衛生管理者 労働生理 問68:消化吸収
大腸の機能と腸内細菌に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア大腸は主に栄養素(糖質・タンパク質・脂質)の消化吸収を行う場所であり、消化酵素を分泌して栄養素を最終的な吸収形態まで分解する。
- イ大腸の主要な機能は水分(1日約1〜1.5L)と電解質(ナトリウム・塩化物イオン等)の吸収であり、内容物を便として固形化することである。正答
- ウ腸内細菌は大腸内に存在し、ビタミンK・一部のビタミンB群を産生するが、腸内細菌が産生するこれらのビタミンは人体には吸収されず利用されない。
- エ腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は日和見感染に関与することはなく、抗菌薬を長期投与しても腸内フローラのバランスは変化しない。
- オ大腸は小腸に比べて吸収面積が広く(全体の吸収面積の70%以上を占め)、栄養素の最終的な吸収を完結する最重要吸収臓器である。
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正しいのはイです。大腸の主な役割は水分と電解質の吸収と便の形成です。栄養素(糖質・タンパク質・脂質)の消化吸収は主に小腸で行われます。小腸から送られてきた内容物(1日約1.5〜2Lの液状)から大腸が水分・Na⁺等を吸収し、固形状の便を形成します。
各誤りの要点: ア→大腸は消化酵素をほとんど分泌せず、栄養素消化吸収は小腸の仕事(誤り)。ウ→腸内細菌が産生するビタミンK・ビタミンB群は人体に吸収・利用される(誤り)。エ→抗菌薬長期投与は腸内フローラバランスを崩し、日和見感染(偽膜性腸炎=クロストリジウム・ディフィシル感染)リスクが高まる(誤り)。オ→大腸は小腸よりも吸収面積が小さく、栄養素吸収の主体は小腸(誤り)。
各選択肢の正誤と根拠:
- ア(誤): 大腸は消化酵素をほとんど産生・分泌しません。栄養素の消化(糖質→単糖・タンパク質→アミノ酸・脂質→脂肪酸+グリセロール)と吸収は小腸(十二指腸・空腸・回腸)の主要機能です。小腸の表面積は絨毛・微絨毛(刷子縁)によって約200m²と広大です。大腸に送られてくる時点で、消化吸収可能な栄養素のほとんどはすでに吸収されています。
- イ(正): 大腸(盲腸・結腸・直腸)の主要機能: ①水分吸収(1日約1〜1.5Lを吸収:小腸から届く内容物は約1.5〜2L→大腸通過後に便量約100〜200mLへ)②Na⁺・Cl⁻等の電解質吸収(アルドステロンの調節を受ける)③固形便の形成(移動・貯留)④腸内細菌による発酵(食物繊維の分解→短鎖脂肪酸産生)。大腸の吸収能力は体液バランス維持に重要で、コレラ等による大量下痢では急激な脱水が生じます。
- ウ(誤): 腸内細菌が産生するビタミンK(主にメナキノン=K₂)と一部のビタミンB群(ビオチン・葉酸・VB₁₂など)は大腸粘膜から吸収されて体内で利用されます。特にビタミンKは血液凝固因子(II・VII・IX・X因子)の合成に必須であり、腸内細菌由来のVKが重要な供給源の一つです。抗菌薬投与で腸内細菌が減少するとVK産生が低下し、ワルファリン(VK拮抗薬)の効果が増強することがあります。
- エ(誤): 腸内細菌叢は正常な防御機能(colonization resistance: 病原菌の定着を阻止する正常細菌叢の抵抗力)を担います。抗菌薬長期投与→正常フローラが破壊→偽膜性腸炎(Clostridioides difficile が増殖・毒素産生→腸炎)という日和見感染が典型例です。「腸内フローラは変化しない」は明確な誤りです。
- オ(誤): 大腸の吸収面積(絨毛なし)は小腸(絨毛・微絨毛で表面積約200m²)よりはるかに小さく、栄養素吸収の主体は小腸です。大腸は栄養素吸収ではなく水分・電解質吸収と便形成が主要機能です。
#### 1. 大腸の解剖と通過時間・便形成
大腸の構造と機能区分:
- 盲腸(cecum): 回盲部からのキームス(食物残渣+消化液)が流入。虫垂(appendix)が付属。
- 上行結腸・横行結腸(ascending/transverse colon): 主要な水分・電解質吸収の場。粘稠化。
- 下行結腸(descending colon): 固形化が進む。貯留機能。
