労働生理53神経・筋

衛生管理者 労働生理 問53:神経・筋

脊髄の機能および脊髄損傷に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。

  • 脊髄の灰白質は脊髄の外側に位置し、白質は中央に位置する。灰白質には神経細胞体が集まり、白質には有髄神経線維が走行する。
  • 感覚(後根)と運動(前根)は脊髄の同一の根(混合神経根)から出入りし、後根(感覚)と前根(運動)は解剖学的に区別されない。
  • 脊髄は頸髄(C1-C8)・胸髄(T1-T12)・腰髄(L1-L5)・仙髄(S1-S5)・尾髄に分かれており、脊髄の完全横断損傷(完全損傷)では損傷部位以下の全ての感覚・運動・自律神経機能が永続的に失われる。正答
  • 膝蓋腱反射(膝蓋腱を叩くと膝が伸びる反射)は、大脳皮質の随意運動系が関与する反射(随意反射)であり、意識のない人では起こらない。
  • 横隔膜を支配する横隔神経は脊髄の腰髄(L3-L5)から出ており、腰髄損傷では横隔膜麻痺・自発呼吸不全が生じる。
正答:脊髄は頸髄(C1-C8)・胸髄(T1-T12)・腰髄(L1-L5)・仙髄(S1-S5)・尾髄に分かれており、脊髄の完全横断損傷(完全損傷)では損傷部位以下の全ての感覚・運動・自律神経機能が永続的に失われる。

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正しいのはウです。脊髄は頸髄・胸髄・腰髄・仙髄・尾髄に分かれており、完全な脊髄横断損傷では損傷部位より下の感覚・運動・自律神経(排尿・排便・性機能)の機能が永続的に失われます(完全対麻痺/四肢麻痺)。

各誤りの要点: ア→脊髄は灰白質が中央(H字型)・白質が外側(逆)。イ→後根(感覚性・ベル-マジャンディの法則)と前根(運動性)は解剖学的に明確に区別される。エ→膝蓋腱反射は脊髄反射(大脳皮質を介さない)であり意識のない人でも起こる(随意反射ではない)。オ→横隔神経は腰髄ではなく頸髄(C3-C5)から出る(「3・4・5は横隔膜を生かす」)。

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各選択肢の正誤と根拠:

  • ア(誤): 脊髄の断面(横断面)の構造: 中央に灰白質(H字型・蝶形:神経細胞体・シナプス・グリアが集まる)、外側を白質(有髄神経線維の集合体・神経路が走行)が囲む。脳(大脳皮質)では灰白質が外側・白質が内部という「逆の構造」なので混同しやすい。脊髄の灰白質は前角(運動ニューロン)・後角(感覚中継ニューロン)・側角(自律神経の中枢:T1-L2に存在)に分かれます。
  • イ(誤): ベル-マジャンディの法則(Bell-Magendie's law): 脊髄後根(背根)=感覚性(求心性)、脊髄前根(腹根)=運動性(遠心性)という「機能的分離」の原則です。後根損傷→感覚消失のみ(運動は保たれる)。前根損傷→運動麻痺のみ(感覚は保たれる)。後根・前根は解剖学的に明確に分かれており、「混合神経根」は誤りです(後根と前根が合流した後の脊髄神経は混合神経)。
  • ウ(正): 脊髄の区分と脊髄損傷の特徴: C4以上の損傷→四肢麻痺+呼吸筋麻痺(横隔膜神経C3-5)→人工呼吸器が必要。C5-T1の損傷→四肢麻痺(下肢+一部上肢)。T1以下の損傷→対麻痺(下肢のみ)。完全損傷では損傷部位以下の感覚・運動・自律神経機能がすべて永続的に失われます。
  • エ(誤): 膝蓋腱反射(深部腱反射)は脊髄反射(単シナプス反射)です。膝蓋腱の急激な伸展→筋紡錘(Ia線維)→脊髄後角→前角のα運動ニューロン(L2-L4)→大腿四頭筋収縮→下腿が伸びる。この反射弓は大脳皮質を経由しないため、意識のない人・深麻酔下でも起こります(随意反射ではなく脊髄反射)。反射の亢進(上位運動ニューロン障害)・消失(下位運動ニューロン/末梢神経障害)は神経学的診察で重要。
  • オ(誤): 横隔神経(phrenic nerve)は頸髄C3・C4・C5から出ます(「3・4・5 keep the diaphragm alive」という英語の語呂合わせで覚える)。C4以上の損傷→横隔膜麻痺→自発呼吸不能→人工呼吸器が必要。腰髄(L3-L5)からは坐骨神経の一部(大腿神経等)が出ます。
上級誤答論破・根拠法令まで深掘り

【理論的背景】

脊髄は末梢と脳をつなぐ「情報ハイウェイ」であり、反射の統合センターとしても機能します。

脊髄の主要な上行路(感覚)と下行路(運動):

上行路(感覚):

  • 後索-内側毛帯路: 識別触覚・振動覚・固有感覚(位置覚)→同側後索を上行→延髄で交叉→視床→大脳感覚野
  • 前外側路(脊髄視床路): 痛覚・温度覚→後角でシナプス→即座に交叉→反対側前外側方向を上行→視床→大脳

下行路(運動):

  • 皮質脊髄路(錐体路): 大脳皮質運動野→内包→延髄の錐体で大部分(85%)が交叉→脊髄側索→前角の下位運動ニューロンへ(随意運動を指令)
  • 赤核脊髄路・網様体脊髄路等(錐体外路系): 姿勢・トーヌス・反射を調節

