衛生管理者 労働衛生(有害業務以外) 問77:救急処置
傷病者の搬送(移動・運搬)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア傷病者を搬送する前に、意識・呼吸・脈拍の確認と必要な応急処置(止血・固定等)を行い、搬送中の状態変化に対応できる準備をしてから搬送することが重要である。
- イ意識がある傷病者を搬送する際、可能であれば傷病者自身の状態・希望を確認し、最も楽な姿勢(苦痛の少ない体位)を優先して搬送する。ただし脊椎・骨盤骨折が疑われる場合は専門家の指示に従う。
- ウ脊椎損傷が疑われる傷病者を搬送する必要がある場合、1人で急いで搬送することが脊髄の二次損傷防止に最も有効であり、一人担ぎ(肩担ぎ)で搬送することが推奨されている。正答
- エ車両を使った傷病者搬送では、急発進・急ブレーキ・急カーブを避けて傷病者への振動・衝撃を最小限にし、搬送中も傷病者の観察(意識・呼吸・脈拍)を続けることが求められる。
- オ多数傷病者が同時に発生した場合(多数傷病者事故・災害等)は、重症度・緊急度に応じたトリアージ(選別)を行い、限られた医療資源・搬送能力を効率的に配分することが求められる。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
誤りはウです。脊椎損傷が疑われる傷病者を「1人で急いで一人担ぎで搬送する」ことは推奨されません。脊椎損傷(頸椎・胸椎・腰椎骨折等)の疑いがある場合、脊椎・頸椎を動かすことが脊髄の二次損傷(麻痺の悪化)を引き起こす危険があります。原則として救急車(専門搬送)を待ち、やむを得ず搬送する場合は複数人で頭部・体幹・下肢を水平に保ちながら慎重に搬送することが基本です。
ア(搬送前の確認・処置)・イ(意識ある傷病者の最楽体位)・エ(車両搬送の注意)・オ(トリアージの概念)はすべて正しい内容です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 搬送前の応急処置(止血・固定・気道確保等)を行わずに搬送すると、搬送中に傷病者の状態が急変したり、不適切な体位による二次損傷が生じたりするリスクがあります。安全確認→応急処置→搬送という順序が基本です。
- イ(正): 意識のある傷病者の体位は「傷病者が最も楽だと感じる体位(苦痛が少ない姿勢)」を優先します。ただし、頸椎・脊椎・骨盤骨折が疑われる場合は体位変換自体が二次損傷を引き起こすため、専門家(救急隊員等)の指示に従います。
- ウ(誤): 脊椎損傷(特に頸椎損傷)が疑われる場合の搬送は「専門家(救急隊員)による搬送が最優先」であり、一人担ぎは非常に危険な搬送方法です。一人担ぎ(肩に担ぐ・背負う等)は体幹・頸部が大きく屈曲・動揺し、脊髄への二次損傷を招く危険が高いです。「急いで1人で」という急いで行動する発想も、安全を優先する救急処置の原則に反します。
- エ(正): 車両搬送中の振動・急制動は傷病者に痛みを与え、骨折部位の動揺や血圧変動等の問題を引き起こします。搬送中も定期的な意識・呼吸・脈拍の観察が重要であり、状態変化があれば即座に対応(停車・119番への再連絡等)が必要です。
- オ(正): トリアージ(Triage)は多数傷病者事故・大規模災害での傷病者選別システムであり、赤(最優先・重傷・生存可能性あり)・黄(中程度・搬送待機可)・緑(軽傷)・黒(死亡・救命不能)の4色タグで分類します。限られた救急資源を最大限に活用するための体系的な方法です。
【理論的背景】
傷病者搬送における脊椎・脊髄損傷への対応は、救急処置の中でも最も慎重さが求められる分野の一つです。脊椎(特に頸椎)損傷では、骨折した椎骨または脱臼した関節が脊髄を圧迫・損傷することで四肢麻痺・呼吸筋麻痺が生じます。適切な固定・搬送によってこの二次損傷を防ぐことが、搬送前応急処置の最重要課題です。
頸椎損傷が疑われる状況(受傷機転):
