衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問60:メンタルヘルス・健康保持増進
THP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- アTHPは「労働安全衛生法第69条」に基づく「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に示されたものであり、健康診断の結果、異常所見のある労働者を対象とする「疾病管理」プログラムである。
- イTHPの主要な担当者(健康づくりスタッフ)の一つである「運動指導担当者」は、運動プログラムの作成・指導を担い、労働者の生活状況・体力等の評価に基づいた個別の運動処方を行う役割を担う。正答
- ウTHPにおける「産業栄養指導担当者」の役割は、食事摂取量の調査・食習慣の改善指導・栄養士としての給食管理のみであり、職場の心理的ストレスに関連する食行動の変化への対応は含まれない。
- エTHPは労働者の「身体的健康」の保持増進のみを目的とした制度であり、「心の健康」(メンタルヘルス)はTHPの対象外とされており、メンタルヘルス対策はストレスチェック制度(安衛法第66条の10)が担う。
- オTHPの実施は、50人以上の労働者を使用する事業場に法令上の義務として課されており、未実施の場合は安衛法違反として罰則が適用される。
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正しいのはイです。THPの「運動指導担当者」は、各労働者の生活状況・体力等の評価に基づいて個別の運動プログラムを作成・指導する役割を担います。集団的な運動指導ではなく、個人の状況に応じた「運動処方」を行うのが特徴です。
アは誤りです(THPは有所見者のみを対象とした「疾病管理」ではなく、全労働者を対象とした「健康保持増進」が目的)。ウは誤りです(産業栄養指導担当者は食習慣だけでなく、ストレスと食行動の関係も扱う)。エは誤りです(THPはメンタルヘルスも含む)。オは誤りです(THPは法令義務ではなく努力義務)。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): THPは健康診断で異常所見のある労働者を対象とした「疾病管理プログラム」ではありません。THPは「現在健康である労働者も含む全労働者」を対象とした健康保持増進のための総合的なプログラムです。特定の疾患・リスクを持つ人だけでなく、健康な人がさらに健康になることを目指します(1次予防・ウェルネス促進が中心)。
- イ(正): 運動指導担当者は、健康測定の結果に基づいて「個人の体力・生活状況・健康状態に適した運動処方(頻度・強度・時間・種類)」を作成し、実際の運動指導を行う専門スタッフです。「集団への一律の運動指導」ではなく「個別の運動処方」が特徴です。
- ウ(誤): 産業栄養指導担当者(管理栄養士・栄養士が担当)の役割には、食習慣・栄養の改善指導だけでなく、「ストレスと食行動の関係(ストレス食い・食欲不振等)」への対応も含まれます。THPは身体的健康とメンタルヘルスを統合的に扱うため、食行動とストレスの関連も支援の対象です。
- エ(誤): THPは身体的健康だけでなく、「心の健康」(メンタルヘルス)も含む「全人的健康(Total Health)」の保持増進を目指すプログラムです。「Total」という名称にその哲学が表れており、身体的・精神的・社会的健康を統合的に扱います。「心の健康はTHPの対象外」は誤りです。ストレスチェック制度はTHPとは別の法定制度ですが、両者は相補的な関係にあります。
- オ(誤): THPの実施は法令上の義務ではなく、事業者の努力義務(任意の取組み)です。安衛法第69条は「事業者は、労働者の健康の保持増進を図るため、(中略)必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない」(努力義務)と規定しており、未実施でも罰則はありません(ストレスチェックの義務(安衛法第66条の10)とは異なります)。
【理論的背景】
THP(Total Health Promotion Plan: トータル・ヘルスプロモーション・プラン)は、1988年(昭和63年)に厚生労働省(旧労働省)が「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」として策定し、令和3年(2021年)に大幅改正されたものです。WHOのヘルスプロモーション(Health Promotion)の概念を職域(Occupational Health)に応用したもので、「Disease Prevention(疾病予防)」を超えた「Wellness(良好な健康状態・活力の実現)」を目指します。
THPの目的と対象:
- 目的: 働く人の「心身の良好な状態(ウェルネス)」の実現・職場生産性の向上
- 対象: 健康な労働者も含む全労働者(有所見者のみを対象とした疾病管理とは本質的に異なる)
- 特徴: 「病気を治す」のではなく「健康な人がさらに健康になれるよう支援する」
