労働衛生(有害業務以外)57メンタルヘルス・健康保持増進

衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問57:メンタルヘルス・健康保持増進

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(厚生労働省)における4つのメンタルヘルスケアに関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 「セルフケア」は、労働者が自分自身のストレスに気づき・対処するためのケアであり、事業者はストレス及びメンタルヘルスに関する教育・研修を行うとともに、労働者が自発的に相談できる機会を提供することが求められる。
  • 「ラインによるケア」は、職場の管理監督者(上司・班長・職長等)が部下の職場環境改善・相談対応・早期発見・産業保健スタッフへの橋渡し等を行うケアであり、「ライン」とは具体的に指揮命令系統上の直属の上司を指す。
  • 「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」は、産業医・保健師・衛生管理者・人事労務担当者等が、ストレスチェックの実施・健康相談・面接指導・職場環境の評価・改善策の提案等を担うケアである。
  • 「事業場外資源によるケア」は、事業場内で対応できない専門的ケアを外部機関(EAP(従業員支援プログラム)機関・医療機関・精神保健福祉センター・産業保健総合支援センター等)が提供するケアであり、事業場外資源を活用すると事業者のメンタルヘルスケアの実施責任が事業場外資源に移転する。正答
  • 4つのケアは相互に連携・補完し合うことが重要であり、「ラインによるケア」が機能するためには「セルフケア」の取組みが前提となる部分もあるなど、各ケアはそれぞれ異なる主体・視点からの支援を担うため、いずれか一つのケアで他のケアを代替・省略することはできない。
正答:「事業場外資源によるケア」は、事業場内で対応できない専門的ケアを外部機関(EAP(従業員支援プログラム)機関・医療機関・精神保健福祉センター・産業保健総合支援センター等)が提供するケアであり、事業場外資源を活用すると事業者のメンタルヘルスケアの実施責任が事業場外資源に移転する。

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誤りはエです。「事業場外資源によるケアを活用すると、事業者の実施責任が事業場外資源に移転する」という記述が誤りです。事業場外資源(外部機関)を活用しても、メンタルヘルスケアの実施責任は依然として事業者(使用者)が負います。外部機関への委託は「補完・活用」であり、責任の転嫁ではありません。

4つのケアの各責任主体は「セルフケア=労働者」「ラインケア=管理監督者」「事業場内スタッフケア=産業医等」「事業場外資源ケア=外部機関(補完)」ですが、全体的な実施責任・管理責任は事業者にあります。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): セルフケアは労働者自身が自分のストレスに気づき・適切に対処することです。しかし「労働者が自発的に行えばよい」だけではなく、事業者側が「教育・研修の提供・相談できる機会の整備」を通じてセルフケアを支援する責任があります。事業者の支援なくして効果的なセルフケアは困難です。
  • イ(正): ラインケアの「ライン」は指揮命令系統(line of authority)を意味し、具体的には部下を直接管理・監督する上司(直属の上司・班長・職長・課長等)を指します。ラインケアの内容: 部下の変化への気づき(遅刻・欠勤増加・ミス増加等の行動変化)・声かけ・相談を受ける・産業保健スタッフへの橋渡し・職場環境の改善です。
  • ウ(正): 事業場内産業保健スタッフ等には産業医・保健師・看護師・衛生管理者のほか、「人事労務担当者」も含まれます。人事担当者は休職・復職・配置転換等の手続きを管理する立場から、メンタルヘルスケアに重要な役割を果たします。
  • エ(誤): 事業場外資源を活用することはメンタルヘルスケアの充実に有効ですが、事業者の実施責任は外部機関に移転しません。外部のEAP機関・医療機関・産業保健総合支援センター等への委託は、事業場内での対応を補完するものであり、事業者はメンタルヘルス対策の計画・評価・改善の責任を継続して負います。
  • オ(正): 4つのケアは「相互補完」であり、それぞれが異なる主体・異なる視点からの支援であるため、一つでは他のケアの役割を代替できません(例えば、産業保健スタッフがどれだけ充実していても、労働者本人のセルフケア意識が低ければ早期発見・早期対処が難しくなる)。「いずれか一つのケアで他を代替・省略することはできない」という記述は、4つのケアが「一体的に」機能することを求める指針の趣旨に沿った正しい内容です。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針・平成18年告示・平成27年改正)は、日本の事業場でのメンタルヘルス対策の基盤となる指針です。4つのケアは「複数の異なる主体が異なるレベルで支援を行う多層的な防御システム」として設計されており、それぞれが不可欠な役割を担っています。

4つのケアの詳細比較:

| ケア | 主体 | 主な役割 | 典型的な活動 |

|---|---|---|---|

| セルフケア | 労働者本人 | ストレスへの気づき・対処 | ストレスチェック自己分析・相談窓口への自発的相談・生活習慣の改善 |

| ラインによるケア | 管理監督者(直属上司) | 部下の変化への気づき・相談対応・橋渡し・職場環境改善 | 異常行動の把握・面談実施・専門家への橋渡し・業務量調整 |

| 事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 産業医・保健師・衛生管理者・人事担当者 | 専門的評価・面接指導・職場環境の評価・改善策の立案 | ストレスチェック実施・高ストレス者面接・復職支援計画立案 |

| 事業場外資源によるケア | EAP機関・医療機関・精神保健福祉センター・産業保健総合支援センター等 | 事業場内で対応困難な専門的支援・外部相談窓口 | カウンセリング・精神科医療・産業保健相談・研修 |

