衛生管理者 労働生理 問30:神経・筋
反射と脊髄の機能に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア膝蓋腱反射(膝を叩くと膝が蹴り上がる反射)は脊髄を経由せず、直接大脳皮質が関与して制御する「随意反射」の一例である。
- イ皮膚への熱刺激に対する「熱い→手を引っ込める」という屈曲反射は、大脳皮質での「熱い」という意識的判断を経て初めて運動指令が出される随意運動であり、脊髄では完結しない。
- ウ交感神経の節前線維は、胸髄と腰髄(T1〜L2程度)の側角から出て、脊椎傍神経節(交感神経幹)でシナプスを形成するが、副交感神経の節前線維は仙髄のみから出る。
- エ脊髄の後索(後柱)は運動指令を脳から末梢へ下行させる経路であり、脊髄の前索・側索は感覚情報を末梢から脳へ上行させる主要な経路である。
- オ脊髄反射では、感覚受容器→求心性神経→脊髄(介在ニューロン)→遠心性神経→効果器という反射弓を経るが、最も単純な「単シナプス反射」(伸張反射)では介在ニューロンを介さず求心性神経が直接遠心性神経(α運動ニューロン)にシナプスする。正答
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正しいのはオです。脊髄反射の中で最も単純な「伸張反射(単シナプス反射)」は、筋紡錘(感覚受容器)→Ia線維(求心性神経)→脊髄でのシナプス(直接α運動ニューロンに接続・介在ニューロンなし)→α運動神経(遠心性)→筋肉収縮という経路で起きます。「単シナプス」とは「シナプスが1つしかない」という意味で、最もシンプルな反射弓です(膝蓋腱反射がその典型例)。
各誤りの要点: ア→膝蓋腱反射は脊髄反射(大脳皮質は関与しない)。イ→屈曲反射(逃避反射)は熱刺激に対して脊髄レベルで完結する脊髄反射であり、「熱い」という意識的判断(大脳皮質での知覚)が成立する前に手を引っ込める(脊髄では完結しないという記述は誤り)。ウ→副交感神経の節前線維は脳幹(III・VII・IX・X神経)と仙髄(S2〜4)から出る(仙髄のみではない)。エ→後索は感覚(深部感覚・振動覚・識別触覚)を上行させる経路(運動ではない)。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 膝蓋腱反射(膝蓋腱を叩く→大腿四頭筋の筋紡錘が伸張→Ia線維→脊髄L2〜4→α運動ニューロン→大腿四頭筋収縮→膝の蹴り上がり)は典型的な脊髄反射(単シナプス反射)です。大脳皮質が関与する「随意反射」ではありません。しかし大脳・小脳の上位中枢が反射弓を抑制・修飾しているため、錐体路障害(上位運動ニューロン障害)では腱反射が亢進します。
- イ(誤): 屈曲反射(逃避反射)は熱・痛みの刺激→痛覚受容器(C線維・Aδ線維)→脊髄→複数の介在ニューロンを介して→屈筋運動ニューロンが興奮・伸筋運動ニューロンが抑制→患側の屈曲・対側の伸展(交叉伸展反射)→手を離す。これは脊髄レベルで完結する「脊髄反射」(多シナプス反射)であり、「熱い」という意識的な知覚は手を引っ込めた後に大脳皮質で成立します。「大脳皮質での意識的判断を経て初めて運動指令が出される随意運動・脊髄では完結しない」という記述は誤りです。脊髄反射だからこそ瞬時に危険を回避できます。
- ウ(誤): 副交感神経の節前線維は「脳幹(中脳・橋・延髄)と仙髄(S2〜4)」から出ます。脳幹からは: 動眼神経(III)・顔面神経(VII)・舌咽神経(IX)・迷走神経(X)。仙髄からは骨盤内臓(膀胱・直腸・性器)への副交感神経が出ます。「仙髄のみ」という記述は誤りです。交感神経は「胸腰髄(T1〜L2〜3)」、副交感神経は「頭仙(craniosacral outflow)」と覚えます。
- エ(誤): 脊髄の白質の機能:
- 後索(後柱): 深部感覚(固有感覚・振動覚)・識別触覚の上行路(同側→延髄で交叉)
- 側索: 錐体路(皮質脊髄路・下行性運動指令)・脊髄視床路(痛覚・温度覚の上行路)
- 前索: 前皮質脊髄路・前脊髄視床路
「後索=下行性運動路」は完全な誤りです。
- オ(正): 正確な記述です。膝蓋腱反射(および多くの腱反射)はIa線維→α運動ニューロンへの直接シナプスによる単シナプス反射(1つのシナプスのみ)で成立します。複雑な反射(屈曲反射・排尿反射等)は多数の介在ニューロンを介した多シナプス反射です。
【理論的背景】
脊髄は「情報の上り下りの主幹道路」であり、脳からの運動指令を末梢に伝える「下行路」、感覚情報を脳に伝える「上行路」、そして脳を介さず脊髄内で完結する「脊髄反射の統合センター」という3つの機能を持ちます。
脊髄の解剖と機能の整理:
脊髄灰白質(H字型の内側部分):
- 前角: 運動ニューロン(α・γ運動ニューロン)が存在→骨格筋を支配
- 後角: 感覚情報の第一次処理・介在ニューロン
- 側角: 自律神経(交感神経節前線維)が出る部位(T1〜L2)