WHOのヘルスプロモーション定義(オタワ憲章・1986年): 「人々が自らの健康をコントロールし改善できるようにするプロセス」。個人の行動変容だけでなく、健康を支える環境整備(職場環境の改善・社会的サポート)も重視します。
【実務・条文構造】
THPの実施体制と健康づくりスタッフ(令和3年改正指針):
健康づくりスタッフの種類と役割:
1. 産業医: 健康保持増進措置の実施計画の作成・健康測定の実施(労働者の健康状態の総合評価)・スタッフへの指導
2. 運動指導担当者(健康運動指導士等):
- 健康測定の結果に基づいた「個別の運動プログラム(運動処方)」の作成
- 運動指導の実施(筋力トレーニング・有酸素運動・ストレッチ等)
- 体力評価(体力測定)の実施
3. 産業栄養指導担当者(管理栄養士・栄養士等):
- 食習慣調査・栄養評価
- 個別の栄養指導(食習慣の改善)
- ストレスと食行動の関係も含む包括的な食・栄養支援
4. 産業保健指導担当者(保健師・看護師等):
- 健康測定(血圧・身体測定等)の実施
- 保健指導(生活習慣改善・禁煙指導等)
- 健康相談
5. 運動実践担当者(健康運動実践指導者等):
- 運動指導担当者が作成した運動プログラムに基づく実際の運動指導
- スポーツ活動・体操等の集団指導
THP実施の4つのステップ:
1. 健康測定: 産業医による健康状態・生活状況・体力等の測定・評価
2. 指導計画の作成: 健康測定の結果に基づく個別の保健指導計画・運動指導計画の作成
3. 指導の実施: 運動指導・保健指導・栄養指導等の実施
4. 評価・改善: 効果の評価とプログラムの改善(PDCAサイクル)
令和3年改正の主要ポイント:
- メンタルヘルスの明示的な組み込み(身体的健康と精神的健康の統合)
- データヘルス計画との連携(健保組合・協会けんぽとの協働)
- テレワーク・多様な働き方への対応(在宅勤務者への支援策の追加)
【試験での位置づけ】
THPの問題では「全労働者が対象(有所見者のみではない)」「THP=努力義務(法令義務ではない・罰則なし)」「運動指導担当者の役割(個別の運動処方・健康状態に基づいた計画)」「THPは身体的健康だけでなく心の健康も対象(全人的健康)」が頻出です。アのように「疾病管理が目的」とする選択肢、エのように「メンタルヘルスがTHP対象外」とする選択肢、オのように「50人以上に義務」とする選択肢(ストレスチェックとの混同)は典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: THPが「全労働者対象の1次予防・ウェルネス促進」という特徴は、従来の産業保健が「疾病の早期発見・治療(2次・3次予防)」に主眼を置いていた反省から来ています。健康な人が運動習慣・食習慣・休養等を改善することで、将来の疾病発症を予防するとともに現在の活力・仕事への集中力を向上させる「ポジティブヘルス」の概念が基盤にあります。
- イ: 運動指導担当者が作成する「運動処方」の具体例: 「週3回・1回30分・最大心拍数の70%の強度のジョギング+週2回の筋力トレーニング(体重の30%の負荷・10回×3セット)」のように、頻度・強度・時間・種類(FITT: Frequency-Intensity-Time-Type)を具体的に示します。高血圧・糖尿病・肥満等のリスク因子を持つ者への運動処方は産業医との連携が必要です。
- ウ: 産業栄養指導担当者がストレスと食行動の関係を扱う理由は、職場のストレスが「過食・偏食・不規則な食事・アルコール依存」等の食行動の変化を引き起こすことが多いためです。食習慣の改善支援を通じてストレスへの対処能力を高めることが、メンタルヘルス支援の一環として重要視されています。
- エ: 令和3年の指針改正でメンタルヘルスがTHPに明示的に組み込まれたことで、「産業医のもとで行われるメンタルヘルス支援(保健指導・ストレス対処指導)」がTHPの一部として位置づけられました。ストレスチェック制度(法定・50人以上義務)とTHP(任意・努力義務)は重複する部分もありますが、目的・対象・義務性の点で異なる制度です。
- オ: 「50人以上で義務」という誤りは、ストレスチェック制度(安衛法第66条の10・常時50人以上の事業場に実施義務)との混同から生じます。THPは任意の取組みであり、政府・独立行政法人(労働者健康安全機構等)が事業場に対してTHPの導入支援・補助を行っています。特に中小企業では産業保健総合支援センター(さんぽセンター)を活用したTHPの導入支援を受けることができます。
【根拠】厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(昭和63年制定・令和3年改正)。THPの目的・健康づくりスタッフの役割・実施の義務性。
【補足】THP: 全労働者対象(有所見者のみではない)の健康保持増進・努力義務(法令義務・罰則なし)・身体的健康とメンタルヘルスの両方が対象。運動指導担当者: 健康測定に基づく個別の運動処方が役割。ストレスチェック(50人以上義務)と混同しない。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(昭和63年策定・令和3年改正)。THPの定義・健康づくりスタッフの役割。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。