衛生管理者 労働生理 問12:呼吸
肺の容量に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア残気量(RV: Residual Volume)とは、最大努力呼気(最大限に息を吐き出した後)でも肺内に残る空気量であり、スパイロメトリーでは直接測定できない。
- イ1回換気量(TV: Tidal Volume)とは、安静呼吸において1回の吸気または呼気で出入りする空気量であり、成人では約500mLが目安である。
- ウ肺活量(VC: Vital Capacity)は1回換気量・予備吸気量・予備呼気量の合計であり、残気量を含まない。
- エ機能的残気量(FRC: Functional Residual Capacity)は最大吸気後に肺内に残る空気量であり、予備呼気量と残気量の合計に等しい。正答
- オ全肺気量(TLC: Total Lung Capacity)は肺活量と残気量の合計であり、成人男性では5〜6L程度が目安である。
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誤りはエです。機能的残気量(FRC)は「安静呼気後(安静に息を吐き出した後)に肺内に残る空気量」です。「最大吸気後」ではありません。FRCは予備呼気量(ERV)と残気量(RV)の合計で、安静呼気終末での肺の気量です。最大吸気後に測定するのはFRCではなく全肺気量(TLC)の一部の測定状態です。
その他の選択肢はすべて正確な内容です。残気量はスパイロメトリーで直接測定できない(ア)、1回換気量は約500mL(イ)、肺活量=1回換気量+予備吸気量+予備呼気量で残気量を含まない(ウ)、TLC=肺活量+残気量で成人男性5〜6L(オ)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 残気量(RV)は最大呼気後も肺内に物理的に残る空気量であり、通常のスパイロメトリー(息を吸い吐きして測る装置)では測定できません。体プレチスモグラフ法やガス希釈法(ヘリウム希釈法・窒素洗い出し法)で間接的に測定します。
- イ(正): 安静時の1回換気量(TV)は成人で約500mL。このうち肺胞に届く量(肺胞換気量)は500mL−死腔量(約150mL)= 約350mLです。
- ウ(正): 肺活量(VC)= TV + IRV(予備吸気量) + ERV(予備呼気量)。残気量を含まないため、スパイロメトリーで測定可能な最大気量です。閉塞性・拘束性肺疾患の評価に重要。
- エ(誤): FRCの定義は「安静呼気後(安静な息の終わりの状態)に肺内に残る空気量 = ERV + RV」です。「最大吸気後」という記述が完全に誤りです。最大吸気後は全肺気量(TLC)の状態です。FRCは「安静な呼気の終わり」における肺の気量を示します。
- オ(正): TLC = VC + RV。成人男性の目安: VC ≒ 4L + RV ≒ 1.5L = TLC ≒ 5.5L。女性はこれより小さく4〜5L程度。加齢とともにRVが増加し、TLCは大きく変化しませんが構成比が変わります。
【理論的背景】
肺の容量区分(肺気量分画)は呼吸機能の評価の基礎です。各区分の正確な定義と測定方法の理解は、職場での肺機能検査(スパイロメトリー)の解釈に直結します。
肺気量の定義と測定可能性の整理:
| 区分 | 定義 | 正常値(成人男性目安) | スパイロで測定可 |
|---|---|---|---|
| TV(1回換気量) | 安静呼吸1回の出入り量 | 約500mL | ○ |
| IRV(予備吸気量) | 安静吸気後さらに吸入できる量 | 約2,000〜3,000mL | ○ |
| ERV(予備呼気量) | 安静呼気後さらに呼出できる量 | 約1,000〜1,500mL | ○ |
| RV(残気量) | 最大呼気後も残る量 | 約1,200〜1,500mL | ×(間接法必要) |
| VC(肺活量) | TV+IRV+ERV | 約3,500〜4,500mL | ○ |
| FRC(機能的残気量) | 安静呼気後の残量=ERV+RV | 約2,000〜2,500mL | ×(間接法必要) |