脊髄白質(上行路・下行路):
| 経路 | 位置 | 方向 | 伝達情報 |
|---|---|---|---|
| 後索(薄束・楔状束) | 後索 | 上行 | 深部感覚(固有感覚・振動覚)・識別触覚(同側上行・延髄で交叉) |
| 脊髄視床路 | 前索・側索 | 上行 | 痛覚・温度覚・粗い触覚(脊髄で交叉→対側上行) |
| 皮質脊髄路(錐体路) | 側索・前索 | 下行 | 随意運動指令(大脳皮質→延髄錐体で交叉→脊髄前角) |
| 赤核脊髄路・前庭脊髄路等 | 側索・前索 | 下行 | 錐体外路系(姿勢・筋緊張制御) |
神経解剖が障害部位診断に役立つ例:
- 後索障害(脊髄癆・ビタミンB₁₂欠乏・脊髄梗塞後部等): 深部感覚喪失→ロンベルグ徴候陽性(閉眼・直立で体が揺れる)・歩行失調
- 脊髄視床路障害: 障害と反対側の痛覚・温度覚喪失(交叉するため)
- 前角障害(ポリオ・筋萎縮性側索硬化症(ALS)の前角細胞障害等): 下位運動ニューロン障害→弛緩性麻痺・筋萎縮・腱反射消失
【実務・条文構造】
職業性神経障害の評価と脊髄・反射の知識:
職業性頸部・腰部脊髄障害:
- 頸椎症性脊髄症: 頸椎変形・椎間板突出が脊髄を圧迫→脊髄の白質障害→歩行障害・四肢の腱反射亢進(錐体路障害)・下位は脱力・上位は過活動
- 腰椎椎間板ヘルニア(根症状): 神経根の圧迫(前根・後根)→「デルマトーム(皮膚分節)」に一致した感覚障害・筋力低下・腱反射低下(例: L4根障害→膝蓋腱反射低下、S1根→アキレス腱反射低下)
反射の異常と神経障害のレベル診断:
- 腱反射亢進(hyperreflexia): 上位運動ニューロン障害(大脳・脊髄の錐体路障害)→皮質の抑制が失われて脊髄反射が亢進
- 腱反射消失(areflexia): 下位運動ニューロン障害(前角・末梢神経障害)・感覚神経障害(Ia線維)→反射弓の断絶
職場での反射評価(健康診断・安全確認):
- 深部腱反射の評価(腱反射ハンマー): 職業性鉛中毒の末梢神経障害(腱反射低下・消失)の評価に使用
- 鉛中毒: 橈骨神経麻痺(「垂れ手・橈骨神経型筋力低下」)・腱反射低下
【試験での位置づけ】
反射・脊髄問題では「膝蓋腱反射は脊髄反射(大脳は関与しない)」「後索は感覚の上行路(運動の下行路ではない)」「副交感神経の節前線維は脳幹+仙髄(仙髄のみではない)」「単シナプス反射(伸張反射)は介在ニューロンなしで直接Ia→αモトニューロンに接続」が最頻出です。アのような「膝蓋腱反射が随意反射・大脳が関与」という誤り、エのような「後索が運動下行路」という誤りは典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 腱反射(深部腱反射)が「随意的にコントロールできない」理由を逆から考えると: 腱反射弓は脊髄内で完結し(脳を通過しない)、脳からの随意的な制御信号は反射弓自体に直接作用しません。ただし緊張・集中・緊張解除の操作(ジェンドラシック法:両手を引っ張り合う)で腱反射が変化するのは、上位中枢からの脊髄への緊張性変調が間接的に影響するためです。
- ウ: 副交感神経の「頭仙(craniosacral)」分布と交感神経の「胸腰(thoracolumbar)」分布を覚えると、臓器ごとの支配神経が整理しやすくなります。心臓・肺・消化管上部(迷走神経=第X脳神経=副交感)・骨盤内臓(仙髄副交感)、これ以外の皮膚・骨格筋血管・汗腺・立毛筋は交感神経のみの支配です。
- エ: 脊髄損傷(SCI)のレベルと機能予後: 頸椎損傷(C4以上)→呼吸筋麻痺→人工呼吸器必要。C5〜8損傷→四肢麻痺(上下肢とも)。胸椎・腰椎損傷→対麻痺(下肢のみ)。損傷部位より上(頭側)の脊髄は正常→腱反射亢進(錐体路障害)。損傷部位の神経根レベル→弛緩性麻痺(前角細胞障害)。この概念は職場での脊髄損傷者の雇用管理・合理的配慮の設計に必要な知識です。
【根拠】医学的事実(確立した生理学・神経解剖学)。単シナプス反射(伸張反射)が介在ニューロンを介さずIa線維からα運動ニューロンに直接シナプスすること・後索が感覚上行路(運動下行路ではない)・副交感神経が脳幹+仙髄から出ることは神経生理学・神経解剖学の基礎概念として確立。
【補足】単シナプス反射(伸張反射)は介在ニューロンなし・Ia→αモトニューロン直接接続。後索=感覚上行路(深部感覚)、運動下行路は側索・前索の錐体路。副交感神経=脳幹+仙髄から出る(仙髄のみではない)。膝蓋腱反射は脊髄反射(随意反射ではない)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。単シナプス反射(伸張反射)では介在ニューロンを介さず、Ia線維が直接α運動ニューロンにシナプス接続する。これは最も単純な反射弓の典型例。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。