衛生管理者 労働生理 問60:複合(循環器・神経・代謝・感覚器)
労働生理に関する記述として、**誤っているものを1つ**選べ。
- ア体温調節は、視床下部にある体温調節中枢によって行われ、皮膚血管の拡張・収縮や発汗・ふるえによって体温を一定に保つ。
- イ大脳皮質の一次運動野は随意運動の命令を出し、小脳は体のバランス・運動の協調・筋肉の緊張調節を担う。
- ウ心拍出量は1回拍出量と心拍数の積であり、安静時の心拍出量は成人で毎分5L程度である。
- エ交感神経が優位になると、心拍数の増加・瞳孔の収縮・気管支の拡張・消化管運動の抑制が起こる。正答
- オ暗所では瞳孔が開き(散瞳)、明るい場所では瞳孔が狭まる(縮瞳)のは、自律神経による虹彩筋の調節によるものである。
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交感神経が優位になる(緊張・運動・危機対応)と、心拍数増加・気管支拡張・消化管運動抑制・瞳孔の散大(拡張)が起こります。選択肢エは「瞳孔の収縮」としており、これが誤りです。瞳孔が収縮(縮瞳)するのは副交感神経の作用です。選択肢オが示す「暗所で散瞳・明所で縮瞳」は正しく、暗所(危機的状況のシミュレーション)で交感神経が瞳孔散大筋を収縮させる一方、明所では副交感神経が瞳孔括約筋を収縮させます。「交感神経=戦闘モード(fight or flight)」として覚えると体系的に理解できます。
自律神経系の交感神経・副交感神経の作用対比は労働生理の頻出論点です。交感神経(緊張・運動・ストレス時に優位)の主な作用:心拍数増加・心収縮力増大、血圧上昇、気管支拡張(換気量増加)、消化管運動・分泌抑制、肝臓でのグルコース放出促進(血糖上昇)、発汗促進(エクリン汗腺)、瞳孔散大(瞳孔散大筋の収縮)。副交感神経(安静・休息・消化時に優位)の主な作用:心拍数低下、気管支収縮、消化管運動・分泌促進、瞳孔収縮(縮瞳・瞳孔括約筋の収縮)。選択肢エの「交感神経優位で瞳孔収縮」は副交感神経の作用であり誤りです。他の選択肢は正しい:体温調節中枢=視床下部(ア)、小脳の協調運動機能(イ)、心拍出量=1回拍出量×心拍数・安静時5L/分(ウ)、瞳孔の自律神経調節(オ)はすべて正確な記述です。
#### 1. 体温調節の神経・内分泌機構
視床下部の前部(視索前野・前視床下部:PO/AH)には温度感受性ニューロンが存在し、体温の「設定温度(セットポイント)」を管理する体温調節中枢として機能します。体温が設定温度を上回ると、皮膚血管拡張(熱放散増加)・発汗(気化熱による冷却)が引き起こされます。下回ると皮膚血管収縮(熱放散低下)・ふるえ熱産生(骨格筋の不随意収縮)・褐色脂肪組織での非ふるえ熱産生が起こります。発熱(fever)はインターロイキン-1・TNF-αなどのサイトカインがプロスタグランジンE2を介してセットポイントを上昇させることで生じ、解熱薬(アスピリン等のNSAIDs)はプロスタグランジン合成を阻害してセットポイントを正常化します。熱中症の予防・管理が職場の衛生管理者の重要業務である背景がここにあります。
#### 2. 自律神経系の拮抗支配と交感・副交感神経の区別
自律神経系は交感神経と副交感神経による二重支配(拮抗支配)で臓器機能を調節します。交感神経は「fight or flight(闘争か逃走)」反応を担い、身体を緊急・活動モードに切り替えます。主要な作用をまとめると次の通りです。心臓:心拍数・収縮力増加(β1受容体)。肺:気管支拡張(β2受容体)。消化管:運動・分泌抑制(α・β受容体)。眼:瞳孔散大筋収縮→散瞳(α1受容体)。血管:皮膚・内臓血管収縮、骨格筋血管拡張。汗腺:発汗促進(例外的にコリン性)。副交感神経は「rest and digest(安静と消化)」反応を担います。眼:瞳孔括約筋収縮→縮瞳(M受容体)。心臓:心拍数低下。気管支:収縮。消化管:運動・分泌促進。選択肢エは交感神経優位で「瞳孔の収縮」としており、瞳孔括約筋収縮(縮瞳)は副交感神経の作用であるため明確に誤りです。
#### 3. 心機能と循環調節の基礎
心拍出量(CO)=1回拍出量(SV)×心拍数(HR)です(ウ:正しい)。安静時の値は概ね、SV≒70mL、HR≒70回/分、CO≒5L/分です。運動時は最大で20〜25L/分まで増加します。心拍出量はスターリングの心臓法則(前負荷増加→1回拍出量増加)・後負荷(血圧)・心収縮力・心拍数の4要素で規定されます。血圧=心拍出量×末梢血管抵抗であり、交感神経系の亢進は心拍数増加(CO上昇)と血管収縮(末梢抵抗上昇)の両方から血圧を上昇させます。長期的な高血圧・過重労働・精神的ストレスが心血管リスクを高めるメカニズムは、この自律神経系の慢性的な交感神経優位状態にあります。
#### 4. 感覚器・脳機能と衛生管理者試験の頻出論点
小脳は随意運動の命令(大脳皮質一次運動野)を平滑化・協調化する装置であり、筋肉の緊張調節・バランス・精密運動の制御を担います(イ:正しい)。小脳病変では運動失調(アタキシア)・測定過誤・反復拮抗運動障害が生じます。試験では「交感神経vs副交感神経の作用一覧(心拍・血圧・瞳孔・気管支・消化管・汗腺)」「体温調節中枢=視床下部」「心拍出量の計算式と安静時の数値」「小脳の機能」「瞳孔散大の機序」が総合問題として出題されます。本問のような複合問題では、各選択肢を個別に正誤判定できるよう各分野の基礎知識を体系的に整理しておくことが得点の鍵です。職場では、高温環境での熱中症対策・過重労働による循環器疾患リスク管理・ストレスによる自律神経失調の早期発見がこれらの生理学的知識の実務的応用となります。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 確立した生理学的事実(自律神経系:交感神経と副交感神経の作用の区別)。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。