衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問25:食中毒・感染症
職場における感染症対策に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アインフルエンザワクチンは生ワクチンではなく不活化ワクチンであり、ウイルスそのものの感染力はない。ワクチン接種後に軽度の発熱・倦怠感が生じる場合があるが、これはワクチンによる感染ではなく免疫反応による反応である。
- イ麻疹(はしか)は感染力が非常に強く、空気感染(飛沫核感染)を主な感染経路とする。成人での麻疹は小児より重症化しやすく、肺炎・脳炎などの合併症を起こすリスクがある。
- ウB型肝炎ウイルス(HBV)は、主に血液・体液(精液・腟分泌液等)を介して感染する血液媒介病原体であり、唾液・咳・くしゃみによる飛沫感染や空気感染は、通常の職場環境では成立しない。
- エ腸チフス・パラチフスは、国内ではほとんど発生しないが、海外渡航者が流行国(南アジア・東南アジア・アフリカ等)で感染して帰国後に発症する輸入感染症として注意が必要であり、予防接種が有効な対策である。
- オ風疹(三日はしか)ウイルスは、風疹に罹患した妊婦から胎盤を通じて胎児に感染することはなく、先天性風疹症候群は母親が風疹に罹患した後に新生児が院内感染することで発症する。正答
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誤りはオです。先天性風疹症候群(CRS)は「院内感染」ではなく、風疹に感染した妊婦から胎盤を通じて胎児に直接感染(垂直感染)することで生じます。妊娠初期(特に妊娠12週以前)に風疹ウイルスが胎盤を通過して胎児に感染すると、先天性心疾患・難聴・白内障(「三徴」)が生じます。
ア(インフルエンザワクチンの種類と反応)・イ(麻疹の感染経路・重症化)・ウ(B型肝炎の感染経路)・エ(腸チフスの輸入感染症としての性格)はすべて正しい内容です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): インフルエンザワクチンは不活化ワクチン(ウイルスを化学処理・加熱で不活化した製剤)であり、生ワクチンとは異なり、接種後にウイルスが増殖・感染することはありません。接種後の発熱・倦怠感は免疫応答(サイトカイン放出)による自然な反応です。「ワクチンで感染した」という誤解に基づく接種拒否を防ぐための重要な知識です。
- イ(正): 麻疹は基本再生産数(R₀)が12〜18と極めて高い感染力を持ち、免疫のない集団では圧倒的な感染拡大を起こします。成人での麻疹は肺炎(麻疹肺炎)・脳炎・中耳炎の合併症リスクが高く、小児より重症化しやすいことが知られています。
- ウ(正): B型肝炎ウイルス(HBV)の感染経路は血液・体液(性行為・母子感染・針刺し事故)が主であり、日常的な接触(握手・会話・同じ職場での勤務)では感染しません。医療従事者に対するHBVワクチン接種が推奨されているのは、血液・体液への暴露リスクがあるためです。
- エ(正): 腸チフス(Salmonella Typhi)・パラチフスは糞口感染(汚染食品・水の摂取)によって感染し、発熱・腹痛・下痢(または便秘)・バラ疹が特徴的症状です。国内発生はほぼなく、輸入感染症として海外渡航前のワクチン接種・食事・飲料水の衛生管理が重要です。
- オ(誤): 先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome: CRS)は、妊婦が風疹に罹患した際に風疹ウイルスが胎盤を通じて胎児に垂直感染することで生じます。「院内感染で新生児が発症する」という記述は誤りです。特に妊娠12週以前の感染では90%以上がCRSを発症します。
【理論的背景】
先天性風疹症候群(CRS)は、妊娠中の風疹罹患によって生じる胎児・新生児の先天異常群です。風疹ウイルスが胎盤の絨毛に感染し、胎児の血液循環に入ることで全身の臓器に感染・傷害をもたらします。
CRSの3主徴(先天性3主徴):
1. 先天性心疾患: 動脈管開存症(PDA)・肺動脈狭窄・心室中隔欠損
2. 難聴(感音性難聴): 内耳の蝸牛感覚細胞の障害
3. 白内障(先天性白内障): 水晶体の混濁
感染時期と発症リスク:
- 妊娠12週以前(第1三半期): CRS発症率約90%(非常に高い)
- 妊娠13〜20週: 発症率約10〜30%(主に難聴)
- 妊娠20週以降: 発症リスクが大幅に低下
風疹の流行と集団免疫:
- 日本では風疹ワクチン接種歴のない成人男性(1979〜1987年生まれの世代等)が免疫を持たない場合があり、成人男性での風疹流行が妊婦への感染リスクを高めます
