労働生理28神経・筋

衛生管理者 労働生理 問28:神経・筋

筋肉の収縮と疲労に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。

  • 骨格筋の収縮はアクチンフィラメントとミオシンフィラメントが滑り合う「滑走説(スライディングフィラメント説)」によって説明され、この過程でATPが必要である。
  • 筋収縮の引き金はCa²⁺であり、神経からの刺激→筋小胞体からのCa²⁺放出→Ca²⁺がトロポニンCに結合→アクチン上の反応部位(トロポミオシンのブロックが解除)→ミオシン頭部がアクチンに結合・パワーストローク→収縮が起きる。
  • 激しい運動時には解糖系が亢進して乳酸が産生されるが、これは嫌気的代謝の産物であり、安静時にはほとんど産生されない。
  • 筋疲労は主として筋細胞内のグリコーゲンが増加することにより起きる。運動後は安静にすることでグリコーゲンが速やかに合成・補充されて疲労が回復する。正答
  • 筋肉には「遅筋線維(赤筋・タイプI線維)」と「速筋線維(白筋・タイプII線維)」があり、持久力には遅筋線維が、瞬発力には速筋線維が主として使われる。
正答:筋疲労は主として筋細胞内のグリコーゲンが増加することにより起きる。運動後は安静にすることでグリコーゲンが速やかに合成・補充されて疲労が回復する。

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初心者向けまずはここから。やさしく要点を解説

誤りはエです。「筋細胞内のグリコーゲンが増加することにより起きる」という部分が誤りです。正しくは、激しい運動による筋疲労は筋細胞内のグリコーゲンが消費・枯渇することが一因です。グリコーゲンが減少することでエネルギー供給が不足し、筋収縮能力が低下します。また運動後の回復期にはグリコーゲンが合成・補充されるという後半の記述は正しいです。「増加することにより疲労する」という前半が完全に誤りです。

その他の選択肢はすべて正確です。滑走説とATP(ア)、筋収縮のCa²⁺カスケード(イ)、乳酸が嫌気的代謝産物(ウ)、遅筋・速筋の特性(オ)はいずれも正確です。

標準試験対策の基準レベル

各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(正): 筋収縮の分子機構(ハックスリーの滑走説)の正確な記述。サルコメア(筋節)の長さは短縮するが、アクチン・ミオシンの各フィラメント自体の長さは変わらない(滑り合う)。ミオシン頭部のクロスブリッジサイクルの各ステップでATP加水分解が必要。
  • イ(正): 興奮収縮連関(E-C coupling)の正確な記述。神経→神経筋接合部→アセチルコリン放出→筋細胞膜の活動電位→T管→筋小胞体のRyR(リアノジン受容体)→Ca²⁺放出→Ca²⁺がトロポニンCに結合→トロポミオシンがアクチンの反応部位を露出→ミオシン頭部がアクチンに結合→パワーストローク→筋短縮。
  • ウ(正): 乳酸産生は嫌気的解糖の産物であり、通常の安静時では有酸素的代謝が主体のため乳酸産生は少ないです。激しい運動時(無酸素性閾値を超えた強度)では乳酸産生が急増し、血液中の乳酸濃度が上昇します(正常<2mmol/L、高強度運動で10〜20mmol/Lに達することも)。
  • エ(誤): 筋疲労の主要原因は複合的で、グリコーゲン「消費」が一因です:

①グリコーゲン枯渇(エネルギー基質の欠乏)

②乳酸・H⁺の蓄積(pH低下→筋収縮機構の障害)

③無機リン酸(Pi)の蓄積(クロスブリッジ機能の低下)

④Ca²⁺の調節障害

「増加することで疲労する」は完全な誤りです。

  • オ(正): 筋線維タイプの正確な記述。遅筋(TypeI・赤筋): ミトコンドリア豊富・脂肪酸を好気的に利用・疲れにくい・持久力向上・走者・水泳選手に多い。速筋(TypeII・白筋): ミトコンドリア少・解糖系が主・速い収縮・疲れやすい・短距離走者・重量挙げ選手に多い。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

筋疲労は単一の原因ではなく、「中枢性疲労(脳・脊髄レベルの神経疲労)」と「末梢性疲労(筋肉そのものの疲労)」の組合せです。さらに末梢性疲労も複数の機序が複合して生じます。

筋疲労の分子メカニズム(詳細):

1. エネルギー基質の枯渇:

- クレアチンリン酸(CP/PCr)の急速な枯渇(最初の数秒〜10秒の高強度運動で)

- 筋グリコーゲンの枯渇(持久性運動で90〜120分で枯渇するのがハンガーノック)

- グリコーゲン枯渇→ 解糖系の基質不足→ ATP産生低下→収縮力低下

2. 代謝産物の蓄積:

- H⁺(乳酸による酸性化)→トロポニンのCa²⁺親和性低下・ミオシンATPase活性低下→収縮力低下

- 無機リン酸(Pi)→ 頭部のパワーストローク効率低下

- K⁺の細胞外への流出→ 膜電位の再分極障害→ 活動電位の発生閾値変化

3. Ca²⁺ハンドリングの障害:

- 筋小胞体からのCa²⁺放出量低下

- Ca²⁺の再取り込み(SERCA pump)の障害→ 次の収縮の準備が遅れる

4. 中枢性疲労:

- 脳からの運動指令の低下(「もう十分」という感覚)→ 最大筋力の発揮を抑制する保護機構としての側面もある

【実務・条文構造】

職場での筋疲労管理と労働衛生:

静的筋労働vs動的筋労働:

  • 静的筋労働(等尺性収縮): 同じ姿勢を保持(重量物の保持・不自然な姿勢での継続作業)→筋肉が持続的に収縮→血管が圧迫→血流遮断→嫌気的代謝→乳酸蓄積→局所疲労・痛み(作業関連筋骨格系障害の原因)
  • 動的筋労働(等張性収縮): 収縮と弛緩を繰り返す→血流が維持される→有酸素的代謝が主→静的筋労働より長時間の作業が可能

職業性筋骨格系障害(VDT作業・重量物取扱等):

  • 肩こり・腰痛・頚部痛などの筋骨格系の慢性疲労・炎症
  • 原因: 静的筋労働(長時間の不良姿勢・マウス操作・長時間立位等)
  • 予防: 適切な作業姿勢・定期的な休憩(20〜30分に1回5分程度の休憩と軽い体操)・作業の多様化(ジョブローテーション)

運動・スポーツとグリコーゲン回復:

  • 運動後の「スーパーコンペンセーション」: 運動直後の糖質補給(糖質を多く含む食品・スポーツドリンク)→インスリン分泌促進→GLUT4活性化→筋細胞へのグルコース取り込み増加→グリコーゲン合成促進→運動前より多いグリコーゲン蓄積
  • 職場での重労働作業者のエネルギー補給: 作業前の糖質摂取・作業中の定期的な補給・作業後の回復期の糖質摂取が重要

筋肉の適応(超回復・ハイパートロフィー):

  • 筋トレ→筋タンパクの分解→回復期の合成↑(筋肥大)→より強い・大きい筋肉へ
  • この適応には回復期の十分な睡眠・タンパク質摂取・成長ホルモン分泌(深睡眠中)が必要
  • 過重労働(回復不十分)→慢性的なオーバートレーニング症候群→免疫低下・ホルモン異常・パフォーマンス低下

【試験での位置づけ】

筋肉疲労問題では「グリコーゲンは疲労時に消費・枯渇(増加ではない)」「滑走説:アクチン・ミオシンが滑り合ってATPが必要」「筋収縮のトリガーはCa²⁺(筋小胞体から放出)」「遅筋(持久力・有酸素)vs速筋(瞬発力・解糖系)」が最頻出です。エのような「グリコーゲンが増加することで疲労する」という正反対の誤りは典型的な引っかけです。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 「リゴルモルティス(死後硬直)」はATPがなくなるとクロスブリッジが解除できなくなる(ATPが必要なのは収縮だけでなく「弛緩」にも必要)という現象です。死後、細胞のATPが枯渇→ミオシン頭部がアクチンに結合したまま離れられない→硬直。後にタンパク分解が進んで軟化します。「ATPが筋弛緩にも必要」という重要な点が理解できます。
  • イ: 悪性高熱症(malignant hyperthermia): 吸入麻酔薬・筋弛緩薬(スキサメトニウム)の投与→骨格筋のRyR(リアノジン受容体)の異常活性化→筋小胞体から大量Ca²⁺放出→制御不能な筋収縮→体温急上昇(42℃以上)・横紋筋融解→致死的。Ca²⁺ハンドリングの遺伝的異常による稀な疾患です。
  • オ: 筋線維タイプと職業の関係: マラソン選手(持久力主体)は遅筋線維の割合が高い(80〜90%)。短距離走者(瞬発力主体)は速筋線維の割合が高い(60〜70%)。この割合は主に遺伝的に決まりますが、トレーニングで中間型(TypeIIa)の割合や特性は変化します。職場では重量物搬送作業者(瞬発的筋収縮が多い)は速筋系の疲労・腰痛リスク、VDT作業者(長時間静的収縮)は遅筋・静的疲労のリスクがそれぞれあります。

【根拠】医学的事実(確立した生理学)。筋疲労はグリコーゲンの「消費・枯渇」によって生じる(増加ではない)こと、筋収縮のCa²⁺カスケード・滑走説・遅筋と速筋の特性は骨格筋生理学の基礎概念として確立。

【補足】筋疲労はグリコーゲンの消費(枯渇)が一因(増加は誤り)。筋収縮のトリガーはCa²⁺(筋小胞体→トロポニンC→アクチン露出)。乳酸は嫌気的代謝の産物。遅筋=持久力、速筋=瞬発力。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。筋疲労はグリコーゲンの「増加」ではなく「消費・枯渇」によって生じる(増加は誤り)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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