行政書士 行政法 問62:取消訴訟の判決の種類・事情判決
行政事件訴訟法が定める取消訴訟の判決に関する次の記述のうち、**誤っているもの**はどれか。
- ア取消訴訟において、行政庁の処分または裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償または防止の程度、その方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分または裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる(事情判決)。
- イ事情判決をする場合においては、判決の主文において当該処分または裁決が違法であることを宣言しなければならない。
- ウ取消判決が確定したときは、行政庁はその判決に拘束される(拘束力)。すなわち、同一理由・同一事実関係を前提として同一の処分を繰り返すことは許されない。
- エ取消判決の既判力(確定力)は、判決主文の確定内容(処分の違法性の判断)に及ぶほか、判決理由中の判断にも及ぶため、当事者は判決理由中で確定された事実を後の訴訟で争うことができない。正答
- オ申請に対して処分庁が拒否処分をした場合において、取消訴訟により拒否処分が取り消された場合、処分庁は、取消判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならない(判決の拘束力)。
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エが誤りです。取消判決の既判力(確定力)は、判決「主文」の確定内容に及ぶのが原則であり、判決「理由」中の判断(処分の違法理由の認定等)には及びません(民事訴訟法114条の原則に準じる)。したがって、当事者は判決理由中の事実関係について後の訴訟で改めて争うことができます。アは正しく(31条1項)、事情判決は「公の利益に著しい障害を生ずる場合」に限られます。イは正しく(31条1項後段)、事情判決でも主文中の違法宣言は必須です。ウは正しく(33条1項)、拘束力により同一理由・同一事実での繰り返しが禁止されます。オは正しく(33条2項)、拒否処分取消し後の再処分義務が定められています。
取消判決の3つの効力の整理:
1. 既判力(確定力): 判決主文の内容(処分が違法であって取り消されるという判断)が後の訴訟で争えなくなる効力。当事者間に及ぶ。判決理由には及ばない(エが誤りの根拠)。
2. 拘束力(33条): 取消判決は、その事件について、処分庁その他関係行政庁を拘束する(33条1項)。具体的には:
- 同一理由・同一事実での処分の繰り返し禁止(ウが正しい根拠)
- 拒否処分が取り消された場合→申請に対する再処分義務(33条2項・オが正しい根拠)
- 手続違法を理由とした取消しの場合→正しい手続をやり直す義務(33条3項)
3. 第三者効(対世効・32条): 取消判決は、第三者に対してもその効力を有する(32条1項)。処分が取り消されれば、訴訟の当事者以外の第三者との関係でも処分は遡及的に効力を失います。これは行政処分が一般的効力を持つこととの整合性のためです。
事情判決(31条): 「処分が違法→棄却+主文中の違法宣言」という判決の構造(アが正しく・イが正しい根拠)。違法ではあるが取消しにより「公の利益に著しい障害」が生じる場合(例:大型土木工事が完成している場合等)に適用されます。事情判決の場合でも原告に損害があれば、別訴での損害賠償請求が認められる制度的連携があります(31条2項)。
【既判力と拘束力の理論的相違】
エが誤りとなる核心は「既判力が判決理由に及ばない」という民事訴訟法の一般原則(民訴法114条1項)にあります。
既判力(確定力)の射程:
- 主文(判決の結論:「原告の請求を認容する。本件処分を取り消す」等)に及ぶ
- 理由(「当該処分は行手法14条の理由提示に欠けるため違法」等の説示)には及ばない
- 既判力は当事者・承継人に及ぶ(相対効)
拘束力(行訴法33条)の射程:
- 取消訴訟の確定判決に特有の効力(民事訴訟にはない行政訴訟固有の効力)
- 処分庁・関係行政庁が拘束される(33条1項)
- 同一理由・同一事実での同一処分の繰り返し禁止(ウの根拠)
- 申請拒否処分の取消し後の再処分義務(33条2項)
- 手続違法取消し後の手続やり直し義務(33条3項)
