衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問19:換気・事務室環境
シックビル症候群(Sick Building Syndrome)および室内空気汚染に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アシックビル症候群とは、特定の建物に入ると頭痛・眼・鼻・のどの刺激症状・倦怠感などが生じ、建物を離れると症状が軽快するという特徴を持つ症状群であり、原因の特定が困難な場合が多い。
- イホルムアルデヒド(HCHO)は、合板・フローリング・接着剤・壁紙などの建材から放散されることがあり、刺激臭があり、高濃度では眼・鼻・のどの粘膜刺激・皮膚炎・喘息様症状などを引き起こす。
- ウ事務所衛生基準規則(事務所則)では、空気調和設備または機械換気設備を設けている場合の事務室のホルムアルデヒド濃度の基準は0.1mg/m³以下とされており、この値は建築基準法のホルムアルデヒド規制と全く同じ基準値である。正答
- エ室内の揮発性有機化合物(VOC: Volatile Organic Compounds)の汚染源としては、塗料・接着剤・清掃剤・コピー機・プリンターなどが挙げられ、これらから放散されるトルエン・キシレン・酢酸エチルなどが健康影響の原因となり得る。
- オ新しい建物や改修直後の建物では、建材からのホルムアルデヒド等VOCの放散量が多い傾向があり、入居前の十分な換気(ベークアウト)や入居後も高換気率を維持することがシックビル症候群の予防に有効である。
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誤りはウです。事務所則のホルムアルデヒド濃度基準(0.1mg/m³以下)は、建築基準法のホルムアルデヒド規制と「全く同じ」ではありません。建築基準法のホルムアルデヒド規制は「建材からの放散量(mg/m²・h)」を規制する建材規格(F☆☆☆☆等)であり、厚生労働省の「室内空気中化学物質の室内濃度指針値」ではホルムアルデヒドを0.08mg/m³以下(室内濃度指針値)としています。つまり規制対象・基準値の種類・所管省庁が異なる別制度です。「全く同じ基準値」という断定は誤りです。
ア(シックビル症候群の特徴)・イ(ホルムアルデヒドの放散源・症状)・エ(VOCの汚染源)・オ(ベークアウトの有効性)はすべて正しい内容です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): シックビル症候群(SBS)は1970〜80年代にエネルギー危機に伴う建物の高気密化・省エネ換気削減後に欧米で問題化した症状群です。建物を離れると軽快するという点で「特定建物関連疾患」とも言われます。原因が特定できない(複数の化学物質・生物学的要因・心理社会的要因が複合)ことが多いのが特徴です。
- イ(正): ホルムアルデヒドは代表的な室内空気汚染物質(シックハウス原因物質)です。木材・合板の接着剤(尿素系樹脂)から放散され、新築・改装後の建物で特に濃度が高くなります。刺激臭(独特の刺激臭・腐敗臭)があり、IARC(国際がん研究機関)グループ1の発がん性物質(鼻咽腔がんのリスク)に分類されています。
- ウ(誤): 事務所則のホルムアルデヒド基準(0.1mg/m³以下・第5条)と建築基準法の規制(建材からの放散量基準)は別制度です。また厚生労働省の室内空気中化学物質指針値(0.08mg/m³以下)とも数値が異なります。「建築基準法と全く同じ基準値」という断定は不正確です。
- エ(正): VOCは室内において複数の汚染源から放散されます。コピー機・レーザープリンターからはオゾン・超微粒子・VOCが放散されることが知られており、適切な換気・フィルター管理が必要です。
- オ(正): ベークアウト(bake-out)とは入居前に高温・高換気率の状態を維持してVOCを早期に放散させる手法です。実際の効果については科学的議論があるものの、換気の維持は確実に室内VOC濃度を低減します。
【理論的背景】
室内空気質(IAQ: Indoor Air Quality)の問題は1970年代のオイルショック以降、建物の気密化・省エネ化が進んだことで顕在化しました。シックビル症候群(SBS)とビル関連疾患(BRI: Building-Related Illness)は区別する必要があります。
- シックビル症候群(SBS): 建物に関連した非特異的症状(頭痛・眼鼻喉刺激・倦怠感)。建物を離れると軽快。原因特定が困難。
- ビル関連疾患(BRI): 建物に関連した特定の疾患(レジオネラ肺炎・過敏性肺臓炎等)。診断可能。原因が特定できる。
主な室内空気汚染物質とその発生源:
| 汚染物質 | 主な発生源 | 健康影響 |
|---|---|---|
| ホルムアルデヒド | 合板・壁紙・接着剤・防腐剤 | 眼鼻喉刺激・発がん性(IARC G1) |
