衛生管理者 関係法令(有害業務以外) 問56:労働基準法
短時間・有期雇用労働者の均等・均衡待遇(いわゆる同一労働同一賃金)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア事業者は、通常の労働者(正社員)と比較して、職務の内容・職務の内容及び配置の変更の範囲が同一の短時間・有期雇用労働者に対して、正社員と異なる待遇とすることを禁じられている(均等待遇)。
- イ職務の内容や配置の変更の範囲が異なる短時間・有期雇用労働者についても、待遇に不合理な相違を設けることは禁じられている(均衡待遇)。
- ウ使用者は、短時間・有期雇用労働者から求めがあった場合、待遇の相違の内容・理由を文書等で説明する義務があり、説明を拒否した場合は都道府県労働局への紛争解決援助申請の対象となる。
- エ非正規労働者(短時間・有期雇用労働者)については、正社員と同一の職場で働いていれば、家族手当・住宅手当・賞与はすべて同額でなければならない。正答
- オ同一労働同一賃金ガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)は、均等・均衡待遇の考え方について具体的な事例を用いて示しており、法的拘束力を持つ。
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誤っているのはエです。「同一の職場で働いていれば家族手当・住宅手当・賞与はすべて同額でなければならない」という絶対的な義務はありません。均等待遇(パート・有期法第9条)が課されるのは「職務の内容」と「職務の内容及び配置の変更の範囲」が正社員と同一の場合であり、これらが異なる非正規労働者には均衡待遇(不合理な相違の禁止)が適用されます。
各手当・賞与の同額義務については、「職務関連性のない手当(家族手当・住宅手当等)であっても、正社員に支給して非正規に全く支給しない場合は不合理な相違として問題になりうる」という整理です。「すべて同額」という絶対的な要求は誤りで、「不合理な相違かどうか」の均衡待遇の判断が必要です。
均等待遇・均衡待遇の違いと具体的適用(パート・有期法):
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 均等待遇(第9条)の要件: ①職務の内容が同一 ②職務の内容・配置の変更の範囲が同一 → 正社員と異なる待遇は禁止。この2要件を満たす場合は「完全同一」が要求されます。
- イ(正): 均衡待遇(第8条): 職務の内容・変更範囲が異なる場合でも「不合理な相違」は禁止。「不合理か否か」は職務の内容・変更範囲・その他の事情を考慮して判断。
- ウ(正): 説明義務(第14条): 非正規労働者から求めがあった場合、待遇の相違の内容・理由を説明する義務あり。説明を拒否・不十分な説明をした場合は都道府県労働局への紛争解決援助・調停の申請対象。
- エ(誤): 「同一の職場で働いていれば家族手当・住宅手当・賞与は必ずすべて同額」という絶対的義務はありません。均等待遇は「職務の内容と変更範囲が同一」な場合の要件であり、通常の非正規労働者(職務・変更範囲が異なる場合)には均衡待遇(不合理な相違の禁止)の判断が必要です。同一労働同一賃金ガイドラインでは、賞与・家族手当・住宅手当については、支給目的・正社員との関連性等から個別に不合理性を判断する枠組みが示されています。
- オ(正): 同一労働同一賃金ガイドライン(令和2年告示)は、均等・均衡待遇の判断基準を具体的な事例で示しており、法的拘束力を持つ厚生労働大臣の指針です(パート・有期法第15条)。
【理論的背景】
日本における非正規雇用の増加(2000年代以降・全雇用者の約40%)に伴い、同一企業内での正規・非正規間の待遇格差が社会問題化しました。「同じ仕事をしているのに待遇が大きく異なる」という状況が少子化・貧困格差の要因として指摘され、2018年成立の働き方改革関連法でパート・有期法が整備されました(大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月施行)。
制度の核心は「均等待遇(完全同一)」と「均衡待遇(不合理な相違の禁止)」という二層構造です。完全同一(均等)の要件を満たさない多くの非正規労働者は均衡待遇の枠組みで保護されます。
【実務・条文構造】
均等・均衡待遇の二層構造:
1. 均等待遇(第9条・差別的取り扱いの禁止):
- 適用要件: ①職務の内容(業務の内容+責任の程度)が同一 ②職務の内容及び配置の変更の範囲(転勤・昇進等)が同一
- 効果: 正社員と「同一の取扱い」が義務(異なる取り扱い禁止)
- 対象: 基本給・賞与・各種手当・福利厚生・教育訓練等すべての待遇
2. 均衡待遇(第8条・不合理な待遇の禁止):
