衛生管理者 労働生理 問39:血液・体温調節・睡眠
睡眠のメカニズムに関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア睡眠は大きくREM(急速眼球運動)睡眠とNREM(非REM)睡眠に分かれ、REM睡眠中に成長ホルモンが大量分泌されるため、「眠れば育つ」のはREM睡眠のおかげである。
- イ成人では一晩の睡眠中にREM睡眠とNREM睡眠が約90〜120分の周期で繰り返され、REM睡眠の割合は入眠直後に最も高く、起床に近づくほど減少する。
- ウNREM睡眠の第3段階(深睡眠・徐波睡眠)で成長ホルモン分泌が最大となり、身体の修復・疲労回復に重要である。正答
- エREM睡眠中は大脳皮質活動が完全に停止しており、記憶の整理・統合はNREM睡眠中のみで行われる。
- オ夜勤労働者は日中に就寝しても体温の概日リズムが昼高夜低であるため、夜と同様の深い睡眠を容易に得ることができる。
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正しいのはウです。成長ホルモンはNREM睡眠の深睡眠(ノンレム睡眠第3段階・徐波睡眠)で大量分泌されます。アのように「REM睡眠で成長ホルモンが大量分泌される」は誤りです。
各誤りの要点: ア→成長ホルモンはNREM深睡眠で分泌(REM睡眠ではない)。イ→REM睡眠は入眠直後に少なく起床に近づくほど増加する(前半NREM優位・後半REM優位)。エ→REM睡眠中は大脳皮質活動が活発(夢を見る)で、記憶の整理はREM睡眠にも関与する。オ→日中に就寝しても体温が低い夜間のような深い睡眠は得にくく(概日リズムの影響が残るため)夜勤者の睡眠は質が低下する。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 成長ホルモン(GH)の分泌はREM睡眠ではなく、NREM睡眠の第3段階(徐波睡眠・デルタ波)で最大になります。入眠後最初の深睡眠(通常入眠後1〜2時間)に成長ホルモンパルスが最も大きく生じます。「眠れば育つ」とはNREM深睡眠の質が重要という意味です。
- イ(誤): REM睡眠の割合は入眠直後は少なく、後半(起床前)ほど増加します。一晩の睡眠で見ると、前半はNREMの深睡眠(徐波睡眠)が優位で後半はREM睡眠が増加するというパターンが正常です。「入眠直後に最も高い」は誤りです。
- ウ(正): NREM睡眠の深睡眠(第3段階・SWS: slow-wave sleep)では脳波にデルタ波(高振幅・低周波)が出現し、成長ホルモン分泌が最大になります。筋肉・骨の修復・免疫機能の回復・記憶の固定化(陳述記憶の一部)もNREM睡眠中に進みます。
- エ(誤): REM睡眠中は大脳皮質は活発に活動しており(覚醒時に近い脳波パターン)、鮮明な夢を見るのはこの時期です。記憶の整理・統合にはREM睡眠も関与しており(特に手続き記憶・情動記憶の整理)、「NREM睡眠のみ」は誤りです。「REM睡眠中に脳活動が完全停止」は正反対の誤りです。
- オ(誤): 夜勤労働者が日中に就寝しても、概日リズム(体内時計)は依然として「日中に体温上昇・活動」を命令しており、体温が高い時間帯は深い睡眠が得にくい状態になります。夜間と同様の深いNREM睡眠(徐波睡眠)を日中に得ることは困難で、睡眠の質・量ともに低下します。これが夜勤者の慢性睡眠不足・疲労・健康障害の根本的な原因の一つです。
【理論的背景】
睡眠は受動的な意識消失ではなく、脳が積極的に管理する動的な生理プロセスです。
REM睡眠 vs NREM睡眠の比較:
| 特性 | REM睡眠 | NREM睡眠(特に第3段階) |
|---|---|---|
| 眼球運動 | 急速(rapid eye movement) | なし |
| 脳波 | 覚醒に近い(低振幅・高周波) | デルタ波(高振幅・低周波) |
| 骨格筋 | 弛緩(脱力・REM睡眠行動障害では消失) | 緊張維持 |
| 夢 | 鮮明な夢(多い) | ほぼなし(あっても断片的) |
| 成長ホルモン | 最小 | 最大(パルス状分泌) |
| 心拍・血圧 | 変動大(不安定) | 安定(徐脈・低血圧) |
| 記憶関連 | 手続き記憶・情動記憶の整理 | 陳述記憶(エピソード・意味)の固定 |
睡眠の機能(なぜ眠るのか):
1. 脳の老廃物除去(グリンパティックシステム): 睡眠中に脳脊髄液が脳実質に流入し、覚醒中に蓄積したβ-アミロイド・タウタンパク等を洗い流す→アルツハイマー病との関連
2. 免疫機能の回復: NK細胞活性・T細胞機能の回復→「風邪のときは寝ろ」の生物学的根拠
3. 代謝の回復: 成長ホルモン分泌→組織修復・タンパク質合成
4. 記憶の固定化: 学習した情報を長期記憶に移行
