衛生管理者 労働生理 問44:消化・代謝
膵臓の機能および糖代謝に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア膵臓は外分泌腺(膵液の分泌)と内分泌腺(ホルモンの分泌)の両方の機能を持つ。膵液にはタンパク質分解酵素(トリプシン等)・脂肪分解酵素(リパーゼ)・炭水化物分解酵素(アミラーゼ)が含まれる。
- イランゲルハンス島(膵島)のα細胞はグルカゴンを、β細胞はインスリンを分泌する。グルカゴンは肝臓のグリコーゲン分解・糖新生を促進して血糖を上昇させる。
- ウ糖尿病(1型・2型)では血糖値が慢性的に上昇し、網膜症・腎症・神経障害の三大合併症が生じる。これらはすべて血糖値が高い状態が持続することで血管・神経が障害される機序による。
- エ食後に血糖値が上昇すると、インスリンが分泌され血糖値を低下させる一方で、血糖値の低下(低血糖)が起きた場合はインスリン分泌がさらに増加することで血糖値を正常化する(正のフィードバック)。正答
- オグリコーゲンは肝臓と骨格筋に主に貯蔵されるが、肝臓グリコーゲンは血糖値維持(全身へのブドウ糖供給)に、筋グリコーゲンは主にその筋肉自身のエネルギー源として使用され、血糖には直接つながりにくい。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠法令も明記。
誤りはエです。「低血糖のときにインスリン分泌がさらに増加する(正のフィードバック)」という部分が誤りです。低血糖が起きたら、インスリン分泌は抑制され、グルカゴンやアドレナリンが分泌されて血糖を上昇させます(負のフィードバック)。「インスリンがさらに増えたら血糖がさらに下がって大変なことになる」と考えれば当然ですね。
その他の選択肢は正しい内容です。膵臓の外・内分泌機能・膵液の酵素(ア・正)。α細胞→グルカゴン、β細胞→インスリン(イ・正)。糖尿病三大合併症(ウ・正)。グリコーゲンの肝臓・筋肉での役割の違い(オ・正)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 膵臓の外分泌(腺房細胞から膵管→十二指腸): 膵液(1〜1.5L/日)は炭酸水素ナトリウム(重炭酸塩:胃酸を中和)とタンパク質分解酵素(トリプシノゲン→十二指腸で活性化)・リパーゼ(脂肪分解)・アミラーゼ(デンプン分解)を含みます。膵臓の内分泌(ランゲルハンス島から直接血中): インスリン(β細胞)・グルカゴン(α細胞)・ソマトスタチン(δ細胞)等を分泌します。
- イ(正): 血糖調節の拮抗ホルモン: インスリン(食後血糖上昇→β細胞→分泌増加→血糖低下。作用: 細胞へのグルコース取込促進・グリコーゲン合成促進・脂肪合成促進)。グルカゴン(低血糖→α細胞→分泌増加→血糖上昇。作用: 肝グリコーゲン分解促進・糖新生促進)。
- ウ(正): 糖尿病の慢性合併症の機序: 高血糖→血管内皮障害・酸化ストレス・終末糖化産物(AGE)蓄積。細小血管障害→三大合併症: 網膜症(失明)・腎症(透析)・神経障害(末梢神経障害・自律神経障害)。大血管障害→冠動脈疾患・脳梗塞・末梢動脈疾患。
- エ(誤): 低血糖に対する生体反応は「インスリン分泌増加(正のフィードバック)」ではなく、負のフィードバック(低血糖→インスリン分泌抑制・グルカゴン分泌増加→血糖上昇)です。加えて、低血糖の防衛機構として交感神経(アドレナリン分泌)・コルチゾール・成長ホルモンも血糖上昇方向に働きます。インスリン過剰(インスリン注射・β細胞腫)による重症低血糖はむしろ「インスリンが過剰で制御できなくなった」状態です。
- オ(正): 肝グリコーゲン(約70〜100g)は絶食時・運動時にグルコースに分解されて血糖維持に使われます。筋グリコーゲン(約300〜400g)はグルコース-6-リン酸を経由するためグルコースを血中に直接放出できず、その筋肉のエネルギー源に限定されます(肝臓にはグルコース-6-ホスファターゼがあるが筋肉にはない)。
【理論的背景】
膵臓は消化と代謝の両面で中心的な役割を担うユニークな臓器です。外分泌と内分泌の機能が一臓器に共存します。
膵臓の構造と機能の詳細:
- 外分泌部(腺房:acinus): 全膵臓の95〜99%を占める。膵液産生→膵管→総胆管と合流→ファーター乳頭→十二指腸へ
- 内分泌部(ランゲルハンス島:Islets of Langerhans): 全膵臓の1〜2%。血管に富み直接血中にホルモン分泌
ランゲルハンス島の細胞構成:
- α細胞(15〜20%): グルカゴン分泌(血糖上昇)
- β細胞(65〜80%): インスリン分泌(血糖低下)
- δ細胞(5〜10%): ソマトスタチン分泌(インスリン・グルカゴン両方を抑制)
- PP細胞(5%): 膵臓ポリペプチド
血糖調節の精密なフィードバック機構:
1. 食後(血糖上昇): グルコース→β細胞のATP産生→K⁺チャネル閉鎖→膜電位上昇→Ca²⁺流入→インスリン小胞の開口分泌→血糖低下
2. 空腹・低血糖時: グルコース低下→β細胞のインスリン分泌抑制→α細胞のグルカゴン分泌増加→肝グリコーゲン分解・糖新生→血糖上昇
3. 重症低血糖(〈50mg/dL): 交感神経-副腎髄質軸(アドレナリン)・コルチゾール・成長ホルモンも血糖上昇に動員(counterregulatory response)
糖代謝の主要経路:
- 解糖系: グルコース→ピルビン酸(無酸素でも進行・細胞質)
- クエン酸回路(TCAサイクル): ピルビン酸→アセチルCoA→36〜38 ATP(ミトコンドリア・有酸素)
- 糖新生(gluconeogenesis): アミノ酸・乳酸・グリセロール→グルコース(主に肝臓・腎臓)
【実務・条文構造】
糖尿病と職場の健康管理(衛生管理者の実務):
糖尿病と業務適性:
- 低血糖発作リスクのある労働者(インスリン治療中): 自動車運転・高所作業・危険機械操作は医師の評価が必要
- インスリン使用者が低血糖を起こした場合の対応(職場の救急): グルコース・砂糖の経口投与(意識あり)・グルカゴン筋注・ブドウ糖静注(意識なし)
特定健診・特定保健指導(メタボリックシンドローム対策):
- 腹囲: 男性85cm以上・女性90cm以上が内臓脂肪型肥満の目安
- 空腹時血糖100mg/dL以上が特定保健指導の対象(HbA1cで5.6%以上)
- 2型糖尿病は生活習慣病として特定保健指導の中心的対象疾患
職業性糖尿病リスク因子(長時間労働・交替勤務との関連):
- 夜勤・交替勤務→概日リズム乱れ→インスリン抵抗性上昇→2型糖尿病リスク上昇(コホート研究で確認)
- 長時間座位作業→身体活動低下→インスリン感受性低下
- 職場の食環境(コンビニ飯・欠食・過食)→血糖コントロール悪化
【試験での位置づけ】
膵臓・糖代謝の問題では「膵臓は外分泌(膵液:消化酵素)+内分泌(ランゲルハンス島:インスリン・グルカゴン)」「α細胞→グルカゴン(血糖上昇)・β細胞→インスリン(血糖低下)」「低血糖時はインスリン分泌抑制・グルカゴン分泌増加(負のフィードバック)」「肝グリコーゲン→血糖維持・筋グリコーゲン→自筋のエネルギー(血糖に直結しない)」が最頻出です。エの誤りは「低血糖時にインスリンがさらに増える」という負のフィードバックを正のフィードバックに入れ替えた典型的な引っかけです。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 急性膵炎は膵液の活性化酵素(トリプシン等)が膵臓自体を消化してしまう緊急疾患です。原因: アルコール性(最多)・胆石性。症状: 上腹部の激しい疼痛・放散痛(背部)・嘔気・発熱。職場での過度の飲酒→急性膵炎→緊急入院というパターンは産業保健の場面で遭遇します。
- イ: ソマトスタチン(δ細胞)はインスリンとグルカゴンの両方を抑制する「デュアル抑制物質」として血糖の過剰な振れを防ぐ役割を担います。また胃腸管の蠕動抑制・消化液分泌抑制にも関与します。
- ウ: 糖尿病性神経障害の特徴: 末梢神経(対称性遠位優位)→手袋・靴下型の感覚障害(麻酔・灼熱感)。自律神経障害→起立性低血圧(高所作業で失神リスク)・胃腸障害・勃起障害・膀胱機能障害。足病変(足底の潰瘍・壊疽)は感覚障害+末梢動脈疾患の組み合わせで生じ、長時間立位作業者の足のケアが重要です。
- オ: 筋グリコーゲンが血糖に直結しない理由: 筋肉にはグルコース-6-ホスファターゼが欠如しており(肝臓・腎臓にはある)、グリコーゲン→グルコース-6-リン酸→(G6Paseがないため)解糖系にのみ入ります。肝臓のG6Paseはグルコース-6-リン酸→グルコースを血中に放出することができます。これが「空腹時は肝臓が血糖を維持・筋肉は自分の燃料にしか使えない」という機能分担の生化学的根拠です。
【根拠】医学的事実(確立した生理学)。低血糖時のインスリン分泌抑制・グルカゴン分泌増加(負のフィードバック)・肝グリコーゲンと筋グリコーゲンの役割の違い・膵臓の外・内分泌機能は確立した知識。
【補足】低血糖時はインスリン分泌が抑制され、グルカゴン・アドレナリンが血糖を上昇させる(負のフィードバック)。「低血糖でインスリンがさらに増加」は誤り。膵α細胞→グルカゴン(血糖上昇)、β細胞→インスリン(血糖低下)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した生理学)。低血糖時にインスリン分泌が「さらに増加する」のは誤りで、実際はインスリン分泌が抑制・グルカゴン分泌増加・交感神経活性化で血糖を正常化する(負のフィードバック)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。