- 交通事故(追突・正面衝突・バイク転倒等)
- 高所からの転落(建設現場・脚立・屋上等)
- 水泳プールでの飛び込み事故(頭部の水底への激突)
- ラグビー・スクラム崩壊・柔道・格闘技での頸部損傷
- 意識不明の傷病者(受傷機転が不明な場合は疑いを持つ)
【実務・条文構造】
傷病者搬送の基本原則:
| 原則 | 内容 |
|---|---|
| 安全確認優先 | 救助者自身の安全確保が最優先(二次被害防止) |
| 応急処置先行 | 止血・固定・気道確保を行ってから搬送 |
| 脊椎保護 | 脊椎損傷疑い→救急専門搬送待ち・複数人での水平搬送 |
| 最楽体位 | 意識ある傷病者は最も苦痛の少ない体位を優先 |
| 状態観察継続 | 搬送中も意識・呼吸・脈拍を定期的に確認 |
脊椎損傷疑い傷病者の搬送体位:
- 理想: バックボード(硬質担架)+ 頸椎カラー(頸部固定) + 複数人での水平移動
- 簡易的な現場対応: 3〜4人で頭部・体幹・骨盤・脚を同時に水平に保ちながら「ログロール」で位置変換
トリアージの基本(START法):
1. 歩行可能→緑(軽傷)
2. 呼吸なし→気道確保後も呼吸なし→黒(死亡・救命不能)
3. 呼吸あり(呼吸数35回/分超または9回/分以下)→赤(最優先・重傷)
4. 橈骨動脈脈拍なし・毛細血管充満時間2秒超→赤
5. 指示に従えない→赤
6. 指示に従える→黄(中等度)
【試験での位置づけ】
傷病者搬送の問題では「脊椎損傷疑いは救急専門搬送待ち(一人担ぎは禁忌)」「搬送前の応急処置の重要性」「意識ある傷病者は最楽体位を優先」「車両搬送中の振動最小化・観察継続」「トリアージの4色分類」が頻出事項です。ウのような「脊椎損傷疑いを急いで一人担ぎで搬送する」という誤りは、「急ぐこと=良い救急処置」という誤解に基づく典型的な引っかけです。「脊椎損傷疑い=急がずに専門搬送を待つ」という原則が正解の核心です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 搬送前の応急処置の中で、気道の確保は最優先事項です。意識のない傷病者では舌根沈下による気道閉塞が起きやすく、側臥位(回復体位)または気道確保の姿勢を維持しながら搬送することが重要です。
- イ: 「最楽体位」の典型例として、腹痛(腸閉塞・虫垂炎等)では膝を曲げた側臥位・仰臥位が楽な場合が多く、呼吸困難では座位・半座位が楽な場合が多いです。傷病者の希望する体位を優先することは、ショック予防・苦痛軽減・傷病者の不安軽減に有効です。
- ウ: 頸椎損傷の統計として、日本での外傷性脊椎・脊髄損傷の約半数が交通事故由来であり、適切な固定搬送によって四肢麻痺を防止できたケースが多数報告されています。「急いで搬送した結果として四肢麻痺が生じた」という事例が、現場での正確な知識普及の重要性を示しています。
- オ: トリアージの概念は大規模災害(阪神淡路大震災・東日本大震災等)での集団的傷病者対応の経験から日本でも普及が進みました。現在では産業事故(工場爆発・化学物質漏えい等)での多数傷病者発生時にも適用されており、衛生管理者・救急担当者がトリアージの基本を理解しておくことが推奨されます。
【根拠】医学的事実(確立した救急医学・災害医療)。日本救急医学会・日本ACLS協会の搬送ガイドライン。
【補足】脊椎損傷疑い=1人で急いで搬送しない(一人担ぎは禁忌)→救急専門搬送を待つ・やむを得ない場合は複数人で水平搬送。意識ある傷病者は最楽体位を優先。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した救急医学・災害医療)。脊椎損傷疑いの傷病者を一人で急いで搬送すること(一人担ぎ)は脊髄損傷の二次損傷を悪化させる危険があり、推奨されない。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。