- 妊婦は妊娠中に風疹ワクチン接種ができないため(生ワクチンのため胎児への安全性懸念)、妊娠前の接種確認・パートナー・家族への接種が重要
【実務・条文構造】
職場における感染症対策(就業管理・産業保健の実務):
感染症予防のワクチン推奨(職場・医療従事者):
| ワクチン | 種別 | 主な対象 |
|---|---|---|
| インフルエンザ(不活化) | 不活化 | 全職種(特に医療・福祉・高齢者施設) |
| B型肝炎(HBs抗原ワクチン) | 不活化 | 医療従事者・血液曝露リスク職種 |
| 麻疹・風疹(MRワクチン) | 生ワクチン | 免疫不明・未接種の全従業員 |
| 水痘(水痘ワクチン) | 生ワクチン | 免疫不明・未接種(特に医療従事者) |
| 腸チフス | 不活化 | 流行国への海外渡航者 |
風疹の職場での対応:
- 妊婦が職場で風疹感染リスクにさらされないよう、流行期には職場環境の感染対策強化
- 妊婦への風疹患者との接触禁止
- 職場での風疹発生時の産業医・保健師への報告と対応
生ワクチンと不活化ワクチンの違い(試験関連知識):
- 生ワクチン: 毒力を弱めた(弱毒化)生きた病原体を使用。BCG・麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜ・ロタウイルス等。免疫効果が強く長続きするが、免疫不全者・妊婦への接種禁忌
- 不活化ワクチン: 病原体を不活化(死菌・成分)した製剤。インフルエンザ・B型肝炎・日本脳炎・肺炎球菌等。感染の危険なし・免疫不全者・妊婦にも接種可能(医師判断)
【試験での位置づけ】
感染症の問題では「先天性風疹症候群の発症機序(妊婦の風疹感染→胎盤を通じた垂直感染・院内感染ではない)」「風疹3主徴(心疾患・難聴・白内障)」「インフルエンザワクチンは不活化ワクチン(生ワクチンではない)」「B型肝炎の感染経路(血液・体液媒介)」「麻疹の空気感染と成人での重症化リスク」が出題ポイントです。オのような「先天性風疹症候群=院内感染」という誤りは、垂直感染の概念を理解しているかを問う典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: インフルエンザワクチンの有効率は季節によって異なり(A型ウイルス株の変異と一致する年は高く、不一致の年は低い)、60〜70%程度とされています。ワクチン接種後の「ワクチンを打ったのに感染した」という事例は有効率が100%でないことと、接種後2週間程度で抗体が産生されるまでの間に感染した場合です。
- イ: 麻疹は「修飾麻疹(修飾はしか)」という概念も重要です。ワクチン接種者や以前に罹患した者が再感染した場合、症状が軽減・修飾されることがあり(発熱が軽度・発疹が不鮮明)、診断が困難になることがあります。
- ウ: 針刺し事故(Needle Stick Injury)は医療従事者におけるHBV・HCV(C型肝炎ウイルス)・HIV感染の主要リスクです。HBVは感染力が強く、HBVに感染した針刺しによる感染確率は30%前後と高く(HCV約3%・HIV約0.3%と比較して)、医療従事者への定期的なHBs抗体価の確認とブースター接種が重要です。
- エ: 腸チフスのワクチンは現在日本では輸入ワクチンとして使用されています。発展途上国への長期渡航者(NGO・技術協力・赴任)が対象となり、渡航前に旅行外来・検疫所で接種できます。感染予防の基本は安全な食品・飲料水の選択(加熱済み食品の摂取・ミネラルウォーター使用)です。
- オ: CRSの予防で最も重要なのは「妊娠前に風疹免疫を確認し、免疫がなければワクチン接種を行う」ことです。妊娠後はワクチン接種ができないため、妊娠前の免疫確認(抗体価検査)が推奨されます。夫・パートナー・職場同僚の免疫確保も妊婦への感染予防に重要です(接種後28日間は妊婦との接触を避ける必要がある)。
【根拠】医学的事実(確立した感染症学・ウイルス学・産科学)。先天性風疹症候群の発症機序(垂直感染)は産科学・感染症学の確立した知識。
【補足】先天性風疹症候群(CRS)は「妊婦の風疹感染→胎盤を通じた垂直感染」(院内感染ではない)。3主徴: 先天性心疾患・難聴・白内障。妊娠12週以前の感染では約90%が発症。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した感染症学・ウイルス学)。先天性風疹症候群(CRS)は妊婦の風疹感染→胎盤経由の垂直感染によって生じる(院内感染ではない)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。