| TLC(全肺気量) | VC+RV | 約5,000〜6,000mL | ×(間接法必要) |
| IC(最大吸気量) | TV+IRV | 約3,000mL | ○ |
なぜRVとFRCが直接測定できないか:
- スパイロメトリーは被験者が吐き出した空気量を測定する装置ですが、RVは「最大限に吐き出してもなお肺に残る」空気量であり、スパイロメーターの回路に回収できない量です。
- 測定法: ①ヘリウム希釈法(既知量のHeを吸入させ希釈率からRV計算)、②窒素洗い出し法(100%O₂を吸入させ呼気窒素量からFRC計算)、③体プレチスモグラフ法(密閉容器の圧力変化からFRC計算・最も正確)。
【実務・条文構造】
スパイロメトリーの臨床・職場的意義:
閉塞性換気障害(喘息・COPD等)の評価:
- 1秒量(FEV₁)= 最大吸気後から最大努力で1秒間に呼出できる量
- 1秒率(FEV₁% = FEV₁/VC × 100): 70%未満で閉塞性換気障害と判定
- COPD: 喫煙・粉じん・有機溶剤等の職業曝露が主因。COPDの職業性肺疾患認定には曝露歴と肺機能低下の証明が必要
拘束性換気障害(肺線維症・胸膜疾患等)の評価:
- %VC(努力性肺活量が予測値の何%か): 80%未満で拘束性換気障害と判定
- じん肺・石綿肺・過敏性肺炎などは拘束性パターンを示す
死腔(デッドスペース)の概念:
- 解剖学的死腔: 口〜細気管支(ガス交換が行われない伝導気道)≒150mL
- 生理的死腔: 解剖学的死腔 + 換気されても血流のない肺胞(肺塞栓等で増加)
- 1回換気量500mLのうち有効な肺胞換気量は350mLのみ(150mLは死腔換気量)
【試験での位置づけ】
肺容量問題では「FRCの定義(安静呼気後の残量=ERV+RV)」「残気量はスパイロで直接測れない」「TLC=VC+RV」「肺活量に残気量は含まない」が最頻出です。エのように「最大吸気後」とFRCの定義を誤る問題は典型的な引っかけです。安静呼気後(FRC)と最大吸気後(TLC)の混同に注意しましょう。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 残気量は加齢とともに増加する傾向があります(肺の弾性低下・末梢気道の早期閉塞)。これにより高齢者はTLCに占めるRV比率(RV/TLC)が増加し、実効的な換気効率が低下します。COPDでも肺の過膨張のためRV・FRCが著しく増加します(ガスの閉じ込め現象)。
- イ: 死腔換気量の概念は労働生理で重要です。呼吸が浅くなると死腔の割合が増え換気効率が下がります。例えば1回換気量が300mLしかない場合、肺胞換気量は150mL(300-150)と非常に少なくなります。熱中症や過換気症候群の際、呼吸の深さと回数のバランスが重要な理由がここにあります。
- ウ: 労働者の肺機能検査(スパイロメトリー)は定期健康診断の項目には含まれませんが、粉じん作業従事者(じん肺法)・有機溶剤作業者・石綿取扱作業者等の特殊健診では肺機能検査が実施されます。1秒率・肺活量の経年変化をモニタリングすることで職業性肺疾患の早期発見が可能です。
- エ: FRC(機能的残気量)は「肺が自然な状態でとどまる気量」とも表現できます。FRCが減少すると(肺線維症・肥満・腹腔内圧上昇など)呼気時に肺胞が閉塞しやすくなり(閉鎖容量がFRCを超える)、V/Q(換気/血流)ミスマッチが生じて低酸素血症の原因となります。
【根拠】医学的事実(確立した生理学)。肺気量分画の定義・スパイロメトリーの測定可能範囲は呼吸生理学の基礎概念として確立。
【補足】FRC(機能的残気量)は「安静呼気後」の残留量(最大吸気後ではない)= ERV+RV。残気量はスパイロで直接測定不可。TLC=VC+RV(残気量を含む)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。機能的残気量(FRC)の定義は安静呼気末の肺内残留量であり、最大吸気後の残留量ではない。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。