| トルエン・キシレン | 塗料・接着剤・印刷インク | 神経毒性・頭痛・めまい |
| ダニ・カビ | 絨毯・カーテン・高湿度箇所 | アレルギー・喘息・過敏性肺臓炎 |
| オゾン | コピー機・プリンター | 気道刺激・酸化ストレス |
| レジオネラ菌 | 空調冷却塔・加湿器・シャワー | レジオネラ肺炎(ビル関連疾患) |
| タバコ煙(ETS) | 喫煙者(職場では禁煙化が進む) | 発がん・心疾患・呼吸器疾患 |
【実務・条文構造】
ホルムアルデヒドに関連する複数の法規制の体系:
| 制度 | 所管省庁 | 規制対象 | 基準値 |
|---|---|---|---|
| 事務所則第5条 | 厚生労働省 | 室内空気中濃度(設備あり事務室) | 0.1mg/m³以下 |
| 建築基準法第28条の2 | 国土交通省 | 建材からの放散量(建材F☆☆☆☆規格等) | 建材別放散量規制(室内濃度規制ではない) |
| 室内空気中化学物質指針値 | 厚生労働省 | 住宅・非住宅の室内空気 | 0.08mg/m³以下(指針値) |
レジオネラ菌対策(ビル管理法・建築物衛生法):
- 冷却塔(クーリングタワー)は週1回以上の点検・清掃
- 使用開始前・長期使用停止後の清掃・消毒
- 給湯設備: 末端で55℃以上または60℃以上で維持(60℃以上で急速死滅)
- 加湿器: 蒸気式(超音波式・気化式よりリスクが低い)の選択・定期清掃
ベークアウト(Bake-out)の手順(厚生労働省推奨例):
1. 室温を35℃以上に設定(暖房最大)
2. 24〜48時間維持(扉・窓を閉め、換気システムのみ稼働)
3. その後十分な換気(窓開け・外気大量取り入れ)
4. 入居後も当初数週間は換気量を増やして管理
【試験での位置づけ】
シックビル症候群・室内空気質の問題では「シックビル症候群の定義(建物を離れると症状軽快)」「ホルムアルデヒドの主な放散源(建材・合板・接着剤)」「事務所則のホルムアルデヒド基準値(0.1mg/m³以下)」「ベークアウトの概念」「レジオネラ菌対策」が出題されます。ウのような「複数の制度の基準が同じ」という誤った比較は、制度体系の整理ができていないことを突く典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: シックビル症候群の集団発生では、建物の特定の区画・フロアで多くの在室者が類似症状を訴えるパターンがあります。この場合、空調システムの分析・建材成分分析・VOC測定・微生物調査など包括的な原因調査が必要になります。
- イ: ホルムアルデヒドはIARC(国際がん研究機関)グループ1(ヒトに対して発がん性がある)に分類されており、鼻咽腔がん・白血病との関連が示されています。この発がん性は高濃度職業暴露(解剖室・防腐処置・化学工場)での話であり、事務室レベルでの暴露による発がんリスクは低いとされますが、できる限り濃度を低く抑えることが重要です。
- ウ: 建築基準法のF☆☆☆☆規格は建材から放散されるホルムアルデヒド量を「0.005mg/m²・h以下」で規制しており、これはm²あたりの放散「速度」であり、室内「濃度」(mg/m³)ではありません。両者は単位が異なる別の指標であり、「同じ基準値」という比較自体が制度の本質的な違いを無視しています。
- エ: レーザープリンターやコピー機はオゾンだけでなく超微粒子(UFP: Ultrafine Particles)を発生させることが研究で示されており、これが呼吸器系・循環器系に影響する可能性が指摘されています。コピー機・プリンターの近くでの長時間作業には換気が重要で、オフィスでは機器を換気の良い場所(窓の近く・換気ダクト近傍)に配置することが推奨されます。
- オ: ベークアウトの有効性については科学的議論があり「高温化によって短期的に放散が促進されるが、一部の建材は温度上昇でかえって長期放散量が増加する」という報告もあります。現時点では「入居後も継続的に換気量を高く維持する」ことが、シックハウス対策として最も確実な方法とされています。
【根拠法令】事務所衛生基準規則(事務所則)第5条(ホルムアルデヒド0.1mg/m³以下)・厚生労働省「室内空気中化学物質の室内濃度指針値(ホルムアルデヒド0.08mg/m³)」・建築基準法(建材放散量規制)。
【補足】事務所則のホルムアルデヒド基準(0.1mg/m³)、厚労省指針値(0.08mg/m³)、建築基準法の建材放散量規制(F☆☆☆☆)はそれぞれ別の制度・数値・所管省庁であり「全く同じ」ではない。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 事務所衛生基準規則第5条(ホルムアルデヒド0.1mg/m³以下)・建築基準法のホルムアルデヒド放散量規制(建材規制)は別制度であり「同じ基準値」とは言えない。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。