液行政の根本的な見直し、薬事行政における情報公開の義務強化、そしてPMDA設立(2004年)へとつながる重要な契機となりました。
アは誤りで、救済基金が設立されたのは1979年であり、スモン(キノホルム)薬害の教訓が主な契機です。イは誤りで、PMDA設立前から救済業務を担う機関(医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構)が存在しました。エは誤りで、薬害肝炎救済特別措置法はHCV(C型肝炎ウイルス)感染被害者を対象とします。オは誤りで、副作用報告義務はPMDA設立以前から薬事法に存在していました。
薬害と法制度整備の経緯(年表形式・頻出):
| 年 | 事件・制度 | 内容 |
|---|---|---|
| 1950〜70年代 | スモン病(キノホルム)薬害 | 整腸薬キノホルムによる亜急性脊髄視神経症。患者・家族の訴訟と運動が救済制度整備の直接の契機 |
| 1979年 | 医薬品副作用被害救済基金 設立 | スモン薬害訴訟和解を受けて設立。企業拠出金方式の無過失補償。後にPMDA前身機関に吸収 |
| 1980〜90年代 | 薬害エイズ事件(HIV感染) | 非加熱血液凝固因子製剤でのHIV感染。国・企業責任認定・和解・賠償 |
| 1996年 | 薬害エイズ和解成立 | 国・企業が責任を認め被害者と和解。血液行政改革・情報公開義務強化の契機 |
| 2002年 | 薬害肝炎発覚 | 非加熱フィブリノゲン製剤等によるHCV(C型肝炎ウイルス)感染 |
| 2004年 | PMDA設立 | 審査・安全対策・健康被害救済の三機能を統合。薬害エイズ等の教訓を制度化 |
| 2008年 | 薬害肝炎救済特別措置法 施行 | HCV感染被害者への一律救済。C型肝炎ウイルス感染が対象(HBVではない) |
各選択肢の解説:
- ア(誤): 救済基金(医薬品副作用被害救済基金)が設立されたのは1979年です。スモン(キノホルム)薬害の患者・家族による訴訟と社会運動が直接の契機で、サリドマイド薬害訴訟の和解(1974年)も背景にありますが、「1989年設立」は誤りです。また「設立と同時に遡及給付」は行われていません(対象はそれ以降の健康被害)。
- イ(誤): 健康被害救済業務は、1979年設立の「医薬品副作用被害救済基金」(その後「医薬品副作用被害救済・研究振興基金」を経て「医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(医薬品機構)」へ改組)が担っており、PMDA設立(2004年)の四半世紀前から救済業務を行う機関は存在していました。PMDAは、この「医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構」と「国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター」「医療機器センターの一部」を統合して発足した組織です。「設立以前は救済機関が存在しなかった」は誤りです。
- ウ(正): 薬害エイズ事件(1980〜90年代)では、国(旧厚生省)と製薬企業(ミドリ十字等)の責任を認める形で1996年に和解が成立し、補償金が支払われました。この事件を契機に、血液製剤の安全管理強化・行政の情報公開義務化・副作用報告制度の整備が進められ、2004年のPMDA設立につながりました。
- エ(誤): 薬害肝炎救済特別措置法(2008年施行)は、汚染された非加熱血液製剤(フィブリノゲン製剤・第IX因子製剤等)によってHCV(C型肝炎ウイルス)に感染した被害者を対象とします。HBV(B型肝炎ウイルス)は対象ではありません(B型肝炎訴訟は別途・集団予防接種によるものが主)。HCVとHBVの混同は典型的な引っかけです。
- オ(誤): 製造販売業者の副作用報告義務は、スモン薬害後の1979年に整備された「市販後安全対策(PMS)」制度として旧薬事法に盛り込まれており、PMDAの設立(2004年)以前から存在しています。PMDAの設立は既存の報告義務を廃止・新設したのではなく、行政の安全情報収集・評価機能を強化・統合したものです。
【日本の薬害史と制度整備の連鎖:構造的理解】
薬害は「医薬品の副作用が社会的な規模で生じ、かつその防止・救済が社会的に不十分であった事例」として定義されます。日本の薬害史において、各事件は次の制度整備の引き金となっており、現在の薬機法・PMDA・救済制度はこの連鎖の産物です。
1. サリドマイド薬害(1950〜60年代)→ 催奇形性試験の義務化
サリドマイドによる胎児被害は、医薬品承認審査における「動物を用いた催奇形性試験(生殖毒性試験)の義務化」の契機となりました。現在の医薬品承認審査には生殖毒性・催奇形性評価が標準的に組み込まれています。1974年には民事裁判で被告(旧・グリュネンタール等)と国が和解・補償に応じています。
2. スモン・キノホルム薬害(1950〜70年代)→ 1979年救済基金設立