4つのケアが相互連携する具体例(うつ病発症から復帰まで):

1. 労働者(セルフケア): 「最近やる気が出ない、眠れない」と気づき、ストレスチェックを受ける

2. 上司(ラインケア): 部下の「遅刻増加・会議での沈黙・ミス増加」に気づき、面談・声かけを行う。深刻な状態と判断し、産業医への相談を勧める

3. 産業医(事業場内スタッフ): 面接指導を実施し「うつ状態の疑い」と判断。主治医への受診を勧奨し、事業者への就業上の意見を提供

4. 医療機関(事業場外資源): 主治医がうつ病と診断・薬物療法・心理療法を実施

5. 復職時(全4つのケアが連携): 主治医の診断書(事業場外)→産業医の意見(事業場内スタッフ)→復職支援プラン作成(事業者・人事・上司)→本人の自己管理強化(セルフケア)

【実務・条文構造】

事業場外資源の種類と活用:

1. EAP(Employee Assistance Program: 従業員支援プログラム):

- 外部EAP機関に委託してカウンセリング・ストレス相談等を提供

- 労働者が匿名で相談できるため、プライバシーを守りながらセルフケアを支援

- 事業者の責任でEAP機関を選定・契約し、労働者が利用できる環境を整備

2. 産業保健総合支援センター(さんぽセンター):

- 都道府県ごとに設置された産業保健の支援機関(労働者健康安全機構が運営)

- 小規模事業場への産業保健サービスの提供・産業医・産業保健スタッフへの研修・相談

3. 精神保健福祉センター:

- 都道府県・政令指定都市に設置された精神保健の専門機関

- 個人・家族・事業場からの相談対応・精神保健福祉士・臨床心理士等が対応

4. 地域産業保健センター:

- 地区医師会が設置・小規模事業場(50人未満)の産業保健支援

- 健康相談・面接指導・職場環境の評価・相談

事業者の実施責任(指針の位置づけ):

外部資源への委託はあくまでも「事業者が主体となって行うメンタルヘルス対策の一環」です。事業者は外部機関を活用しても、①メンタルヘルス方針・目標の設定、②メンタルヘルスケア計画の立案・実施・評価・改善(PDCAサイクル)、③労働者への情報提供・環境整備の責任を持ち続けます。

【試験での位置づけ】

4つのケアの問題では「セルフケアの主体(労働者本人)」「ラインケアの主体(管理監督者=直属上司)とその内容(気づき・相談・橋渡し)」「事業場内スタッフ(産業医・保健師・衛生管理者・人事担当者)の役割」「外部資源活用後も事業者責任が残る(エが誤り)」「4つのケアは相互補完・省略不可(オは正しい)」が頻出です。エのような「外部委託=責任移転」という誤りは、安全配慮義務の考え方(外部委託しても事業者責任は残る)と矛盾する典型的な引っかけです。一方オの「いずれか一つのケアで他を代替・省略できない」は指針の趣旨に沿った正しい記述であり、本問の正答はエです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: セルフケアの具体的な方法として、「ストレスへの気づき(ストレスチェックの自己分析・日記法・体の変化への注目)」「ストレスへの対処(問題焦点型コーピング・情動焦点型コーピング・リラクゼーション法)」「社会的サポートの活用(上司・同僚・家族・専門家への相談)」が指針で推奨されています。事業者はこれらのセルフケアの方法についての教育・研修を提供する責任があります。
  • イ: ラインケアの困難点として、「管理監督者自身がメンタルヘルス不調になっている場合」「部下との関係が良好でない場合(ハラスメント関係等)」「管理監督者がメンタルヘルスの知識・対応スキルを持っていない場合」が挙げられます。このため、管理監督者へのメンタルヘルス研修(「メンタルヘルス・マネジメント検定」等)の実施が推奨されています。
  • ウ: 衛生管理者はメンタルヘルスケアにおいて「産業医と労働者・管理監督者の橋渡し役」として重要な機能を担います。職場巡視での異常の早期発見、労働者からの相談窓口としての機能、産業医への情報提供等が主な役割です。人事担当者との連携(休職・復職手続き・就業規則の運用)も衛生管理者の重要な実務です。
  • エ: 事業者責任の継続は、労働契約法第5条(安全配慮義務)の観点からも明確です。外部のカウンセラーや医療機関を活用しても、事業者は「労働者が健康に働けるよう配慮する義務」を負い続けます。外部機関が適切なサービスを提供しなかったことで労働者が損害を被った場合、事業者が適切な外部機関を選定・活用する義務を怠った場合は使用者責任(民法第715条)が問われる可能性もあります。
  • オ: 4つのケアが一体的に機能することの重要性は、各ケアが「縦の支援ライン」(個人→上司→産業保健スタッフ→事業者)と「横の支援ライン」(外部資源との連携)を形成し、メンタルヘルス不調者をどこかで必ず拾い上げる網の目のような機能を果たすためです。一つのケアが機能しなくても他のケアがカバーするという冗長性と、各ケアの専門性・立場の違いから生じるシナジー効果が求められます。

【根拠】厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成27年改正・基発0501第3号)。4つのケアの定義・責任の所在・相互連携の在り方に準拠。

【補足】4つのケア: セルフケア(労働者本人)・ラインケア(直属上司)・事業場内スタッフ(産業医・保健師等)・事業場外資源(EAP・医療機関等)。外部資源活用後も事業者責任は残る(責任移転なし)。4つのケアは相互補完・省略不可。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成27年改正)。4つのケアの定義と責任の所在。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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