衛生管理者 労働生理 問29:神経・筋
神経線維の種類と伝導速度に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア有髄神経線維は、軸索がミエリン鞘(髄鞘)で覆われており、跳躍伝導(ランビエ絞輪間を活動電位が「飛ぶ」ように伝導する)によって伝導速度が速い。
- イ無髄神経線維は髄鞘を持たないため、伝導速度が有髄神経線維より遅い。
- ウAα線維(最も太い有髄線維)は伝導速度が最も速く(70〜120m/秒)、主に骨格筋の運動(α運動神経)・深部感覚(筋紡錘からの求心性線維)を担う。
- エC線維(無髄線維・細い線維)は伝導速度が最も遅く(0.5〜2m/秒)、痛覚(鈍い慢性痛・灼熱痛)・温度覚・自律神経節後線維が含まれる。
- オ全身麻酔や局所麻酔薬は神経線維の種類(有髄・無髄・線維の太さ)に関係なく、すべての神経線維を同等に遮断する。正答
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誤りはオです。局所麻酔薬は「すべての神経線維を同等に遮断する」は誤りです。局所麻酔薬(Na⁺チャネル遮断薬)は神経線維の太さによって遮断されやすさが異なります。一般に細い線維(無髄C線維・細いAδ線維:痛覚・温度覚・自律神経)から先に遮断され、太い線維(Aα線維:骨格筋運動・深部感覚)は後に(または高濃度でないと)遮断されます。これが局所麻酔では「痛みは消えるが運動機能は保たれることが多い(感覚と運動の解離)」現象の理由です。
その他の選択肢はすべて正確です。跳躍伝導(ア)、無髄線維が遅い(イ)、Aα線維が最速(ウ)、C線維が最遅(エ)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): ミエリン鞘は主にシュワン細胞(末梢神経)またはオリゴデンドロサイト(中枢神経)が形成する電気絶縁性の膜構造。ランビエ絞輪(ミエリンの切れ目)間を活動電位が「跳び越える」ように伝導(跳躍伝導)することで、連続的な電気的変化(無髄線維の伝導方式)より大幅に速くなります。
- イ(正): 無髄線維は軸索全面に渡って連続的に活動電位が伝導するため遅い。伝導速度の比較: Aα(70〜120m/秒)>Aβ(30〜70m/秒)>Aγ(15〜30m/秒)>Aδ(5〜30m/秒)>B線維(3〜15m/秒)>C線維(0.5〜2m/秒)の順です。
- ウ(正): Aα線維(Group I a・Ib)の特徴: 直径13〜20μm・髄鞘厚い・伝導速度70〜120m/秒。役割: 骨格筋支配のα運動神経・筋紡錘(Ia線維)・腱器官(Ib線維)からの深部感覚。正確な記述です。
- エ(正): C線維の特徴: 無髄・直径0.2〜1.5μm・伝導速度0.5〜2m/秒(最遅)。役割: ①痛覚(多モダール侵害受容器・鈍い灼熱痛)②温度覚(温冷覚の一部)③自律神経節後線維(交感・副交感)。正確な記述です。
- オ(誤): 局所麻酔薬(Na⁺チャネル遮断薬: リドカイン・ブピバカイン等)は全ての神経線維を同等に遮断しません。細い線維(C線維・Aδ線維)は活動電位の発生頻度が高く、Na⁺チャネルがよりopen(開放)状態になる時間が長いため、局所麻酔薬によるチャネルブロックが起きやすい(use-dependent block)。これにより痛覚・温度覚(C・Aδ線維)が先に遮断され、運動機能(Aα線維)は後から・または遮断されにくい特性があります(感覚・運動の分離麻酔)。
【理論的背景】
神経線維の分類は臨床医学・職業医学において重要な知識基盤です。特に「痛み(鋭い刺すような急性痛 vs 鈍い灼熱慢性痛)」の2種類の伝導経路の違い、職業性末梢神経障害のメカニズム理解に直結します。
神経線維の完全分類と役割:
| 線維 | 有髄/無髄 | 直径(μm) | 伝導速度(m/秒) | 主な機能 |
|---|---|---|---|---|
| Aα | 有髄 | 13〜20 | 70〜120 | 骨格筋α運動・筋紡錘(Ia・Ib感覚) |
| Aβ | 有髄 | 6〜12 | 30〜70 | 触覚・圧覚・振動覚(機械的感覚) |
| Aγ | 有髄 | 3〜6 | 15〜30 | 筋紡錘(intrafusal筋)γ運動 |
| Aδ | 有髄(薄い) | 1〜5 | 5〜30 | 鋭い刺すような急性痛(一次痛)・冷覚・温覚 |
| B線維 | 有髄(薄い) | 1〜3 | 3〜15 | 交感神経節前線維 |