5. 情動の調節: 扁桃体の「感情の再処理」(REM睡眠中)→睡眠不足で感情制御困難
概日リズムと睡眠圧(2過程モデル):
- 過程C(サーカディアン・概日リズム): 視交叉上核の時計遺伝子が24時間周期で睡眠を調節→体温低下・メラトニン分泌増加が入眠のシグナル
- 過程S(睡眠圧・恒常的過程): 覚醒時間が長いほどアデノシンが蓄積→眠気増加。睡眠中にアデノシンが代謝→睡眠圧が解消
- カフェインはアデノシン受容体を阻害→眠気抑制。カフェインは睡眠圧を解消しないため「借り」は残る
【実務・条文構造】
夜勤・交替勤務と睡眠の産業保健:
交替勤務の健康影響(証拠があるもの):
- 睡眠障害(不眠・日中の過眠)
- 心血管疾患リスク上昇(22〜96%増のメタ分析あり)
- 2型糖尿病・メタボリックシンドロームリスク上昇
- 乳がんリスク上昇(女性夜勤労働者:IARC Group 2A発がん性分類)
- 胃腸障害(過敏性腸症候群・消化性潰瘍)
- 精神的健康障害(うつ病・不安障害)
衛生管理者の夜勤者への健康管理の実践:
1. 夜勤前の十分な睡眠(前眠の確保)
2. 夜勤中の短い仮眠(20〜30分:深睡眠に入る前に覚醒→睡眠慣性が少ない)
3. 帰宅後の光曝露を避ける(サングラス使用・遮光カーテン)
4. 規則的な食事・運動
5. 定期的な健康診断での睡眠・疲労の評価
睡眠障害の労働への影響:
- 不眠症の有訴者は作業ミス・事故リスクが2〜3倍
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS): 運転業務・高所作業でのリスク(過労運転等)
- 職業運転手・高所作業者の特殊健康診断にSASスクリーニングを含める必要性
メラトニンと概日リズム調整:
- 松果体から夜間に分泌されるホルモン(光で分泌抑制)
- 夜勤後の昼間就寝前に少量のメラトニン(0.5〜3mg)服用が概日リズムの調整に有効
【試験での位置づけ】
睡眠の問題では「成長ホルモン分泌=NREM深睡眠(REM睡眠ではない)」「REM睡眠は後半に増加(前半は少ない)」「REM睡眠中は大脳が活発・夢を見る」「夜勤者の日中睡眠は質が低下(概日リズムの影響)」が最頻出です。アのような「REM睡眠で成長ホルモン大量分泌」は最も典型的な引っかけで、REM(夢・脳活発)とNREM深睡眠(成長ホルモン・身体修復)の機能の対比を確実に覚える必要があります。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 幼小児では成長ホルモンが特に重要で、睡眠時間の確保(特に就寝時刻)が身長・体重の発育に直結します。スポーツ選手の「8時間睡眠の神話」には科学的根拠があり、十分なNREM深睡眠(成長ホルモン)が筋肉修復・タンパク合成に不可欠です。一方で高齢になると徐波睡眠(NREM第3段階)が減少し、成長ホルモン分泌も減少します(「高齢者は眠りが浅い」の生物学的根拠)。
- イ: 睡眠の前半(就寝後0〜4時間)はNREM深睡眠優位→身体的疲労回復・成長ホルモン分泌に重要。睡眠の後半(就寝後4〜8時間)はREM睡眠優位→記憶統合・情動調節に重要。「夜中の3時に起きてしまう」などの中途覚醒はREM睡眠の妨げとなり、日中の情動不安定・記憶力低下につながります。
- エ: REM睡眠中の「骨格筋の脱力(筋肉麻痺)」は夢の内容を実際に行動しないための保護機構です。この脱力機構が壊れると「REM睡眠行動障害(RBD)」が生じ、夢に合わせて実際に大声を出す・殴る・蹴るなどの行動が起きます。RBDはパーキンソン病・レビー小体型認知症の前兆として重要で、早期診断のマーカーになります。
- オ: 夜勤労働者の順化(adaptation)は完全には起きません。多くの研究で夜勤労働者の概日リズムは変化しても、通常の日勤者と同様のリズムを保ちたがる体内時計(homeostasis for the "normal" phase)により、完全な夜型への適応は少数の人にしか起きないことが示されています。これが長期夜勤が健康に有害な根本的理由です。
【根拠】医学的事実(確立した生理学・睡眠医学)。NREM深睡眠での成長ホルモン分泌・REM睡眠の後半優位・REM中の大脳活動・夜勤者の睡眠質低下は睡眠生理学の基礎概念として確立。
【補足】成長ホルモン=NREM深睡眠(徐波睡眠)で大量分泌(REM睡眠ではない)。REM睡眠は後半(起床前)に増加。REM中は大脳活発(夢を見る)。夜勤者の日中睡眠は概日リズムの影響で質が低下する。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学・睡眠医学)。NREM睡眠の深睡眠(徐波睡眠)での成長ホルモン分泌が最大であることは確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。