衛生管理者 関係法令(有害業務以外) 問80:健康管理
労働者の健康保持増進措置に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア事業者は、労働者の健康の保持増進を図るため、健康測定の結果に基づき、運動指導・メンタルヘルスケア・栄養指導・口腔保健指導・保健指導等の個別的な健康保持増進措置を継続的かつ計画的に実施するよう努めなければならない。
- イ健康保持増進措置(THP活動)の実施に当たっては、産業医が中心的役割を担い、産業医のみが運動プログラムや栄養指導を提供することができる。正答
- ウ事業者は、健康保持増進措置の実施のために必要な組織体制を整備し、衛生委員会においてその計画の検討・決定を行うことが推奨されている。
- エ健康保持増進措置は、労働者の健康の保持増進のための「努力義務」として規定されており、違反に対して直接的な行政処分・罰則はない。
- オ事業者が健康保持増進措置として実施した健康測定や運動指導等の記録は、プライバシーに配慮して適切に管理しなければならない。
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誤りはイです。THP(トータル・ヘルス・プロモーション)活動における健康保持増進措置は、産業医のみが提供するものではありません。運動指導は運動指導担当者(健康運動指導士等)、栄養指導は管理栄養士・栄養士、心理相談は心理相談担当者(産業カウンセラー等)が担当します。産業医は総合的な健康管理の統括・調整役として機能しますが、全ての個別措置を産業医のみが行うという規定はありません。
ア(継続的・計画的な措置の努力義務)、ウ(衛生委員会での検討推奨)、エ(努力義務・罰則なし)、オ(個人情報の適切管理)はいずれも正しい記述です。
健康保持増進措置(安衛法第69条・THP指針)の全体像:
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 安衛法第69条第1項により、事業者は「労働者の健康の保持増進を図るため、必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない」とされています(努力義務)。THP指針(2020年改定)では健康測定→個別措置(運動・メンタル・栄養・保健指導等)の流れが示されています。
- イ(誤): THP活動の専門担当者は複数の職種が分担します。産業医は総括管理・健康評価を担いますが、個別の運動プログラムは「健康運動指導士・健康運動実践指導者」、栄養指導は「管理栄養士・栄養士」、心理相談は「産業カウンセラー等」が担当します。産業医のみが全ての措置を提供するという記述が誤りです。
- ウ(正): THP指針において、衛生委員会での審議・計画策定が推奨されています。健康保持増進措置は事業場全体の施策として取り組むことが効果的とされています。
- エ(正): 安衛法第69条は努力義務規定であり、違反に対する直接的な行政処分・刑事罰は規定されていません。ただし健康保持増進措置の不実施は、後に職業病・過労死等が発生した場合の安全配慮義務違反(民事責任)に影響する可能性があります。
- オ(正): 健康測定・運動指導等の個人情報は「要配慮個人情報」(個人情報保護法第2条第3項)に該当し、適切な管理・アクセス制限が必要です。
【理論的背景】
THP(Total Health Promotion Plan・トータル・ヘルス・プロモーション・プラン)は、1988年に厚生労働省(当時労働省)が策定した「労働者の心とからだの健康づくりに関する指針」に基づく健康増進活動です。「働く人の身体的・精神的健康の保持増進を、継続的・計画的に実施する」ことを目的としており、健康診断(疾病発見)とは異なる「一次予防(健康増進)」のアプローチです。
2020年の指針改定では、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」として以下の点が明確化されました:
1. 産業医等による健康状態の個別評価
2. 職場環境(物理的・心理社会的)の改善
3. 多職種チームによる個別的措置の提供
4. 継続的・計画的な取組みのPDCAサイクル
【実務・条文構造】
