衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問38:食中毒・感染症
細菌性食中毒のうち感染型食中毒に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アサルモネラによる食中毒は感染型食中毒に分類され、原因食品として鶏卵・食肉等が多く、食後6〜48時間程度の潜伏期間を経て、嘔吐・下痢・腹痛・発熱などの症状が現れる。
- イ腸炎ビブリオは感染型食中毒の代表的な原因菌であり、3〜5%程度の食塩濃度で最もよく増殖する好塩菌であるが、熱に弱く、60℃・15分間の加熱で死滅する。
- ウカンピロバクターによる食中毒は感染型に分類され、少量の菌(100〜500個程度)でも感染が成立するため、加熱不十分な鶏肉や汚染された飲料水が主な感染源となる。
- エサルモネラは毒素型食中毒を起こす菌であり、腸管内で産生した毒素(エンテロトキシン)が下痢を引き起こす。食品中での毒素産生は起こらず、菌体の摂取のみで発症するわけではない。正答
- オ腸炎ビブリオは淡水には存在せず、海水・汽水中に生息する菌であり、夏季に海産物(生魚・貝類等)を介した食中毒発生が多い。
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誤りはエです。サルモネラは感染型食中毒の代表菌であり、毒素型ではありません。サルモネラは食品中では毒素を産生せず、菌体が腸管内に到達して増殖することで発症します(感染型)。「毒素型」「エンテロトキシン」という記述が誤りです(エンテロトキシンを産生するのは黄色ブドウ球菌など毒素型の菌です)。
感染型と毒素型の違いは頻出事項です。感染型: サルモネラ・腸炎ビブリオ・カンピロバクター。毒素型: 黄色ブドウ球菌・ボツリヌス菌。この区別が食中毒問題の核心です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): サルモネラは感染型食中毒の代表菌です。鶏卵(殻・内部の汚染)・食肉(特に鶏肉)が主な感染源で、潜伏期間は6〜48時間(多くは12〜24時間)です。発症すると嘔吐・下痢(水様性〜粘液性)・腹痛・発熱(38〜40℃)が特徴で、通常は3〜5日で自然回復しますが、乳幼児・高齢者・免疫不全者では重篤化する場合があります。
- イ(正): 腸炎ビブリオは好塩菌(3〜5%の食塩濃度で最適増殖)であり、海産物に多く生息します。熱には弱く、60℃・15分間または75℃・1分間の加熱で死滅するため、十分な加熱調理が予防の基本です。真水(淡水)でも殺菌効果があります。
- ウ(正): カンピロバクターは感染型食中毒菌で、非常に少量の菌数(100〜500個程度)で感染が成立するのが特徴です。加熱不十分な鶏肉(鶏刺し・バーベキュー等)が最大の感染源であり、未処理の飲料水(湧き水等)も感染源となります。潜伏期間が2〜7日と比較的長いのも特徴です。
- エ(誤): サルモネラは感染型食中毒の原因菌であり、毒素型ではありません。エンテロトキシンを産生するのは黄色ブドウ球菌(毒素型の代表)です。サルモネラは腸管内に定着・増殖した菌体が直接粘膜を障害することで発症します。「毒素産生型」「食品中で毒素を産生」という記述は完全な誤りです。
- オ(正): 腸炎ビブリオは海水・汽水に生息する海洋性の菌であり、淡水環境には存在しません。真水(淡水)で洗うと菌数が減少するため、魚介類を流水(水道水)でよく洗うことが有効な予防法です。夏季(7〜9月)の高水温期に増殖が活発になるため、夏の魚介類の生食に注意が必要です。
【理論的背景】
細菌性食中毒は病原機序によって「感染型」と「毒素型」に分類されます。この分類は感染源・潜伏期間・予防法・治療の考え方に直接影響するため、衛生管理の実践上非常に重要です。
感染型食中毒のメカニズム:
1. 汚染された食品を摂取する
2. 生きた病原菌が消化管に到達し、腸管粘膜に付着・侵入・増殖する
3. 菌体や菌体産生物質が腸管粘膜を直接障害し、炎症反応・下痢・発熱を引き起こす
4. 潜伏期間: 菌が増殖するまでの時間が必要→比較的長い(数時間〜数日)
5. 食品を加熱して菌を死滅させれば発症しない(菌体が問題)
毒素型食中毒のメカニズム:
1. 食品中で菌が増殖し、毒素を産生する
2. 毒素が蓄積した食品を摂取する
3. 既製の毒素が腸管または神経系に直接作用する
4. 潜伏期間: 毒素がすでに存在するため短い(黄色ブドウ球菌は1〜6時間)
5. 加熱しても耐熱性毒素(黄色ブドウ球菌のエンテロトキシン)は残存するため、食品の外観・臭いが正常でも発症しうる
【実務・条文構造】
主要な感染型食中毒菌の比較:
| 菌名 | 主な感染源 | 潜伏期間 | 特徴的症状 | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| サルモネラ | 鶏卵・食肉(特に鶏肉)・爬虫類(ペット) | 6〜48時間 | 嘔吐・下痢・発熱(38〜40℃) | 腸チフス菌もサルモネラ属。動物の常在菌。低温でも生存 |
| 腸炎ビブリオ | 海産物(生魚・貝類)・二次汚染 | 8〜24時間 | 激しい腹痛・水様性下痢・嘔吐 | 好塩菌(3〜5%食塩)・真水に弱い・夏季に多発 |
| カンピロバクター | 鶏肉(加熱不足)・ペット(糞便)・汚染水 | 2〜7日 | 下痢・腹痛・発熱 | 極少量(100〜500個)で感染成立。ギラン・バレー症候群を後遺症として合併することがある |
| 腸管出血性大腸菌(O157等) | 牛肉(特に生食)・サラダ・二次汚染 | 3〜8日 | 激しい腹痛・血性下痢・HUS | ベロ毒素(志賀毒素)産生→「毒素産生感染型」とも分類される |
予防の三原則(食中毒予防の共通原則):
1. 菌を付けない: 手洗い・調理器具の衛生管理・食材の取り扱い
2. 菌を増やさない: 適切な温度管理(冷蔵・冷凍)・早期消費
3. 菌を殺す: 加熱調理(中心温度75℃・1分以上・ノロウイルスは85〜90℃・90秒以上)
感染型食中毒と毒素型食中毒の予防上の違い:
- 感染型: 十分な加熱(菌を殺す)で予防できる
- 毒素型: 加熱では毒素を不活化できない場合がある(黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンは耐熱性が高い)→菌を増殖させないこと(温度管理・早期摂取)が最重要
【試験での位置づけ】
感染型と毒素型の分類問題は頻出であり、「サルモネラが毒素型」「ボツリヌスが感染型」という逆の記述が典型的な引っかけです。エのようにサルモネラを毒素型としてエンテロトキシンと結びつける選択肢は、黄色ブドウ球菌の知識を混入させた典型的な誤りです。各菌の「感染型 vs 毒素型」「主な感染源(食品)」「潜伏期間の長短(毒素型は短い)」「特異な予防法(腸炎ビブリオは真水で洗う等)」の4点を整理して記憶することが重要です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: サルモネラ食中毒の日本での発生件数は年間数百件〜数千件規模で推移しており、特に夏季に多い。サルモネラ属には2,500以上の血清型があり、腸チフス・パラチフスの原因菌もサルモネラ属ですが、食中毒の原因は主に非チフス性サルモネラ(Salmonella Typhimurium・Enteritidis等)です。鶏卵の殻の表面と卵内部(産卵時の垂直感染)の両方から汚染されます。
- イ: 腸炎ビブリオは増殖速度が非常に速く(最短8〜10分で2倍に)、夏季の高温(30〜37℃)下では食品中で急速に増殖します。真水(水道水)で洗うと浸透圧の差で菌が死滅するため、海産物の水洗いは有効な予防法です。包丁・まな板・手指への二次汚染も重要な感染経路です。
- ウ: カンピロバクターはギラン・バレー症候群(末梢神経障害)の先行感染として知られており、食中毒から数週間後に手足の麻痺・感覚障害が発症する場合があります。この関連はカンピロバクター問題の発展論点として重要です。
- エ: 黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンは耐熱性(100℃・30分の加熱でも分解されない)のため、食品を加熱しても毒素が残存し、食中毒が発症します。潜伏期間が1〜6時間と短く、主症状が激しい嘔吐(吐き気・嘔吐が主体で発熱は少ない)です。サルモネラと黄色ブドウ球菌は症状・潜伏期間・毒素の有無の3点で明確に区別されます。
- オ: 腸炎ビブリオの「好塩菌」という性質は、海水(塩分3.5%)に最適な増殖条件を持つことを意味します。3〜5%の食塩濃度を好むため、食塩水漬けにすれば安全というわけではなく、適切な塩分濃度の食品(漬物等)でも増殖可能です。一方、真水(食塩濃度ほぼ0%)では浸透圧の差により細胞が膨張・溶解して死滅します。
【根拠】医学的事実(食品衛生学・感染症学)。サルモネラの感染型分類・腸炎ビブリオの好塩性・カンピロバクターの少量感染はすべて確立した食品衛生学の事実。
【補足】感染型: サルモネラ・腸炎ビブリオ・カンピロバクター。毒素型: 黄色ブドウ球菌・ボツリヌス。サルモネラは毒素型ではない。腸炎ビブリオは好塩菌・真水に弱い・夏の海産物。カンピロバクターは少量感染・ギラン・バレー症候群のリスク。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(食品衛生学・感染症学)。サルモネラの病原機序(感染型)は確立した食品衛生学の事実。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。