行政書士 行政法 問19:行政法総論
行政行為の瑕疵(無効と取消し)に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。
- ア取消しうべき行政行為は、権限ある機関が取り消すまでは有効なものとして通用するが、無効な行政行為は取消しがなくても当然に効力を生じないため、私人はこれを無視して行動することができる。正答
- イ行政行為の無効と取消しの区別については、重大かつ明白な瑕疵がある場合に無効、それ以外は取消しうべき行政行為となるとする重大明白説が通説であるが、判例はこの立場を採用していない。
- ウ行政行為が無効である場合、無効を主張する者は必ず行政事件訴訟法所定の無効等確認訴訟を提起しなければならず、民事訴訟の中で無効を主張することは許されない。
- エ行政行為の瑕疵が取消しうべき瑕疵にとどまる場合、行政庁は職権取消しをすることができないが、名宛人は取消訴訟を提起することができる。
- オ取消しうべき行政行為の瑕疵は、原則として他の行政行為に承継されないが、先行行政行為と後行行政行為が連続した一連の手続を構成し実質的に一体のものとみられる場合には、例外的に違法性が承継されることがある。
AI解説(初心者・標準・上級)
理解度に合わせて3レベルの解説を無料で読めます。根拠条文・判例も明記。
行政行為の瑕疵には2種類あります。①取消しうべき瑕疵: 違法だが取消しがあるまで有効(公定力あり)。権限機関が取り消して初めて効力を失う。②無効: 重大かつ明白な瑕疵があり、そもそも効力を生じない。取消しを待たずに当然無効。
アが正しい。 無効な行政行為は取消しを待たなくてもよく、私人はこれを無視して行動できます。また民事訴訟や国家賠償請求において無効を前提とした主張もできます。
イは誤り: 判例も重大明白説を採用しています(最判昭和36年3月7日・民集15巻3号381頁=山林所得課税事件)。ウは誤り: 無効等確認訴訟は選択肢の一つにすぎず、民事訴訟での主張も許されます。エは誤り: 取消しうべき行政行為であっても行政庁は職権取消しができます。
重大明白説(判例の立場): 行政行為の無効と取消しの区別基準として、通説・判例は「瑕疵が重大かつ明白な場合は無効、それ以外は取消しうべき瑕疵にとどまる」とする重大明白説を採用しています(最判昭和36年3月7日が重大明白説を採用)。
重大性: 瑕疵が行政行為の重要な要件に関わり、その行政行為の法律的効果を肯定し難い程度のもの。
明白性: 行政行為の外形上、一見して瑕疵があることが明らかであること。
違法性の承継(オの説明): 原則として、先行行政行為の瑕疵は後行行政行為に承継されません(独立の行政行為は別々に争うべき)。ただし例外として、先行行為と後行行為が「同一の目的に向けられた一連の行政行為」として実質的に一体をなす場合には、先行行為の違法性が後行行為に承継されます。承継を肯定した判例として、農地買収計画と買収処分(最判昭和25年9月15日)や、東京都建築安全条例上の安全認定と建築確認(最判平成21年12月17日)があります。
各選択肢の根拠:
- ア(正): 無効な行政行為の私人への影響(無視可能)。
- イ(誤): 判例は重大明白説を採用している(選択肢後半が誤り)。
- ウ(誤): 無効等確認訴訟は必須ではない。民事訴訟での無効主張も可能。
- エ(誤): 行政庁の職権取消しは取消しうべき行政行為でも可能。
- オ(正): 違法性の承継の例外原則として正確。
【理論的背景】
行政行為の瑕疵論は、公定力(有効性の推定)との関係で理解する必要があります。取消しうべき行政行為には公定力が生じる(違法であっても有効として通用)のに対し、無効な行政行為には公定力が生じません。これは、瑕疵が「重大かつ明白」な場合には、公定力による法的安定性の利益よりも、当然無効を認める利益が勝ると判断されるためです。
重大明白説の問題点と修正: 重大明白説は「明白性」の要件が実際の判断に難しさをもたらします。特に「誰からみて明白か(処分時点において、平均的な知識を持つ観察者から外形上一見して瑕疵が明白か)」という点が争われます。学説上は「明白性」を不要とする重大説(瑕疵の重大性のみで無効を判断)も提唱されますが、判例は重大明白説を維持しています。また「外形上一見明白」でなくても調査すれば判明する瑕疵については補充的明白説(外観説の修正)での処理があります。
【実務・条文構造】
行政事件訴訟法上の無効等確認訴訟(行訴法36条): 「当該処分若しくは裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分若しくは裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り」提起できる(補充性要件)。すなわち民事訴訟や当事者訴訟で目的を達せられる場合には、無効等確認訴訟の原告適格が認められません。
違法性の承継の判断枠組み: 最高裁は違法性の承継の例外を認めるにあたり、①先行行為と後行行為が同一の目的を達成するため一連の手続を構成し法律効果が一体といえるか、②先行行為の段階で適切な争訟の機会・手続的保障が与えられていたか、を考慮します。代表例として、東京都建築安全条例上の安全認定と建築確認に関する最判平成21年12月17日は、両者が一体的に機能し、安全認定について争訟の機会が実質的に保障されていなかったこと等を理由に違法性の承継を認めました。
【試験での位置づけ】
行政書士試験では「無効と取消しの区別基準(重大明白説)」「無効な行政行為への対処方法(無視可能・民事訴訟での主張可能)」「違法性の承継」の3点が頻出です。特に「違法性の承継」は行政法の高難度論点として記述式でも出題されることがある重要テーマです。原則(承継しない)と例外(一連の手続として実質的一体)を判例の判断枠組みとともに押さえてください。
【各選択肢の発展補足】
- ア(正): 無効な行政行為を前提とする損害賠償請求、無効な行政行為に基づく義務の不履行を理由とした強制執行への抵抗(執行異議等)も可能です。
- イ: 「判例はこの立場を採用していない」が誤り。最判昭和36年3月7日(山林所得課税事件)は重大明白説を採用した代表的先例です。
- ウ: 行訴法36条の無効等確認訴訟は補充的訴訟類型です。民事訴訟・当事者訴訟で目的を達できる場合は無効等確認訴訟を利用できません(補充性要件の逆の側面)。したがって民事訴訟での無効主張が「許されない」とする本選択肢は誤りです。
- エ: 行政庁の職権取消しは取消しうべき行政行為にも可能(権限あり)。ただし授益的行政行為の職権取消しは相手方の信頼保護の観点から制約されます(侵害的処分より困難)。
- オ(正): 違法性の承継の例外を正確に述べています。「実質的に一体のもの」「連続した一連の手続」というキーワードを覚えておくこと。
【根拠条文】行政事件訴訟法 第36条(無効等確認訴訟の原告適格・補充性要件)
【参照判例】最判 昭和36年3月7日(民集15巻3号381頁・山林所得課税事件)- 重大明白説 / 違法性の承継を肯定: 最判 昭和25年9月15日(農地買収計画と買収処分)、最判 平成21年12月17日(安全認定と建築確認)
【補足】重大明白説: 重大+明白の両要件充足で無効。一方だけでは取消しうべき瑕疵。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 行政行為の瑕疵論(通説・判例:重大明白説、違法性の承継)。 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。