衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問28:メンタルヘルス・健康保持増進
職場のメンタルヘルスにおける三次予防の体系に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア一次予防は、精神障害の発生そのものを防ぐことを目的とし、職場環境の改善・メンタルヘルス教育・セルフケアの推進・ストレス要因の除去・軽減などが含まれる。
- イ二次予防は、精神障害の早期発見と早期対応を目的とし、ストレスチェック・高ストレス者の面接指導・産業医による早期の相談対応などが含まれる。
- ウ三次予防は、精神障害から回復した労働者の職場復帰支援と再発防止を目的とし、職場復帰支援プログラムの運用(試し出勤・段階的な業務復帰)・復帰後のフォローアップが含まれる。
- エ職場環境の改善はすべて一次予防に分類され、職場復帰支援を行う際に復帰後の職場環境を調整する取り組みは三次予防ではなく二次予防として分類される。正答
- オ長時間労働・ハラスメント・過重な仕事量・対人関係の悪化は、一次予防の観点からの職場環境改善の対象となるストレス要因であり、事業者はこれらを適切に管理・低減する責任がある。
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誤りはエです。「職場復帰支援を行う際に復帰後の職場環境を調整する取り組みは三次予防ではなく二次予防」という記述が誤りです。職場復帰後の環境調整は三次予防に含まれます。三次予防は休職から回復した労働者が職場に復帰し、再発しないよう支援する段階であり、復帰後の職場環境調整・業務量の段階的な増加・フォローアップはすべて三次予防の一部です。
また「すべて一次予防に分類される」という断定も誤りで、環境改善が一次・二次・三次予防のどれに該当するかは「目的と対象者の状態(未発症者か発症者か回復者か)」によって異なります。ア・イ・ウ・オはすべて正しい内容です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 一次予防(Primary Prevention):疾病の発症前の集団全体への働きかけ。ストレス要因の除去・軽減(仕事の裁量権の付与・労働時間管理・ハラスメント防止)・メンタルヘルス教育・セルフケア研修・ラインケア研修が含まれます。
- イ(正): 二次予防(Secondary Prevention):症状の早期発見と早期対応。ストレスチェック制度・高ストレス者への面接指導・産業医・保健師による相談対応・早期の医療機関受診勧奨が含まれます。早期対応により重症化・長期化を防ぐことが目的です。
- ウ(正): 三次予防(Tertiary Prevention):疾病から回復した者への再発防止・社会復帰支援。職場復帰支援プログラム(復職判定・試し出勤制度・段階的業務復帰・フォローアップ面談)が含まれます。
- エ(誤): 「職場復帰後の環境調整は二次予防」は誤りです。職場復帰支援(試し出勤の仕組み・復帰後の業務量調整・上司・同僚への配慮指示・フォローアップ体制)はすべて三次予防に含まれます。また「職場環境の改善がすべて一次予防」という断定も誤りで、復帰後の環境調整は三次予防として分類されます。
- オ(正): 長時間労働・パワハラ・セクハラ・職場の人間関係悪化はメンタルヘルスの主要なストレス要因です。事業者には労働安全衛生法に基づく職場環境の改善義務があり、ハラスメント防止措置も法律で義務化されています(労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法等)。
【理論的背景】
三次予防の枠組みは公衆衛生学の古典的な概念(Leavell & Clark, 1965)をメンタルヘルス対策に応用したものです。公衆衛生では「一次:疾病発症の防止」「二次:早期発見・早期治療」「三次:後遺症の防止・社会復帰」という3段階で予防活動を体系化します。
職場のメンタルヘルスにおける三次予防体系の詳細:
一次予防(発症予防)の主な施策:
- ストレス要因の職場環境管理: 過重労働の防止(時間外労働の上限規制遵守)・適正な業務配分・裁量権の付与・ハラスメント防止措置
- 教育・情報提供: セルフケア研修・ラインケア研修・ストレス関連知識の普及啓発
- 組織的対応: 職場風土の改善(相談しやすい職場文化の醸成)
二次予防(早期発見・早期対応)の主な施策:
- ストレスチェック(年1回の義務的実施)・高ストレス者への面接指導
- 産業保健スタッフへの相談窓口の周知と相談の促進
- 管理監督者によるラインケア(変化への早期気づき)
- 早期の医療機関受診勧奨
三次予防(職場復帰支援・再発防止)の主な施策:
- 職場復帰支援プログラム(ガイドライン:5ステップ)