二段階の運動ニューロン:

  • 上位運動ニューロン(UMN): 大脳皮質→内包→脊髄前角(脊髄内のα運動ニューロン)まで
  • 下位運動ニューロン(LMN): 脊髄前角→前根→末梢神経→筋肉(神経筋接合部)

UMN障害 vs LMN障害の比較(重要):

| 所見 | UMN(脊髄上位)障害 | LMN(脊髄前角/末梢)障害 |

|---|---|---|

| 筋力 | 低下 | 低下 |

| 筋緊張 | 亢進(痙性麻痺) | 低下(弛緩性麻痺) |

| 深部腱反射 | 亢進 | 消失 |

| 病的反射 | あり(バビンスキー反射陽性等) | なし |

| 筋萎縮 | 軽度(廃用性) | 著明(神経原性) |

| 筋線維束自発収縮 | なし | あり(fasciculation) |

【実務・条文構造】

脊髄損傷と職場・産業安全:

脊髄損傷の原因と産業事故の関連:

  • 頸椎損傷: 高所からの墜落・重量物落下・交通事故(頸部過伸展・過屈曲)→四肢麻痺のリスク
  • 胸腰椎損傷: 圧壊骨折(重量物・墜落)→対麻痺・排尿排便障害

脊髄損傷の産業安全統計:

  • 製造業・建設業・農業での転落・転倒・重量物取扱いが主要原因
  • 高所作業(足場・電気設備・屋根工事)での頸部保護(ヘルメット・安全帯)が予防の基本

バーンズ(ASIA)分類(脊髄損傷の重症度分類):

  • A: 完全損傷(損傷部以下の感覚・運動機能なし)
  • B: 感覚不完全(感覚は残存・運動機能なし)
  • C: 運動不完全(主要筋に一部運動機能残存だが筋力3未満)
  • D: 運動不完全(主要筋の50%以上で筋力3以上)
  • E: 正常

就労支援と合理的配慮(脊髄損傷者の雇用):

  • 車椅子使用者: バリアフリー設備(スロープ・エレベーター・トイレ)
  • 排尿管理(自己導尿): プライバシーのある場所と時間の確保
  • 自律神経反射亢進(自律神経過緊張:C6以上の損傷で高血圧・頭痛発作): 発症時の対応と職場での理解

【試験での位置づけ】

脊髄機能の問題では「脊髄:灰白質(中央・H字型)・白質(外側)(ア:逆が誤り)」「後根(感覚)・前根(運動)のベル-マジャンディの法則(イ:区別なしは誤り)」「横隔神経はC3-C5(腰髄ではない:オが誤り)」「膝蓋腱反射は脊髄反射(随意反射ではない:エが誤り)」「完全脊髄横断損傷→損傷部位以下の全機能喪失」が頻出です。

【各選択肢の発展補足】

  • ア: 脳においては大脳皮質が灰白質(外側)で白質が内部という、脊髄と逆の構造を持ちます。これは発生学的・機能的な理由によります。大脳では「皮質(外側の灰白質)で情報処理・白質(内部)が皮質間の連絡路」という構造が情報処理効率の観点から有利です。脳MRIで白質病変(leukoaraiosis)は加齢・高血圧・糖尿病で生じ、認知機能低下と関連します。
  • イ: カウダ・エクイナ症候群(馬尾症候群)は腰椎椎間板ヘルニア等で馬尾神経が圧迫される症状群で、下肢の弛緩性麻痺・感覚障害・排尿・排便障害(会陰部の感覚麻痺:鞍状麻痺)が生じます。緊急手術が必要な場合があります。「突然の下肢脱力+排尿困難」は産業救急現場で見逃してはならない緊急サインです。
  • ウ: 頸髄損傷(C4以上)での自発呼吸不能は、労働災害の最重篤な結果の一つです。現場での即時救命措置(BLS)と迅速な救急搬送が予後を大きく左右します。「頸部を動かさない(頸椎固定・バックボード使用)」は頸髄損傷が疑われる外傷現場での最重要処置です。
  • エ: バビンスキー反射(足底を引っかくと母趾が背屈する反射)は成人では陰性(足趾が底屈)が正常で、陽性(母趾背屈+他趾扇状開き)は上位運動ニューロン障害(脳梗塞・脊髄損傷等)のサインです。乳幼児(神経系未発達)では正常でも陽性。産業現場での頭部・頸部外傷後にバビンスキー反射陽性を確認したら直ちに救急搬送。

【根拠】医学的事実(確立した神経解剖学)。脊髄の灰白質(中央)・白質(外側)の位置・ベル-マジャンディの法則(後根=感覚・前根=運動)・横隔神経のC3-C5起源・脊髄反射の脊髄内完結・完全脊髄横断損傷での全機能喪失は確立した知識。

【補足】脊髄:灰白質(中央・H字型)・白質(外側)。後根=感覚・前根=運動(ベル-マジャンディの法則)。横隔神経=C3-C5(腰髄ではない)。膝蓋腱反射=脊髄反射(随意反射ではない・意識なしでも起きる)。完全横断損傷→損傷部以下の感覚・運動・自律神経機能の永続的喪失。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した神経解剖学)。脊髄の区分・完全横断損傷での損傷部位以下の全機能喪失は確立した知識。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。

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