衛生管理者 労働生理 問52:感覚器・内分泌
下垂体ホルモンおよび成長ホルモン(GH)に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア下垂体は前葉(腺性下垂体)と後葉(神経性下垂体)に分かれ、前葉からは成長ホルモン(GH)・甲状腺刺激ホルモン(TSH)・副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)・性腺刺激ホルモン(LH・FSH)・プロラクチン等が分泌される。
- イ抗利尿ホルモン(ADH・バソプレシン)は下垂体後葉から放出され、腎集合管・遠位尿細管での水の再吸収を促進することで尿量を減少させ(抗利尿作用)、体液量の調節に関与する。
- ウ成長ホルモン(GH)は小児期の骨・筋肉の成長促進に重要だが、成人後は完全に分泌が停止するため、成人では成長ホルモンは生理的に必要ではない。正答
- エオキシトシンは下垂体後葉から放出され、分娩時の子宮収縮・授乳時の乳汁分泌(射乳反射)を促す。また社会的行動(絆の形成・信頼感)への関与も報告されている。
- オ下垂体前葉からのホルモン分泌は、視床下部からの放出ホルモン(GRH・TRH・CRH・GnRH等)によって促進され、視床下部-下垂体-標的腺の軸における負のフィードバックによって調節される。
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誤りはウです。「成長ホルモンは成人後は分泌が完全に停止する」という部分が誤りです。成長ホルモン(GH)は成人後も分泌が続いており、骨密度の維持・脂肪の分解・筋肉のタンパク質維持・代謝調節など重要な役割を担っています。確かに成人では骨端線が閉じるため「身長を伸ばす」効果はなくなりますが、分泌が完全に停止するわけではありません。成人でも特にNREM深睡眠中にGHのパルス状の分泌が起きます。
その他の選択肢は正しい内容です。下垂体前・後葉の区分と前葉ホルモンの種類(ア・正)。ADH(バソプレシン)の腎での水再吸収作用(イ・正)。オキシトシンの子宮収縮・射乳・社会的行動(エ・正)。下垂体前葉の視床下部による制御と負のフィードバック(オ・正)はいずれも正確です。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(正): 下垂体前葉(腺性下垂体)のホルモン: GH(成長ホルモン)・TSH(甲状腺刺激ホルモン→甲状腺でT3・T4産生)・ACTH(副腎皮質刺激ホルモン→コルチゾール産生)・LH(黄体形成ホルモン)・FSH(卵胞刺激ホルモン)・PRL(プロラクチン:授乳)・MSH(メラノサイト刺激ホルモン)。下垂体後葉(神経性下垂体): ADH(バソプレシン)・オキシトシン(視床下部で産生→後葉に輸送・貯蔵・放出)。
- イ(正): ADH(抗利尿ホルモン・バソプレシン)の分泌調節: 血漿浸透圧上昇(脱水・塩分過多)→視床下部の浸透圧受容体が感知→ADH分泌↑→腎集合管・遠位尿細管のAQP2(アクアポリン2:水チャネル)増加→水再吸収↑→尿量減少・血漿浸透圧低下。尿崩症(ADH欠乏): 1日10〜20L以上の多尿・著しい口渇。ADH分泌不適切症候群(SIADH): ADH過剰→水貯留→希釈性低ナトリウム血症。
- ウ(誤): 成長ホルモン(GH)は成人後も分泌が継続します。成人のGHの役割: ①骨密度維持(骨芽細胞機能)②脂肪分解(脂肪組織のリパーゼ活性化→FFA放出)③筋タンパク維持・合成促進④インスリン様成長因子-1(IGF-1)の産生刺激(主に肝臓)→末梢細胞での成長・代謝効果。成人GH欠乏症(下垂体腫瘍手術後等)では体脂肪増加・筋力低下・骨密度低下・QOL低下が生じ、GH補充療法で改善します。
- エ(正): オキシトシン(「愛情ホルモン」とも呼ばれる)は視床下部の室傍核・視索上核で産生・下垂体後葉から放出。分娩時: 子宮頸部の伸展→オキシトシン放出→子宮収縮(正のフィードバック→出産まで増強)。授乳時: 乳頭刺激→オキシトシン→乳腺の筋上皮細胞収縮→射乳。社会的機能: 対人信頼・共感・母子絆・社会不安軽減(オキシトシン点鼻薬で自閉症スペクトラム障害の研究もある)。
- オ(正): 視床下部-下垂体-標的腺の階層的調節の概念: 視床下部(放出ホルモン・抑制ホルモン)→門脈血流で下垂体前葉→刺激ホルモン→標的腺(甲状腺・副腎・性腺)→効果ホルモン(T3/T4・コルチゾール・性ステロイド)→視床下部・下垂体前葉への負のフィードバック。例: TSH→甲状腺→T4・T3→TRH・TSH分泌抑制。
【理論的背景】
下垂体(pituitary gland・脳下垂体)は蝶形骨のトルコ鞍に位置する1.5g程度の小さな腺で、「ホルモンの司令塔」と呼ばれます。視床下部との連携によって全身の内分泌系を統括します。
成長ホルモン(GH)の分泌調節と概日リズム:
- 促進: GHRH(GH放出ホルモン:視床下部)・低血糖・睡眠・運動・アミノ酸(アルギニン等)
- 抑制: ソマトスタチン(視床下部)・高血糖・IGF-1(負のフィードバック)・肥満