- 復職後の業務量の段階的増加管理
- 定期的なフォローアップ(産業医・上司・人事の連携)
- 再発の引き金となったストレス要因の特定と除去
【実務・条文構造】
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(改訂版)の5ステップ:
| ステップ | 内容 | 主な関与者 |
|---|---|---|
| 第1ステップ | 病気休業の開始及び休業中のケア | 主治医・産業保健スタッフ |
| 第2ステップ | 主治医による職場復帰可能の判断 | 主治医 |
| 第3ステップ | 職場復帰の可否の判断と職場復帰支援プランの作成 | 産業医・人事部門・管理監督者 |
| 第4ステップ | 最終的な職場復帰の決定 | 事業者(人事・管理監督者・産業医の総合判断) |
| 第5ステップ | 職場復帰後のフォローアップ | 産業保健スタッフ・管理監督者 |
試し出勤(リハビリ出勤)制度:
- 職場復帰前に「通勤訓練」「試し出勤(軽作業等)」を行い、復帰の準備をする
- 就業上の義務・賃金は生じないことが多い(各事業場の就業規則による)
- 医療機関のデイケア・リワークプログラムとの連携も有効
三次予防における職場環境調整の例:
- 復帰後一定期間の時間外労働禁止・短時間勤務制度の活用
- 業務量の段階的増加(最初は50%程度から→数か月かけて100%へ)
- ストレスが多かった業務・上司・同僚との関係の見直し
- 定期的な主治医との情報共有(労働者同意のもと)
【試験での位置づけ】
三次予防の問題では「一次(発症予防)・二次(早期発見)・三次(職場復帰・再発防止)の区別」「職場復帰後の環境調整は三次予防(二次ではない)」「一次予防の主な施策(ストレス要因除去・教育)」「二次予防のツール(ストレスチェック・面接指導)」「三次予防の5ステップ(手引き)」が出題ポイントです。エのような「職場復帰後の環境調整は二次予防」という誤りは、三次予防の定義を理解していないことから生じる混乱です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 一次予防において特に近年重要視されているのは「組織的なストレス要因の低減」(集団アプローチ)です。ストレスチェック制度の集団分析結果を活用して、特定の職場・部署のストレス要因を特定し、業務の再分配・上司の管理スタイルの改善等を行うことが、個人への教育研修(個人アプローチ)と組み合わせて推奨されています。
- イ: 二次予防としての「早期発見」の重要性は、精神障害が重症化する前に対応することで休業期間の短縮・回復の容易さにつながる点にあります。軽度のうつ状態で早期介入すれば数週間の治療で回復できる場合でも、重症化してからでは数か月〜数年の治療・休業が必要になる場合があります。
- ウ: 職場復帰支援(三次予防)における最大の課題は「再発予防」です。うつ病の再発率は高く(第1回発症後の再発率は50%以上、第3回以降は90%以上と言われる)、職場に戻った後も継続的なフォローアップが不可欠です。再発時に早期に対応できる「SOSルート」(誰に、どのように連絡するか)を復帰前に明確にしておくことが重要です。
- エ: 職場環境改善の「どの予防段階に属するか」は、対象(誰を対象とした改善か)によって決まります。全従業員対象のストレス低減策(一次予防)、高ストレス者の就業環境改善(二次予防)、休職からの復帰者の職場環境調整(三次予防)のように、同じ「職場環境改善」でも対象と目的によって区分が異なります。
- オ: ハラスメント(パワハラ・セクハラ・マタハラ等)は職場のメンタルヘルス悪化の重大な原因であり、2020年6月施行のパワハラ防止法(労働施策総合推進法改正)によって事業者のハラスメント防止措置が義務化されました。産業保健スタッフは職場のハラスメントをメンタルヘルス対策の一次予防の観点から位置づけ、防止策の立案・実施支援を行うことが求められています。
【根拠法令・指針】厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年・改正平成27年)・「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版)」。
【補足】職場復帰後の環境調整は「三次予防」(二次予防は誤り)。一次:発症予防(ストレス要因除去・教育)→二次:早期発見(ストレスチェック・面接指導)→三次:職場復帰・再発防止(復職プログラム・フォローアップ)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年・改正平成27年)。職場復帰時の環境調整は三次予防に含まれる。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。