衛生管理者 労働生理 問34:感覚器・内分泌
副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の作用に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- アコルチゾールは血糖値を上昇させる作用を持ち、肝臓での糖新生を促進し、末梢組織(筋肉・脂肪組織)でのグルコース取り込みを抑制する。
- イコルチゾールは免疫系を抑制する作用を持ち、炎症反応・アレルギー反応を抑制するため、抗炎症薬・免疫抑制薬として臨床応用される合成製剤が存在する。
- ウコルチゾールは長期間の精神的ストレスに対する生体応答(ストレス反応)の中心的なホルモンであり、ストレスが持続すると血中コルチゾール値が持続的に上昇する。
- エコルチゾールはHPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)によって調節されており、血中コルチゾール濃度が高くなると視床下部と下垂体前葉へのフィードバックが働き、さらなる分泌が促進される(正のフィードバック)。正答
- オコルチゾールの分泌量は概日リズム(サーカディアンリズム)を示し、通常は早朝(起床前後)に最も高く、深夜から早朝にかけて上昇し、夕方〜夜間に最も低くなる。
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誤りはエです。「血中コルチゾール濃度が高くなるとさらなる分泌が促進される(正のフィードバック)」という部分が誤りです。実際は負のフィードバックが働き、コルチゾールが増えると視床下部・下垂体前葉への抑制シグナルが送られ、コルチゾールの過剰産生を防ぐ仕組みになっています。
その他の選択肢は正しい内容です。コルチゾールは血糖を上げる(ア・正)、免疫を抑制する(イ・正)、ストレスホルモンとして慢性的に上昇する(ウ・正)、早朝に分泌が最高(オ・正)は確立した事実です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): コルチゾールは「糖質コルチコイド」の代表で、肝臓での糖新生(タンパク質・脂肪をグルコースに変換する経路)を促進し、インスリン抵抗性を高めて末梢組織のグルコース取り込みを抑制します。結果として血糖値が上昇します。長期大量投与の副作用として「ステロイド性糖尿病」が起きます。
- イ(正): コルチゾールは炎症性サイトカイン産生・好中球活性・リンパ球機能を抑制します。合成コルチコステロイド(プレドニゾロン・デキサメタゾン等)は関節リウマチ・喘息・アレルギー・自己免疫疾患の治療に広く使用されます。
- ウ(正): 精神的ストレス・身体的ストレス(疾患・外傷)→視床下部CRH分泌→下垂体ACTH分泌→副腎皮質コルチゾール分泌という「HPA軸の活性化」がストレス反応の中核です。慢性ストレスでは持続的な高コルチゾール状態が続き、免疫抑制・骨粗鬆症・高血糖を招きます。
- エ(誤): HPA軸は負のフィードバックで調節されます。コルチゾールが上昇すると、視床下部でのCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)分泌と下垂体前葉でのACTH分泌が抑制され、コルチゾールの過剰産生が防がれます。正のフィードバック(雪だるま式増加)ではありません。
- オ(正): コルチゾールは概日リズムを示し、早朝4〜8時(起床前後)にピーク、深夜に最低となります。これはACTHの概日リズムに従っており、睡眠・活動サイクルと連動しています。夜勤労働者ではこのリズムが乱れ、慢性的な健康影響が生じます。
【理論的背景】
副腎は腎臓の上に位置する内分泌腺で、外側の副腎皮質と内側の副腎髄質に分かれます。
副腎皮質の3ゾーンとホルモン:
- 球状帯(最外層): 鉱質コルチコイド(アルドステロン)→腎尿細管でNa⁺再吸収・K⁺排泄→血圧・電解質調節
- 束状帯(中間): 糖質コルチコイド(コルチゾール)→血糖上昇・免疫抑制・抗炎症
- 網状帯(最内層): 副腎アンドロゲン(DHEA等)→性ホルモン前駆体
HPA軸(Hypothalamic-Pituitary-Adrenal axis)の詳細:
1. ストレス刺激(身体的・心理的)→視床下部のPVN(室傍核)でCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌
2. CRH→下垂体前葉のコルチコトロープ細胞→ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌
3. ACTH→副腎皮質(束状帯)→コルチゾール合成・分泌
4. 負のフィードバック: コルチゾール→視床下部(CRH抑制)・下垂体前葉(ACTH抑制)→コルチゾールが元に戻る
