衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問59:メンタルヘルス・健康保持増進
長時間労働者に対する医師の面接指導に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア事業者は、時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超えた労働者であって、疲労の蓄積が認められるものについて、当該労働者の申出に基づき医師による面接指導を実施しなければならない。
- イ研究開発業務に従事する労働者について、1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えた場合は、労働者からの申出がなくても、事業者は医師による面接指導を実施しなければならない。
- ウ高度プロフェッショナル制度対象労働者(「高プロ」)については、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合における当該超えた時間が1か月当たり100時間を超えた場合に面接指導の実施が必要とされる。
- エ面接指導の結果、医師が就業上の措置(就業制限・配置転換・休業等)を必要と判断した場合、事業者はその医師の意見を参考として就業上の措置を決定し、必要な措置を講じる義務を負う。
- オ長時間労働者への面接指導は、労働者が申し出てから1か月以内に実施すれば足り、申出から1か月を超えて実施することは法令上の義務違反とはならない。正答
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誤りはオです。長時間労働者への面接指導は、労働者が申し出てから遅滞なく実施しなければなりません(安衛則第52条の4)。「1か月以内に実施すれば足りる」という表現は誤りで、申出から長期間待たせることは法令の趣旨に反します。「遅滞なく」という表現は「できる限り速やかに」を意味し、具体的な日数は定められていませんが、速やかに実施することが求められます。
ア(80時間超・労働者申出が必要)・イ(研究開発業務は100時間超・申出不要)・ウ(高プロは100時間超)・エ(医師の意見を参考に事業者が措置決定)はいずれも正しい内容です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 一般的な長時間労働者への面接指導の要件: ①時間外・休日労働時間が1か月80時間超、②疲労の蓄積が認められる、③労働者からの申出がある(3条件すべて必要)。「労働者の申出」が要件の一つであることが重要で、事業者側から強制的に面接指導を行うことはできません(ただし努力義務として面接指導の勧奨は可能)。
- イ(正): 研究開発業務(安衛法第66条の8の2)に従事する労働者については、月100時間超の時間外・休日労働が発生した場合は、申出なしに(自動的に)事業者は面接指導を行う義務があります。一般の労働者(申出要件あり)との違いが重要です。
- ウ(正): 高度プロフェッショナル制度対象労働者(安衛法第66条の8の4)は労働時間ではなく「健康管理時間」(事業場内にいた時間+事業場外で業務に従事した時間)で管理されます。1週間の健康管理時間が40時間を超えた部分の合計が1か月100時間超で面接指導が必要です。
- エ(正): 面接指導後の措置(安衛法第66条の8第5項): 事業者は医師の意見を参考として、必要に応じて就業上の措置(労働時間の短縮・配置転換・休業等)を講じる義務があります。医師の意見には法的拘束力はありませんが、事業者は「参考」として就業上の措置を決定する義務を負います。
- オ(誤): 面接指導の実施時期(安衛則第52条の4): 「申出があった場合は遅滞なく行わなければならない」とされており、「1か月以内に実施すれば足りる」という期限はありません。「遅滞なく」は速やかに対応することを求めており、長期間にわたって対応しないことは法令の趣旨に反します。実務上は「申出から2週間以内」程度の対応が望ましいとされています。
【理論的背景】
長時間労働は脳・心臓疾患(過労死:カロウシ)の主要な危険因子として認識されており、日本では「過労死等防止対策推進法」(平成26年施行)に基づく各種施策が実施されています。労働安全衛生法における面接指導制度は、長時間労働による健康障害を未然に防ぐための医学的スクリーニング・介入の制度です。
過労死・過労自殺のメカニズム:
- 脳・心臓疾患(過労死): 長時間労働→慢性的な過緊張状態→交感神経系の持続的活性化→血圧上昇・凝固系の亢進→脳卒中(脳出血・くも膜下出血)・急性心筋梗塞・大動脈解離等
- 精神障害(過労自殺): 長時間労働→精神的疲弊→うつ病・適応障害→自殺念慮→自殺企図
時間外労働時間と健康リスクの関係(疫学的エビデンス):