- 適用要件: 上記均等待遇の要件を満たさない場合(職務の内容または変更範囲が異なる)
- 効果: 「不合理な相違」が禁止(合理的な相違は許容)
- 判断基準: 職務の内容・変更の範囲・その他の事情を考慮して不合理性を判断
- 適用: 個別の待遇ごとに不合理性を判断(一括禁止ではない)
同一労働同一賃金ガイドラインの枠組み(令和2年告示):
待遇の種類と不合理性判断のポイント(主要なもの):
- 基本給: 職務の内容・経験・能力に応じた部分は均衡・均等の対象
- 賞与(ボーナス): 「正社員にのみ支給し、非正規に全く支給しない」ことは一般的に不合理とされる(ただし支給目的・賞与の性格による)
- 各種手当(通勤・精皆勤・時間外等): 同一業務を前提とする手当は同一支給が原則
- 家族手当・住宅手当: 「正社員は長期雇用・転居可能性等」を理由とした合理的な差異は許容される場合あり
- 教育訓練: 同一の業務の遂行に必要な能力を付与するための訓練は同一の機会を提供
- 福利厚生(食堂・更衣室等): 同一の事業所で働く者への利用機会提供
最高裁判例(2020年・大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件等):
- 賞与・退職金の不支給: 「職務の内容等の相違に照らして不合理でない場合がある」(退職金は長期勤続への報酬という性格が考慮される)
- 通勤手当・精皆勤手当: 同一目的の手当は同一基準で支給が原則
→ 手当の種類・目的によって不合理性の判断が大きく異なります
説明義務(第14条)の実務的意義:
非正規労働者が「なぜ正社員と待遇が違うのか」を知る権利として、説明義務が制度的に保障されています。説明を受けた労働者が「不合理な相違」と判断した場合、労働局への紛争解決援助申請・行政ADR(調停)・民事訴訟のいずれかで争うことができます。
【試験での位置づけ】
同一労働同一賃金の頻出ポイント:
- 「均等待遇(第9条)の2要件(職務の内容+変更範囲の同一)」
- 「均衡待遇(第8条)の不合理な相違禁止(職務が異なっても不合理はNG)」
- 「説明義務(第14条):求めがあれば説明義務」
- 「すべての待遇を同額にする絶対義務ではなく、不合理な相違の禁止」
「同じ職場=すべて同一賃金が義務」という誤解(選択肢エ)は典型的な引っかけです。均等・均衡の2段階構造と「不合理性の個別判断」が正しい理解です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 均等待遇の「2要件(職務内容の同一+変更範囲の同一)」を両方満たす非正規労働者は、実態として非常に少ないとされています。多くの非正規労働者は職務の内容が異なる(責任の程度・転勤可能性等)ため均衡待遇の対象となります。
- イ: 均衡待遇(不合理な相違の禁止)の「不合理かどうか」の判断は事案ごとに異なるため、使用者としては「待遇の相違の合理的な理由を説明できる状態」にしておくことが重要です。説明できない相違は「不合理」と判断されるリスクがあります。
- ウ: 説明義務が果たされた場合でも、労働者が内容に納得できない場合は行政ADR(調停)や民事訴訟で争うことができます。行政ADR(都道府県労働局長による調停)は費用ゼロで利用できる制度です。
- エ: 最高裁2020年判決では、「賞与」についても「正社員のみに支給し、非正規に全く支給しないことが一概に不合理とはいえない場合がある」と判示しており、賞与の不支給が常に不合理ではないことを示しています。ただし、支給しない合理的な理由を使用者が説明できなければ不合理と判断されるリスクがあります。
- オ: 同一労働同一賃金ガイドラインは「指針(厚生労働大臣の告示)」として法的拘束力を持ちます。ガイドラインに反する待遇は「不合理な相違」と推定される重要な判断基準として機能します。ただし、ガイドラインの内容が直接労働者の権利を創設するわけではなく、裁判所は「不合理性」を個別具体的に判断します。
【根拠法令】短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート・有期法)第8条(均衡待遇:不合理な相違の禁止)・第9条(均等待遇:差別的取り扱いの禁止・職務内容+変更範囲が同一の場合)・第14条(説明義務)・第15条(指針の設定)
【補足】「同一職場=すべて同額義務」は誤り。均等待遇は「職務内容+変更範囲が同一」の場合のみ。均衡待遇は「不合理な相違の禁止」であり合理的相違は許容。説明義務あり(求めがあれば)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート・有期法)第8条(不合理な待遇の禁止・均衡待遇)・第9条(差別的取り扱いの禁止・均等待遇)・第14条(説明義務)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。