- S状結腸・直腸(sigmoid colon/rectum): 便の最終貯留・排便反射の開始部位。
大腸の通過時間(腸管通過時間):
- 小腸から届く内容物: 約1.5〜2L/日(液体〜半流動体)
- 大腸通過後の便量: 約100〜200g/日(水分70〜80%を含む)
- 大腸での水分吸収量: 1〜1.5L/日
- 便秘では通過時間が延長→さらに水分吸収→硬便(水分が正常の60%以下)
- 下痢では通過時間が短縮→水分吸収不十分→軟便〜水様便
#### 2. 腸内細菌叢(マイクロバイオーム)の多様性と機能
腸内細菌の概要:
- 成人の腸内には約100兆個(体細胞数の10倍)・1,000〜2,000種(約500〜1,000種が主要)の細菌が生息
- 主要細菌群: ファーミキューテス門(乳酸菌・Clostridium等)、バクテロイデーテス門(Bacteroides等)
- 特定のビフィズス菌・乳酸桿菌が「善玉菌」として健康増進に寄与(免疫調節・短鎖脂肪酸産生)
腸内細菌の産生物と機能:
| 産生物 | 機能 |
|-------|------|
| 短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸) | 大腸上皮のエネルギー源・腸管防御・免疫調節 |
| ビタミンK₂(メナキノン) | 血液凝固因子合成・骨代謝 |
| ビタミンB群(ビオチン・葉酸等) | 代謝補酵素 |
| 気体(H₂・CO₂・CH₄・H₂S) | 腸内ガス |
| インドール・スカトール | 腐敗産物(便臭の原因)・一部は腸管毒性 |
腸内細菌叢と疾患(近年の研究):
- 肥満・糖尿病: 腸内細菌叢の多様性低下・ファーミキューテス/バクテロイデーテス比の変化
- 炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎): 腸内フローラの異常(dysbiosis)
- 腸脳相関: 腸内細菌→短鎖脂肪酸・神経伝達物質(セロトニン産生の95%は腸管)→脳機能・精神状態
#### 3. 抗菌薬と腸内フローラの攪乱(職場・医療の実践知識)
抗菌薬関連下痢症(CDAD/CDI):
- 広域抗菌薬(セファロスポリン・フルオロキノロン・クリンダマイシン等)投与→正常フローラ破壊→Clostridioides difficile(偽膜性腸炎の原因菌)の増殖
- C. difficile は芽胞を形成し環境中で長期生存→院内感染源
- 毒素(toxin A・B)→大腸粘膜の壊死・偽膜形成→水様下痢・腹痛・発熱・重症では腸穿孔・死亡
腸内フローラの保護・回復策:
- 不必要な抗菌薬の使用自粛(抗菌薬適正使用・AMR対策)
- プロバイオティクス(ラクトバチルス・ビフィズス菌): 抗菌薬関連下痢症の予防に一定の効果
- 糞便移植(FMT): 重症・再発性CDIの治療法(健常者の糞便を患者の大腸に投与してフローラを回復)
#### 4. 衛生管理者試験での頻出論点と職場への応用
試験では「大腸の主要機能=水分・電解質の吸収と便形成(栄養素消化吸収は小腸)」「腸内細菌産生のビタミンK・ビタミンB群は吸収・利用される」「抗菌薬投与→腸内フローラ破壊→偽膜性腸炎(日和見感染)リスク」「大腸の吸収面積は小腸よりはるかに小さい」が頻出です。
職場への応用として、食中毒・腸炎の予防(食品衛生管理)は衛生管理者の重要業務です。また医療従事者・介護施設従業者はCDI伝播防止(手洗い・環境消毒)に特に注意が必要です。
【根拠】医学的事実(確立した消化生理学・腸内細菌学)。大腸の機能(水分吸収・便形成)・腸内細菌の産生ビタミンの利用・抗菌薬投与と腸内フローラ攪乱は確立した知識。
【補足】大腸の主機能=水分・電解質吸収と便形成(栄養素消化吸収は小腸)。腸内細菌産生VK・VB群は吸収・利用される(吸収されないは誤り)。抗菌薬はフローラバランスを破壊し日和見感染リスクを高める。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(公表問題の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 医学的事実(確立した消化生理学)。大腸の主要機能は水分・電解質の吸収と便形成であり、栄養素消化吸収は小腸が主体である。 現行の労働安全衛生法令(2026年基準)に準拠し、根拠法令・規則を明記しています。