- 月45時間超: 健康への影響が出始める(業務起因性が認められる始点)
- 月80時間超: 脳・心臓疾患発症リスクが有意に上昇(「過労死ライン」)
- 月100時間超: 発症リスクが急上昇する「過労死過重ライン」
- 2〜6か月平均80時間超: 過労死認定基準(労災認定の目安)
【実務・条文構造】
長時間労働者への面接指導の種類と要件(安衛法・安衛則の整理):
一般労働者(安衛法第66条の8・安衛則第52条の2〜):
- 対象: 時間外・休日労働が月80時間超かつ疲労の蓄積が認められる労働者
- 申出要件: 労働者からの申出が必要
- 実施時期: 申出後遅滞なく
- 事業者義務: 申出があった場合の面接指導の実施・結果に基づく措置
研究開発業務従事労働者(安衛法第66条の8の2・安衛則第52条の7の2〜):
- 対象: 時間外・休日労働が月100時間超の場合
- 申出要件: 申出不要(自動的に面接指導の義務発生)
- 実施時期: 100時間超と確認された後遅滞なく
高度プロフェッショナル制度対象労働者(安衛法第66条の8の4・安衛則第52条の7の4〜):
- 対象: 週40時間超の健康管理時間の累計が月100時間超の場合
- 申出要件: 申出不要(自動的に義務発生)
- 面接指導後の産業医の意見聴取・就業措置が一般労働者より強制力が高い
面接指導の実施手順(安衛則第52条の3〜第52条の8):
1. 事業者が対象者(時間外労働80時間超)を把握・本人への通知
2. 労働者の申出(希望)
3. 事業者が「遅滞なく」医師(産業医等)による面接指導を実施
4. 医師が面接指導の結果・就業上の措置についての意見を事業者に提供
5. 事業者が意見を参考として就業上の措置を決定・実施
6. 面接指導の記録を5年間保存
【試験での位置づけ】
長時間労働面接指導の問題では「80時間超・申出要件あり(一般)vs 100時間超・申出不要(研究開発・高プロ)」「実施時期は遅滞なく(1か月以内という期限はない)」「医師の意見に拘束力なし・事業者が最終判断」「記録の保存期間(5年間)」が頻出です。オのように「1か月以内に実施すれば足りる」という誤り選択肢は、「遅滞なく」という法令上の表現を「1か月以内」という具体的な期限に換えて誤りにする典型的な引っかけです。一般労働者(申出必要)と研究開発業務(申出不要)の違いは最頻出の比較論点です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「疲労の蓄積が認められる」という要件は、自己申告(疲労の自覚症状)だけでなく、客観的な状況(勤務実態・健診結果等)も含む概念です。この要件があるため、月80時間を超えても本人が申し出ず「疲労の蓄積がない」と判断すれば面接指導が行われない可能性があります。これが「申出制度の限界」として指摘される理由です。
- イ: 研究開発業務を「申出不要」とした理由は、研究開発業務の性質上、当事者(研究者)が長時間労働を「自発的・好ましい」と感じ申し出ない傾向があるためです。高度な知識労働者は自分の健康リスクを過小評価しがちであり、客観的な時間管理に基づいて強制的に面接指導を実施する必要があります。
- ウ: 高度プロフェッショナル制度では「労働時間規制の適用除外」の代わりに「健康管理時間」による管理と「面接指導の義務化」が設けられています。制度の理念として「時間ではなく成果で評価される労働者の健康を守る」ことにあります。
- エ: 医師の意見に法的拘束力がないことは、事業者の責任と医師の専門性のバランスの問題です。事業者が医師の意見を「不当に」無視して労働者が健康障害を被った場合、安全配慮義務違反として使用者責任(民法第709条・第715条)・労働契約法第5条違反が問われる可能性があります。
- オ: 「遅滞なく」という法令上の表現は「直ちに」より緩やかですが、合理的な準備期間を超えての遅延は許容されません。実務上の目安として「申出から遅くとも2〜3週間以内」に面接指導を実施することが望ましいとされています。特に産業医が非常勤(月1回の訪問)の場合は、次回訪問時に実施できるよう事前に調整することが必要です。
【根拠】労働安全衛生法第66条の8・第66条の8の2・第66条の8の4・安衛則第52条の2〜第52条の8。長時間労働者への面接指導の要件・手順・記録保存。
【補足】一般労働者: 月80時間超・申出が必要・「遅滞なく」実施(1か月以内という期限なし)。研究開発業務: 月100時間超・申出不要(自動義務)。高プロ: 健康管理時間月100時間超・申出不要。面接指導記録: 5年間保存。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働安全衛生法第66条の8・安衛則第52条の2〜第52条の8。長時間労働者への面接指導の申出から実施時期に関する規定。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。