THP活動の体制・担当者(THP指針・2020年改定):
| 役割 | 担当者 |
|-----|------|
| 健康保持増進計画の総括管理 | 産業医 |
| 健康測定・評価 | 産業医・保健師 |
| 運動指導プログラム作成・実施 | 健康運動指導士・健康運動実践指導者 |
| 栄養指導 | 管理栄養士・栄養士 |
| 心理相談 | 産業カウンセラー・心理相談担当者 |
| 保健指導(全般) | 保健師・看護師 |
THP活動の実施フロー(THP指針):
1. 健康保持増進計画の策定: 衛生委員会での審議・計画書の作成
2. 健康測定の実施: 医師(産業医等)による診察・医学的検査・体力測定・精神面の評価
3. 個別措置の実施: 測定結果に基づく運動指導・栄養指導・心理相談・保健指導等
4. 評価・改善: 定期的な見直しと計画の改善
健康保持増進措置の法的根拠と性質:
- 根拠: 安衛法第69条第1項(努力義務)・第70条(指針公表)
- 性質: 努力義務(義務不履行への直接罰則なし)
- ただし: 健康保持増進措置の不整備が後の安全配慮義務違反(民事)に影響する可能性
- 予防的位置づけ: 健康診断(疾病発見・二次予防)とは異なる一次予防
THP活動と関連する他の施策との位置づけ:
- 健康診断(安衛法第66条): 二次予防(疾病早期発見)・義務規定
- ストレスチェック(安衛法第66条の10): 一次予防(メンタルヘルス不調の早期発見)・義務規定(50人以上)
- THP活動(安衛法第69条): 一次予防(健康増進・身体・精神)・努力義務規定
- 健康経営: THP活動を「経営戦略として健康投資」する取組み(企業の自主的取組み)
【試験での位置づけ】
THP活動の試験頻出ポイントは「複数職種が分担(産業医のみでない)」「努力義務(罰則なし)」「衛生委員会での計画審議推奨」「健康測定→個別措置の流れ」です。本問イの「産業医のみが全措置を提供」という誤りは「産業医=健康管理の全権者」という誤解から来ます。専門職種(健康運動指導士・管理栄養士・産業カウンセラー等)の役割分担が制度の特徴です。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 「継続的かつ計画的に」という表現は、単年度のキャンペーン的取組みでなく、年度計画に基づく持続的なPDCAを求めています。健康保持増進計画を衛生委員会で審議・策定・評価する仕組みが推奨されます。
- イ: 健康運動指導士(公益財団法人健康・体力づくり事業財団認定)は、個人の健康状態・体力レベルに応じた運動プログラムを作成・指導する専門家です。産業医は医学的評価と総合的な健康管理計画の策定を担いますが、個別の運動指導は専門資格者に委ねる設計です。
- ウ: 衛生委員会での計画審議は「労使共同での取組み」という観点からも重要です。健康保持増進措置は経営側の一方的な施策でなく、労働者の自発的参加が効果に直結するため、労使合意での推進が推奨されます。
- エ: 努力義務であっても、THP活動への取組み(または不取組み)は「健康経営」評価・優良法人認定制度(経済産業省)の指標にも影響します。法的罰則がなくても「社会的評価・健康投資効果」という観点から積極的な取組みが促されています。
- オ: 健康測定の個人情報管理は、健康診断結果(要配慮個人情報・個人情報保護法)と同様の厳格な取扱いが必要です。運動指導・栄養指導の履歴も「健康情報」として適切に保護しなければなりません。
【根拠法令】労働安全衛生法 第69条(健康保持増進措置の努力義務)・第70条(厚生労働大臣による指針公表)、労働者の健康保持増進のための指針(THP指針・2020年3月改定)
【補足】THP活動は努力義務(罰則なし)。運動指導は健康運動指導士・栄養指導は管理栄養士等、多職種が分担(産業医のみが全措置を担うのではない)。衛生委員会での計画審議を推奨。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 労働安全衛生法(安衛法)第69条・第70条(健康保持増進措置・指針)、労働者の健康保持増進のための指針(THP指針・2020年改定)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。