衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問18:換気・事務室環境
事務室の温熱環境と快適性に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア事務所衛生基準規則では、空気調和設備を設けている場合の努力目標として室温18℃以上28℃以下・相対湿度40%以上70%以下が示されており、これらは義務(遵守基準)ではない。
- イ事務室の相対湿度が低い(乾燥している)状態は、鼻・のど・皮膚の粘膜の乾燥・ドライアイ・静電気の発生・ウイルスの生存率上昇などのリスクがある一方で、多湿(70%超)は結露・カビの発生・不快感の原因となる。
- ウ相対湿度とは、ある温度の空気中に含まれる水蒸気量を、その温度の飽和水蒸気量で割った割合であり、気温が上昇すると、水蒸気量が変わらない場合は相対湿度は上昇する。正答
- エ事務室の気流基準(0.5m/s以下)は、特に冷房時に空調の吹き出し口から直接的な冷気が当たることで生じる不快感(ドラフト感)や健康被害を防ぐために設定されている。
- オ低温の職場(冷蔵庫作業・屋外冬季作業等)では高温作業とは異なる健康リスクがあり、凍傷・低体温症・手指の血行障害(レイノー現象等)が問題となる。
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誤りはウです。「気温が上昇すると、水蒸気量が変わらない場合は相対湿度は上昇する」という部分が誤りです。正しくは「気温が上昇すると、水蒸気量が同じまま(絶対湿度が変わらなければ)、相対湿度は低下します」。気温が上がると空気の飽和水蒸気量(限界まで含める水蒸気量)が増加するため、同じ水蒸気量が相対的に少ない割合(低い相対湿度)になります。
これが夏に冷房をすると室内が乾燥する理由でもあります(外気の暑い空気を冷やすと絶対湿度は保たれても相対湿度が低下する)。ア・イ・エ・オはすべて正しい内容です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 事務所則第3条の室温・湿度は「努力目標」として示されており、法的義務(遵守基準)ではありません。ただし事業者は労働者の快適な職場環境を実現するための努力義務を負います(労働安全衛生法第71条の2)。
- イ(正): 相対湿度の適正範囲(40〜70%)の医学的根拠です。低湿度(40%未満)では乾燥症状・インフルエンザ等ウイルスの生存率上昇・静電気リスク。高湿度(70%超)では蒸発散熱阻害・カビ・ダニ・結露リスク。40〜70%が多方面で最適な範囲とされる理由です。
- ウ(誤): 相対湿度(φ)= 現在の水蒸気量 ÷ その温度での飽和水蒸気量 × 100%。気温が上昇すると飽和水蒸気量が増加するため、水蒸気量(絶対湿度)が変わらない場合、分母が大きくなり相対湿度は低下します。「上昇する」は逆の誤りです。
- エ(正): 気流基準(0.5m/s以下)の主目的は「ドラフト感(冷気が直接当たる不快感)」の防止です。冷房時に0.5m/sを超える気流は体感で強い冷えを感じさせ、頸部・肩の冷え・筋肉のこわばり・ドライアイ悪化などを引き起こします。
- オ(正): 低温職場(冷凍・冷蔵倉庫・屋外冬季作業)では凍傷(末梢循環遮断による組織損傷)・低体温症(深部体温35℃以下)・振動工具使用による手指末梢循環障害(レイノー現象・振動障害)が問題となります。
【理論的背景】
相対湿度(Relative Humidity: RH)と絶対湿度(Absolute Humidity)の関係は、温熱環境管理において混同されやすい概念です。
定義の整理:
- 絶対湿度(AH): 単位空気(1m³またはkg)中に含まれる水蒸気の重量。温度が変化しても水蒸気量が変わらなければ絶対湿度は変わらない。
- 相対湿度(RH): 現在の水蒸気量 ÷ その温度での飽和水蒸気量 × 100%。飽和水蒸気量は温度依存性が高い(高温ほど大きい)。
気温変化と相対湿度の関係:
- 気温上昇→飽和水蒸気量増加→相対湿度低下(絶対湿度一定の場合)
- 気温低下→飽和水蒸気量減少→相対湿度上昇→露点以下で結露
例:気温20℃・相対湿度50%の空気(絶対湿度≒8.7g/m³)を気温30℃に加熱すると:
- 気温30℃での飽和水蒸気量 ≒ 30.4g/m³
- 相対湿度 = 8.7 ÷ 30.4 × 100 ≒ 29%(50%→29%に低下)
これが「夏に外の蒸し暑い空気(高温高湿)を取り込んで冷房で冷やすと室内が乾燥する」現象の物理的説明です(冷却すると飽和水蒸気量が減り水分が結露として除去される)。
【実務・条文構造】
事務室の温熱環境管理の体系:
| 項目 | 基準値 | 根拠・性格 |
|---|---|---|
| 室温(空調設置時) | 18℃以上28℃以下 | 事務所則・努力目標 |
| 相対湿度(空調設置時) | 40%以上70%以下 | 事務所則・努力目標 |
| 気流 | 0.5m/s以下 | 事務所則・義務(遵守基準) |
温湿度と快適性・健康の関係(実務上の意義):
低湿度(40%未満)のリスク:
- 鼻腔・咽頭・気管の粘膜乾燥→感染防御機能の低下
- インフルエンザウイルス・コロナウイルスの空気中生存率上昇
- 静電気の発生(電子機器トラブル・皮膚の静電気ショック)
- ドライアイの悪化(情報機器作業との相乗効果)
高湿度(70%超)のリスク:
- 結露の発生→カビ(アスペルギルス・クラドスポリウム等)・ダニの繁殖
- 体感温度の上昇(蒸発散熱の阻害)
- 建材・電子機器の損傷
低温職場(冷蔵庫・屋外冬季作業)での健康リスクと対策:
- 凍傷: 皮膚・末梢組織の氷点下での損傷。指先・耳・鼻が好発部位
- 低体温症: 深部体温が35℃以下。意識障害・心室細動のリスク
- 振動障害: 振動工具使用による末梢循環障害(白ろう病・レイノー現象)
- 対策: 断熱防寒服・防風手袋・保温靴・作業時間の制限・温熱場所での定期休憩
【試験での位置づけ】
温湿度に関する問題では「相対湿度の定義(気温上昇時に相対湿度は低下する)」「室温・湿度の努力目標値(義務ではない)」「気流0.5m/s以下は義務(遵守基準)」「低湿度・高湿度それぞれのリスク」が出題ポイントです。ウのような「気温が上昇すると相対湿度が上昇する」という誤りは、飽和水蒸気量の温度依存性を理解していないことから生じる典型的な混乱です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 室温・湿度が「努力目標」であることを知らずに「義務基準を超えているから即改善命令が出る」と誤解するケースがあります。行政指導の観点では努力目標超過に対しても改善指導が行われますが、法的強制力を持つ義務違反とは異なります。
- イ: インフルエンザウイルスの季節性(冬季に流行ピーク)は、低温低湿条件でウイルスが飛沫核として長時間空気中を漂いやすくなることと関係しています。冬季に加湿器で湿度を50〜60%に維持することがウイルス感染予防に有効である、というエビデンスが蓄積されています。
- ウ: 露点温度(Dew Point Temperature)は相対湿度100%になる温度であり、絶対湿度が同じであれば気温を下げていくと露点温度で結露が始まります。建物の断熱性能評価(内部結露・表面結露の計算)や冷却設備の設計(結露発生温度の管理)で重要な概念です。
- エ: ドラフト感(気流による冷却不快感)は体の特定部位(後頸部・足首)が特に敏感です。0.2〜0.3m/sの気流でも後頸部に当たると不快を感じやすく、適切な吹き出し口の方向設定(直接体に当たらないよう天井向き等)が重要です。
- オ: 低体温症の応急処置では、濡れた衣服を脱がせて乾いた毛布で保温し、体を動かさないことが基本です(筋肉の動きによる冷血が心臓に戻ることで心室細動を誘発するリスク)。屋外冬季作業での低体温症は迅速な医療機関搬送が必要です。
【根拠】医学的事実(物理学・気象学・医学)・事務所衛生基準規則(事務所則)第3条(努力目標)。
【補足】気温が上昇すると飽和水蒸気量が増加→絶対湿度一定なら相対湿度は「低下」する(「上昇」は逆の誤り)。室温・湿度は努力目標(義務なし)、気流0.5m/s以下は義務(遵守基準)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した物理学・気象学)。相対湿度の定義および気温上昇時の挙動は物理学の基本。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。