スモン患者・家族が起こした訴訟(各地裁での原告勝訴判決が相次ぐ)と社会運動が、「被害者が過失を証明しなくても補償が受けられる」という無過失補償の思想の実現を迫りました。1979年、薬事法改正と同時に「医薬品副作用被害救済基金」が設立されたのは、スモン訴訟の和解(1979年に全面和解)が直接の背景です。この救済基金は1980年から救済業務を開始し、後に「医薬品副作用被害救済・研究振興基金」「医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(医薬品機構)」へと組織改編を経て、2004年のPMDA設立に統合されます。
3. 薬害エイズ事件(1980〜90年代)→ 血液行政改革・情報公開義務強化・PMDA設立の間接的契機
血液凝固因子製剤(HIV汚染非加熱製剤)による血友病患者へのHIV感染事件は、1996年の和解成立後に以下の制度変化をもたらしました:
- 血液製剤の安全確保に関する法整備の強化(血液法:安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律 2002年制定)
- 旧厚生省による情報の意図的な隠蔽が問題となり、行政機関の情報公開義務の強化(情報公開法との連動)
- 医薬品審査・安全対策・救済の行政機能の統合の必要性の認識→2004年PMDA設立
4. 薬害肝炎事件(2002年発覚)→ 特別措置法・一律救済
非加熱フィブリノゲン製剤・第IX因子製剤によるHCV(C型肝炎ウイルス)感染は、フィブリノゲン製剤の危険性を旧厚生省が1987年に把握しながら対応が遅れたことが問題となりました。2008年に「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」(薬害肝炎救済特別措置法)が施行され、接種記録の有無に関わらず一定の要件を満たす被害者への一律給付が行われました。
【PMDAの三機能統合の意義】
PMDA設立前は以下の機能が分散していました:
- 承認審査:国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター
- 安全対策:厚生労働省医薬食品局(安全対策課)
- 健康被害救済:医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(1979年設立の救済基金を前身とする)
PMDAはこれら(国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構、医療機器センターの一部)を一つの独立行政法人に統合することで、「承認審査で得た科学的知見→安全対策への活用→被害発生時の救済」というサイクルを一貫した組織として機能させることを目的としています(PMDAはこの三機能を「セーフティトライアングル」と呼びます)。薬害エイズで露わになった「縦割り行政・情報共有不足」という構造的問題への制度的な回答がPMDAの設立です。
【試験での位置づけ】
「薬害から生まれた制度史」は第5章の末尾(手引き第5章第5節「医薬品の適正使用のための啓発活動」の薬害教訓)に関連する論点です。制度史のポイントは:①救済基金設立(1979年)の契機はスモン薬害(1989年でも2004年でもない)、②PMDAの三機能(審査・安全対策・救済)統合、③薬害肝炎特別措置法の対象はHCV(C型肝炎)でHBV(B型肝炎)ではない、の3点です。年号・法律名・対象ウイルスの混同が典型的な引っかけとして出題されます。
【根拠】厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第5章第4節・第5節、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(PMDA法)、薬害肝炎救済特別措置法(2008年)
<!-- 監修確定 2026-06-06(legal-reviser): 制度史突合済。救済基金設立=1979年(昭54)スモン契機/PMDA設立=2004年4月・三機能統合(審査=旧医薬品医療機器審査センター,救済=旧医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構,医療機器センター一部を統合)/薬害肝炎特措法=2008年・対象はHCV(C型,フィブリノゲン製剤等)/薬害エイズ=HIV・非加熱血液凝固因子製剤・1996年和解(厚労省資料: サリドマイド和解S49.10・スモン和解S54.9と整合)。正答ウ一意・誤答ア(1989/遡及給付)イ(救済機関不在)エ(HBV)オ(報告義務PMDA初出)はいずれも明確な誤りで妥当。修正点: 前身機関の「1994年設立」断定2箇所と「医薬品医療機器審査センター1997年設立」断定を、確定できない設立年に依存しない正確な沿革記述へ修正(救済機関はPMDA設立の四半世紀前=1979年から存在の論旨は不変)。 -->
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(各都道府県が公表する試験問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(令和8年4月版)第5章 第4節「医薬品の安全対策」・「医薬品副作用被害救済制度等への案内」、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(PMDA法) 厚生労働省「試験問題の作成に関する手引き」(2026版相当)に準拠し、章節を明記しています。