既判力と拘束力の違い:既判力は「確定した内容を争えなくする効力」(訴訟法的効力)であり、拘束力は「行政庁に行動義務を課す効力」(行政法的効力)です。拘束力は既判力の射程を超えた、判決の実効性を担保するための独自の効力です。
【事情判決の適用要件と効果の詳細(31条)】
31条1項の事情判決の要件:
1. 処分または裁決が違法であること(前提)
2. 取り消すことにより「公の利益に著しい障害を生ずる場合」であること
3. 原告の受ける損害の程度・損害賠償や防止の程度・方法その他「一切の事情を考慮」すること
4. 処分を取り消すことが「公共の福祉に適合しない」と認められること
適用の典型例:
- 大型公共事業(ダム建設・高速道路建設等)が完成した後に、環境影響評価手続の瑕疵を理由に認可取消訴訟が提起された場合→取消しにより完成した施設を撤去することが公の利益に著しい障害(莫大な費用・社会的混乱)をもたらすとして事情判決の対象になりえます
- 大規模都市計画の認可・土地区画整理事業の施行認可等で事業が相当程度進行した後
主文の構造(31条1項後段):「原告の請求を棄却する。ただし、本件処分が違法であることを確認する」という主文が一般的です(違法宣言は主文中に必要・イが正しい根拠)。
31条2項(損害賠償の申立て):事情判決の言渡しがある場合において、原告は「受けた損害の賠償を被告に求めることを申し立てることができる」とされています。これにより、処分を取り消してもらえない代わりに、損害賠償という形での救済が確保されます。
【拘束力の射程の論点(33条)】
33条1項の「当該処分をした行政庁その他関係行政庁」を拘束するとは、具体的に何を意味するか:
同一理由での再処分禁止:取消判決が「処分の理由A(例:手続違法)」を根拠にした場合、同じ理由Aで同じ処分を繰り返すことは拘束力違反。ただし、判決で判断されていない別の理由(理由B・C)で改めて処分することは許容されるか否かが問題になります(再処分の許容範囲の問題)。判例・学説上、判決で示された違法事由を克服した上で新たな処分を行うことは許容されると解されています。
申請拒否処分の取消しと再申請義務(33条2項・オが正しい根拠):申請に基づく処分が拒否され、その取消判決が確定した場合、処分庁は「判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分をしなければならない」(33条2項)。「判決の趣旨に従い」という文言は、判決で示された違法事由(例:審査基準を誤って適用した)を克服した上で再度審査することを意味し、必ずしも申請を認容しなければならないわけではありません。
【行審法の事情裁決(45条3項)との比較】
| 比較項目 | 行訴法31条(事情判決) | 行審法45条3項(事情裁決) |
|---|---|---|
| 前提 | 処分が違法 | 処分が違法または不当 |
| 棄却理由 | 公の利益に著しい障害 | 公共の福祉に著しく反する |
| 主文 | 請求棄却+違法宣言(必須) | 審査請求棄却+違法・不当宣言(必須) |
| 損害賠償 | 原告が申立て可能(31条2項) | 損害の賠償命令が可能(45条4項) |
両者の最大の共通点は「違法(不当)ではあるが棄却+主文での違法宣言必須」という構造。最大の相違点は「処分が不当の場合も対象となる行審法(より広い)」vs「違法の場合のみの行訴法(より厳格)」という対象範囲の差です。
【根拠条文】
行政事件訴訟法 第31条第1項(事情判決の要件・主文での違法宣言義務)、第31条第2項(損害賠償の申立て)、第32条第1項(取消判決の第三者効)、第33条第1項(取消判決の拘束力)、第33条第2項(申請拒否処分取消し後の再処分義務)
【参照条文】
行政不服審査法 第45条第3項(事情裁決・比較のため)
【補足】
既判力は「主文」に及ぶが「判決理由」には及ばない(エが誤りの核心)。拘束力(33条)は行訴法独自の効力で行政庁に再処分義務・繰り返し禁止を課す。事情判決の主文は「棄却+違法宣言」(宣言省略不可)。
本問は合格ナビが作成したオリジナル問題です(過去問の転載ではありません)。 根拠・出典:根拠: 行政事件訴訟法 第31条(事情判決)・第33条(取消判決の拘束力)・第32条(取消判決の第三者効・対世効) 現行法(2026年度基準)に準拠し、根拠条文・判例を明記しています。