| C線維 | 無髄 | 0.2〜1.5 | 0.5〜2 | 鈍い灼熱慢性痛(二次痛)・温覚・自律神経節後線維 |
急性痛(一次痛)vs慢性痛(二次痛)の伝導経路:
- 一次痛(鋭い・刺す・すぐ消える): Aδ線維(有髄・速い)→脊髄後角→視床→大脳皮質。例: 鋭いもので刺した瞬間の「チクッ」とした痛み
- 二次痛(鈍い・灼熱感・長く続く): C線維(無髄・遅い)→脊髄後角→視床→大脳皮質。例: 刺した後に続く「ジンジン」とした灼熱感
ゲートコントロール理論(Melzack & Wall, 1965):
- 触覚・振動覚(Aβ線維:太い・速い)の刺激が、脊髄後角のゼラチン質(抑制性介在ニューロン)を介して、C線維・Aδ線維からの痛覚入力を抑制する
- 「怪我した所をさするとなぜか痛みが軽減する」現象の説明
【実務・条文構造】
職業性末梢神経障害のパターンと線維選択性:
脱髄性ニューロパチー(有髄線維の髄鞘障害):
- 原因: アクリルアミド(グルタミン酸一Na製造・廃水処理)・六価クロム・鉛・スズ化合物
- 症状: 運動神経障害が主(脱力・筋萎縮)・深部感覚障害。痛覚は比較的保たれる(C線維は無髄なので髄鞘の障害を受けにくい)
軸索性ニューロパチー(軸索そのものの障害):
- 原因: n-ヘキサン(2,5-ヘキサンジオン代謝物)・有機水銀・ヒ素・タリウム・金属類
- 症状: 感覚障害(特に末端から=手袋・靴下型)が先行→進行すると運動障害
- n-ヘキサン神経障害: 遠位軸索型(軸索ターミナルから障害が起き、近位へ進行する)
局所麻酔薬の臨床的応用(感覚・運動の分離麻酔):
- 低濃度局所麻酔(硬膜外麻酔・脊髄麻酔の工夫): 痛みを消しつつ運動機能を保つ→無痛分娩での歩行可能な麻酔(Walking epidural)
- 高濃度局所麻酔: 運動神経(Aα)も遮断→手術時の完全な筋弛緩が得られる
【試験での位置づけ】
神経線維問題では「有髄線維は跳躍伝導で速い」「Aα線維が最速(70〜120m/秒)・C線維が最遅(0.5〜2m/秒)」「無髄線維の方が遅い」「局所麻酔は細い線維から先に遮断される(感覚が先に消え・運動は後)」が最頻出です。オのような「すべての神経線維を同等に遮断する」という誤りは局所麻酔の線維選択性を無視した引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 多発性硬化症(MS)は中枢神経の髄鞘が自己免疫で破壊される脱髄疾患で、跳躍伝導が障害されることで様々な神経症状(視力障害・四肢麻痺・感覚障害・バランス障害)が出現します。温熱(Uhthoff現象: 体温上昇で症状が一時的に悪化する)に敏感で、高温作業環境の適性評価に注意が必要な疾患です。
- ウ: 筋紡錘(Ia線維・Aα線維)は筋の「伸張」(長さの変化)を感知して脊髄に入力し、伸張反射(膝蓋腱反射等)の求心性線維として機能します。ハンマーで膝蓋腱を叩く→筋が一時的に引き伸ばされる→筋紡錘が感知→Ia線維→脊髄→α運動ニューロン→大腿四頭筋が収縮→膝が蹴り上がる(deep tendon reflex)。この反射弓の速度(Aα線維の70〜120m/秒)があって初めて即座の姿勢保正が可能です。
- エ: CRPS(複合性局所疼痛症候群)はC線維等の末梢・中枢の感作(sensitization)によって、組織損傷の程度に不釣り合いな激しい慢性痛が持続する病態です。職業性外傷(骨折・外傷・神経損傷)の後に発症することがあり、長期的な就労困難の原因となります。
【根拠】医学的事実(確立した生理学・薬理学)。局所麻酔薬が細い線維から先に遮断する(全ての線維を同等に遮断するのではない)こと、有髄線維の跳躍伝導・線維径と伝導速度の関係は神経生理学の基礎概念として確立。
【補足】局所麻酔薬は細い線維(C線維・Aδ)から先に遮断→感覚(痛覚)が先に消え、運動(Aα)は後(または保たれやすい)。Aα線維が最速(70〜120m/秒)、C線維が最遅(0.5〜2m/秒)。跳躍伝導で有髄線維が速い。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学・薬理学)。局所麻酔薬は細い線維(無髄・C線維)から先に遮断し、太い線維(有髄・Aα線維)は後に遮断される(線維の太さによる感受性の差がある)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。