衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問30:メンタルヘルス・健康保持増進
THP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アTHPは、労働安全衛生法第69条の規定に基づき、事業者が労働者の健康の保持増進を図るために行う措置に関する指針として厚生労働省が策定したものであり、主に健康な労働者を対象とした積極的な健康増進策である。
- イTHPにおいて実施される健康測定とは、産業医等の医師が労働者の生活習慣と運動機能(身体能力)・メンタルヘルス等を総合的に評価し、個々の労働者に応じた健康増進指導の内容を決定するための測定である。
- ウTHPは有害業務に従事する労働者の職業性疾病(じん肺・職業がん等)の発症予防を主目的とした制度であり、一般的な生活習慣病の予防や運動習慣の改善は対象外である。正答
- エTHPにおける専門的なスタッフとして、運動指導担当者・運動実践担当者・心理相談担当者・産業栄養指導担当者・産業保健指導担当者等が挙げられる。
- オTHPは「労働者の心身両面の健康保持増進」を目的としており、身体的な健康増進(運動指導・栄養指導)とメンタルヘルスケア(心理相談)の両方を含む総合的な取り組みである。
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誤りはウです。THPは「有害業務に従事する労働者の職業性疾病(じん肺・職業がん等)の発症予防を主目的とした制度」ではありません。THPはすべての労働者を対象とした心身の健康保持増進を目的とする制度であり、一般的な生活習慣病の予防・運動習慣の改善・メンタルヘルスケアが主な内容です。
有害業務対策(じん肺予防・職業がん予防)は、特化則・粉じん則・石綿則等の作業環境管理・特殊健康診断によって別途対応されます。THPはあくまで「健康な・または健康度を高めたい」労働者全体を対象とした積極的な健康増進策です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): THPは安衛法第69条(健康保持増進措置)を根拠として、厚生労働省が「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(THP指針)として策定しました。主に健康な労働者(既存疾患がない・または軽度の問題がある)を対象として、積極的に健康水準を高めることを目的としています。
- イ(正): THPの健康測定は、①生活状況調査(生活習慣・仕事の状況)②医学的検査(血圧・血液・心電図等)③運動機能検査(体力測定・柔軟性等)④メンタルヘルスチェック(ストレス・精神的健康度)の4つを総合的に実施します。
- ウ(誤): THPは有害業務対策ではなく、一般的な労働者の心身の健康保持増進を目的とした制度です。「有害業務従事者の職業性疾病予防が主目的」は明確な誤りです。生活習慣病の予防(食事指導・運動指導)・メンタルヘルスケア・運動習慣改善がTHPの主要な対象内容です。
- エ(正): THP指針では専門スタッフとして、産業医・保健師等の産業保健職のほか、①運動指導担当者(健康運動指導士等)②運動実践担当者(健康運動実践指導者等)③心理相談担当者(精神保健福祉士・公認心理師等)④産業栄養指導担当者(管理栄養士等)⑤産業保健指導担当者(保健師・看護師等)が規定されています。
- オ(正): THP(Total Health Promotion Plan)の「トータル」は「心身両面の総合的な健康」を意味します。身体的健康(運動・栄養・生活習慣病予防)とメンタルヘルス(心理相談・ストレス管理)の両方を包括した健康促進活動です。
【理論的背景】
THP(Total Health Promotion Plan)は1988年(昭和63年)に労働省(現厚生労働省)が策定した、職場における健康保持増進の指針です。当時の背景は、高齢化社会の進展・生活習慣病の増加・職場のメンタルヘルス問題の顕在化であり、「治療中心から予防・健康増進へ」という政策転換の一環として設計されました。
THPが「トータル(総合的)」と称する理由:
1. 対象の総合性: 身体的健康とメンタルヘルスの両方を対象
2. 方法の総合性: 健康測定・運動指導・栄養指導・心理相談の複数の専門アプローチを組み合わせ
3. 対象者の総合性: 特定の疾患や有害業務従事者に限らず、すべての労働者が対象
THPと定期健康診断の違い:
- 定期健康診断: 疾患の早期発見(二次予防)が主目的・法定義務
- THP: 健康な者のさらなる健康増進(一次予防・健康増進)が主目的・努力義務(法定ではない)
【実務・条文構造】
THP指針の主要内容:
健康測定の4構成要素:
| 測定内容 | 担当専門職 | 主な測定項目 |
|---|---|---|
| 生活状況調査 | 産業保健指導担当者 | 生活習慣・仕事の状況・睡眠・嗜好 |
| 医学的検査 | 産業医 | 血圧・血液検査・尿検査・心電図 |
| 運動機能検査 | 運動指導担当者 | 体力測定(最大酸素摂取量・筋力・柔軟性・平衡性) |
| メンタルヘルスチェック | 心理相談担当者 | ストレス・精神的健康度・疲労感 |
健康測定の結果に基づく個別指導:
| 指導内容 | 担当専門職 |
|---|---|
| 運動指導(プログラム作成・指導) | 運動指導担当者(健康運動指導士等) |
| 運動実践指導(グループ指導・実技) | 運動実践担当者(健康運動実践指導者等) |
| メンタルヘルスケア(心理相談) | 心理相談担当者(精神保健福祉士・公認心理師等) |
| 栄養指導 | 産業栄養指導担当者(管理栄養士等) |
| 保健指導(生活習慣・生活リズム) | 産業保健指導担当者(保健師・看護師等) |
THPと特殊健康診断の違い(有害業務対策との比較):
- 特殊健康診断: 有害業務従事者対象・義務的・職業病の発見(二次予防・職業病管理)
- THP: 全労働者対象・努力義務的・健康増進(一次予防・健康水準の向上)
- 対象・目的・根拠法令がすべて異なる別制度
【試験での位置づけ】
THPの問題では「有害業務対策ではなく一般労働者の健康増進(ウの誤りのポイント)」「健康測定の4要素(生活状況・医学的検査・運動機能・メンタルヘルス)」「専門スタッフの種類(運動指導・栄養・心理相談等)」「安衛法第69条が根拠」「心身両面の総合的健康増進」が頻出です。ウのような「有害業務対策」という誤った位置づけは、特殊健康診断・作業環境管理(有害業務対策の中核)とTHPを混同させる典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 安衛法第69条(健康保持増進措置)は「事業者の責務」として規定されており、法定義務(第66条の定期健康診断等)とは異なり努力義務的な性格を持ちます。しかし近年の過重労働問題・メンタルヘルス不調の増加を背景に、事業者がTHPを推進することの重要性は高まっています。
- イ: 運動機能検査(体力測定)はTHPの特徴的な要素です。定期健康診断では測定しない「体力・運動機能」を評価することで、個々の労働者に適した運動プログラムを作成できます。最大酸素摂取量(心肺機能の指標)・筋力・柔軟性・敏捷性・平衡性が主な測定項目です。
- ウ: THPが有害業務対策と混同されやすい理由は、どちらも「健康障害の防止」という目的を持つからです。しかし有害業務対策は「特定の有害要因による疾病の発症防止(二次予防)」であり、THPは「健康な労働者の健康水準のさらなる向上(健康増進)」という本質的な違いがあります。
- エ: 健康運動指導士・健康運動実践指導者は公益財団法人健康・体力づくり事業財団が認定する資格です。健康運動指導士は個々の特性に合わせた運動プログラムを作成・指導する上位資格、健康運動実践指導者はグループ指導・実技指導を担う資格です。
- オ: 現代のTHPはメンタルヘルスの要素が以前より重視されるようになっています。特に2015年のストレスチェック制度義務化以降、THP内のメンタルヘルスケア(心理相談・ストレス管理)の位置づけが強化され、ストレスチェックの集団分析結果を活用したTHPの取り組みが推奨されています。
【根拠法令・指針】労働安全衛生法(安衛法)第69条・厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(THP指針)。
【補足】THPは「有害業務対策」ではなく「全労働者の心身両面の健康保持増進」が目的。安衛法第69条が根拠。健康測定(生活状況・医学的検査・運動機能・メンタル)→個別指導(運動・栄養・心理相談)の体系。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(THP指針)。THPは有害業務対策ではなく、一般労働者の心身の健康保持増進を目的とする。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。