問題
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(厚生労働省)における4つのメンタルヘルスケアに関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
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答え合わせ
- ア
- イ
- ウ
- エ
- オ
自信の3択
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解説
誤りはエです。「事業場外資源によるケアを活用すると、事業者の実施責任が事業場外資源に移転する」という記述が誤りです。事業場外資源(外部機関)を活用しても、メンタルヘルスケアの実施責任は依然として事業者(使用者)が負います。外部機関への委託は「補完・活用」であり、責任の転嫁ではありません。
4つのケアの各責任主体は「セルフケア=労働者」「ラインケア=管理監督者」「事業場内スタッフケア=産業医等」「事業場外資源ケア=外部機関(補完)」ですが、全体的な実施責任・管理責任は事業者にあります。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): セルフケアは労働者自身が自分のストレスに気づき・適切に対処することです。しかし「労働者が自発的に行えばよい」だけではなく、事業者側が「教育・研修の提供・相談できる機会の整備」を通じてセルフケアを支援する責任があります。事業者の支援なくして効果的なセルフケアは困難です。
- イ(正): ラインケアの「ライン」は指揮命令系統(line of authority)を意味し、具体的には部下を直接管理・監督する上司(直属の上司・班長・職長・課長等)を指します。ラインケアの内容: 部下の変化への気づき(遅刻・欠勤増加・ミス増加等の行動変化)・声かけ・相談を受ける・産業保健スタッフへの橋渡し・職場環境の改善です。
- ウ(正): 事業場内産業保健スタッフ等には産業医・保健師・看護師・衛生管理者のほか、「人事労務担当者」も含まれます。人事担当者は休職・復職・配置転換等の手続きを管理する立場から、メンタルヘルスケアに重要な役割を果たします。
- エ(誤): 指針は、事業場外資源の支援を活用することは有効としつつ、「事業場外資源の活用にあたっては、これに依存することにより事業者がメンタルヘルスケアの推進について主体性を失わないよう留意すべきである」としています。外部機関を活用しても、実施の主体は事業者のままです。
- オ(正): 4つのケアは「相互補完」であり、それぞれが異なる主体・異なる視点からの支援であるため、一つでは他のケアの役割を代替できません(例えば、産業保健スタッフがどれだけ充実していても、労働者本人のセルフケア意識が低ければ早期発見・早期対処が難しくなる)。「いずれか一つのケアで他を代替・省略することはできない」という記述は、4つのケアが「一体的に」機能することを求める指針の趣旨に沿った正しい内容です。
【理論的背景】
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針・平成18年3月31日公示・平成27年11月30日改正)は、日本の事業場でのメンタルヘルス対策の基盤となる指針です。4つのケアは「複数の異なる主体が異なるレベルで支援を行う多層的な防御システム」として設計されており、それぞれが不可欠な役割を担っています。
4つのケアの詳細比較:
| ケア | 主体 | 主な役割 | 典型的な活動 |
|---|---|---|---|
| セルフケア | 労働者本人 | ストレスへの気づき・対処 | ストレスチェック自己分析・相談窓口への自発的相談・生活習慣の改善 |
| ラインによるケア | 管理監督者(直属上司) | 部下の変化への気づき・相談対応・橋渡し・職場環境改善 | 異常行動の把握・面談実施・専門家への橋渡し・業務量調整 |
| 事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 産業医・保健師・衛生管理者・人事担当者 | 専門的評価・面接指導・職場環境の評価・改善策の立案 | ストレスチェック実施・高ストレス者面接・復職支援計画立案 |
| 事業場外資源によるケア | EAP機関・医療機関・精神保健福祉センター・産業保健総合支援センター等 | 事業場内で対応困難な専門的支援・外部相談窓口 | カウンセリング・精神科医療・産業保健相談・研修 |
4つのケアが相互連携する具体例(うつ病発症から復帰まで):
1. 労働者(セルフケア): 「最近やる気が出ない、眠れない」と気づき、ストレスチェックを受ける
2. 上司(ラインケア): 部下の「遅刻増加・会議での沈黙・ミス増加」に気づき、面談・声かけを行う。深刻な状態と判断し、産業医への相談を勧める
3. 産業医(事業場内スタッフ): 面接指導を実施し「うつ状態の疑い」と判断。主治医への受診を勧奨し、事業者への就業上の意見を提供
4. 医療機関(事業場外資源): 主治医がうつ病と診断・薬物療法・心理療法を実施
5. 復職時(全4つのケアが連携): 主治医の診断書(事業場外)→産業医の意見(事業場内スタッフ)→復職支援プラン作成(事業者・人事・上司)→本人の自己管理強化(セルフケア)
【実務・条文構造】
事業場外資源の種類と活用:
指針の定義では、事業場外資源とは「事業場外でメンタルヘルスケアへの支援を行う機関及び専門家」をいいます。厚生労働省のパンフレット(「労働者の心の健康の保持増進のための指針のあらまし」を収録)は、例として地域産業保健センター、都道府県産業保健総合支援センター、健康保険組合、労災病院、中央労働災害防止協会、労働衛生コンサルタント・産業カウンセラー・臨床心理士・精神保健福祉士等、精神科・心療内科等の医療機関、地域保健機関、医師会などを挙げています。
1. 産業保健総合支援センター:
- 47都道府県に配置され、ストレスチェックの導入、メンタルヘルス不調の予防から職場復帰支援までのメンタルヘルス対策全般について総合相談等を行う
2. 地域産業保健センター:
- 産業保健総合支援センターの地域窓口
- 医師と契約し保健指導や健康相談などの産業保健サービスを従業員に提供することが十分できない、従業員50人未満の事業場に産業保健サービスを無料で提供
- 必要な事業場内産業保健スタッフが確保できない小規模事業場では、衛生推進者又は安全衛生推進者を事業場内メンタルヘルス推進担当者として選任し、地域産業保健センター等の事業場外資源の支援を積極的に活用することが有効とされる
事業者の実施責任(指針の位置づけ):
指針は、事業場外資源を活用する場合、サービスが適切に実施できる体制や情報管理が適切に行われる体制が整備されているか等を事前に確認することが望ましいとし、さらに「これに依存することにより事業者がメンタルヘルスケアの推進について主体性を失わないよう留意すべきである」としています。事業者は、心の健康づくり計画の策定、関係者への事業場の方針の明示、相談体制の整備、教育研修の機会の提供、事業場外資源とのネットワーク形成などを自ら行います。
【試験での位置づけ】
4つのケアの問題では「セルフケアの主体(労働者本人)」「ラインケアの主体(管理監督者=直属上司)とその内容(気づき・相談・橋渡し)」「事業場内スタッフ(産業医・保健師・衛生管理者・人事担当者)の役割」「外部資源活用後も事業者責任が残る(エが誤り)」「4つのケアは相互補完・省略不可(オは正しい)」が頻出です。エのような「外部委託=責任移転」という誤りは、安全配慮義務の考え方(外部委託しても事業者責任は残る)と矛盾する典型的な引っかけです。一方オの「いずれか一つのケアで他を代替・省略できない」は指針の趣旨に沿った正しい記述であり、本問の正答はエです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 指針は、労働者自身がストレスに気づき、これに対処するための知識、方法を身につけ、それを実施することが重要であるとし、ストレスに気づくためには、ストレス要因に対するストレス反応や心の健康について理解し、自らのストレスや心の健康状態について正しく認識できるようにする必要があるとしています。事業者はセルフケアに関する教育研修・情報提供と相談体制の整備を行います。
- イ: 指針はラインによるケアを「労働者と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行う」ものとしています。管理監督者は日常的に労働者からの自発的な相談に対応するよう努め、長時間労働等により疲労の蓄積が認められる労働者などからは話をよく聴き、必要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すこととされています。
- ウ: 衛生管理者はメンタルヘルスケアにおいて「産業医と労働者・管理監督者の橋渡し役」として重要な機能を担います。職場巡視での異常の早期発見、労働者からの相談窓口としての機能、産業医への情報提供等が主な役割です。人事担当者との連携(休職・復職手続き・就業規則の運用)も衛生管理者の重要な実務です。
- エ: 労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。外部のカウンセラーや医療機関を活用しても、事業者がこの配慮を行う立場にあることは変わりません。
- オ: 4つのケアが一体的に機能することの重要性は、各ケアが「縦の支援ライン」(個人→上司→産業保健スタッフ→事業者)と「横の支援ライン」(外部資源との連携)を形成し、メンタルヘルス不調者をどこかで必ず拾い上げる網の目のような機能を果たすためです。一つのケアが機能しなくても他のケアがカバーするという冗長性と、各ケアの専門性・立場の違いから生じるシナジー効果が求められます。
【根拠】「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日健康保持増進のための指針公示第3号、改正 平成27年11月30日同公示第6号)、厚生労働省パンフレット(「労働者の心の健康の保持増進のための指針のあらまし」)、労働契約法第5条。
【補足】4つのケア: セルフケア(労働者本人)・ラインケア(直属上司)・事業場内スタッフ(産業医・保健師等)・事業場外資源(EAP・医療機関等)。外部資源活用後も事業者責任は残る(責任移転なし)。4つのケアは相互補完・省略不可。
- 労働契約法第5条e-Govで原文を読む
出典と作り方
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日健康保持増進のための指針公示第3号、改正 平成27年11月30日同公示第6号)。4つのケアの定義と、事業場外資源に依存して事業者が主体性を失わないよう留意すべきこと。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