- 分泌パターン: パルス状分泌(数回のパルス/日)。最大のパルスはNREM深睡眠(入眠後1〜2時間)→「成長には良質な睡眠が必要」の根拠
GH→IGF-1軸の詳細:
- GH→肝臓のGH受容体→IGF-1(インスリン様成長因子-1:旧名ソマトメジンC)産生
- IGF-1が全身の細胞に作用→骨端軟骨の増殖→骨の長軸成長(小児期)・筋肉・臓器の成長
- IGF-1測定: GH分泌の安定した指標として使用(GHはパルス状で変動が大きいが、IGF-1は半減期が長く安定)
成長ホルモン過剰・欠乏の疾患:
| 疾患 | 原因 | 発症時期 | 主症状 |
|---|---|---|---|
| 巨人症(Gigantism) | GH産生腫瘍(骨端線閉鎖前) | 小児・青年期 | 異常な身長増加(2m超) |
| 先端巨大症(Acromegaly) | GH産生腫瘍(骨端線閉鎖後) | 成人 | 手・足・顎の骨・軟部組織の増大・DM・高血圧・心肥大 |
| 小児GH欠乏症 | 下垂体機能低下 | 小児期 | 低身長・低血糖 |
| 成人GH欠乏症 | 下垂体腫瘍術後等 | 成人 | 内臓脂肪増加・筋力低下・骨密度低下・倦怠感 |
【実務・条文構造】
下垂体ホルモンと職場・産業保健の接点:
下垂体腺腫(下垂体腫瘍)の産業保健上の影響:
- 成長ホルモン産生腺腫(先端巨大症): 頭蓋内圧上昇による頭痛・視野障害(両耳側半盲)。手・顎の変形→精密作業への影響。高血糖・睡眠時無呼吸→業務能率低下
- プロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ): 女性では無月経・乳汁分泌(閉経前女性に多い)・男性では性機能障害。視野障害(腫瘍が大きい場合)。治療: ドパミン作動薬(カベルゴリン等)で縮小。
ADH関連と職場:
- 慢性的な脱水状態(高温作業・大量発汗)→ADH過分泌→腎での水再吸収↑(有益な適応)
- 一方、大量の水分補給のみ(塩分補給なし)→希釈性低ナトリウム血症(ADH非依存性)→倦怠感・頭痛・意識障害(熱けいれんと異なる病態:低ナトリウム血症)
【試験での位置づけ】
下垂体ホルモンの問題では「前葉(GH・TSH・ACTH・LH/FSH・プロラクチン)と後葉(ADH・オキシトシン)の区別」「ADH=腎での水再吸収促進・尿量減少」「オキシトシン=子宮収縮・射乳」「GHは成人後も分泌が継続(睡眠中のNREM深睡眠で最大)」「視床下部-下垂体-標的腺軸の負のフィードバック」が頻出です。ウの誤りは「GHが成人で分泌停止」という成長ホルモンの成人でのいくつかの重要な役割を無視した引っかけで、GHが成人でも骨密度・筋肉・脂肪代謝等に関与し続けることを押さえてください。
【各選択肢の発展補足】
- ア: 下垂体卒中(pituitary apoplexy)は下垂体腺腫への急性出血・梗塞で生じます。突然の激しい頭痛・視野障害・眼球麻痺・意識障害が起き、緊急手術が必要な場合があります。職場での突然の激しい頭痛+視野障害は下垂体卒中のサインとして頭に置くべき緊急疾患の一つです。
- イ: 尿崩症(DI: diabetes insipidus)は比重の低い大量の尿(1日5〜20L)が出続ける疾患で、中枢性(ADH産生障害)と腎性(ADHへの腎の反応性障害)に分かれます。職場での大量飲水・頻尿が尿崩症の可能性を示すことがあり、産業医への相談が必要です。アルコールはADH分泌を一時的に抑制するため、過度の飲酒→多尿(アルコール後の頻尿の生理学的説明)。
- エ: オキシトシン研究の発展: オキシトシンの「社会性への関与」研究では、自閉症スペクトラム障害(ASD)・社交不安障害・PTSDへの治療応用が研究されています。職場での「心理的安全性」「信頼関係の構築」という組織論的概念にも、神経科学的(オキシトシンを介した社会的結合)な基盤があることが示されています。
- オ: ネガティブフィードバックが「崩れる」典型例として、クッシング症候群(コルチゾール産生腫瘍): 腫瘍のコルチゾール産生が自律的→視床下部・下垂体へのフィードバックが機能しない→CRH・ACTHは抑制されるが腫瘍のコルチゾールは止まらない(内因性クッシング病は下垂体腺腫によるACTH過剰が多い)。
【根拠】医学的事実(確立した内分泌学)。GHは成人後も分泌が継続して骨密度維持・脂肪代謝・筋肉維持に関与する。下垂体前・後葉の区分とホルモン・ADHの作用・視床下部-下垂体-標的腺軸の負のフィードバックは確立した知識。
【補足】GHは成人後も分泌継続(骨密度維持・脂肪分解・筋タンパク維持)。「成人で完全に分泌停止」は誤り。ADH(後葉)=腎での水再吸収促進・尿量減少。オキシトシン(後葉)=子宮収縮・射乳。前葉ホルモン:GH・TSH・ACTH・LH/FSH・プロラクチン。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した内分泌学)。成長ホルモン(GH)は成人後も分泌が継続し、骨密度維持・代謝調節・脂肪分解・筋タンパク維持等の生理的役割を担う。「成人後は分泌停止」は誤り。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。