コルチゾールの主要作用のまとめ:
| 作用 | 機序 | 結果 |
|---|---|---|
| 血糖上昇 | 肝糖新生↑・インスリン抵抗性↑ | 高血糖・ステロイド糖尿病 |
| タンパク異化 | 筋タンパク分解→アミノ酸→糖新生 | 筋萎縮・皮膚薄化 |
| 脂肪再分布 | 中心性肥満(内臓・顔・頸部に蓄積) | 満月様顔貌・水牛様脂肪沈着 |
| 免疫抑制 | リンパ球アポトーシス・炎症性サイトカイン抑制 | 感染易感染性・創傷治癒遅延 |
| 骨代謝 | 骨芽細胞機能低下・破骨細胞活性化・Ca吸収低下 | 骨粗鬆症 |
| 胃粘膜 | 粘膜保護機序障害・胃酸分泌促進 | 消化性潰瘍リスク上昇 |
クッシング症候群(コルチゾール過剰)の主症状: 満月様顔貌(moon face)・中心性肥満・高血糖・高血圧・骨粗鬆症・免疫抑制・皮膚線条(紫色の線条)
【実務・条文構造】
職場のストレスとHPA軸の関連(産業保健の実務):
慢性職業性ストレスとコルチゾール:
- 過重労働・ハラスメント・仕事の要求度過多→慢性的なHPA軸活性化
- 長期高コルチゾール→免疫低下→感染症・悪性腫瘍リスク上昇
- 夜間コルチゾール低下不全(夜間コルチゾール高値)→睡眠障害・疲労回復不全
バーンアウト(燃え尽き症候群)とHPA軸:
- 過大な仕事要求・長期ストレス→HPA軸の「疲弊」→コルチゾール朝の立ち上がり(CAR: cortisol awakening response)の減弱
- CARは起床後30〜45分でコルチゾールが50〜100%急上昇する現象→減弱はHPA軸疲弊の客観的指標
- バーンアウト者では通常の高コルチゾールではなく、むしろ「HPA軸の反応性低下」が見られることが多い
ステロイド性骨粗鬆症の予防(長期ステロイド服用者の産業保健管理):
- 服薬3ヶ月以上の予定者には骨粗鬆症治療薬(ビスホスホネート等)の予防投与を考慮
- カルシウム・ビタミンD補充・負荷運動励行・転倒防止
【試験での位置づけ】
コルチゾール(副腎皮質ホルモン)問題の最頻出論点は「血糖上昇(インスリンとの拮抗)」「免疫抑制(抗炎症作用)」「ストレスホルモン」「概日リズム(朝高・夜低)」「HPA軸の負のフィードバック」です。エのような「正のフィードバック」という記述は、負のフィードバックという基本ルールを逆にした典型的な引っかけです。内分泌系の大半はコルチゾール・甲状腺ホルモン・インスリン/グルカゴン等の「負のフィードバック」で調節されており、「正のフィードバック」は排卵誘発時のLHサージ等の特殊例のみです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: インスリンとコルチゾールは血糖調節において拮抗します。インスリン=血糖低下(インスリン分泌↑→細胞のグルコース取込↑)。コルチゾール=血糖上昇(糖新生↑・インスリン抵抗性↑)。この拮抗は絶食・飢餓・ストレス時の血糖維持に重要です。長期ステロイド服用者でインスリン抵抗性(ステロイド性糖尿病)が起きるのはこの機序による。
- イ: 合成コルチコステロイドの臨床使用で注意すべき副作用: ①感染リスク上昇(免疫抑制による)②消化性潰瘍③骨粗鬆症④高血糖⑤精神症状(ステロイド精神病)⑥副腎萎縮(外因性コルチゾールによるHPA軸抑制→内因性分泌低下)→突然中断で副腎クリーゼ(急性副腎不全)。
- ウ: 急性ストレス反応(戦うか逃げるか反応: fight-or-flight response): 交感神経系+副腎髄質(アドレナリン)が主役→即時反応(秒〜分単位)。HPA軸(コルチゾール)は慢性ストレス対応→遅い反応(分〜時間単位)。両者は協調してストレス対応を担います。
- オ: コルチゾールの概日リズムの乱れは夜勤労働者・シフトワーカーで問題になります。通常の起床時刻に合ったコルチゾール上昇がなくなり、疲労感・認知機能低下・代謝異常が生じます。交替勤務による概日リズム障害は様々な疾患リスク(心血管・糖尿病・乳がん等)と関連することが疫学研究で示されており、衛生管理者が夜勤者の健康管理で考慮すべき重要な知識です。
【根拠】医学的事実(確立した生理学・内分泌学)。HPA軸の負のフィードバック調節・コルチゾールの血糖上昇・免疫抑制・ストレスホルモンとしての役割・概日リズムは内分泌生理学の基礎概念として確立。
【補足】コルチゾールはHPA軸の「負のフィードバック」で調節される(正のフィードバックは誤り)。血糖上昇・免疫抑制・ストレスホルモン・早朝最高の概日リズムは正しい。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学・内分泌学)。HPA軸の負のフィードバック調節は内分泌学の基礎概念として確立。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。