行政法61取消訴訟の執行停止・内閣総理大臣の異議

行政書士 行政法 問61:取消訴訟の執行停止・内閣総理大臣の異議

行政事件訴訟法が定める執行停止および内閣総理大臣の異議に関する次の記述のうち、**正しいもの**はどれか。

  • 取消訴訟を提起したことにより、処分の効力、処分の執行または手続の続行は当然に停止する。
  • 取消訴訟の係属中に執行停止の決定をするには、申立人が「重大な損害を生ずるおそれがある」ことを証明しなければならず、裁判所に裁量はない。
  • 取消訴訟における執行停止は、申立て人の申立てがある場合に限り認められ、裁判所が職権でこれを行うことはできない。
  • 内閣総理大臣は、執行停止の決定に対して異議を述べることができ、裁判所はこの異議があったときは執行停止の決定を取り消さなければならない。正答
  • 内閣総理大臣が執行停止の決定前に異議を述べた場合、裁判所は当該異議を理由の一つとして考慮できるが、最終的に執行停止を認めるかどうかの判断は裁判所の裁量に委ねられている。
正答:内閣総理大臣は、執行停止の決定に対して異議を述べることができ、裁判所はこの異議があったときは執行停止の決定を取り消さなければならない。

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エが正しいです。内閣総理大臣の異議(27条)は、執行停止の決定に対して内閣総理大臣が異議を述べることができ、裁判所はその異議があったときは執行停止の決定を「取り消さなければならない」(27条4項)と規定しています。これは強制的効果(義務的取消し)を持つ異議であり、裁判所の裁量を全面的に排除する強力な規定です。アは誤りで、取消訴訟の提起は執行不停止が原則です(25条1項)。イは誤りで、重大な損害の「証明」ではなく「疎明」が要件であり、また裁判所には一定の裁量があります。ウは誤りで、執行停止は申立てによるのが原則ですが、職権での発動も認められています(25条2項)。オは誤りで、内閣総理大臣の異議(決定前の事前異議を含む)があった場合は執行停止をすることができません(27条3項)。

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執行不停止原則(25条1項・アが誤り): 取消訴訟の提起は処分の効力・執行・手続の続行に影響しません(自動停止なし)。これが原則(執行不停止原則)です。理由は行政の公益的な執行の安定性を守るためです。

執行停止の要件(25条2項・イ・ウの根拠):

  • 申立て: 申立てまたは職権(ウが誤り・職権でも可)
  • 積極要件: 重大な損害を避けるため緊急の必要があると認められること
  • 消極要件: ①公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ②本案について理由がないとみえるとき→停止不可
  • 疎明(証明ではなく低度の証明)で足ります(イが誤り)
  • 補充性:処分の効力の停止は、他の方法で目的達成不可の場合のみ(25条3項)

内閣総理大臣の異議(27条・エが正しい根拠):

  • 内閣総理大臣は、①執行停止の決定前(27条1項・事前異議:決定できない)と②執定後(27条4項・事後異議:取消義務)のいずれでも異議を述べることができる
  • 決定後の異議(エの根拠・27条4項):裁判所は「取り消さなければならない」(義務的・裁量なし)
  • 内閣総理大臣の異議には国会への報告義務(27条5項)

オの誤り(事前異議の効果・27条3項): 内閣総理大臣が執行停止の決定前に異議を述べた場合、裁判所は「執行停止をすることができない」(27条3項)。裁判所の裁量は排除されます(オは「裁量に委ねられている」という点が誤り)。

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【執行停止制度の体系:三層の保護と補充性の構造】

行訴法25条の執行停止制度は、処分の違法性が審理中であっても国民の権利利益を暫定的に保護する重要な仮の救済制度です。制度体系を整理します。

停止の対象(段階的・補充性あり):

1. 処分の効力の停止(最強・補充性あり:効力以外の方法で目的達成不可の場合のみ)

2. 処分の執行の停止(中間的強度)

3. 手続の続行の停止(最弱:関連手続の進行を止める)

申立てと職権:執行停止は「申立てにより、または職権で」裁判所がすることができます(25条2項)。ウが「申立てのみ」としているのは誤りです。職権発動は稀ですが、重大な公益上の問題がある場合に裁判所が自ら判断する余地があります。

「重大な損害」の判断基準(25条3項): 損害の性質・内容・程度・回復の困難性等を総合考慮します。金銭的損害でも回復困難な場合(廃業に至る等)は「重大な損害」と認定される場合があります。「緊急の必要」は処分の実施が切迫していることを意味します。

【内閣総理大臣の異議の合憲性】

27条の内閣総理大臣の異議制度は、憲法76条(司法権の独立)との関係で学説上争いがあります。

合憲説(多数説)の根拠:行訴法の執行停止は仮の救済措置であり本案判決ではないこと、内閣総理大臣の異議には国会報告義務(27条5項)があり民主的統制が及ぶこと、そもそも執行停止は処分の適法性を最終的に判断するものでないこと。

違憲性を指摘する見解:裁判所が適法と判断した執行停止を行政権(内閣総理大臣)が覆すことは、三権分立・司法権の独立(憲法76条)に反するおそれがあるとする。国会報告は事後的な民主的統制に過ぎず、司法権への行政権の直接的干渉を正当化しないという批判。

実際の運用:内閣総理大臣の異議はきわめて例外的にしか用いられておらず(使用例は非常に限定的)、制度としての存在が違憲問題より象徴的・抑止的な意味を持っています。

【行審法25条の執行停止との詳細比較】

| 比較項目 | 行訴法25条(取消訴訟) | 行審法25条(審査請求) |

|---|---|---|

| 申立て・職権 | 申立てまたは職権(職権可) | 申立てまたは職権(任意的)、義務的停止は申立てのみ |

| 積極要件 | 重大な損害・緊急の必要 | 任意的停止:必要と認める場合;義務的停止:重大な損害・緊急の必要 |

| 内閣総理大臣の異議 | あり(27条・強制的取消義務) | なし |

| 義務的停止 | なし(裁判所は裁量) | あり(25条4項:上級庁・処分庁が審査庁の場合) |

| 補充性 | あり(効力停止は最後の手段) | あり(行審法25条6項) |

【仮の義務付け・仮の差止めとの関係(37条の5)】

2004年改正で義務付け訴訟・差止め訴訟が法定化されたことに伴い、これらの訴訟に対応する仮の救済として「仮の義務付け」「仮の差止め」が規定されました(37条の5)。これらの要件は執行停止より厳格で「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」こと(「重大な損害」より強い要件)が求められます。執行停止(違法処分への対抗・消極的救済)と仮の義務付け・仮の差止め(積極的救済・不作為や予防的差止め)は適用場面が異なり、要件・効果の差異を正確に把握することが重要です。

【根拠条文】

行政事件訴訟法 第25条第1項(執行不停止原則)、第25条第2項(執行停止の要件:重大な損害・緊急の必要・申立てまたは職権)、第25条第3項(補充性・消極要件)、第27条第1項(内閣総理大臣の事前異議)、第27条第4項(内閣総理大臣の事後異議:取消義務)

【補足】

内閣総理大臣の異議(事後)→裁判所は執行停止決定を「取り消さなければならない」(義務・裁量なし)。事前異議→執行停止「できない」。執行不停止原則+重大な損害・緊急の必要+補充性が執行停止の3本柱。

出典・根拠について

本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 行政事件訴訟法 第25条(執行停止)・第27条(内閣総理大臣の異議) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。

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